「何しに来たんだ、お前」
「一応心配もして来てやったのに何だその言い草は」
邂逅一番アダムから気遣いを否定される。まあ正直ZZが心配だから付いてきただけでアダムの心配は殆どしていなかったが。
「で、勝ったのか」
「勝って無きゃこうなってねーよ」
アダムが大きく息を吐く。
辺りを見れば、全身から血を流しながら笑う天道さんと、自身の周囲に氷柱を出現させて涼む蒼い人型。そして見渡す限りの地面に広がる破壊跡と、地平線の果てまで続く巨大な溝があった。
誰が見ても、ここでは巨大な戦闘があったと思うだろう。事実そうだし。
「天道さん、大丈夫ですか?」
「うむ、このくらいの傷なら少し安静にしておれば治る。そこまで心配せずともよい」
そう言われても今回の戦いに天道さんを巻き込んだのは俺だ。どうしたって申し訳ない気持ちになってしまう。
すると、天道さんが手を伸ばして頭を撫でてきた。
「何、友人を思う気持ちが間違いの筈あるまい。それに、お主がどう思っていたとしてもここに来ると決めたのは私よ、気に病む必要はない」
「……ありがとうございます」
うむ、と首肯する天道さんに礼を言い、ZZを目線で探す。
謎の蒼い人型に突っ込んでいくZZの姿があった。あいつは怖い物知らず過ぎる。
「あんた誰ー?」
『極。この極寒の世の支配者だ』
「すげー!」
……何か奇跡的にコミュニケーションに成功したようだ。あいつはこういうとこで強い。
……後ろで俺に礼は無えのかとでも言いたげな雰囲気で見てくるアダムは無視する。正直、割と仕方ないとはいえこの一件に巻き込まれたのはお前の所為だ。
「俺に礼は無いのか糞間抜け」
「言いやがったこいつ。しかも罵声付きで」
ここまで態度が悪いと言いたくないし、言ったら何か負けな気がする。別にお礼を言って悪いことは無いが、こいつに言うのは本当に負けたような気がああああああああああ!!
「礼は?」
こいつ人の頭をあああああ!!
「ありがとう!!」
言った瞬間、俺の頭を掴んでいた手が離された。信じらんねえコイツ!
「……次何かしてもらっても礼は言わねえぞ」
「次は良いよ。今回はマジで疲れた……」
と、アダムが崩れるように座り込んだ。本気で色々疲れて居そうだ。
「……そういやアダム、今回金は出るのか?」
「出る。割とな」
よっしゃ。また臨時収入だ。
しかも今回、死の危険こそ常にあったがなんと前回よりも動いていない。不労所得一歩手前だ。
「そういや、一体何と戦ってたんだ? 多分アイギス絡みだろうけど」
「当たりだ。……白華だよ」
「白華!?」
アイギス七界神のNo2! アイギス征伐軍一億を瞬く間に葬った純白の死神! 今更ながらに体の奥底から震えが湧き上がってくる。
「良く勝てたな……」
「ギリギリだ。……助かった」
アダムが軽く頭を下げてくる。……驚きだ、コイツに礼を言える感性があったとは。
「人の礼にそんな考えは持つもんじゃねえぞ……」
「ぎゃあああああああ!! おま、台無しだ!」
……やっぱ駄目だろコイツ!
「っ!」
虚空の果て、地球と言う天体が天球の瞬きにも映らなくなる場所で、白華は眼を覚ました。
自身の記憶に有る物は、異常なエネルギーを纏ったアダムに迫った寸前まで。そこからこんな場所に繋がると言う事は……
「負けた、のか」
それは彼女にとって敗北がそれ程の衝撃を持って受け止められたという事であり……
「……ヒヒヒ」
「イヒヒヒヒヒヒヒャヒャハヒャハヒャヒヒヒヒヒャハハハハハハ!」
笑い声が虚空に響く。音を伝えるものなど無いはずの場所に。
しかしその程度、今起きた変化に比べれば些細な物。
黒く。
白華が黒く変わっていく。
髪が、目が、服が、肌が、気配が。
まるで子供の落書きの様な黒塗りに、白華が変わっていく。
余りの黒さに輪郭すら覚束ない。にもかかわらず、その黒は周囲から不気味に浮かび上がっていた。
「あー、白華の奴、今更俺を起こしやがって……まあいいや、皆殺しにするんだからなぁ……」
黒が、笑う。
目鼻も分からない程の黒さにも関わらず、不思議とそれを理解させる雰囲気が漂ようのだ。
黒が体勢を整える。自分をこんな場所に追いやった者達を殺すために。
右足を前に出し、左足ははるか後方へ。腰を落とし、体を前に深々と沈め──
疾駆する。
衝撃が周囲を砕き、速度の余波が銀河すら歪める。
光速の
そして、黒はそれだけで済ませる気など更々無い。
異常速度を保ったまま、黒が手に何かを握りこむ。鉄の串にも見えるそれは、黒に負けず劣らず黒色に染まっている。それが、六本。
右に三本、左に三本、それだけの串が、指の間に一本づつ挟まれる。
それがどんな武器かは分からない。だが、この速度でそれを振るったのなら……概念ですら壊し、貫きかねない威力と成るだろう。
それ程の速度、それ程の威力。それが──
「……何だよ、邪魔すんじゃねえよ、虹」
それは、巨大な男であった。
上背は三メートルを優に超え、背には宇宙を浮かべた羽が生え……その全てが矮小に思える程、宇宙そのものとも思える程莫大な威圧感を纏っていた。
「……止めておけ、黒華」
虹と呼ばれた男が、重苦しく口を開く。内容は、制止。
だが、言われた黒華も引く様な存在では無い。
「あぁ、テメエ、何様だ!? この俺が、負けて、引き下がれると思ってんのかぁ!? おまけによぉ、俺が負けたって事は、アイギスが負けたって事だぞ!? テメエは総帥の顔に泥でも塗る気か!? あぁ!?」
「
「……わかった」
驚くほど素直に、黒華が引く。と、同時にその全身が白に戻っていった。
『他に何か言われた?』
スケッチブックを虹の目の前に突き出し、尋ねる。それに対する返答は左右に振られた首であった。
それを白華が確認した直後、虹の目の前に門が出現する。目的地は、アイギス本拠地。
二人がそこに入った直後、門は消え……地球人類が誰も把握していない、危機は去っていった。
「……で、何で天道さんだけじゃ無くこっちの極さんまで一緒にくるんですか」
「しかたねーだろ、
「……あんまりにも強大な方々と一緒にいると、精神が音立てて削れてくんだけど」
「俺は強大じゃねえってか?」
「安心しろ、お前といる時が一番精神がすり減ってる」
「どういう意味だそれ」
と、まあなんやかんや一悶着ありながらも、俺達は家に帰りつく事ができたのだ。……暫く家にいよう。当分遠出はしたくない。