星間を、宙天を、世界を飛ぶ、その最中に。
明確な攻撃。
抵抗した、暴れた、戦った。
だが、敗れた。
多勢に無勢、そう言ってしまえばそれまでの事。だが、敗北は敗北。それは死を覚悟した。
しかし攻撃者たちはそれに近寄らなかった。理由は一つ、それは強すぎたからだ。
それは最期に巻き込んでやろうとした考えを成せず、ただ落ちていく。助かるかどうかは運しだい。
それは自分の運を嘲笑い……地へと、堕ちた。
「!」
それが飛び起きる。
記憶はあの時叩き落された途切れている。体を確かめれば、傷は無い。
治癒が早い方だとは思っているが、それでもこの短時間で治るような物では無い。外部の介入が無い限り。
そこでそれは辺りに意識を向けた。
広がる青空、自分の落下に巻き込まれたらしき何かの破片。
……そして、目の前で脂汗を流しながら全霊で持って土下座する少年。
そのあまりにも滑稽な姿にそれは……
にやり、と凶悪な笑みを浮かべた。
うおおおおおおおおお土下座だあああああああああ!!
相手は超存在! 対処法は無し! なら土下座だ! 全身全霊で土下座し敬いの気持ちを表し機嫌を取るしかない!!
天道さんと極さんは下がって貰った! あの二人にこんな態度を取ってもらうのは気が引ける! だが俺ならいくら頭を下げようと無問題! 生きるためにプライドは不要! 全身全霊で土下座だあああああああああああああ!!!!
ごそり、と身じろぎの音が響く。土下座を初めて一時間。どうやらあの天使が起きて来たらしい。
その音を聞いて俺はより一層土下座を深くした。
いやあアダムがいなくて助かった! あいつ絶対やらかすだろ!
「……何やってんだ、お前」
鈴が鳴るような声だった。或いは、小鳥がさえずるような。
余りにも口調に合っていない、可憐な音。一瞬顔を上げて確かめたくなるが、今はまだ頭を下げるとき。万が一頭を上げて世界を滅ぼされたりしたら大変だ。
「おい、聞こえなかったのか?」
「聞こえております! 申し訳ありません!」
続いた声に出来るだけはっきりと、腹から声を出して答える。万が一もあってはならない。出来るだけ何とか相手が不快にならないように……
「聞こえてんなら顔上げろや」
「了解いたしました!」
全身の機能をフルに使い音速で顔を上げる。
目に入った物は、透き通るような肌であった。
白磁、或いは雪の結晶。それらの誉め言葉が陳腐になるほどに美しい白い肌。
そして一瞬の間を置いてそれが顔であると認識する。
寝ている時から思ってはいたが、異常なほどに美しい顔だ。
少女の幼さと、大人の妖艶さ。それらを組み合わせたとしか言えない、若くとも艶めかしい不可思議な顔立ち。
そしてその顔が浮かない端正な肉体。細く、同時に最低限女性と分かる肉が乗り、少女のそれでありながら思わず目を止めてしまう程の恐ろしい美しさを醸し出す。
だが、最も目を引いたのは……その少女の顔に浮かぶ、凶悪としか表現しようのない笑みであった。
「……人の体ジロジロ見過ぎだぜ、坊主」
「申し訳ありません!!!」
いかん、一瞬目を奪われた。ええい、こんなもんで世界を滅ぼしてたまるか!
「まあ気持ちは分かる、俺の体だ。見たくなるのも当たり前だな」
……凄い自身だ。いやまあ、そう言っても何ら過言ではないのだが。
「で、お前誰だ。あの糞共の同類……じゃねえな。雑魚すぎるか」
「地球のXXXです!」
頭を下げてそう叫ぶ。声は大きい方が良いとかなんとか書いてたはずだ! 何かの本に!
「地球か……地球ねぇ、聞いたことねえな。どこの宇宙だ?」
「申し訳ありません! 分かりません!」
「あーお前に聞いてねえ、独り言だ、黙ってろ」
慌てて口を閉ざす。しかしこれで何もしゃべらないのは駄目だ。意見を求められたら直ぐに答えなくては。
「しっかしまあ、めんどくせえ星だ。あんな連中に蟻みたいに集られやがってまあ……」
はあ、と鬱陶しそうな様子で天使がため息を吐いた。
……この人、見た目は天使だが、口調といい態度といい、殆どチンピラだな。座り方も思いっきり大股開きだし。
一応目にフィルターを掛けて見てはいけないところは見ないようにしている。……目をそらした方が良いのかも知れないが、この天使から目を離して失礼ととられたらその時点で終わりだ。主に世界が。
「そういや、俺の怪我。直したのお前か?」
首を縦に振ってそれにこたえる。
起こす前に残骸の中に残っていた治療キットで色々と見てみたのだが、この少女、見た目では分からなかったが、ほぼ全身がズタボロになっていた。
ほんの少しでも恩を売るために治療した……というか、適当に傷薬を塗っただけでほぼ全部勝手に治った。別に外傷でもないのに。
「へえ。まあ助かった」
そう言って、天使が皮肉気に笑った。
「で、だ。助けられっぱなしも性に合わねえ。何か欲しいもんあるか? 大体の物はやれるぜ。おすすめは力だ。このちんけな星なら瞬きで砂にできる程度ならいくらでもやれる」
「いえ、大丈夫です」
そんなもん貰ってどうしろと。住むとこ吹っ飛んで終わりだよ。
「なんだ、殺したい相手とかいねえのか」
「そこまでしていただかなくても十分です!」
なんだ瞬きで星砂に変える力で殺したい相手って。宇宙の覇王か何かか?
「ふうん。つまんねえな。もうちょい殺伐としてたら面白ぇのによ」
……そう言われても。貰ったら困る物はいらないし。というか、貰っても地球滅ぶし貰わなかっても機嫌悪くするんじゃ詰みじゃん。
「まいいや。あの糞みてえな連中はいるがまあ、普段の生ゴミよりマシだ。おい、XXXっつったか。暫く居る、色々整えろ」
「……はい!」
うわあ……うわあ……
泣きたい。何でこんな迷惑な事が……畜生、俺が何したって言うんだ。