「まーあれだ、ヒートアップのし過ぎは良くないよ、ほら、水でも飲んで」
頭首らしき女性が苺さんに水を飲ませる。ペットボトルを口に突っ込んで。あの、それ溺れると思うんですけど。
「そっちの子も、ほら」
もがっ、とうめき声を上げて石榴さんの口にペットボトルが突っ込まれた。そして、それが握りつぶされる。
「ゴボボボボガ!?」
一瞬にしてペットボトルから全ての水が絞り出され、石榴さんの喉へ押し込まれる。
「で、苺ちゃん? 勝ったわけだけど、挨拶出来る?」
「え、あ、はい」
フラフラとしながら、苺さんが立ち上がる。左手は歪み、右手は……余り、見れた物では無い。
それでも苺さんはぐらつきながらもしっかりと足を進め、実況席へとたどり着いた。
「皆さん。お疲れさまでした。この度の成人式において、全員が全力で戦い、より高みを目指すことが出来ました。……私も、何かを得られたような気がします。
それでは、ありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げて苺さんが去っていく。短い挨拶だが、あの負傷では仕方ないだろう。
と、ステージの方では石榴さんが立ち上がるところだった。苺さんのそれを遥かに超える大怪我だが、足取りに乱れは無い。そのまま普通に一礼し、ステージから歩いて降りていった。
……あの人、俺より頑丈なんじゃないだろうか。
「苺さんにおめでとうって言いに行くか……」
「へー、この人が苺を助けた人かー」
苺さんにお礼を言いに行ったらさっきの頭首と言われていた人に絡まれた。というか、普通に苺さんの家にいた。何で?
「うーん、人間じゃ無いね。サイボーグ? 脳みそ以外全部は割と珍しい」
それでちょっと見られただけで体がどうなってるのか看破されたんだが。何か凄い頭でもしてるのだろうか。
「どうも、XXXです」
取り合えず挨拶。初対面の人には挨拶をしておけば大抵うまくいく。多分。
「ん。私はリオ。紅 リオ。二代目闘神で、紅の一族の長だよー。よろしく!」
そう言って、頭首──リオさんが手を差し出してくる。俺もそれにこたえ、その手を握り返した。
「んー、やっぱ機械は分からんなー。アイツならわかると思うけど」
そう言ってリオさんが視線を空に飛ばした。と、部屋の端で座っていた苺さんが口を開く。
「頭首様、今日は何の御用件でしょうか」
「あー、……あれ、苺が心配でさー」
……面識の薄い俺でも分かるほど白々しい嘘を吐く。理由こそ真っ当だが、目は泳いでるし顔は逸れてるしすごく分かりやすい。苺さんなんかじっとりした目で滅茶苦茶睨んでる。
「……ごめんなさい、噓つきました」
ごまかせていない事を悟ったリオさんが土下座した。首にかかる金と銀のグラデーションをした髪がパサリと小さく広がる。
……改めてみると凄い綺麗な人だなこの人。
何となくこの村で会った全員に似ているような、逆に誰とも似ていないような不思議な顔立ち。そしてコロコロ変わる表情。何というか、親しみやすい。
「それで、何で私の家に来たんですか?」
「……言いたく無いです」
「それならそうと最初に言ってください」
「え、それでいいんですか?」
割と重要な理由があるかもしれないのに言いたくないの一言でいいのだろうか。流石に謎だったので聞いてみると、言おうとしたリオさんを制して苺さんが口を開いた。
「一応一族の頭首ですので、割と無理を通す権限は有るんです。あ、後、あんまり周りに言わない方が良い事も知って居たりするので……」
成程。となると、言いたくない事と言うのは何か俺がいると都合の悪い事だろうか。そう思っていると、リオさんが意外な言葉を発した。
「
「わかりました。……XXXさんに何もしないでくださいね」
半分リオさんを睨むような目をしながら、苺さんが退出する。……リオさんが用の有るのは俺だったのだろうか。しかし、別に何かをした覚えは無い。研究所関連は除外だ。アレはどうしようも無い。
あれこれ考えているとリオさんが深々と頭を下げてきた。
「XXXさん。苺ちゃんを助けてくれてありがとね」」
軽い口調には、それに反した重い感謝の気持ちがこもっていた。それと同時、苺さんを外した理由にも思い至る。この件に触れればば確実に苺さんは落ち込んでしまうからだ。
「いえ、こちらこそ苺さんには何度も助けられましたから」
好奇心で付いてきただけの俺を散々助けてくれた。感謝をするのはこっちの方だ。
「なんだとしてもお礼は言っておきたいのさー。なにせ、ここの人は皆私の家族だからね」
……家族、か。俺に居るのはZZだけだ。大事にしよう。
すこししんみりしてしまう俺だったが、直ぐに脳内に別の事が浮かび上がる。
即ち、この村の人の構成だ。
闘神の一族であり、皆姓に紅が付いている。しかし、本当に一族だけ、と言うのはあり得ないだろう。身内だけだと血が濃くなりすぎてしまう、どうしても外から血を入れないといけないはずだ。
「どしたの? 何か考えてるみたいだけど」
「いや、その……」
割と色々深い場所に踏み込んでしまう疑問だ。余り言う物では無いだろう。
「あ、血の事なら心配しなくていいよ。外からは取って無いけど、一応皆かなり離れてるから」
向こうから殴りかかってきた。ええい、こうなったら聞くだけ聞いてやれ。
「流石に離れているって言っても危なくないですか? 限界があるでしょうし……」
「それが無いんだなー」
にんまり、と言う言葉が似合う笑みを浮かべてリオさんが説明する。もしかすると、この里に来た人がよく聞く事なのかもしれない。
「まあと言っても簡単な話でね。私らの初代、始まりの闘神、紅 ルナ様が生まれたのが今から……多分二億年くらい前で」
「あのちょっと待ってください」
二億年!? いきなりスケールが大きくなりすぎてついていけない。と言うか、人類の誕生が百万年くらいじゃなかったか!?
「いやさ、そのルナ様、この世界の人じゃ無かったんだよ」
「異世界って事ですか?」
そう言ったところが有る事は俺も知っているし、一部の場所では親交があったりする事もある。何なら、アイギスの連中は別世界から侵略してきている。ただ、実際にそうだと、それも物凄く前からの存在だと言われると驚きが強い。
「でまあ、ルナ様が結婚して、子供産んで、それが広がって……結果、いろんな世界に紅の一族が広がったってわけ。だからまあ、結婚とかは一族内が多いけど、あんまり血は濃くなってないのさ」
「成程」
物凄くトンでもな規模で問題が解決している。とはいえ、簡単に話を纏めれば凄い遠縁から取って来ているから大丈夫、という事に……なるのか?
「しっかし、あの子ら強いなー。私程じゃあないけど、二人がかりなら腕位は駄目にされるかも」
「……リオさんも強いんですよね」
「そりゃまあ。一応こんなんでも三代目闘神を襲名してるし」
「三代目何ですか?」
さっきの二億年前が本当なら、三代どころか三千万代はいてもおかしくないと思うが。
「闘神は襲名の仕方がちょっと変わっててねー。一族の中でそれに相応しい実力を持ってるって認められないと名乗れないのさ! で、私は一族二億年の中、三人目に名乗ることを許された実力者なのだ!」
「それは凄い」
それ程の長い期間において片手の指に足る程度の数に、名を刻む。それは、途方もないほどに偉業であり、褒め称えられるべき事だ。
「一応一番強かったら頭首にはなれるんだけど、闘神はそれだけじゃ駄目だからねー」
ふふん、と自慢げに笑うリオさんは、自慢以上に誇りを持っている様に見えた。
「……話変わるんだけどさ、あのアダムっての。何?」
「何、ですか」
……何なんだろう。恩が有るのは間違いない。あいつがいないと俺達は生きていなかっただろうし、生活もあいつが支援してくれたから出来ている部分が大きい。
しかし、俺達とあいつはそれ以上の関係が無い。友人ではあるが、互いに深く踏み込もうとしないのだ。
あいつは俺の事を詳しく聞かない。知っていると言うのも大きいだろうが、あいつはそこまで人に興味が無いのだ。
そして、俺もあいつの事を聞かない。そのため、あいつに関して知っていることは殆ど無い。強いて言うなら途方も無い強さを持つことと、政府に伝手が有る事、後普段のかかわりで見える性格位だ。
俺はその事を、包み隠さずリオさんへ伝えた。
「そっか。……うーん、下手すると私より強いからなあ、あのロボット。それに……」
そこでリオさんは口を閉じて空を見る。そこには、何か非常に遠い、届かない物を見るような雰囲気が
あった。
「ま、確証も無いし、あんまり人の友人を疑うのも迷惑かな。それじゃ、XXX、私はそろそろ行くよー、バイバイ」
「はい、さようなら」
互いに手を振り、リオさんが部屋を出る。
その瞬間、外から飛び込んできた二輪の車がリオさんを引きつぶした。
「Foooooooooooooo! イィヤァアアアアアアアアア!!!」
意味不明の咆哮を上げながら二輪車……バイクがリオさんを引きずり回す。
「何!? 誰!?」
「私です」
「え!?」
とっさに挙げた声に返答が返ってくるとは思っていなかったのかリオさんの困惑がさらに強まる。と、そこでバイクがスライドして急激に勢いを殺し、停車した。そして運転者がサドルから足を離し、床へと降り立つ。
メットとスーツで姿が見えないが、声からして多分女性だ。ただ、そんな事より気にすることがある。
……うわあ、部屋がめちゃめちゃだあ。
「リオさん、約束の時間ですので迎えに来ましたよ」
「……え、もしかして千桜!? 何そのバイク!?」
「修理しました。おっと、XXXさん。こちらでは初めまして。お元気ですか? 元気ですので結構。アダムさんには三千屋敷の千桜四石が来たと言っておいてください。あと、ZZさんにこれを」
謎の人物から何かが投げ渡される。何だこれ?
「スナック菓子です。それではリオさん、永劫の先へ、レッツゴー!!」
「まってせめて上に乗せてあああああああああああ!!!!」
悲鳴を響かせバイクが家の外へと走り出していく、リオさんを引きずったまま。と言うか早いな、音速近く出てるぞアレ。
「……何なんだ、一体」
余りに一瞬で色々起きた所為で対処できなかった。知り合いだったらしいが、何で俺達の事を知っていたんだ?
疑問と展開に硬直した俺の前に、アダムが姿を現した。
「あ? あのリオとか言うやつどこ行った?」
「なんか、凄い早いバイクに連れてかれた」
「お前頭でも狂ったか」
割とガチ目のトーンで言われる。俺もおかしいとは思うが、実際そうなのだから仕方ない。
「何か、三千屋敷の千桜四石が来たとかなんとか……」
「……マジかよ」
そう言ってアダムが額に手を当て、天を仰いだ。マジで一体何が来たんだ。