九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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格好つけるのは程々に

……一体、今俺は何をしているのだろう。

 確かにあの黒い男に言われた通りに過去を話していた筈だ。

 だと言うのに気が付けば周囲には何も無く、何処までも広がる暗黒の中に居る。これは一体……

 

「思い悩まなくて良い。君が覚えている限り、君の言葉で話してくれたまえ」

 

 言葉だけが意識に響く。

 それに従って、俺の口から記憶が漏れた。

 最初の記憶は放棄区画で見上げた曇天。幸せの意味を知らなかった時。

 次の記憶は生存に必死だった頃。生き残る為にあらゆることをしていた。自分の命より大事な物は無く、そのために他の全てをかなぐり捨てた。

 その次の記憶は研究所。前と変わらず、生きるために全てを行う。

 そしてZZと出会い、命より大事な事が出来た。

 決死の逃走、アダムとの出会い、政府との交渉の末住処を手に入れ、そこからまた色々有った。

 金を稼ぐ為にある時は怪物を倒し、またある時は未知の場所に探索へ。その結果天道さんや極さんと言った人達に出会い、苺さんを助け、リオさんとも知り合いになり、ゼロエルが来襲し、異世界に行く事にも……

 いや濃いな。

 物の一ヶ月も無い最近の出来事がそれ以前の出来事を塗りつぶすレベルで濃い。何だ? 黒い絵の具でも混ぜたのか?

 それにしたってやり過ぎな気もするが……例のジパングに行った時からずっと毎日が怒涛の繰り返しだ。一応休んでゲームをしたりもしていたが……

 

「縁とは良い物だ。限りなくあり得ない物を繋ぎ、愉快な事を引き起こす」

 

 暗黒に声だけが響く。楽しんでいる……そう捉えるしか無い内容だと言うのに言葉から感情を読み取れない。しっかりと含まれ、口にしている筈なのに。

 何一つ相手を理解できない、と言うのは中々に恐怖だ。何を言えば良いのか全く分からなくなる。

 なら、出来る事は言われた事だけ。従って俺の人生を語るだけに成る。

 

 廃研究所を調べ、博士に会い、そこで失った記憶を探すために魔界へ赴く事になった。

 ……言葉にすると本当に何でそうなったのか分からない。が、実際そうなってしまったのだ。

 ともかくそこでシルバリティアさんと出会い何故かエンヴィーさんが俺達に興味を持って、記憶を取り戻す物に必要な物を集めに異世界へと行く事に……

 そこでもアンキさんやらバミューダさんやらウォーズさんやらカリオストロさんやらトンデモない人達と関わる事になってしまった。まともな人は……カトラさん位じゃ無いか?

 

「他者を引き寄せる才と言うのは誰にでも備わっている。望む望まざるに関わらず。無数の関りはいずれも君の領分を超えた物だ」

 

 確かにそうだ。

 誰も彼も俺ではその強大ささえ計り知れない圧倒的な人達ばかり。そんな人達が片っ端から関わってくる。正直、今生きているのはかなり奇跡的だと思う。

 

「そして、その縁は君の物では無い。君の弟が故だ」

 

 ……ZZが、故?

 

「物事には理由がある。何も理由なく単なる少年に強大な存在達が引き寄せられる筈は無い。

 彼らが君の行く先々に現れた理由は一つ、君の弟だ。

 巨大な質量が空間を歪めるように、極天の才を抱えていた君の弟は誘蛾灯のように彼らを引き付けた。意識せずとも、そういう運命を呼び込むのだ。これまでも、これからも」

 

 何が言いたいのか分からない。次の言葉の予測が付かない。だけど、それでも、その次がとても嫌な言葉だと言う予感が有った。

 

「弟を切り捨てれば君はその運命から解放される。今まで通り、少し変わった過去を持つ単なる少年として一生を終えるだろう。君の周囲もそうだ。

 神を目指す堕天使は気まぐれに星を壊すだろう。世界を夢みる夢幻の女王は気まぐれに君たちを霧消させるかも知れない。幼翁の気がほんの少し変わるだけであらゆる宇宙が消えさり、他の極天が君の弟に目を付けるかも知れない。

 さて、君はどうする? 弟を切り捨てて自分を、世界を守るか──」

「ZZと共に居ます」

 

 それ以外あり得ない。

 俺が死ぬ? 兄を止めるよりマシだ。

 世界が滅ぶ? 知った事か、ZZの方が大事だ。

 弟を切り捨てて自分の身を守る。そんな奴を、俺は兄と呼ぶことは出来ない。

 

 躊躇なく断言した言葉に、くつくつと笑い声が返ってくる。

 

「成程、気持ちは固いようだ」

 

 その言葉が聞こえると同時、周囲の暗黒が晴れ、先ほどまで見えていた宇宙のような空間に戻る。隣にはZZがいつもの気の抜けた顔で立っていた。

 

「あれ? 兄貴いつの間に」

「……こっちのセリフだ……って言いたいけどな」

 

 間違いなくこの黒い男の仕業だろう。俺達を分断し、わざわざ質問をしてきて……一体何がしたいのか。

 

「最初に言ったとも。話を聞きたいだけだと。それ以上君たちには何も求めないし……その行動に対する対価はしっかりと返そう」

 

 黒い男が膨れ上がる。

 いや、これは……何だ?

 視界が黒い。世界が黒い。何もかもが黒い。

 ZZは……居る。が、それだけしか分からない。自分の体も良く見えない。

 

「好きに望むと言い。力も、運命も、立場も、あらゆる物を渡そう」

 

 言葉が暗黒に……全てに響く。

 好きな願いを、か。何かの本でそんな話を読んだ覚えがあるが……この黒い男に願えば、本に出て来た魔人のそれを遥かに超える物が得られるだろう。

 そんな確信が、目の前の暗黒から伝わってくる。

 どれだけ無理難題を言おうとも、莫大な物を願おうとも、間違いなく黒い男は安々と叶えてしまう。……絶対にその結果がどうなるかまで配慮はしないだろう事も。

 

「さあ、さあ、さあ。願うと良い。世界が欲しいか? 宇宙が欲しいか? 永遠が欲しいか? 頂が欲しいか? 何であろうと与えるとも」

 

 黒が膨れ上がる。

 ……何となく。本当に何となくだが……少しまずい気がしてきた。特に欲しい物は無い。強いて言うなら今すぐ帰ってZZやらアダムやらとの日常に戻りたいが……これ、そんな事言える雰囲気か? 何だか大それた願いを言わなかったらそのまま消し去られそうな予感がする。

 気の所為かも知れないし、そうじゃないかも知れない。何一つ読めないのだから予測も出来ない。

 分からない。分からないが、怖い。

 相手の言葉を信じうる要素が何一つ無く、その上で相手は俺達を瞬きより容易く消し去れる。何を言っても、いや、何も言わない事も駄目なのでは無いか。何ならこの思考も既に駄目?

 あらゆる疑念が俺を縛り、それに比例するように暗黒が膨れ上がる。これ、ちょっと、ヤバ──

 

「……貴! 兄貴!」

「っ!」

 

 ZZの言葉に、正気が戻る。完全に雰囲気に呑まれていた。

 ……そうだ、何だろうと構わない。俺の望みは一つだけだ。

 

「……いつもの……普段の俺の、ZZとアダムと一緒に馬鹿をやっているような日常が欲しいです」

 

 その言葉に暗黒が()()()

 何も見えていなかったが、そうとしか表現できなかった。

 ……だが、そこから気配のような、感情のような何かが伝わってくる。

 先ほどまで全く読めなかった相手の雰囲気が読める……それがまるで良い物とは思えない。

 

()()()()

 

 雰囲気、気配、何もかもが一転する。視界の全てから害意とでも言うべき物が伝わってくる。

 ……これ、地雷踏んだ?

 

 暗黒が迫る、無明が覆う。後悔が追い付くより先に闇が意識を刈り取ろうと──

 

 

「ねー! パソコン動かなくなったんだけどー!」

「がっ!?」

 

 ……飛んで来た何かが、黒い男を水平に吹き飛ばした。

 同時に暗黒が晴れている事に気付く。宇宙のような周囲はそのままだが……俺達の真ん前で頭を押さえて蹲る男が先ほどと違う。

 と言うか、何もかも違う。

 さっきまでのような影絵では無く、異様な程黒い髪と服を除いて普通に白い肌が……いや白いな。

 服から覗いている肌が異様な程白い。日に全く当たっていない人間でももう少しマシだろう。白く塗装されているのかと言う位白い。

 と、がらんと音を立てて何かが転がった。……これは……ドア?

 

「直してくんない? 私コレ使えないと困るからさー」

 

 ずかずかと音が立ちそうな様子で人が……女の人が踏み込んできた。

 左右非対称の髪は薄紅色、体のラインを出す服装は、女性の全身を覆う筋肉をさらけ出している。

 見て分かる程筋肉質ながら、体のラインはしっかりと女性の物。

 そして、女性について分かった事はもう一つ。

 

 この人も、読めない。

 

 次の行動、言動、意思……普段無意識的に察する事の出来ているそれが一切分からない。黒い男と同じだ。

 ……その黒い男は飛んで来たらしいドアを頭部に受けて蹲っている訳だが。あ、立ち上がった。

 

「……テメエ、空気も読めねえのかこの筋肉達磨が!」

「はー? あんたの空気何て知らないっての。それより、早くパソコン直してよ」

 

 黒い男の口調がさっきまでと完全に違う。……と言うか、このチンピラみたいな口調にちょっと覚えが有るぞ?

 

「出てけ! 邪魔だ! くたばってろ!」

「パソコン直してからね!」

 

 ……うん。

 聞いているだけでも分かる酷い内容だ。どっちも一切譲ろうとしていない。小学生並みだ。

 黒い男はさっきまでの雰囲気など欠片も無い様子で額に青筋を浮かべ激昂し、女性の方は男の主張を無視してパソコンを直すよう要求し続けている。

 と、根負けしたのか黒い男が大きな溜息を吐いた。

 

「あー分かった、分かったよ! アダム! 直してやれ!」

 

 言葉が響くと同時、アダムが現れた。

 

「お呼びでしょうか」

「呼んだよ。そら、コイツのパソコン直してやれ」

「お断りします」

「あ!?」

 

 一瞬も躊躇なく断りを入れたアダムに驚愕の声を男が出す。

 そして俺達も驚いていた。

 アダムお前、ここまでの相手にも気に入らない事はしない姿勢で行くつもりか……!

 

「残念ながら私も少々多忙でして。些細な用でしたらマスターご自身でお願いします」

「テメエ今の今まで本読んでただけじゃねえかよ! 俺の命令より優先する事じゃねえだろ!」

「本と天秤に掛けられ敗北するマスターの言動を顧みてはいかがでしょう」

 

 うわあ……アダム……お前……

 

「ふざけんじゃねえ! ぶっ殺すぞ!」

「言葉にする前に実行なさっては? それだけの御力は有るでしょう」

 

 散々に男を煽り馬鹿にするアダムをよく見れば、額に青筋が浮かびまくっている。……どうやら相当に敬語を使うのと読書の邪魔をされたのが不服らしい。

 

「……あー……クソ、誰に似たんだ……ハー……時間作ってやるから、直してやってくれ」

「了解致しました。これからは普段の言動にお気をつけて下さい」

「黙れ」

 

 慇懃無礼としか思えない一礼を返してアダムが女性と一緒に部屋を出ていく。

 残されたのは巨大な溜息を吐いて肩で息をする黒い男と、俺達だった。

 

「……あー……取りあえず、座ってくれ」

 

 そう言われた途端、宇宙の様だった周囲が一気に普通の部屋へ切り替わり、俺達は椅子に腰かけていた。

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