九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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労働の喜び

「親方ー、これこっちで大丈夫ですかー?」

 

 そこで良いぞー、という返事が返ってきたことを確認し、担いでいた建材を足場に置く。

 現在、俺は建設のバイトに来ていた。

 別に金が無くなった訳では無いのだが……元々大した趣味も無く、家で取りあえず高そうな料理を食べてみる日々にも飽きが来た。という訳で普段通りのバイトに戻っているという訳だ。

 今日の仕事は崩れたビルの立て直し。どうやら俺たちが南極に行っている間にまたどこからか怪物がやって来たらしく、視界には崩れたビルが複数映っていた。その全てが()()()に直す分だ。

 

 一トン程度の建材を担ぎ、張られた足場を跳ねていく。このビルの高さは千六百メートル、そこそこの高さだが……俺なら特に苦労もせずに駆け上がれる。

 

「これ置いときますねー」

 

 そこにいるのは無数の工事用ロボット群、そしてそれを管理する統括AI。一応挨拶はAIの方に向けた物だが、これといった返事は無い。

 代わりに、手が空いていたロボットから水が手渡された。ねぎらってくれてはいるらしい。

 

「よっ……と」

 

 千メートルからの飛び降り。割と危険ではあるが、万全なら何一つ問題は無い。

 スラスターを使い減速、着地、そして次の建材を担ぐ。

 工事用の大型機械があれば不要な作業なのだが、生憎格安が売りのこの現場には導入されていない。その代わりに都度借りるか……俺を雇用しているようだ。

 

「えっと……これが、この階だな」

 

 指定された建材を、指定された場所へ。単なる荷運びではあるが、俺の機能なら中途半端な機械よりもいい効率を出せる。

 

「それでもそろそろ導入した方が良い気はするけどな……」

 

 別に俺も毎日来るわけでも無いし、金が割とできた今後は更に来る頻度は下がる。それに、日々機械の性能は進歩している。安くて良い物も探せばあるだろう。

 

「まー雇ってくれるだけありがたいなっ」

 

 

 

 休憩、という掛け声を聞いて作業の手を止め、外壁の舗装道具を仕舞い込み下へと降りて行く。割といい所ではあるが仕方ない。

 

「うーん、旨い」

 

 特に高くも無い普通の弁当ではあるが、口にあっている。家で食べてみた高い物よりも美味しく感じてしまうのは、雰囲気の所為だけではないだろう。

 

「……どうすっか」

 

 まったりと食事をしていると本質的な悩みが浮かびあがってくる。というのも、割と本気で最近することが無い。友人と呼べる相手も余りいないし、かと言って一人の趣味も特に無い。今までの人生生きていくのに精いっぱいだった弊害だ。

 

「……いっそ、ヤバい時用の金だけ残して一気に使っちまうか?」

 

 そんな危ない考えが鎌首をもたげる。ただ、そうすれば以前の割と忙しい日々に戻るだろうが……

 

「……新しい趣味でも見つけた方が建設的だな、うん」

 

 このバイトが終わって帰ったら、何か趣味を探すことにしよう。

 そんな考えを浮かべながら、俺は残り少ない弁当を口へ放り込んで行った。

 

 

 

「クッソ疲れた……」

 

 あの後建設途中に怪物が出現しそれをビルを全力で守りながら倒す羽目になってしまった。普通に戦えば勝てる程度の相手だったせいでただの怪物討伐よりも嫌な疲労感がある。

 ……趣味を見つける予定だったが、変更だ。今日は帰ったら寝る。

 そう決心を決めて帰路に着く。俺の家はコロニーから遠い、相当急いでも三十分はかかる。……こういう立地も無趣味の理由ではないだろうか。

 

「建て替えできないのがな……」

 

 政府との契約なり何なりでコロニー内での定住は出来ないのだ、面倒くさい事に。

 ……考えてたら政府への恨み言ばっか積みあがって来たな、止め止め。無心で帰ろう、無心で。

 

「……」

 

 心を無にしてブースターで移動する。この速さなら大体四十分程だろう。適当に自動で動かしていればいい。

 

 そんな考えは、響いてきた金属音にかき消された。

 

「っ、何だ?」

 

 カキン、カキン、と金属通しが打ち合うようなその音は徐々にこちらへ近づいているように感じられた。

 ……関わりたくない。そもそもここはコロニーの外だ、結構な毒素に満ちているし、危険な生物も多い。そんな所でこんな音が鳴るなんてまともな事情ではないだろう。

 そう考え、俺は速度を上げる。俺は何も聞いていなかった。

 

 しかし、そんな俺の願いとは裏腹にどんどんと音は近付いてきた。同時に、人の声のようなものまで聞こえてくる。うわあ、嫌だ。

 耳を塞いで駆け抜けて──

 その瞬間、目の前に人が二人飛び出してきた。

 

 一方は黒ずくめにフード、それに加えて布で口元を隠し、おまけに手には小刀の様な物を持った不審者の見本市の様な人物だ。

 そして、もう一人はこちらも黒装束を着こんでいる。しかしフードは無く、代わりに見えるのは銀の髪と整えられたツインテール、見えた顔から多分女性。そして、やはり持っている小刀と……血の跡。

 返り血……と言う事は無いだろう。見るからに血の位置が偏り過ぎているし、量も多い。何より、そちら側をかばう様に動いている。

 ……どうしよう。関わりたくない、関わりたくないが……

 

「ここで見捨てる程クズになった覚えは無ぇ!」

 

 蹴り、一発。

 もろに食らったフード付き黒ずくめが横っ飛びに吹っ飛んでいく。一応まだどっちに非があるか分からないので加減はしておいたが……加速も付いていた、骨位は折れたかもしれない。悪くなかったらいい病院を紹介して土下座しよう。

 しかし、まずはこの……へたり込んだ女性の方だ。

 

「……あのー、大丈夫……ですか?」

 

 取りあえず話しかけてみるが、女性はぽかんとした顔のまま硬直している。まあ、仕方ない。俺も何か戦ってて相手がいきなり変な奴に吹っ飛ばされたら多分こうなる。

 そう思って見ていると、女性がゆっくりと話した。

 

「あなた()、忍者ですか?」

「は?」

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