「なー、いい加減機嫌直してくれよ兄貴ー」
馬鹿が話しかけてくる。全身包帯まみれの馬鹿が。当然無視。こいつに構っても無駄だ。
「兄貴ー、聞こえてねーのか―」
耳を引きちぎってやろうかこの野郎。……無視だ、無視。対応したら負けだ。
「兄貴──」
体をゆさゆさとゆすってきた時点で我慢の限界を超えたため、顔面をひっつかみ十メートルほど放り投げた。墜落した馬鹿は地面に倒れたまま動かなくなっている。暫く大人しくしててくれ。作業の邪魔だ。
……アダムが用意した家のパーツを組み立てること二時間、俺の機嫌と集中力は限界に来ていた。
ただ組み立てるだけならいくらでもできる……問題はさっきからしつこく話しかけてくるZZだ。
鬱陶しい。
物凄く鬱陶しい。
絡んでくるたびに吹っ飛ばしたり投げ飛ばしたりしているがそれでもしつこくこちらに絡んでくる。機嫌を直してほしいなら絡んで来るな。大人しく正座でもしていろ。
「新しいパーツ、持ってきたぞ」
アダムが更にパーツを持ってきた。……こっちの方はパーツを出しては組み立ての手伝いをしてくれるからまだマシだ。我慢できる。しばらく許す気は無いが。
「兄貴ー、おれも手伝うから機嫌よくしてくれよー」
「……だったら静かにしてろ。気が散る」
ZZは少ししょんぼりとした様子で離れて行った。これでしばらく静かになる……と良いが。
ZZの絡みが無くなって一時間ほど。作業は順調に進んでいた……が。
「一体どんな大きさになるんだ……?」
明らかに想定より遥かにでかい。どう考えても一人で住むには過剰すぎる。俺のパワーとスタミナで三時間以上組み続けてまだ完成していない時点で大分おかしい。こんなに要らん。
俺はアダムにパーツの供給を止めるよう言おうと振り向いて……硬直した。
「…………」
そこには今俺が組んでいる物の二十倍近い規模の骨組みがあった。上を見ると十本以上のアームを展開したアダムが恐ろしいペースで組み立てている。これは、駄目だろ。
「おーい! そこまで大きいの要らねーよ! もっと小さくていいぞ!」
慌てて叫ぶとアダムに反応があった。凄い速度でこっちに飛んでくる。
「何だ、小さいのが欲しかったなら先に言え。もうここまで作ったぞ」
「いや常識で考えろよ……前の俺の家もそこまで大きくなかっただろ……」
「あんな狭苦しい所より広い方が良いだろ」
「限度があるっての……」
アダムはため息を吐くとさっきまで作っていた巨大な骨組みを途轍もない速度で解体し始めた。物の数秒で骨組みが鉄材に変貌する。
「で、どの位が良いんだ」
「今立ててるのでいーよ。三人合わせたら丁度……いや、それでもでかいな」
「何だ、全員纏めて住むのか」
「どう考えても余るからな。有効利用した方が良いだろ」
既にここまで頑張って建てたのだ。今更それをふいにされたくはない。
「じゃあさっさと完成させるぞ。これ以上無駄に時間は喰えん」
「お前が勝手に喰っただけだろ……」
まあアダムが協力するならさっさと終わるだろう。さっきもやたらでかいの建ててたし。
そんな事を考えていると叫びながらZZが駆け寄ってきた。
「兄貴ぃぃぃ! おれの部屋はおれに作らせてくれぇぇぇ!!」
「わかったわかった、好きに作れ、やかましい」
適当に返事をするとZZはとんでもない速度で建てかけの家へと駆け出して行った。……あいつあんな速度出せたのか。
「あん? もう機嫌直ったのか」
「家もできるんだしそこまで引きずってても仕方ないだろ。あいつも結構反省してるだろうし」
かなり賑やかな性格のZZが一時間以上も大人しくしているなら相当だ。これ以上はやり過ぎになる。この辺で許してやろう。
「兄貴ー! おれの部屋このぐらいなー!」
「はいは……いや待て八割お前の部屋じゃねーかふざけんな!」
前言撤回。かなり厳しくいくことにしよう。
周囲に轟音を響かせながら建築が進む。やたらと規模を大きくしようとするアダムと隙あらば自分のスペースを広げようとしてくるZZの妨害を撥ね退けどうにか真っ当に作っていく。
……それにしてもアダムはどうしてそこまで大きくしようとするんだ? ……聞いてみるか。
「なー、お前何でそこまでしつこく家大きくしようとするんだ? 正直これでも大分でかいだろ」
「……まあ、色々あって今住んでるところから移らねえといけなくなったんでな。一旦お前んちに泊まろうと思ってたんだが……家建て直すんだったらでかく作って持ち込めてない荷物でも持ち込もうかと」
「……一体どんだけ持ち込むつもりなんだ……?」
「さっき作ってたのの七割程」
「んなもん持ってくんな。減らせ、厳選しろ」
チッ、とアダムが舌打ちをする。よっぽど持ってきたかったようだがアレの七割は駄目だ……と言うかアレの七割の荷物って何なんだ。城でも持ってくるつもりか。
「んなもん持ってこねーよ、本と演算機だ」
「ナチュラルに人の思考を読むなよ……」
そんなアホな会話をしている間にも相当な速度で作業が進んでいく。大体はアダムのおかげだが。ちなみにZZは部屋を広げようとして邪魔をしてばっかりだった。絶対そんな広さ要らねーだろ。
とにもかくにも急ピッチで進んでいた作業には完成が見えてきた。後は細かい箇所の手直しと……内装。
「なあ、内装ってどうすんだ? 何もないぞ」
「ないそうです」
「腐れ死ね」
いかん、
「なあアダム。内装……」
「どうしよもねえよ、自分で買え」
「そうだよな……」
どうしよう……せめて机とキッチンは欲しいが……金が無い。一応前の家の焼け跡から金は回収できたが……それでも足りない。全然足りない。五万でどうしろってんだ。
「てか飯買う金もねえな……調理器具だけならギリギリ何とかなるか?」
最悪道具が有るならそこらの草を調理して何とかなる……はず。
幸い燃料の方は既に買って補給を済ませてある。後は食事をどうにかすれば生きていける。
「また怪獣でも出ねーかな。出来るだけ斃しやすいやつが」
「そんな楽に斃せるようなのはめったにねえよ。金が欲しいなら"アイギス"相手の戦争にでも参加してきやがれ」
「ざけんな、死ぬわ」
何をトチ狂ったら金目当てに戦争に行くことになるんだ。ふざけんな。
「まあ実際楽に金を稼ぐならよっぽど優れた能力がねえとな。それが無いなら地道に働くしかねえだろ」
「やっぱそうか……」
楽に金を稼ぐ方法は無い。ただこの際ちょっと危険でもいいので金を稼ぐ手段が欲しい。
「という訳でアダム、何か手っ取り早く金を稼ぐ手段はねーか? チョットぐらいならきつくてもいいぞ」
「あるぞ」
「あるのかよ」
なんでも出てくるなこいつ。
「まあ結構キツイがな。あとキャンセルも効かん。終わるまで現地作業だ」
「やる」
金が貰えるなら何でもいい。遠出だろうが何だろうがやってやる。……流石に戦地とかには行かねえよな?
「それじゃ、秘境探索一週間、命の保証無しの旅出発だな」
「え?」