九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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氷の世界

「……何にもいない」

「そりゃな。絶対零度の世界に生き物が居たら怖い」

 

 窓を眺めて、生き物がいない事に文句を言うZZ。悪いが、俺の知る限り南極に生き物はいない。いるとするなら、アイギスの連中かそれ並みの怪物だろう。何だろうが関わりたくは無い。

 

「まあ多分何か居るがな」

「えぇ……」

 

 絶望的な発言がアダムから飛び出た。そう言う悪い事は分かっても言わないでほしい。

 

「この冷気、まともな法則で成り立ってねえんだよ。明らかに恣意的に動いてやがる」

「……つまり、誰かがこの寒さを引き起こしてる?」

 

 うわあ絶対関わりたくねえ。俺らじゃどうしようもできねえ奴だよ、それ。

 

「安心しろ、この寒さなら苦痛は感じずに死ねる」

「安心できねえ!!」

 

 俺の絶叫も他所に、シェルターは南極の中心へ向けて一定のペースで進んで行く。その間、窓から外を眺めていたのだが……

 

「何も無いな」

「何も無いだろ?」

 

 ZZの言う通り、一面氷に覆われているだけの世界だ。時折氷の山や谷があるが、それも直ぐに見慣れてしまう。

 

「……」

 

 アダムは途中から黙り込んでガチャガチャと何かを動かしている。こいつが無言だと不安だな。

 

「アダム、今外何度だ?」

「マイナス三百。絶対にありえない数値だ。そもそも、何でこんな数字が計測出来てるのかもわからねえ」

 

 ……絶対零度より下? いや、それ、駄目だろ。

 

「そんなのあり得るのかよ」

「無理だ、普通な。……法則に干渉してやがる。とんでもない怪物が居るぞ」

「帰りてえ……」

 

 くそ、政府め。俺らをそこまで虐めて楽しいか? ……多分何も思ってないだろうな。

 

「……寒いな」

 

 アダムが、ぽつりと呟き、直後愕然とした表情をする。

 

「おい、今俺なんて言った」

「……寒いって」

「……予想以上にヤバいな。俺が、寒い? 何の冗談だ」

 

 おいやめろ、お前がそんな反応なら俺らはどうなるんだ。

 

「速度を上げる、長期間の滞在はまずい」

 

 言うや否やとんでもない加速で俺らは壁に叩きつけられた。

 

「おいコラ! もう少し俺らに配慮しろ!」

『うるせえ黙ってろ』

 

 いつの間にかアダムが姿を消し、音声だけの存在になっている。と言うか、速度がどんどん上がっている。このままだと俺は兎も角ZZが大変な事になりそうだ。

 

「兄貴ー助けて―、変な体勢になってる、首めっちゃ痛い」

「ちょっと待ってろ、その腕こっち伸ばせ、外してやる」

 

 どうにか壁に貼り付けられたZZをマシな体勢へとなおして行く。と、いきなり加速が消え俺達は反対の壁に叩きつけられる。

 

「おい! せめて何か言え!」

『やかましい。見つけたんだよ』

「はあ?」

『アレが元凶だ!』

 

 アダムの叫びに、ZZが凄い勢いで窓に飛びついた。俺も興味はあるのでのそのそと窓へ近づいて行く。

 

 そこに居たのは蒼い神だ。

 透き通る氷の肉体、纏う目に見える程の冷気、人間一人程度の大きさにも関わらず、まるで天体の様な存在感!

 

「……アダム、アレの相手するのか?」

『分からん。向こうの出方次第だ』

 

 蒼い人型は、動く様子を見せない。アレにとっては、この冷気など攻撃ですらないのだろう。

 

「撤退は?」

『一応探査が目的だ。アレが何かは調べておいた方が良いだろ』

 

 とはいえ、ここから見ている限りで分かることなどアレが出鱈目にヤバいという事だけだ。近付けば何か分かるかもしれないが、近付きたくは無い。

 だが、今いる場所はシェルターの中。シェルターが動けば俺達も当然アレに近付いてく。

 

「うわあああああ嫌だあああああああ!!!」

「兄貴ーアレ凄いぞ! 見てるだけで寒い!」

「お前凄いな!?」

 

 何でアレに近付いてここまで平然としてるんだコイツ! アホなせいか? なら俺もアホに……いや良いや、何か変なもんに近付いて死にそうだし。

 そんな俺の考えにも気付かず、ZZは蒼い人型を見て目を輝かせている。

 

「兄貴ー、アレすげえ! 何か凄いゾクゾクする!」

「寒いだけだ、ちょっと大人しくしてろ!」

 

 ZZの頭を押し下げようとして、一瞬蒼い人型が視界に入る。その瞬間、氷に張り付いたような寒さに襲われた。

 

「さっむ! ZZお前アレ見るな!」

 

 えー、と文句を言うZZを押さえつけ、アレから視界を外す。その瞬間に寒気は収まった。

 

「アダム、本気でアレに近付くのか? 絶対ヤバいぞ」

『一応まだ攻撃はされてねえからな。アイギス側じゃねえなら戦力に引き入れられる』

「……成程。政府が無茶いう訳だ」

 

 あれ程の化け物が敵に回るのは最悪だが、味方になるなら心強い。政府はアイギスとの戦いに手を焼いている。使えそうなものは使いたいのだろう。それに俺らを巻き込むな、という話だが。

 

「……寒くなって来た」

 

 アレに近付いているのがその理由だろう。シェルターの中で、貰った防寒具を身につけているにも関わらず身を切るような寒さに襲われる。

 

『接触まで後十秒、九、八、七……』

 

 聞こえてくるアダムの声が、アレとの距離が近い事を如実に示す。こうなったらヤケだ、覚悟を決めて親善大使でも何でもやってやろう。

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