「何だ!?」
いきなりとんでもない音が響いた。爆弾でも爆発したのか!?
「アダムさんの方です! 急ぎましょう!」
そう言って苺さんがとんでもない速さで突っ走っていく。……アダムの方か。ZZの安否こそ不安ではあるが、あいつの安全は心配しなくていいだろう。
「まあ一応急ぐか」
ブースターを動かし速度を上げる。……視界に苺さんが映らない。あの一瞬でどこまで行ったんだ。
「やっぱあの人も大概だよな……」
かなり謙遜しているし自信なさげだが、なぜか色々と規格外な存在を見慣れてしまっている俺からしても、苺さんはかなり強い方に思える。
流石にアダムや天道さんと張り合える程ではないが、俺くらいなら真正面から倒せてしまえるのではないだろうか。
そんな事を考えている内にアダムの姿が見えるほどの距離へと近づいていた。
「ZZー、無事かー?」
「なんか潰されたけど無事だぜ!」
「なんか潰されたって何?」
よくわからんが無事なようではある。アダムは当然無事だ、確認するまでもない。
「あ、あの、大丈夫なんですか!? そっちに向かったのはかなりの実力者に見えましたが……」
「あ? あんなカスにどうにかなるかよ」
「アダムお前心配してもらってるんだからもう少し言葉遣いどうにかしろよ」
苺さんそのせいでちょっと沈んでるし。
「すいません苺さん、こいつはちょっと口と頭と性格がねじ曲がっているので……ごめんなさい」
「おいコラ」
アダムが睨んでくるがこれに関しては完全にお前が悪い。俺は謝らないぞ。
「い、いえ、実力を見抜けなかった私が悪いんです……」
「悪いのはアダムだけです。苺さんは謝らなくても大丈夫です」
何とか宥めてはみるが、余り効果が有るようには見えない。畜生、俺がもう少し口の上手い人間だったら!
「おい、間抜けな事やってねえで急ぐぞ」
「誰のせいだと思ってんだてめえ!」
あのクソ無責任野郎、自分の言動に責任を持て! ……というか、一定以上に規格外な連中ってあんな感じなのか? 天道さん辺りもあんま周りに配慮してねえし。
ただそれはそれとして人に暴言を吐くのは良くない事だ。後でどうにか謝らせてみよう。
そんな感じのトラブルはあったが、そこまで遅れたわけでも無く俺たちは出発することが出来た。むしろ、その後に起こった事の方がトラブルだ。
「XXXさん、後ろです!」
「ありがとうございます!」
背後へと迫っていた忍者にクナイが突き立ち崩れ落ちる。ヤバイ、全く気付かなかった。
待ち伏せから約十分、俺たちは襲撃を受けていた。
規模はかなりの物、どう少なく見積もっても百人はいる。
その混乱の中を苺さんが駆けていく。
ある時は人形を五個も六個も同時に操り、ある時は全身に炎を纏い、ある時は自在に雷を降らせ、ある時は土を手足のごとく操り、ある時は音越えの速さで敵陣をかき回す。……なんでこれで自己評価が低いんだ! と言いたくなるほど縦横無尽に暴れまわっていた。
その一方、俺もただ見ていた訳ではない。
「おら!」
突き出された小刀を体で受けてそのまま相手を殴り飛ばす。絡みついた鎖をひっつかみ、先に居る忍者諸共振り回す。吹きだされた火を踏み越え、水のカッターを弾き、離れたところから雷を落としてきた相手にミサイルを撃ち込む。
さっきの待ち伏せ連中程強いのはいないが、数がかなり多い。戦闘なら役に立つアダムが今回は完全に傍観に回っているのも大きいが……というかZZ、お前も少しは頑張れ。こいつら位なら何とかなるだろ!
「おらおらおらおらおら!」
マシンガンで十人ほどの忍者をなぎ倒した瞬間にその背後から更に五人が飛び出てくる。前のやつらはおとりか!
ガキン、と音を立てて手裏剣と小刀が体に突き立つが、刺さりはしない。しかし向こうも当然それは知っている。次の瞬間に背後で爆発が巻き起こった。
だが、俺の体はこの程度でダメージを受けるようにはできていない。
無傷の俺を見て怯んだ一番手前の相手をひっつかみ、後方から手裏剣を投げていた相手にぶん投げる。次に来た徒手の相手を蹴りで後方へ吹き飛ばし、何かの術を用意しようとしていたその後ろのやつを殴り飛ばす。最後の一人は距離を取ろうとしていたのでミサイルで吹っ飛ばした。
「くそ、キリが無いな!」
そこまでやってもまだほんの一部。次から次へと忍者は襲ってくる。
今はそこまで強いのはいないが、ここにさっきのような強者が紛れてしまえば途端に危うくなるだろう。それは向こうも分かっている筈だ。だが今それをしてこないという事は……
「苺さん! 相手多分まだ控えてます!」
「はい! まだ五十人ほどいます!」
……どうやら普通に知っていたようだ。
まあ確かに、この局面を考えれば誰でも思いつく。向こうは単にこちらを消耗させているだけ、こちらが十分に疲労した所で強者と更なる人数を投入するはずだ。
厄介な事に分かっても対策が取れない。消耗を抑えるように戦っても、ゼロには出来ない。向こうからすればたとえほんの少しの消耗でも効果が有るのだ。
……解決手段が無い訳でも無いが。
『アダム、お前いい加減動け。何か付いて来てるんだから』
『めんどくせえ。そっちで勝手にやってろ』
『お前殆ど暴言吐いてるだけじゃねえか、何がめんどくさいんだ。俺がいま一番めんどくさいと思ってるのはお前だぞ』
内容を悟られないように通信越しにした会話の末、アダムが大きくため息を吐いた。いやみな奴だ。
『せっかく付いてきてやったのに何だその言い方は』
『お前勝手に付いてきて苺さんに暴言言ってるだけだろ。俺なら兎も角あの人メンタル弱いんだからやめとけ、そんで動け、俺にかけてる普段の迷惑を少しでも返せ』
『何度か命を助けてやったと思うが?』
『普段の態度で帳消しだ!』
アダムが更に大きなため息を吐いた。本当にいやみな奴だ。
「わかったわかった、動けばいいんだろ、動けばよ!」
その瞬間、上空に六千近い数の大砲が出現した。その一つ一つが俺の身長よりも大きい口径をしている。
「くたばれ雑魚共が!」
耳をぶち抜く大音を轟かせて砲撃の雨が放たれる。あれ程の数があるにも関わらず、不気味な程精密な調整が破片の一つに至るまで忍者以外の相手を狙っていない。
と、少し離れたところから明らかに強そうな忍者の一団が出現した。紺色の服装に滑るような移動、今が昼にも関わらず夜の闇を想起させる集団は、展開された砲台へと狙いを定めていた。
そこを無数の機械群が襲う。
丸鋸、ミサイル、剣、ハンマー、杭打機、電磁傷者、レーザー、エネルギー弾、空間消滅、熱的分解、音波振動、回転爆弾……
瞬き程の時間で一団は完全に消滅した。そして、俺たちを襲っていた忍者もことごとくが砲火の前に倒れ──
「ぎゃああああああ!!!」
俺の頭に砲弾が一発直撃した。あのやろふざけんな!
「てめ、こら、やっていい事と悪い事があるだろが!」
「生きてんだから良いだろ喚くな」
こいつこの野郎。ぶん殴って……いや効かねえな。
どうにかアダムにダメージを与える手段を探していたところ、視界の端に呆然とした様子の苺さんが映った。
「……強いん、ですね」
「見てわかんねえのか雑魚」
ああっ、苺さんがこれ以上無いほど落ち込んでしまった!