凄まじい衝撃がシェルターを襲い、俺とZZが壁に叩きつけられる。アダムとあの蒼い奴が戦いを初めてわずか数分、巻き込まれた俺たちは既に満身創痍だ。
「兄貴あれ見て、すげー綺麗!!」
訂正、満身創痍なのは俺だけのようだ。
「お前、良く、そんな、余裕がああああああ!!!」
再び襲い来る衝撃で体が宙に浮き、天井に頭を打ち付けられた。滅茶苦茶痛い。俺がサイボーグじゃなかったら死んでるぞ、これ。
恨みを込めて窓を睨むが、視界に入るのは恐ろしいほどの吹雪と爆炎、そしてそれらが生み出すムカつくほど神秘的な煌めきだけであった。
「あいつももう少し遠慮してくれよ。逃げるわけにもいかねえってのに!」
この猛吹雪がどれ程の低温かは分からないが、定期的に凍り付いたアダムの破片が降ってくることからして、俺たちに耐えられるようなものでは無いのは確かだ。
そうなると俺たちに出来る事は、このシェルターが壊されないように祈る事だけだ。ZZのように気楽に外を眺めるのも、ある意味正解ではあるだろう。
「そんな呑気に成れねえけどな!!」
南極上空凡そ一千キロメートル。蒼翼の極寒と、鋼鉄の兵器が激突する。
時間も、空間も凍り付く法則を飛び越えた冷気が、やはり法則を捻り潰す出力の熱線にかき消される。
かと思えば、
『ふむ、予想以上の存在だ。この私がこれほどまで苦戦させられるとは』
「余裕ぶってんじゃねえよ冷凍庫野郎」
天体一つを丸ごと氷づかせて尚余りある途方もない極寒が、膨れ上がり続ける機械の群体を押さえつけ、億を優に超える数の兵器が巨大氷塊を瞬時にかき消す。
互いに一歩も譲らぬ異常な次元での攻防。
一拍の間を置き、再び衝突が行われた。
『これ程に力を持ちながら、何故有象無象の使い走りをする? 不思議でならない。わざわざ面倒ごとに絡まれることも無かっただろう』
氷槍が乱舞し、大砲とチェーンソーが合体したような兵器を
「色々あるんだよ、氷細工。頭まで氷しか詰まってないてめえにはわかんねえだろうがな!」
その大きさを物理的に叩きつけ、極の体を粉々に粉砕する。しかし、空中へ散らばった氷片が瞬時に無数の大氷塊へと成長し、アダムへ冷気の光線を放つ。
瞬きより短い時間で凍結させられた機械群を放棄し、アダムは体から大陸に匹敵する規模の機械を取り出す。一瞬にしてそれらは数えるのも億劫なほど大量の兵器へと姿を変えた。
『語りたく無いので有れば無理に聞く気もない。とはいえ、少々過剰な
「そう思うんなら大人しくくたばれや」
地球表面を三度は覆えるであろう規模の砲火が、僅か二メートルにも満たぬ標的へと集中する。それでも、極に一切の揺るぎは無い。
砕けた体は瞬時に元の形を取り戻し、逆に触れた物が片端から凍り付き動きを止める。それを見たアダムは小さく舌を打ち、極の元へと切り込んだ。
「無駄に頑丈だな、氷砂糖」
『それは最早氷ではないだろう?』
甲高い音を響かせ、アダムの振るった剣が弾かれる。月程度なら両断するそれを弾いたのは、極が瞬時に作り上げた氷の剣であった。
剣戟、再び。
今度は互いに弾かず、鍔迫り合いの様相を見せる。だが、両者の背後で膨大な攻撃が組み上がろうとしていた。
アダムの背後に有るのは、地球を五個まとめて消滅させる程の異常火力砲。極の背後にあるのは、時空間を凍結させ、次元すら凍り付く冷気を纏った七本の氷槍。
両者は一切迫り合いを崩さぬまま、恐るべき攻撃を解き放った。
瞬間、音が消える。
光が消える。
時間が消える。
重力が消える。
互いにそう、錯覚した。
衝突の規模は桁違い。考えうる全てが凍り、考えうる全てが破砕する。
それが互いに打ち消しあい、僅かな一瞬、全てが消えたように見える無の領域が出現した。
だが、やはり一瞬。
互いが相手を認識し直した瞬間、途方もない衝撃が周囲へまき散らされる。
吹き飛ばされたアダムは空にて瞬時に姿勢を制御し、極は周囲の空間を凍結させ体勢を保つ。
三度の交錯。
一撃ごとに最適へと体を組み替え続け、常識では不可能な猛攻を仕掛けるアダムと、自分自身を氷で作り、その全てを持って攻め立てる極。
両者の壮絶な接近戦に制限は無い。
ある時はアダムが空間を突き破り一撃で七か所から狙いも速度も全て異なる蹴りを放ったかと思えば、時間の連続性を凍結させた完全に同時同箇所の連撃と言う矛盾を極は叩きつける。
そして、戦いはそれだけでは無い。
小惑星程の大きさの氷塊が、雨の如くに降り注ぎ、それ一つに付き五千を超える砲撃が放たれ全てを粉砕する。
月程の大きさの巨大な電磁ハンマーが、異常極寒の吹雪で氷漬けに。星を串刺しにする程の鋭さと大きさを併せ持った氷の槍が、複合装甲版に打ち砕かれ、火星程度なら蒸気に変えうる熱線の嵐が放たれたとたんに氷のオブジェに変貌した。
精度と速度を最重とする接近戦と、規模と威力を追及する遠距離戦。
その二つを、全く同時に行い続ける。
どちらか一方でも敗れれば即座に敗北へと追い込まれる極限の並列動作。その天秤が、徐々に傾き始めた。
『うお……!!』
零距離で放たれた熱線が、極の半身を溶かし崩す。当然瞬時に回復するが、隙は出来る。そこにアダムが高熱を放つ光剣を振るい、極の体積を四分の一にまで削り取る。
『く、お、おお!!』
削られた身体を、爆発的に膨らませ隙を無理矢理に潰す。だが、消耗は大きい。
互いに体が砕けようとも瞬時に修復する性質ではあるが、そこにある一つの違いを極は感じ取っていた。
(こいつ、エネルギーの総量が見えん!)
極は知らない事だが、以前アダムは天道との戦いで似たような状況を経験している。故に、今回はエネルギーの生成上限を最初から解放している。アダムの損耗はエネルギーに限れば、未だ零と言っても過言ではない。
そして両者に一撃で決着をつける方法がない以上、必然、削り合いになり……
今、限界の来た極が地へと叩きつけられた。
「決着、だな。極」
『……名で呼んだな、アダム』
互いに敵意を消し、皮肉気な笑みを浮かべながら手を伸ばす。握手を持って、この戦いは終わりを迎えた。
「っ!」
『……何者だ』
両者が同時に、同じ方向を見る。尋常では無い圧。隣の互いを上回りかねないそれ。その上、ある一点が両者に最大の警戒を取らせた。
「全く気付かなかったぜ……ようやくお出ましか、アイギス」
『……薄い、いや、白い? 不気味な奴だ』
視線の先、無言にて佇むその存在は、圧倒的な力に反する余りに希薄な存在感を漂わせていた。
白い。
髪、眉、目、手、肌に加え、足元を隠すほど長いワンピースも異様に白い。
折れそうなほどに細い手足と、ある種不気味なまでに整った顔。
アダムはその存在を知っている。いや、この時代、この世界に生きる人間なら皆この存在を知っている。
「アイギス七界神、白華。……予想外に大物だな」
『どっち?』
「……あ?」
『……は?』
白華が