ガサリと音を立ててゴミ箱に入り損ねたゴミが転がっていく。その音を立てた張本人はその様子を少し目で追って直ぐに持っていた漫画に目を落とした。
その隣でパラパラと本をめくる音が響く。こっちは特に何もしていないがしいて言うなら居るだけで癇に障る。
「……いい加減にしろよお前ら……」
口をついて出た言葉に漫画を読んでいた方──ZZが顔を上げた。
「ん? 何か言った?」
「言った、出てけ、家から」
それでも動じずZZは再び漫画を読み始める。その行動に遂に俺の堪忍袋が切れた。
「あ、ちょっ」
ZZをひっつかみ外へ放り出す。これで問題はもう一人の方だけになった。ただ、面倒なのはこちらの方だ。
「お前も出てけ、もう読み終わっただろ」
「なら次の本持ってこい。無かったら買え」
「ふざけんじゃねえぞこの野郎……」
あんまりな態度に罵声が口から飛び出るが、目の前の男──アダムは一向に動じない。
「一々出ていく理由もないだろ、元々せまっ苦しい家なんだから」
「せめて家主の俺に敬意と金を払えよ」
「どっちも払うに値しねーよ、家も家主もオンボロだろーが」
……駄目だこれは。こっちの話しに応じねえ。せめて実力行使が通じる相手だったら叩き出したのに……
と、玄関からドタドタとZZが戻って来た。
「いくら何でも放り出すのはひどいだろ兄貴ィ!」
「ならさっさと自分の家に戻れよ。これ以上俺の家に居座るんならお前でも金は払えよ」
これだけ言ってもZZはまだ文句が有りそうな目でこっちを見てくる。……正直、色々と鬱陶しいので真剣に帰ってほしい。
「そうはいってもなあ……おれんち無くなったし」
「……はあ?」
……ZZの話を要約すると、一昨日家で寝ていたら突如として爆発が起こり、家が吹き飛んだという事だった。
「という訳でおれは今家が無い! 泊めてくれ! 兄貴!」
「既に一泊してんじゃねーか。……大体、こないだお前三千万貰ったって言ってただろ。それで家建てたらいいだろ」
「もう注文したけどさー、後一週間はかかるっていわれた」
「じゃあ一週間野宿しろよ」
冗談じゃない。一週間もZZに居座られてたまるか。と言うか、話してて思ったが……
「アダム、お前俺の家に来る理由ないだろ。帰れ」
「今色々と面倒なことになってんだよ。一々テメエの都合に付き合ってられるか」
「……いやお前の都合も知らねえよ……」
面倒なことになっているのは俺の方だ。ただ、アダムが面倒事と言うにはそれなりの事情があるとは思うが……。それでももう少し態度をどうにかしてほしい。
「まあアダムの方は良いとしても……ZZ、お前別に野宿しても問題ないだろ」
「いや、変に野宿とかしてたら強盗がくるかもしれねーじゃん」
「お前なら返り討ちにできるだろ。それにこの辺は治安もいいしめったに強盗なんか出ないだろ」
「辺りに何も無ぇからな、この辺。おかげで本の一冊も買えやしねえ」
「うるせえぞ、アダム」
出ていく気が無いならせめて口は閉じておいてほしい。ただでさえこいつは口が悪いのだ。
「どうしても泊めてほしいなら金寄こせ。一泊二千」
「えー、兄貴に金払わなきゃなんねーの?」
「大分安くしてやってんだから文句言うな」
食事つきで二千は安い方だろう。それ抜きでも金は持っているんだから大人しく払ってもらおう。
「兄貴はケチだなー」
「金持ちから金をもらうのはケチとは言わねえよ」
ケチとは金を持ってないやつから搾取することだと思う。
そんな俺の論法に負けたのかZZは渋々と金を差し出した。
「どーも。ほら、好きにしていいぞ。ただ、あんまり散らかしたりするなよ。自分で掃除してもらうからな」
「へいへーい」
適当な返事をしながらZZが漫画を読み始める。多分帰ってきたら家はぐちゃぐちゃになっているだろう。ため息を吐きたくなるがやるだけ無駄なので飲み込む。
ふと時計を見ると既に結構な時間になっている。少し急がないとまずい。
「兄貴ー、どっか行くのかー」
「出稼ぎだ、金無えって言っただろ」
割と頭を抱えるレベルで今月はやばい。ZZから二十万をもらってはいるがそれでも焼け石に水だ。色々とやって少しでも家計に足していかないと体のパーツを売る羽目になる。
「じゃあ何か飲み物買って来てくれー、甘いやつ」
「本も買ってこい。この作者のやつ」
「……金は後で請求するぞ」
抗議を始める二人を無視して家を出る。そもそもあいつらは物を買って来てもらうのに金を払わないつもりなのか? ふざけんな。
「なーアダム、兄貴遅くね? 五時間位経ってんのにまだ帰って来ないんだけど。おれのジュースどうなったの?」
「出稼ぎっつってからな。時間もかかるだろ」
「喉乾いてきたんだけど」
「これでも飲んでろ」
「……オイルじゃねーか! 飲めねーよ!」
「なら干からびてろ」
「なんかねーのー?」
「ねーよ」
……疲れた……。
やたらと肉体労働をさせられた。重機を導入するより安上がりだと言うが働かされる側の身にもなって欲しい。金をもらっている以上大っぴらに文句は言えないが。
ともかくあと少しで家だ、ゆっくり休もう。……馬鹿二人が何かやらかしていない事を……祈……る……。
目の前には炎上する自宅と並んでそれを見ている二人の姿があった。
「え、なん、え?」
何がどうしてこうなった? 火元は確認したはずだぞ? あいつらか? あいつらがやったのか?
「おい、お前ら、何やった」
「聞いてくれよ兄貴ー。アダムに飲み物頼んだらオイルだの灯油だのガソリンとかしか出さねーからさー、何とかしてそれ飲もうとしてたら……燃えた」
何も言わずZZの顔面に拳を叩き込む。五メートルほど吹っ飛んだあと地面に転がった。
次はこっちだ。
「おい、テメエは何か言う事ねえのか」
「あー、流石に悪かった、立て直してやるからギャーギャーいうな」
取りあえずこいつも一発殴りつける。が、大して……というか全く効いていない。殴ったこっちの手の方が痛い。
……普段なら効いていなくとも相当な反撃をされそうだが、流石に反省しているのかこっちには何もしてこない。
取りあえず反省の様子もない
「兄貴ー! 流石にそれはシャレにならないって、ちょ、アッツ、あつあちち、あ──ー!」
悪は滅びた。