九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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白、機、氷

『もう一度聞く。どっちがこの冷気の元?』

 

 無言のままスケッチブックを突き付ける白華に対し、アダムも極も動くことが出来ないでいた。

 一切動作が見えなかった事、そもそも質問の意図が見えない事、それらの要因が重なった結果である。

 だが、動かなければ何も出来ない。確認の意を込めて、アダムは口を開いた。

 

「何の用だ。(こいつ)でもスカウトしに来たのか?」

『それ。で、そっちが冷気の元でいいの』

 

 余りにも雑に質問を肯定されたアダムが、小さく舌を打つ。目的は判明した。だが、それを見逃すわけにはいかない。

 

(……お前、どうなんだ?)

(行くわけがないだろう。……そもそも、私はアレに付いてよく知らん。どう考えても、この場で返せる答えは無い。それに、お前に負けた後だ。私の所在に付いてはそちらが決めると良い)

 

 極の返答に、アダムは一瞬の逡巡の後に、極へ命令する。断れ、と。

 

(それで良いのか?)

(今の所は)

(なら、そう答えよう)

 

 ゆっくりと立ち上がり、極は白華を見据える。

 

『如何にも。冷気を放っていたのは私だ』

『分かった。スカウトは?』

『断る』

 

 一瞬も迷わず、極が答える。

 

『終わった戦いの場にのこのこと現れ、一方的に要求を突きつけるような者共に従うつもりはない』

 

 極の答えに、白華から放たれる雰囲気が剣呑な物に変わっていく。

 

『受けなければ殺す。と言えば?』

『益々受けんな。そこまで礼を失した連中に与する気など到底無いわ』

 

 白華がスケッチブックを書く手が止まる。既にアダムは臨戦へ移行し、極が極寒を身に纏う。

 スケッチブックが仕舞われると同時に、戦いは幕を開けた。

 

 

 

「兄貴ー、なんか静かになったんだけど」

「終わったんだろ。いいことだ」

 

 これでようやく命の危機に怯え続ける必要も無くなった。……アダムが負けたなら、俺らは死ぬと思うけど多分大丈夫だろ、アダムだし。

 

「んー、あー、何か話してる。あ、アダム無事だ」

「よし、助かった」

 

 これで後は俺たちを自宅に戻させるだけだ。

 そう考えた所でようやく全身の緊張が解ける。安心した気持ちで、窓の外を眺める事が──

 

 目に入った物は、廃材寸前まで破砕されたアダムの姿だった。

 

 

 

『「!?」』

 

 アダムと極、両者の反応が完全に一致する。

 驚愕だ。

 この二人が一瞬すら認識できない程の異常な速さで、自身の体を砕かれていた。

 

「──」

 

 直ぐに体を直し、白華へ攻撃を仕掛けようとするが、その前に体が両断される。まるで修復が追い付かない。

 一方の極に至っては、修復を試みるよりも早く身体を削り取られている。このままだと、一ナノ秒もしない内に死に到達するだろう。

 

「く、そ」

 

 膨大な規模の機械群を作り上げ、極の盾にする。だが、一瞬すら永劫に感じるほどの短い時間でその全ては細切れにされた。

 速い。速過ぎる。

 アダムと極という驚天動地の怪物二人がまるで対応出来ない、余りにも隔絶した異常な速さ。明確な実力差がそこにはあった。

 

 極の命が絶える寸前、神速の猛攻が停止する。眼前には、突き付けられたスケッチブック。

 

『下るか、死ぬか。選べ』

 

 極の視界にその一文が映る。最早声を出す力さえ無いが、それでも腕の一本であれば僅かに動くだろう。

 労力的にも、猶予的にも、選択は一度。恭順か、死か。理不尽な迄の実力差が選択の結果を分かりやす過ぎるほどに示している。

 震える腕を持ち上げ、薄らぎ、狭まる視界で選択を見据え……

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 示した選択への返答はただ一つ。死だ。

 

 神速で持ってナイフが極へと振り下ろされる。砕けかけのアダムにも、死に体の極にもそれは到底止められない。

 ただ、不可視の超光速を前に覚悟を決め──白華の体が、横なぎに吹き飛ばされた。

 

「随分とまあ、面倒ごとになっとるようじゃの」

 

 矮躯に見合わぬ巨大な金棒。その額には天を貫かんとする一本角。

 金剛角鬼、天道がそこに居た。

 

「……てめえ、何でここにいやがる」

「助けてやったのじゃからまずは礼であろう。全く、口の悪い奴じゃ」

 

 アダムが体を修復しながら、天道を視る。明らかに以前より数段強い。その理由は恐らく……

 

「随分な鎧だな。着た奴の力でも引き上げるのか?」

「うむ。色々と大変じゃと聞いてな。家から一番の大具足を持ってきた。礼はあの……XXXとZZとかいう小僧に言うと良い」

「あいつらに?」

 

 アダムが怪訝な顔をする。

 

「何、その二人から何やら連絡が出来る機械をもらっておっての。ヤバイと聞いたので急いで来たのじゃ」

 

 

 時間は一分ほど前に遡る。

 

「……嘘だろ」

 

 眼前にアダムが倒れている。あの、アダムが。おまけに、そのアダムと互角以上に戦っていたあの蒼い人型も原型をとどめない有様にされていた。まるで悪い夢のような……いや、悪い夢でもここまでは見ない。

 

「兄貴! あれヤバイ! アダムが!」

「分かってる。何か……出来るのか?」

 

 アダム級二人係で一方的にねじ伏せられる程の異常な相手だ。俺たちに出来る事なんて何も無い。……クソ、どう考えても見殺しになる!

 

「兄貴! アダムが、アダムが!」

「落ち着け!」

 

 相手の姿は全く見えない。そこにいるのかいないのかすら分からないが、何であれ俺らにどうにか出来る相手じゃ無いのは……俺らに?

 

「ZZ! お前天道さんと連絡先交換してなかったか!?」

「あ! してた!!」

 

 大急ぎで天道さんに通話をかける。間に合うか? いや、そもそも天道さんは来てくれるのか?

 

『ん? 何じゃ、どこぞと繋がって──』

「天道さん出来るだけ急いで用意して急いできてくださいアダムが殺されそうです!!」

『よくわからんが分かった! 準備してそこに行けばいいんじゃな。どこじゃ!』

「南極です!」

 

 言うや否や通信先からゴウゴウと風の音が轟き直ぐに通信が切れた。……これ、壊れたんじゃね?

 

「間に合う!?」

「信じるしか無い!」

 

 

 

「で、まあ南極というのが何処かは知らんかったが南極、というくらいじゃから南じゃろうと思っての。具足を着こんで南へと走ってみればお主の気配を見つけたのじゃ」

「……割とあってたのがムカつくな。……おい、油断すんなよ。ピンピンしてるぜ、アレ」

「分かっとる!」

 

 途轍も無い轟音を響かせ、ナイフと金棒が衝突する。衝撃は拮抗、だが手数に置いては白華が圧倒的に上回る!

 

「そらよ!!」

 

 切り込まれる寸前、放たれた熱線が白華に距離を取らせ、一瞬の空白が生まれる。その隙に削り取られた極の体をアダムが抱え込んだ。

 

「一応冷ましてやる、さっさと復活しろ」

『……助かる』

 

 弱弱しく呟かれる声に、アダムが軽いため息を吐く。

 

「本気で急げ。一秒以内だ。……最低でも三対一に持ち込まねえと、逃走すら出来ねえ」

『そこまで時間を掛けん、その千分の一で十分だ』

 

 一ミリ秒。アダムは内心で大きく舌を打つ。普通に考えれば一瞬。だが、目の前の白華を抑えるには余りに長い時間だ。

 だが、やるしかない。

 神速の刃が煌めくと同時、アダムは全身に装甲を展開した。

 

 

 

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