削る。削られる。爆ぜる。切断。
戦闘開始より0.00001秒、十五回に渡る交錯の末、アダムの装甲が削り切られる。だが、その代わりにアダムは白華の腕を捉えていた。
「今だ!」
「おう!!」
凄絶な迄の勢いで振るわれた金棒が、白華の額に衝突し、鈍い轟音を響かせる。
普通ならばこれで決着してもおかしくない一撃であるが、生憎相手はアダムと天道から見ても埒外の怪物。
神速、再び。
捉えていたアダムの腕を引きちぎり、天道に向けて怒涛の連撃が放たれる。
切り上げ、切り下ろし、逆袈裟、突き、胴、袈裟懸け。
そこまで切り刻まれた所で、ようやく天道の金棒が振るわれた。
だが、拮抗。
金棒もナイフも共に弾かれるが、根本の速度と小回りが違う。天道の金棒が弾かれた勢いをようやく殺した頃には、白華は心臓へ向けてナイフを突き放っていた。
「ぐ、お……」
深々と心臓にナイフが突き刺さる。如何な天道とは言え、無視できる傷ではない。
故に、天道は
「!?」
白華ですら、一瞬驚愕する天道の無謀。だが、それは確かに一つの成果を上げた。
驚愕の隙を突き天道は突き出た白華の右腕を掴む。
「動きは、止めたぞ」
刹那すら逡巡せず、アダムが最大威力の火砲を放つ。空間すら焼き切る程の超火力は、動きを止めた白華を正確に焼き焦がしていく。それでも、その命を奪うには余りに遠い。
現に、白華は掴まれていない片腕を振るい、放たれる熱線を吹き消した。受けたダメージは、多少髪が焦げたのみ。
経過時間、0.00008秒。白華は突き刺さした片腕を振るい、天道を振り払おうとする。だが、剥がれない。
死に物狂いでしがみつき、地に足を張る。ほんの少しでも白華の動きを止めるために。
しかし、そう簡単に抑えられはしない。白華が突き刺したままの右手からナイフを放し、左手に持ち替える。瞬時に横なぎに振るわれたナイフの狙いは、喉。
切断される直前、鋼鉄の塊がそれを阻んだ。間に割り込んだアダムと、片腕を抑えられたままの白華の超近接戦が開始する。
砲撃。
上体を一種芸術的なまでに逸らし回避する。
斬撃。
割り出したパターンから、最適化された傾斜の装甲によって逸らされる。
繰り出した斬撃の勢いのまま、右足を軸とした最小可動域の蹴りが放たれ、アダムが意図的に体を分割させ直撃を回避する。
攻めは白華、守りはアダム。
背後の天道に突き刺した腕が無ければ、踊りにも見えるほど流麗な動きでナイフと蹴りが次々と繰り出され、その全てを限界まで効率化、最適化した動き、兵装でギリギリ捌いていく。
この攻防、アダムに一切の勝機は無い。ただ守り、ただ避け、決して攻めない。ただ時間を稼ぐための戦闘。
それに、異を叩きつける。
「おおおあああああああ!!!!」
時間稼ぎの延命でしか無いこの戦闘に、一つの予想外が振り下ろされた。
心臓を貫かれたまま、金棒を大上段に振りかぶり、白華へと振り下ろす。
天道渾身の一撃が、白華の体を吹き飛ばし、その動きを一瞬止めた。その隙を見逃すアダムでは無い。
即座に超規模の兵装が広がり、白華とアダムを完全に隔てる。同時、兆を超える数の巨砲が火を噴いた。
しかし、一瞬。時間稼ぎにしても短い一瞬にしかなりえない。だが。
『十分だ』
砲火諸共、白華の体が凍り付く。蒼の人型は極寒の冷気を身にまとい、その身体を十全に取り戻していた。
「ギリギリだな。もう少し急げ」
『無茶を言う。万全で復活するにはあれだけの時間は必要だ。とはいえ、助かった。礼を言う』
「何でもよいが、次はもう助けられんぞ」
ブン、と音を立てて天道が金棒を素振りする。流れる血は止まっておらず、全身に無数の切り傷があり、心臓に大穴が開いている。
にも拘らず、天道の動きは何も衰えていない。万全と何も変わらぬ調子で、白華を見据えていた。
「お前、どれだけ頑丈なんだ」
「はっ、殴れば壊れるお前と違うわ。この程度、後一刻は十分に暴れられるぞ」
それ以上は持たんがな、と天道は付け加える。
着こんだ鎧は、着用者の生命を削り力を引き出す物。万全なら疲れる程度だが、ここまで消耗した状態で使えば命が途絶える。
だが、使わねばならない。それが勝ち筋であるならば。
「好きに暴れろ、合わせてやる!」
「元よりそのつもりよ!」
『邪魔しなければそれでいい!』
氷塊を砕き、迫りくる白華に三人が構える。
異常速度のナイフに、天道が金棒を合わせる。今度は拮抗せず、ただ一方的に白華が弾かれた。
速度で張り合えば勝ち目はない。なら、力で無理矢理に弾き速度を殺す。力業極まる天道の策だが、しっかりと効果を見せている。
ならば、合わせる。
アダムが全身を広げ無数の兵器を作り上げる。その全てが、切り返そうとする白華を精密無比に足止めする物だ。
切り込む寸前にミサイルが、振りかぶる直前に熱線が、音波が、衝撃が、空間が、斬撃が……
ありとあらゆる行動を精確に読み、神速に対処する。単体では用意時間と攻め手の不足から採用できない戦法だが、三人がかりの今は違う。
弾き、切り返しに攻撃を差し込み、明確な隙を作り上げる。そこに、超極寒の氷槍が突き刺さった。
それでも決定打にはなりえない。
氷が白く染まっていく。大地が、空気が、空間が。アダム達から見える全てが圧倒的な純白に包まれていく。それを見て、アダムが大きく舌打ちをした。
「『能力』持ちか、クソったれ!」
魔法とも、科学とも違う。個人の能力が他の存在に影響を及ぼす手段の一つ。今白華が切った札とはそう言う手札の一つだ。
だが、戦闘において正体不明の切札ほど厄介な物は無い。
距離感すらつかめない程白く染まった世界を前に、アダムは最大限の警戒を張り巡らせ──
その体が、左右に両断された。