九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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姉妹の対決

「予想外の事態が起こりました!! エキシビジョン! 最終戦!! 紅 石榴VS紅 苺!! 互いに非凡な実力を見せた姉妹が、この場で戦うと言うのです!!!」

 

 余りの興奮から実況から絶叫が轟いてくる。ただ、観客も同じか、それ以上に興奮している中ではその反応は変わったものでは無い。

 その一方、ステージに立つ二人は、色々な意味で対照的だ。

 

「ほほほほほほ本当に、や、や、やるの!?」

 

 動揺しまくる苺さん。観客の興奮も熱気もこの人の精神をより乱れさせる要素にしかなっていない。さっきから凄い勢いで顔色が変わってちょっと面白い。

 そして、その正面。ステージの反対側に立つ石榴さんは、周囲の喧騒など全く意識していない。離れた所から見て分かるほど落ち着いている。

 

「うん、姉さん。戦おう」

 

 その言葉には揺らぎが無い。ただ、見ているだけの俺ですら寒気を感じる程の覚悟が含まれていた。

 

「それでは、両者!! 始め!!!!」

 

 その瞬間、戦いの火ぶたは落とされた。

 

 

 先制は石榴。

 開始と同時に繰り出されたのは飛び膝蹴り。苺の顔面を精確に捉え、音に十数倍する速度で放たれたそれは、あっさりと空をきった。

 

「!」

 

 滞空の時間を無くすため、地に左足を突き刺し体を強引に引き下げる。その石榴の判断は、直ぐ上空を通った紫電により正解が証明された。

 

「忍法 雷遁」

 

 雷が奔る。その数、五百以上。

 一つ一つが大岩を砕くほどの雷撃が、面を押しつぶしながら迫りくる。

 それ程の術を、この速さと数で使う。それは、苺の異常な技量を如実に示していた。

 だが、この程度で崩れる石榴では無い。

 

「はあっ!」

 

 掛け声と共に拳を振るい、迫る雷撃をかき消す。扇状に広がる拳の衝撃は、雷の壁の先にいる苺の元に十分な威力を保ち到達した。

 だが、いない。

 そこに見えた物はただの砕けた地面。苺の姿は無い。

 

「っ!!」

 

 危険を感じた石榴が、瞬時に上体を逸らすと同時、地より突き出た刀が頭の残像を貫いた。

 土遁。

 それにより地へ潜み、奇襲をかける。確実に察知されないと判断していた攻撃を回避された事に、苺は()()()()()()()

 躊躇い無く追撃が飛ぶ。

 突き、右一文字、左袈裟。

 三連撃は全て空を斬った。

 

「やっ!」

 

 四撃目、そこに腕が差し込まれ、刀を止める。肉に食い込んだ刀は進みも返しもできず、離れない。

 それを確認した苺は即座に刀から手を離し距離を取るが、そこに石榴の正拳が放たれる。

 

「!」

 

 直撃。しかし、手ごたえは無し。

 ふわり、と紙が舞うような動きで苺が吹き飛び、精確な着地を見せた。そこにダメージを負った様子は無い。

 

 ならば追撃するまで。

 

 一瞬にして距離を詰めた石榴の頭部狙いの蹴り。これは首を傾けて回避される。引き戻す足の勢いで体を捻り、右の正拳。それを苺は距離を詰め、上から押し下げる事で外す。

 体がほぼ密着するほどの超至近にて、先に動いたのは苺であった。

 膝が石榴の顎へ突きあがる。まともに入ったそれは、ダメージこそ少ない物の石榴の頭をはね上げ、ほんのわずかな間視線を外させた。

 その瞬間に連撃を放つ。炎が石榴の身を包み、その上から手裏剣が殺到。加えて雷が槍の様に貫いた。

 だが。

 

「ふっ!」

 

 掛け声一つ、正拳一撃。

 直撃したはずの三種の攻撃は、石榴の皮膚に多少の傷を残しただけ。それも、見る間に治っていく。

 紅の一族の体は強靭ではあるが、石榴のそれは常識を超える。頭首のそれにすら匹敵しかねない程の頑健な身体から放たれるは、必殺の攻撃。

 正拳から繫げて左正拳。手を開き体を捻りながら左への手刀。その勢いのまま右足による回し蹴り。いずれも喰らえば必殺になりうるそれを、苺はギリギリで回避していく。

 追撃の右手刀を左腕で逸らし、頭突きを半歩離れて回避。右足の蹴りを土の防壁で相殺し、片足が浮いた状態の石榴に水塊を叩きつけバランスを崩す。

 だが、それでも石榴に有効打は無い。

 

「せい!」

 

 奔る雷撃も、超水圧の水の刃も、業火も、爆発も、刀の連撃も、どれも石榴の肌に薄い傷を付けるのみ。命どころか、動きを鈍らせるような物さえ無い。

 攻撃は止まない。

 拳、蹴り、横薙ぎ、体当たりに打ち下ろし。

 その全てを苺は捌き続けるが、繰り出される度に攻撃は加速していく。次第に動きは大きく、回避はより危うくなっていく。

 

「らあ!!」

 

 拳が右下方より突き上げられ、苺を捉えた。

 

「っ!!」

 

 衝撃音が響き、確かな手ごたえが石榴の手に伝わり──その瞬間、背後から何かが組み付いた。

 

「!?」

 

 慌てて振り返った石榴の視界に入る物は、石造りの人型。それを瞬時に砕き……内部の火薬が目に入る。

 

 ドン! と重苦しい爆発音が響きステージの半分近くが吹き飛んだ。

 だが。

 

「あんなので倒れる訳ないでしょ!」

 

 石榴の体には目立った傷は無い。爆熱と破片は、彼女の体を薄く傷つけただけだ。その傷も既に治りきっている。

 余りに頑健な石榴の身体。苺にそれを害する手段は無い。

 

「ガッ!?」

 

 筈であった。

 しかしいま、苺の刀は石榴の体を背から貫き、胸から刃先を突き出している。

 唐突な攻撃に困惑しながらも石榴の判断は早い。裏拳が背後を薙ぎ、苺の銀髪を数本空へ舞わせるが、直撃はしない。

 だが追撃をさせない事には成功し、その隙に石榴は大きく飛んで苺から距離を取る。

 だというのに、苺はまるで離れず、ぴったりと石榴に張り付くように距離を詰めた。

 

「なっ!?」

 

 驚愕の声が石榴から漏れる。無理もない、彼女の知る苺の身体能力では、自分の速度に合わせるのは無理だからだ。

 だが、現に苺は石榴の動きに合わせ、そして──

 

「!?」

 

 攻撃を通している。

 苺の左手刀が石榴の皮膚を貫き、肉を穿つ。石榴と言えど無視できるダメージでは無いが、攻撃はそこで終わらなかった。

 

「爆!」

 

 突き刺さった手刀が爆発し、内から石榴の体を吹き飛ばす。さすがの石榴も苦痛に顔を歪ませるが、そんな常識的な反応よりも先に、その体は反射で動いていた。

 攻撃。肉体の本能がそれを選ぶ。

 足先の微細な踏み込みを腰で増幅させ、肩で整え腕を振るう。

 石榴の意識すら超越したところで放たれたその打撃は、更に踏み込んだ苺の攻撃に間に合わない。

 

 右手刀。それが、刀傷を精確に貫き、手刀をより深くへ埋めていく。狙いは、肺だ。

 

「爆・炎・塵・災!」

 

 放った苺本人すら吹き飛ばすほどの爆炎が、石榴の身をえぐり、焼き、傷つける。相当なダメージだ。

 しかし、それでも、なお。

 

「おぁあああああああ!!」

 

 石榴は動く。渾身の拳撃が、苺の体を吹き飛ばした。

 

「っ!!」

 

 空中にて瞬時に体勢を整え、衝撃を殺して着地する。

 苺に余裕は無い。一度目の起爆で左手の指は人差し指から薬指が折れ、右手は手首から先がぐちゃぐちゃになっている。だが、それ以上に石榴の攻撃と、その動きに合わせたダメージが大きい。

 

 

 忍法 合一の術

 

 一時的に自身と相手を重ね、同じだけの力を引き出せるようになる奥義。

 それを使い石榴の動きへ追従し、攻撃を通したは良いが、無茶な力を出した苺の体は限界を迎えようとしていた。

 故に急ぐ。

 体が止まる前に、軋みが限界を超える前に、石榴を倒さねば。

 

 苺の目線の先で、石榴が動く。

 握り込まれた手はギシギシと音が聞こえる程、食いしばった歯はダイヤすら齧りとりかねず、そこから振るわれる一撃は容易に苺を仕留めるだろう。

 

 視線が交わる。

 

「風遁 神風」

「があああああああ!!!!」

 

 苺は風を持って身体を加速。加えて石榴の力を真似、必殺を作る。

 対する石榴はただ拳を振るうだけ。だが、全身の関節と体重を使い振るわれる一撃は、たとえ掠っただけでも必殺となる。

 

 後五歩。石榴は防御を考えていない。苺も、この瞬間は回避を捨てていた。

 後四歩。互いに必殺、先に一撃加えた方が勝つ。

 後三歩。最早思考は無い。ただ繰り出すのみ。

 後二歩。

 後一歩。 石榴が、傾いた。

 

「え」

 

 消耗は確かに石榴の体にあり、傷はその動きに鈍りを与え、僅か一瞬、意識を奪った。

 

「まず」

 

 このままでは駄目だ。既に速度が出過ぎている。もう止められない。意識の無い石榴の肉は緩み切っている。確実に貫けてしまうだろう。()()()()()

 そうなれば、幾ら石榴とて死ぬ。

 苺は必至で自分を止めようとするが、体が言う事を聞かない。つき過ぎた速度と、乗り切った体重。そのくせ、意識だけは鋭敏にそれを知覚させていた。

 

「嫌」

 

 そう叫ぼうとしても、そう口にする前に腕は心臓を貫く。もう、間に合わない。

 刹那さえ永遠と感じかねない程僅かな瞬間、死の直前の走馬灯にさえ匹敵する思考速度。それが、明瞭にその瞬間を伝えようとしていた。

 

「はい、しゅーりょー」

 

 ぱしり、と軽い音と共に突き出した腕が掴まれた。それと同時に、全身が引きちぎれそうになるほどの加速に襲われる。

 自分が急に止められたという事に気付くまで、一瞬の時間がかかった。

 苺の視線の先では意識を取り戻した石榴が、驚愕の表情で何かを見ている。

 

「まああれだね、二人とも、やり過ぎ。もう少し自分の動きは制御しないと」

 

 そんなんじゃ私みたいにはなれないよー、と聞こえてきた声。その声には聞き覚えがある。

 苺は記憶から湧きあがった驚愕に従いそちらを向いた。

 

 

 

 

「……どうなった?」

 

 俺の目にも霞んで見える超高速の戦いの末、決着は付いた……はずだ。

 しかし、寸前に誰かが割り込んだのだ。

 

「……誰だ、あれ」

 

 俺ではあの戦いに入り込む事など到底不可能。つまり、あの乱入者は俺より遥かに強いとい事になる。

 

「なあ、アダム、あれ誰だ?」

 

 答えは無い。

 アダムを見れば、目を見開いてその人物を見ていた。

 

「頭首様だ……」

 

 誰かがぽつりと呟いた。そう言えば、見に来ると言っていた。ただ、何で今?

 と、その頭首らしき人物が苺さんの腕を掴んだまま、上に持ち上げた。

 

「優勝! 紅 苺!」

 

 ?

 

「?」

 

 会場内は困惑に包まれるのだった。

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