九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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苺の実力

「さあ始まりました成人の儀! 今年の候補達は十五人! この内何人が成人への道を歩めるのでしょうか!」

 

 ……実況のノリが既に成人式では無い。というか、実況の有る成人式って何だ?

 

「兄貴、苺さん勝てるかな?」

「まあ勝てるだろ。……あ、でも勝手に落ち込んで負けそうな気もする」

 

 負けるとすればそれが唯一の負け筋だろう。道中で見た実力でも、この村の結構な人間より強いはずだ。

 

「そして! 十五人の候補者へ試練を与えんとその道を阻む大人げない人物たち! 毎年殴り合いが発生する程人気の役割ですが、今年もまた激戦! その中から選ばれた審査員十五人の登場だ!!」

 

 実況が叫びに応じ、次々と大人たちがステージへと登場する。どの人も、相当な強さだ。ただ、やっぱり苺さんの方が強い気がするが。

 

「アダム、お前どう思う?」

「間違いなく合格。何でアレで引っ込み思案なのか分からん」

 

 アダムの見立てでも苺さんの合格は確定らしい。と、既に一人目の挑戦が始まった。

 

「では! 一戦目、候補者鏡月VS審査員転迎! 始め!!」

 

 合図と同時に、周囲へと衝撃が響き渡る。

 階段を円状に配置した形の観客席と、その中央に用意された一片が二十メートルほどのステージ。今俺がいる席からは四十メートルは離れているにも関わらず、激突の風圧がここまで届いて来た。

 

「すっご」

 

 蹴り、回避、拳、受け。

 ほぼ密着したような状態で二人の男が殴り合っている。

 鏡月と呼ばれた青年は、足を使った苛烈な攻めを繰り出していた。

 横に薙ぎ、その勢いのまま回転してさらに加速をつけ叩きつける。地に埋まった足を瞬時に蹴り上げ、瓦礫を目くらましに蹴撃を打ち込む。さらに蹴り足を踏み込みにし、先ほどまでの軸足を使い強烈なハイキックを放った。

 転迎と呼ばれた四十代くらいのおっさんが手を盾にそれを防ぐ。次々と繰り出される蹴りに肘や手首、手のひらに指を使い分け、精確に捌いていた。

 二人の攻防は増々加速していく。

 鏡月さんの前蹴りを半身で躱しながら踏み込み、正拳を放つ。しかしそれを上体を逸らして避け、伸ばしたままの蹴り足をバネの様に跳ね上げて後頭部へ追撃。だが、転迎さんは逆に後ろへ頭を叩きつけ打点をずらし蹴りのダメージを減らしながら、同時に足に攻撃を加えた。

 しかし攻撃は止まない。弾かれた右足を地面に叩きつけ軸足に、そして体を捻り横から左足の蹴りを繰り出す。

 その攻撃に肘を突き立てて防ぎ、ダメージも与える。だが、予想以上に重かったのか転迎さんの上半身が傾いた。

 瞬間、軸足にした右足を曲げ、上半身を丸ごとハンマーにした攻撃が放たれた。

 

「決着! 勝者鏡月! 見事成人へと足を踏み入れました!!」

 

「おおー、凄い」

 

 最後の一撃、上半身を丸ごと重りにした上で額を相手の顔面に当てている。アレは相当強力だろう。しかし何より凄いのは瞬時にそれを思いつき実行した戦闘への反応だ。俺では全く思いつくことは出来ないだろう。

 

「……ここの人、皆こういうの上手いな」

 

 色々と教えてはいるようだが、それにしても皆戦いなれているように見える。いやまあ実際戦いまくってはいるのだが、それ以上に上手い。何か理由があるのだろうか。

 浮かんだ疑問はアダムから答えが返って来た。

 

「当たり前だ。闘神の一族だぞ。全員戦いの才能があるに決まってんだろ。そこらのガキでも、お前より戦いは上手いだろうな」

「マジかよ」

 

 達人とかまで言う気は無いが、これでも怪物などの討伐でそこそこ戦いなれているとは思う。それ以上か……で、あの身体能力。この村、多分全員合わせたらとんでもない戦力になるんじゃ無いか?

 

「続きまして二戦目! 候補者鈴蘭VS審査員明鏡! 始め!!!」

 

 改めてこの村のとんでもなさを嚙みしめていると二戦目が始まっていた。こちらもやはり凄まじい攻防だ……

 

 

 その後も戦いは続き、十二戦目。石榴さんの番だ。苺さんはその次だが、この村でも有数の強さだと言われているこの人の戦いもしっかり見ておきたい。

 

「それでは十二戦目! 候補者石榴VS審査員石牙! 始め!!!」

 

 ドン!! と途轍もない音が周囲を引き裂いた。俺たちに見えた物はその結果だけ。即ち、ペコリと頭を下げる石榴さんと、反対の壁に叩きつけられ微動だにしない審査員の姿であった。

 いや強過ぎね? 何と言うか、これを昔っから見せられたなら自信を無くすだろう。

 

「しょ、勝者石榴! 圧倒的です!! 隔絶した強さを見せつけ成人へ成りました!!!!」

 

 実況席から絶叫が轟いてくる。しかし、それ以上に気を引きかねないものがあった。

 苺さんだ。

 なんかめっちゃ泣いてる。……多分感動の涙ではあると思うんだけど、そこまで、というか係の人に制止されるくらい興奮するものなのだろうか。

 

「石榴ぉぉぉぉぉ!!!!!! おめでとおおおおお!!!!!!!」

 

 滅茶苦茶泣きながら旗みたいなの振り回してるんだけど。係の人に抑えられて……あ、押し倒された。やっぱり身体能力は比較的低いらしい。

 というか、次苺さんなんだが準備しなくていいんだろうか。

 

 

 そして五分程遅れた十三戦目、遂に苺さんの番である。

 

「それでは十三戦目! 候補者苺VS審査員昇!! 始め!!!!」

 

 その戦いは静かに始まった。

 苺さんは動かない。待ちの構えだ。

 一方、昇と呼ばれた男は苺さんの周囲を回っている。かなり警戒しているようだ。

 

「……動かないな、苺さん」

 

 苺さんは最初に構えたまま一歩も動いていない。相手が自分の死角に入っても、背後に回ってもお構いなしだ。余程自信が……いや、苺さんに限ってそれは無い。ならば、あの状態で対応できると信じているのだろう。

 昇さんのほうも動かない苺さんを相手に覚悟を決めたようだ。ゆっくりとその体を沈めていく。

 クラウチングスタート。

 一般にそう言われる姿勢をとり、真正面から突っ込む構えだ。一方の苺さんは、一周して自分の前に構えた男など視界に入っていないかの如く最初の構え──右手を前に突き出し、指をそろえ手のひらを縦に、左手は握り込み腰だめに下げ、姿勢は直立──のままだ。余り意味のある構えには見えない。

 ただ、その構えに対する全幅の信頼とも謂える態度が異様な雰囲気を立てていた。

 しかし、昇さんの様子には、それに突っ込む事を恐れる様子は欠片も見られない。何が有ろうと必ず突き抜くと言わんばかりの覚悟が全身から放たれている。

 

 互いに構え、一秒、二秒……その時は、唐突に訪れた。

 昇さんが駆ける。全開まで上げた俺の動体視力でもその走りはぼやけて見える。音は無い。既に響いているが、まだこちらまで到達していないのだ。

 そして苺さんは不動。何も変わっていない。だが、その視線は疾駆する昇さんの姿を確実に捉えていた。

 衝突まで後0.00000……

 

 閃光が弾けた。

 その時、何が起こったのかを見ることは出来なかった。ただ、結果が映っただけだ。

 

「決着!! 勝者苺!! 成人への一歩を踏み出しました!!」

 

 地に転がる昇さんと、傷一つ無く佇む苺さん。二人の姿は、これ以上ない程はっきりと勝敗を現していた。

 

 

 

「決着!! 勝者時回!! 成人候補生の挑戦を退けました!!」

 

 十五戦目。最終戦だ。とは言え、別に劇的な戦いがあった訳では無い。ただ今までと同じくかなりの規模の戦いが有り、一人が勝ったというだけだ。

 

「さて、最終戦も終わり、今年の成人の儀も終幕となりました。今回の挑戦者十五人の内、成人となった人は七人。皆さま、素晴らしい実力の持ち主です! 不合格となってしまった方! 来年もより一層気力を奮い立てて参加下さい!!

 それでは、これより終幕の挨拶を行います。代表者を選抜しますので、皆さま、今戦にて最も優れた実力を示したと思う人物に投票をお願い致します!!」

 

 実況席の言葉が終わると、数人の人たちが凄い速度で紙を配り始めた。原始的な方法だが、その途轍もない速度が二百人からいる観客全てに一分としない内に投票用紙を配るという芸当を成し遂げていた。

 

 さて、悩みどころだ。今回、間違いなく最も強かったのは石榴さんだ。個人的には苺さんを応援したいが……こういう場で、要項以外の感情をだすとしっかりした結果が出せなくなる。ここは素直に最も強いと思った石榴さんに投票しよう。

 

(苺さん、すみません)

 

 その後、用紙と同じように凄い速度で来た回収箱を携えた人に結果を渡す。……なんというか、割と結果は分かりきっている気がするが。

 

「ZZ、誰書いた?」

「石榴さん」

「だよなあ……」

 

 苺さんも中々とんでもな物を見せてくれたが、受けた印象だと石榴さんに軍配が上がる。

 

「アダム、お前は?」

「あ? こんなの考える必要ねえだろ」

「いや教えろよ」

 

 俺はお前程考えるのが早い訳じゃ無い。そう言うと、アダムは軽い舌打ちと共に答えた。

 

()()()。全く、アレで何でうじうじしてんだ」

「……石榴さんじゃ無くて?」

「当たり前だ。お前も含めてみる目の無い奴ばっかだな、ここ」

 

 アダムの反応を見る限り、俺達以外の人物も石榴さんに投票したようだ。

 ……アダムから見ると、苺さんの方が強く見えたのだろうか。

 

「お前、どの辺が強く見えたんだ?」

「器用さ。桁違いだ」

 

 ……あの光った時、苺さんは何かしていたのだろうか。

 そんな俺達側の疑問とは関係なく、式は進行していく。どうやら、開票のようだ。

 

「発表いたします。今回の終幕を務める人物は……紅 石榴!!」

 

 わあああ! と周囲から歓声が響き拍手が鳴る。どうやらこの終幕の挨拶を務めるのは相当に名誉な事らしい。

 しかし、そんな歓声も拍手も、石榴さんの言い放った言葉の前に一斉に止む事となった。

 

「お断りします」

 

 え、と誰かが言った。それほどに衝撃だったのだろう。周囲の全てが静止する。

 その中で、石榴さんだけ──正確に言うならアダムも──がつかつかと動き、ある人物の前で足を止めた。

 

()()()。今年の成人の儀、最強を掛けて……私と、戦って」

「え」

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