「妹は私と違って昔から優秀だったんです。だから、一族の中でもかなり厚遇されていました。私は……その、あんまり……いえ、全く優秀では無くて……だから、忍者の里に押し付けられた……みたいな。あ、忍者の里が悪いって訳では無いんです。無いんですけど……」
そこまで言って苺さんは俯いてしまう。色々と思うところが有るのだろう。取り合えずせかそうとするZZの口を押さえて続きを待つ。
一分もしない内に、苺さんは口を開いてくれた。
「それで……それでですね、そんな妹が、明後日成人を迎えるんです。迷惑かもしれませんし、邪魔だと言われるかもしれませんけど……それでも、見たいんです。妹の、晴れ姿」
……命を懸けても、見たいのだろうか。俺にはよく分からない。ZZが何か凄いことになっても、それ見に行って死ぬなら無視すると思う。
だけどこの人は、それを実行している。きっとそれ程に妹が大事なのだろう。
「わかりました。……僕も手助けします」
「え!? いや、その、今日助けてもらった分で既に十分と言いますか、もうこれ以上は申し訳ない領域に入ってしまいますし……」
断られたが、俺の決意は固い。兄弟を持つ身として、苺さんの妹を思う気持ちには感銘を受けた。……と言うか、ぶっちゃけ暇なのだ。野次馬根性ではあるが、追手があのレベルなら俺でも十分護衛として約に立つだろうし、危険も少ないだろう。
「……本当に、良いんですね?」
「はい」
ありがとうございます、と頭を下げてくる苺さんを見ていると野次馬根性の自分が恥ずかしくなってくる。だが、そもそも野次馬根性なぞ出している時点で恥ずかしい物だ。とことんやってやろう。
「ZZ、お前はついて来るだろ」
「うん」
「で、アダムは……まあいいや」
今回は俺の都合だ。一々アダムを付き合わせる必要は無いし、コイツも来ないだろう。
しかし、その予想は裏切られた。
「いや、俺も行く」
「……心強いけど、何で?」
今回は俺の自己満足くらいしかメリットは無い。ZZみたいに面白ければ何でもいいと言う性格なら兎も角、アダムは利の無い行動はしない方だ。
「闘神の家系を見てみたい」
疑問には、そんなシンプルな答えが返された。……さっきから言われているけど、闘神の家系って何だ? 分からないが、あまり話したそうにしていない苺さんの前で聞く訳にもいかない──
「ねー、闘神って何?」
ZZが一切空気を読まず聞きやがった。張っ倒すぞコイツ。
「ZZ? 人の嫌がる事はするなって言ったことあるよな?」
「痛たい痛い痛い痛い!」
ZZの顔面を掴み圧を掛ける。いい加減空気の読み方を覚えてほしい。というか、自分を抑える事ができればいいんだが。
「あ、あの、その辺にしておいてあげてください。隠している私が悪いんです……」
「いえ、今のはどう考えてもこいつが悪いです。ごめんなさい」
とはいえこのまま握りっぱなしも無理なので適当な所で開放する。反省してないとは思うが。
「……余り隠しているのも、いえ、私が不出来な事なんて誰にでも分かる事ですよね。……闘神、お話します」
なんだか滅茶苦茶ネガティブな方向性で話が始まってしまった。
「闘神、と言うのは紅の家の初代……紅 ルナ様に付いた異名なのだそうです。と言うのも、この御方の強さが神にすら比肩する物だったと言う事で……私なんかでは到底分からないくらいには強かったそうです。
そして、この御方の家系こそが闘神の家系。皆恐るべき力を持って生まれて来ます。私の母はこの家程もある大岩を片手で投げられますし、知り合いには音を超える速さで動ける人もいました。
その中でも、僅か七歳で今の頭首様に次ぐ実力を持っていたのが私の妹……紅 石榴です」
そう言って、苺さんが写真を見せてきた。写っているのは……子供の時の苺さんと、その隣にいる
「双子なんです、私たち」
苺さんがどこか負い目を感じるような雰囲気ではにかむ。……まあ当然だろう。自分とそっくりな双子の妹が、自分より遥かに強く、そして恐らく期待されていたのだ。自信を無くしても仕方ない。
「本当、石榴は凄かったんです。二十キロも持てなかった私と違って、五歳の時には百キロくらい放りなげていましたし、足も私よりずっと早くて、六歳の頃には音の壁を突き破っていました。私は百メートル五秒も切れなかったのに……」
……聞いている限りでは苺さんも大概超人である。普通五歳六歳の人間はそんなことできない。しかし、石榴さんはそれ以上だ。その時でその身体能力となると、今は俺より強いんじゃないだろうか。
「そんな妹を周りは誉めそやして、持ち上げて……私は、よく、向いてない、とか言われてましたけど……それで、私だけ一族から追い出されて、忍者の里に……」
……何と言うか、その、割と重い過去を聞いてしまった。やっぱり聞くような物じゃ無かっただろ。
「それでも、今年で私もあの子も二十歳です。……一族の成人式、妹の晴れ姿」
見たいなあ……
まるでとても羨ましい相手を、でも決して手が届かない相手を見たような。或いはどこまでも遠い物を思うような、憧れと諦念が混ざった、複雑な表情で苺さんは呟いたのだっ