案の定ボコボコにされた俺は、地面に転がり背を踏みつけられたままアダムの話を聞くことになった。
何でも俺たちを追っかけて来ていた忍者どもを吹き飛ばした上で政府側から圧力を掛け、手を引かせたとの事だ。
……こういう時思うのだが、アダムの政府への謎の伝手は何なのだろう。別に政府に従っている訳でもないようだし。そもそも、アダムが誰かに従う姿がまるで想像できない。
まあいいや、世の中踏み込まない方がいい事もある。
それより、今は目の前でポカンとしている苺さんと石榴さんへの対応が先決だ。
「こういう事らしいので……僕の護衛とかは大丈夫ですよ……ぐえっ」
「お前何もやってねえだろ。そのくせ俺の事ぶん殴りやがって」
「今までの積み重ねと恨みだと……ぎゃっ」
痛ってぇこいつ! くそ、力じゃ到底かなわねえな……俺の背中は足ふみポンプじゃねえんだぞ。
「……えっと、えぇと……えぇ……」
苺さんがキョロキョロと俺とアダムを見た後、フリーズしてしまった。どうやらキャパオーバーしたようだ。まあ無理もない。割と大きな問題に立ち向かおうとした所、いきなりそれが裏で解決したと言われたのだ。俺だって
「……問題が、全部……あ、あの、ありがとうございます!」
いち早くフリーズから復帰した石榴さんが頭を深々と下げてきた。
「おいXXX、これが正しい反応だ。お前もやれ。つーか埋まれ。地面に逆さに突き刺され」
「お前はお礼言われてるんだからもう少しそれらしい態度を取れよ……」
いつ見ても失礼な態度しかとらねえ奴だなこいつ。頭のAIが旧式なのか? ごっ!?
「おいテメエ、誰の頭が旧式だ、ああ?」
「……人の頭を覗けるレベルの演算はもっと有意義に使えよ」
ほら見ろ、俺らのやり取りに石榴さんが困惑してるじゃねえか。もう少し空気を読め。
「あー、俺にもこいつにも礼なんて言わなくていいし、何もしなくていい。面倒だから何も無しで結構だ。……おいXXX、テメエからも言っとけ」
「それならせめて起こしてくれ……。石榴さん、苺さん。僕はまあ大丈夫になったらしいですし、お二人のその気持ちで十分ですので、この話はここで終わりにしておきましょう」
そこまで言った所でようやく俺の背からアダムが足を離した。
石榴さんはかなり困惑していたが、俺達にお礼を受け取る気が無い事を知ると、もう一度深く頭を下げ、固まったままの苺さんを引きずって立ち去って行った。
「ったくめんどくせえ。お前は何でこんな面倒事に絡まれるんだ?」
「半分以上お前だろうがよお!? ジパングも南極もお前絡みじゃねえか!」
渾身の思いで怒鳴りつけるが、アダムは面倒くさそうに耳をほじっていた。お前そんな体してねえだろ!
さて、何のかんのとあったが、目的自体は苺さんが石榴さんの成人式を見る事だ。その点で言うなら連れてきた時点で目的達成でもいい訳だが、来た理由には好奇心がある。どうせなら成人式も見て行こう、と思い残ったが……
「ありがとうございます!!」
硬直が解けた苺さんが自分の頭を勝ち割りかねない程の勢いで地面に額を叩きつけ、
「娘が迷惑をお掛けしました!!」
苺さんのお父さんが地面を砕く土下座を披露し
「申し訳ない!!!」
明星さんから更なる勢いの土下座が繰り出され
「強いのかあんた!!」
全然関係ない家の人から喧嘩を申し込まれ
「うちの恩人に手出しはさせないよ!!!!」
明星さんがその人を垂直に一キロ程殴り飛ばし
「喧嘩だ喧嘩だ!」
「面白ぇ! 行くぞ!」
何故かそこに大量の人が乱入し
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
途轍もない大騒ぎが村一つを飲み込んでいた。
どうしてこうなった?
「すみません……この村、血の気が多い人が多くて……」
申し訳なさそうな表情で苺さんが近寄ってくる。とはいえ、普段の苺さんの気の弱さならこれ程の騒ぎでは委縮してしまいそうだが……慣れているのだろうか。気になって尋ねてみると、大体そのような答えが返って来た。
「この村、戦いが日常みたいな物ですから……ほら、子供も武器を持って参戦してます」
「ほんとだ……あれ、大丈夫なんですか?」
「ええ。私と違って、皆頑丈ですから」
そういって苺さんが指をさす。その先では、十歳位の子供が俺の身長より大きい大岩を素手で粉微塵にしていた。
……忍者がこの村まで追って来なかった理由がよく分かる。
「……これ、村大丈夫なんですか? 人は無事でも、建物とか……」
「立て直す人がいますから。あ、ほら、今まさに……」
あ本当だ。戦いながら家建ててる。……釘打ちながら金槌で人殴り飛ばしてるんだけど。
「ただ、皆加減はしてますね……やっぱり成人の儀は、皆楽しみなんですね」
「え、あれで加減してるんですか?」
正直本気の殺し合いにしか見えない。あれで加減しているのか。
「はい。成人の儀の前に怪我なんてして、十分に動けなかったら悔しいでしょうから」
「一体何やるんですか成人の儀って……」
多分世間一般の成人式とは違う。既に割と悪い予感しかしない。そしてそれは苺さんの言葉で現実となった。
「成人候補と、大人たちでの本気の戦いです。勝ったら成人、負ければまた来年……頭首様も見に来る、盛大な戦いなんです」
……見ごたえがありそうだ。ただ、それ以上に身の危険を感じる。俺も巻き込まれるとかの落ちじゃ無いよな?
「……そういえば、苺さんは出ないんですか? 石榴さんと双子なら、苺さんも出られると思うんですけど…‥」
ここに来る前からずっと石榴さんの事しか言っていない。強さ的には十分だと思うのだが。
「わ、私なんかじゃ無理です。大人の方は皆選りすぐりの戦士ですし、候補の人たちもそれはもう……」
そうか? 今起こってる戦いを見る限り苺さんならこの中の大半に勝てそうだ。加減しているとはいえ、全く本気では無い、なんてことも無いはずだ。
「苺さんも出てみたらどうです? 勝てると思いますよ?」
「む、無理です……あ、でも、石榴は間違いなく勝てます。あの子、また凄く強くなってたから……多分、もうお母さんより強いんじゃないでしょうか……」
そこまで強いのか、あの人。明星さんは今向こうで戦っているが、五人以上を同時に相手して尚一方的に押し切っている。それより強いとなると……正直、補助人工知能を起動させた俺より強いかもしれない。
「XXXさん、今日はありがとうございます。……本当に、ありがとうございます。その、本当に、お礼はしなくても……」
「大丈夫ですって。なにかあったならともかく、何も起きなかったんですから」
今特に生活は困っていないし、そもそも断る苺さんに無理矢理同行したのは俺だ。むしろ厄介ごとを持ち込んでしまったような物……あれ、これ俺が謝る側じゃね?
「……その、申し訳ございません」
「なんで謝るんですか!?」
いえその、心情、というか寧ろ状況というか……
「……何と言うか、欲が無いんですね」
「……どうでしょうね。持っている状況をよく知らないので……」
特に向上心も無いし、名誉欲等もない。ぶっちゃけ、無事に生きて居られるだけで十分だ。……最近その十分が割と侵されているが。
「まあ、特に何かしてもらわなくても僕は十分です。その気持ちだけで──」
……ちょっとしたことを思いついてしまった。が、元々好奇心で始まった冒険だ。最後までそれに従っていこう。
「……あの、やっぱり頼み事って大丈夫ですか?」
「! はい! 何でも言ってください!!」
「それじゃあ、成人の儀に出てください」
「え」
「成人の儀? ああ、苺も参加可能だよ」
とり合えず苺さんが成人の儀に参加できるかどうかを聞きに来たが、問題は無いようだ。どうも、二十歳以上で成人の儀を終えていないなら誰でもいいらしい。
「苺なら実力も十分だろうし、頑張ってきな」
「……ハイ」
硬直している。
あの時成人の儀に出てくださいと頼んだときからずっとこんな感じだ。どうやら無理と言う気持ちとやらなければならない気持ちでぶつかり合って相殺してしまっているようだ。
しかし、出て欲しい。苺さんには自分の実力を自覚してほしいのだ。
「……すみません、明星さん」
「何だい?」
硬直したままの苺さんから少し離れて小声で会話する。答え次第では、苺さんが逃げてしまうかもしれないからだ。
(明星さんから見て、苺さんと石榴さんって成人の儀をクリア出来るんですか?)
(どっちも十二分さ)
(十二分ですか)
(ああ。石榴は身体能力が私より高い。頭首様以外だと、紅の一族で最強だね。苺は……身のこなしを見るに間違いなく勝てるとは思うけど……よく分からないんだよねぇ。
私ら、素手戦いは得意なんだけど武器だの術だの能力だのは疎くてねぇ、あの子の得意な分野の事はよく分からないんだよ。相手もそれは同じだろうから間違いなく苺の勝ちだろうけど……あの子、今どの位強いのかねぇ)
そう言って明星さんが首を捻る。正直、俺も苺さんの強さは良く分からない。戦っているのを見たのは初日と、大規模な襲撃の時の二回。ただ、どうも本人の気分で割と強さが上下している節があり、本当に全力全開と言うのは一度も見れていないような気がする。
(……明後日に期待しましょうか)
(そうだね。……これであの子も自信が付くといいんだけど)
そこは分からない。何か勝ってもそのままな気がする。