九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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帰宅

 どうもさっきの女性は相当厄介な存在らしい。

 アダム曰く、彼女の口にした三千屋敷とは、研究所に加え、政府の一部とも関わりがあり、その上で全貌がつかめない謎の集団、組織、或いは個人の何か、だとか。

 なぜ俺達の事を知っていたのかも謎、リオさんと関わりが有るらしいが、本人がバイクに引きずられて行ってしまった為不明。苺さんにも聞いてみたのだが……

 

「え、リオさん普段この村にいないんですか」

「はい……。あの人は基本的に、他の世界の紅と話を通したり、政府から依頼を受けたり逆に要求を通したり、それらが無い時でも基本自由に放浪しているので……私たちも、余り何をしたりしているのかは知りません。特に、交友関係などは完全に謎です」

 

 お力になれずすみません、と頭を下げる苺さんを励まして俺は考えを巡らせる。

 それは俺たちの存在を知っている謎の人物への対処──では無い。

 

 帰りをどうするか、である。

 

 既にこの村には二日滞在している。色々と居心地のいい場所ではあるのだが、そろそろ帰らないといけない。

 というのも、半分忘れていたが今家には天道さんと極さんを置いたままにしているのだ。一応別に留守番はしなくて良いと言ってはいるのだが、下手をすると家が更地になっている可能性がある。

 そういった最悪の事態を避けるためにも、出来るだけ早めに帰った方が良いのだが……

 

「兄貴ー、ここの飯上手いぞー!」

「おい、何か本ねえのか」

 

 明らかに帰る気がこの二人には無い。

 ZZは兎も角、アダムが面倒だ。

 こいつを置いて帰る、と言う選択肢も一応あるのだが、この時代、コロニーの外はかなり過酷な環境だ。来るときは苺さんの警戒と大量の忍者の襲撃で特に何にも出会わなかったが……下手をすると、俺一人では対処できない怪物と出会う可能性もある。

 もちろんそれ程の存在はまずいない。ジパングみたいな魔境ではないのだ。

 とはいえ、零では無い。出くわすときは出くわすだろうし、できればアダムは連れていきたいが……

 

「あ? 俺はまだ帰らねえよ。帰るにしても、せめてあのリオとか言うのが帰って来てからだ。あれにはまだ聞きたい事がある」

 

 ……ちなみにリオさんは一度出かけると年単位で帰って来ない事もあるらしい。必ず出席するのは成人式だけだそうだ。

 

「……弱ったな」

 

 アダム無しだとどうしても不安が付きまとう。万が一、に命を賭ける趣味は無いのだ。

 

「苺さんにもこれ以上迷惑はかけられないし……」

 

 多分頼んだら護衛は引き受けてくれるだろうが、久々に家族と一緒に楽しんでいる苺さんをまた一日強も引き離したくはない。

 

「うーん」

 

 危険な賭けになるが、アダム辺りに帰還用のマシーンでも作ってもらうのが一番だろうか? まああいつの機嫌は悪くなるだろうし、そんな状態で作って来た機械なんて下手をすると命の危険が有るのだが。

 

「……これは最後の手段にするか」

「良かったな、最後の手段が来てやったぞ」

 

 げえ! アダム! いつの間に!?

 

「ほら喜べ、念願の帰宅装置だぞ。命の保証は無しだがな」

「まておいせめて命は保証してくれ!」

「あばよ」

「ぎゃあああああああああああああ!!!」

 

 体が! 体がミキサーにかけられている! なんだこれ絶対こんな機能いらねえだろ!!! あああああああああああ!!!!

 

 

「あああああああああああ!!!!!」

 

 ドカン、と音を立てて地面に叩きつけられる。くそあ、アダムめ。あの機械空中で俺を放り出しやがった。全身痛い。何が一番痛いって乗ってる間が一番ヤバい。

 

「……家は、無事、だな」

 

 色々と無茶苦茶な機械だが速さだけはあるようだ。俺の全速力でも一日かかる距離を一時間とかからずに到着させている。

 

「よし、帰って、来たぞ。……天道さん、極さん、何かやらかして……」

 

 扉を開いた瞬間、目に入った物は青空であった。

 なんと家はまるでハリボテのように扉から向こうがわがえぐり飛んでいた! 古い映画のセットのようだ!

 

「うーん」

 

 こうしてXXXは気絶した。全身の苦痛と家を失ったショックに耐えられなかったのだ。

 

 

 

 

「……おーい、大丈夫かー?」

『起きんな。氷でも乗せてみるか?』

「結構です!?」

 

 聞こえてきた言葉に反射的に飛び起きる。極さんの氷は多分色々と……

 と、そこで自分が寝ていた? 事に気が付いた。一体何が……

 天井が無い。

 もっと言うなら、扉の有る部分以外の家が無い。天井も壁も床も全部。

 

「……何があったんですか?」

 

 内心かなり切れていたが、この二人に切れても何もできないので抑える。抑えろ、二人とも俺より遥かに上の化け物だ。

 

「うむ、それがな、ここで呑んでおったら……」

 

 これが降って来たのよ、と天道さんがそれを指さした。

 

 天使だ。

 

 見て最初に抱いた印象はそれ、そしてその印象は見れば見る程確信へと変わっていく。

 そこに転がされていたのは女性、それも、かなり幼い。

 体格は小柄。背伸びをすれば十五歳くらいに見えない事も無い天道さんよりなお小さい。何もなければ十歳前後と言われても信じられるだろう。

 だが、背から生えた純白の翼が何かあると知らしめている。

 翼は片方だけでも少女の胴体を包み切れそうな程大きく、かなりふわふわとしており柔らかく、暖かそうな印象を持てる。

 だが、何より印象に残るのは少女の姿。

 少女は、何も身に着けていなかった。つまり全裸だ。

 

「……あの、天道さん。あの子に服とか……」

「この家に服なんぞ元から無かったじゃろ。あったとしても吹っ飛んでおるじゃろうし」

 

 うん、まあ、そうだろうけど。そうだろうけども。

 

「それに降って来たのも半刻程まえよ。何かを買いに行く余裕も無いわ」

『単に何もする気が無いだけだろう。……とはいえ、私もこれに関わらない事は賛成だがな』

「……何なんです、この子」

 

 いかにも天使です、と言わんばかりの姿をした少女は動かない。死んでいるのか、とも思ったが触れればほんのりと温かさが伝わって来た。

 しかし、余り警戒するような存在でもないような気がする。特にこの二人なら。

 そう思っていると、恐ろしい言葉を天道さんは発した。

 

「それ、()()()()()()()

「……え?」

 

 衝撃的な言葉に一瞬思考が停止する。この少女が? 天道さんよりも?

 

「それどころか以前南極で戦った白華とやらよりも強いじゃろうな。今は相当弱っておるゆえに、()()出来ておるが……」

「拘束?」

 

 特に何かをしている様には見えないが……

 と、天道さんがどこからか杯を取り出した。

 

「酒よ。特に全身を痺れさせる手合いのな。これを飲ませて無理矢理寝かせておる。飲ませ続ける限りは起きんじゃろう」

 

 言いながら天道さんが少女の口に酒を注いだ。 っ! 割と離れているのにこっちにまで匂いが来た。どれだけ強い酒なんだ!?

 

『私が凍らせようかとも思ったがな。下手に刺激をすると起きる可能性があるので手を出せなかった」

 

 極さんがそう言って鋭い目を少女に向ける。

 ……この二人がここまで言うのなら信じるしかない。この少女は、あり得ない程強いのだと。

 

「天使なら何度か見たことは有るが……強いのでも私と同じぐらいじゃった。ここまでの物は初めてじゃな」

『私も同じだ。これは存在として宇宙域さえ超越している。今までで出会ったことが無い程の厄災だ』

「…‥どうします?」

 

 手は出せない。だが、このまま放置するというのも無理な話だ。俺は家に住みたい。野ざらしは嫌だ。

 

「ううむ……定期的に酒を与えんと起きるしのう。そうなってしまえば何が起きるか予想もつかん。下手をするとこの星が塵も残さず消し飛ぶ、というのも普通にありえるじゃろうし……」

『このまま拘束し続けるのが一番なのだろうが……天道、どこまで出来る』

「あと四刻。それ以上は酒が尽きる」

「ヤバいじゃないですか!?」

「うむ、ヤバい。正直、今まででこれ程死を覚悟しておることは無いぞ」

 

 …‥どうするんだこれ。

 起こせばアウト。起こさなくても勝手に起きてアウト。詰みだ。

 

「……お酒、ないんですか?」

「ないのう。今持っとる分で全てじゃ。新しく作ろうにも、瓢箪一つに百年かかる品でなあ……」

 

 ええい、駄目だ。力では当然駄目、眠らせ続けても駄目……。

 ……いや、待てよ。降って来たって言ってたな。

 

「天道さん。この子、降って来たって言ってましたけど、どんな感じだったんですか?」

「どんな感じと言われてもの……ただ普通に降って来た、としか言いようが……ああ、強いて言うなら、自分から降りて来たのでは無かろう。元々意識は無かったようじゃし」

 

 ……可能性はある、か? 駄目なら地球滅亡だが……このままでも滅亡だ、やってやれ。

 

「……天道さん、極さん。僕に、作戦があります」

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