話過ぎちゃいました、と照れくさそうに笑う苺さん。
その一方でZZ等は既に未知の超人家系にわくわくしているし、アダムは途中から興味を無くしていた。薄情者め。
「大切なんですね、妹さんが」
「はい」
一点の曇りも無く笑う苺さん。これは何としてでもこの人を成人式まで送らねば。
そう覚悟したはいいが、既に時間は夜八時を過ぎている。それに加え苺さんの怪我もある出発は、今すぐという訳には行かない。最低でも明日にはなるだろう。
「予定、どうします?」
医療キットは傷が治る時間を、明日の七時と表示していた。これ以降なら出歩いても大丈夫だとは思う。 ただ、成人式の日程次第では間に合わなくなってしまうかもしれない。
「一応大丈夫です。追手が来るのは予想していましたから、余裕を持って抜けています。……成人式は、後三日ですね。場所は……」
広げられた世界地図の、更に詳細にした一点を苺さんは示した。……割と遠い、というか普通生身では絶対行けない距離だ。どう頑張っても一月はかかるだろう。
最も、俺なら一日もあれば十分だ。苺さんも余裕が有るらしい。……この人もやっぱ結構超人だな。
「そういえば、忍者って何なんです?」
最初から割と気になっていたが、話がドンドン進んで行くので聞き逃してしまった。進めたのは俺だが。
「そういえば言ってませんでしたね。
忍者、とは表に出られぬ者。影より、この世界を支える集団。遥か昔──古くは、七千五百年以上前に出来上がった者達だと言われています。
昔は諜報等が主だったようなのですけど……今は、どちらかというと暗殺が主です。いつ頃からこうなったのかは分かりませんが、どうやら、忍者が世界の守護者となった時からの様です」
「世界の守護者」
随分大きく出てきたものだ。……というか、一体何をやっているんだ、それ。
「活動としては……兎に角、世界を安定させるのが主な目的です。
過激な思想を行動に移した人物、或いは、より良くしようとして、戦乱の火だねになってしまった事……そういった、安定を壊す物を消し去るのが、今の忍びなんです」
ううん。聞いている限りだと、悪い集団では無いようだ。殺される側の人間からしたら大変な事だろうが、俺たちのような小市民にとっては安定を保ってくれている組織はかなりありがたい。
というか、これ、苺さんが追われているのって……
「はい。忍者側は掟に従っているだけです。……私が、全面的に悪いんです」
……考えている事を読まれた。最近アダムの良く読んでくる。何だ、俺はそんなに分かりやすいのか?
というか、いけない。苺さんがまた暗くなってしまった。ええい、回らない頭だ、少しは気の利いた言葉が出せないのか。
「えっと……その、家族を思う事は、何も悪くないと思います」
「……ありがとう、ございます」
……駄目だ。俺では苺さんを暗くしてしまうだけだ。こうなったら……
「ZZ、頼む」
「はい! 苺さんは間違ってない!」
うーんシンプル。何が問題なのか全く捉えていない一言だ。とはいえ、こういう単純なものが有効な事も……
「そうですよね、私なんか……あの子も、私が見に行った所で喜ばないし邪魔なだけだよ皆に迷惑かけて終わり……」
駄目だぁ!
その後、落ち込み続ける苺さんをどうにか慰め、ZZの部屋に寝かし、俺たちは騒がしい宴会から音を遮りながら眠りについた。
朝、七時。
準備を整え、家の前に集合する。極さんと天道さんは部屋で酔いつぶれていた。
「それでは、出発しましょう」
「はい」
くるくると苺さんが傷ついていた肩を回す。正真正銘完治しているようだ。……最近の医療技術が優れているとは言え、滅茶苦茶早い。苺さんの体質だろう。
「皆さん、気を付けてくださいね。追い忍は相当な凄腕の集団です。決して気を抜かず警戒し続けてください」
「はい!」
……返事をしたのは俺一人だ。ZZ、せめてお前は気を付けろ、アダムは別にいいからお前は気を付けろ。
「それでは、出発します」
言うなりかなりの速度で苺さんが走り出した。昨日の記憶に有るものよりもはるかに早く、静かだ。アレが傷ついていない本来の動きなのだろう。
「ちょっと急がないとまずいな」
展開したブースターの出力を上昇させる。普通に時速数百キロは出ているが、この速さでも身を隠して走っている苺さんと同速位だ。
「アダム、ZZ持って来てくれ」
「めんどくせえな」
ぶつくさ言いながらもZZをひっつかんでくる。……ZZお前、その持たれ方で大丈夫か?
出発から三十秒、既に俺の家は点になっている。この辺りはほぼ更地な為見えているが、前に行ったジパングのような場所だと色々な物に遮られて見えなくなっているだろう。
前に目を向ければ、俺たちから百メートル程の距離を走っている苺さん。姿勢は低く、体幹はブレず。何があっても直ぐに対応出来るようにしているようだ。
一方の俺たちだが、ひっつかまれてぶら下がっているZZは論外としても、思いっきりジェットで進んでいる俺と、謎動力で飛ぶアダム。どちらも結構目立っている。
「……これ、向こうからしたら格好の的じゃねえのか?」
「兄貴、心配すんな。おれが見る限りなんもいない!」
何の根拠も無くそういい放ったZZの額に、どこからか飛んできた鉄の針が突き刺さった。
……ちょっとぉ!?
「ZZお前大丈夫かそれ!? 待ってろどうにかしてみる!」
「大丈夫だって、兄貴は心配性だな」
瞬間、ZZの頭部が砂のように崩れ、針が抜け落ちた。……そして頭が戻らない。
『兄貴助けて、頭戻んなくなった』
「アホー!!」
ええいこいつは本当にもう、取り合えずなんかカプセルにでも入れとくか?
「多分これに詰めとけばその内戻ると思うぞ」
『わーい、兄貴ありがとー』
……なんか、泥団子みたいだな、こいつ。
と、再び視界の端から何かが迫ってくる。今度は針ではない。鉄でできた、独特の形状の板だ。……これが所謂手裏剣か?
「ふん」
飛んでくるそれを叩き落とす。大して早くも無い。後方から投げられたせいか、相対的にノロく見える。
しかし、苺さんでは無くこっちを真っ先に狙ってくるとは。
「苺さーん、そっちは大丈夫ですかー!」
こっちの声に、瞬時に手で合図が送られる。出発前に教わった符丁曰く……異常なし。心配そうに見てくるが、こっちは大丈夫だ。
そう伝えると軽く頷き、合図と共に更に速度を上げた。どうやら振り切る作戦に出るようだ。なら、こっちも合わせないと意味がない。
「せいのっ!」
ブースターを増設し、一気に加速。やべ、ちょっと早すぎた。先行してくれている苺さんに追いついてしまう。
と、苺さんが更にもう一段速度を上げて対応した。ごめんなさい、と謝っておく。俺のミスに付き合わせてしまった。
今回の移動での作戦はシンプルだ。苺さんが先行し、罠や待ち伏せが無いかを警戒する。
今の所待ち伏せなどは見つかっていないが、それは苺さんが優秀なのが理由の一つではないだろうか。
傍から見ていても、苺さんは相当機敏に動いている。あの動きを相手に待ち伏せ等を仕掛ければ、逆に先制されてしまうだろう。
──つまり、待ち伏せがあると言う事は相手の実力が高いと言う事だ。
突如、苺さんが動きを止める。その意味は、一つ。
地面が音も無く盛り上がり、人の腕が飛び出る。何もない空間から染み出すように人が現れる。足場すらない場所で上空から人が降ってくる。
俺たちは三人の忍者に囲まれていた。