九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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頂点の片鱗

 腕が痛い。

 エネルギーがどんどん使われていく。腕部の駆動系が悲鳴を上げ、ギシギシと軋みを上げた。

 途轍もない出力を俺は出している。やろうと思えば、石炭を握りつぶしてダイヤにも出来るだろう。

 それ程の力。だと言うのに、それで揉まれているゼロエルからの反応は……

 

「力弱いぞ、しっかりやれ」

「………………………ハイ」

 

 これである。

 さっきから他の部位に回すエネルギーすら切って腕出力を上げているが、それでもまだこの天使にとっては生ぬるいようだ。規格外過ぎるだろ。

 疲労もあるし下手すると何かミスして切れさせかねない。速く出ていってほしい。

 

「んー、背中もういいぞ。次頭」

「…………………………………ハイ」

 

 ほんとわがままだなこいつ。まあ、頭のマッサージにそこまで力は使わないだろ。

 

 ……わしゃわしゃしてる。

 見た目に違わずやたらと柔らかい髪だ。銀の髪はストレートに首元までを隠している。手触りは……何と言えば良いのだろう。柔らかいのだがかと言って絶対に俺の力ではちぎれないという確信を与えるような……不思議な感触だ。

 

「あー……そこ」

 

 頭皮に爪を立てないよう気を付けながら揉む。

 額の上から、後頭部へ。流すようにゆっくりと力を入れながら皮膚を細かく振動させ、引っ張り、離す。それを細かく繰り返し、徐々に上へと上げていく。

 頭頂部の周りに指を置き、今度は降ろすように力を掛ける。指の腹を使い、揺さぶる様に頭の皮膚全体に刺激を与え、ゆっくりと側頭部に指を下げていった。

 

「ん……」

 

 ……寝てないかこいつ。こんちくしょう、俺は気が気じゃないってのに。

 

 それから五分程でスース―とゼロエルが寝息を立て始めた。……今の内にどっかに叩き出せねえかな。

 

 ドカン、と響いた爆発音がその思考を遮る。何だ一体! 折角めんどくさいのが寝たってのに!

 

「おい、来てやったぞ」

「あ、アダム!」

 

 やっと来た! やっと!

 

「よし、さっさとこのめんどくさい奴をどうにかしてくれ!」

「まあやって見るけどな、無理な時は無理だ。それと、今はどう考えても駄目だろうな」

「え、あ……」

 

 ゼロエルは寝ている。説得もくそも無い。起こすのはまあ、駄目だろう。通る説得も通らなくなる。

 

「……何やらされてたんだ、お前」

「マッサージと羽根の繕い……腕が痛い……」

「今度俺にもやれ」

「やだ。ってか、お前マッサージ効果ねえだろ」

 

 生身ゼロのロボットの何をマッサージしろと。馬鹿かこいつは。馬鹿だったな。

 

「お前思考には気を付けろよ? 俺も十分お前を消し飛ばすのは出来るんだからな?」

「思考に気を付けろとか初めて聞いたぞ」

 

 なんだ思考に気を付けろって。政府のヤバい検閲か何かか? よっぽどの機密でも無いとまず見ないぞ。

 

「お前よっぽどの機密持ってるだろ」

「持ってた……」

 

 研究所関連は大体機密だ。一応政府との契約で記憶は残しているが、変に話したら本気で消されるな。

 ……そういや、ゼロエルと話してたら極天とかいう言葉が出てきたが……あの所長(くそったれ)が目指していたのはそこだったのだろうか。頻繁に神へたどり着くとか言ってたし。

 

「……そういや俺ら色々知ってるけど、肝心なとこだけは良く知らねーな」

 

 所長の目的、アダムの謎、アイギスの全容……色々と知れた情報は更なる謎を呼び込んだだけだ。ただ、分かることは有る。

 

「そういうのは知らねえほうがいいんだろうな」

「おう。知らんほうが良い事は多いぞ」

 

 取りあえず俺はZZがいて生活できればそれでいいのだ。最も、多少の好奇心は忘れたくは無いが。……最近は多少じゃなくなってきてるな。何かとんでもないのにかかわって来られてるし。

 

「所でアダム、いつまでこうするんだ? 俺としてはさっさとどうにかしてほしいんだが」

「コレが起きるまでどうにもならんだろ。頭使えタコ」

「なら今の内に家なおしてくれ。野ざらしはもう嫌だ」

 

 上を見ればそろそろ陰り始めた日が見える。風は吹き抜け、寒さを感じるようにしている体に冷気を味合わせた。

 

「金」

「……わかったよ」

 

 大人しく金を握らせる。こいつはこういう時がめつい。まあ労働に対価は絶対必要だが……こいつのやり方でこの金はなあ……

 

「出来たぞ」

「……割と取っといてコレだからな」

 

 速い、丁寧、といい所だらけなのだが……何分明らかにアダムからすれば楽な作業だ。もう少し安くしてほしいと思うのはまあ、間違っているかもしれないが思いたくはなるだろう。

 

「おい、何か本ねえのか」

「金」

 

 ドム、と音がして俺の顔に拳が叩き込まれた。あの野郎。もう殆ど強盗じゃねえか。

 

「お前な……」

「加減はしたぞ、生きてるだろ」

「痛い物は痛いっての……」

 

 ダメージは少ないが……躊躇なく人を殴るのはやばいと思う。

 まあ、何を言ってもこいつは聞きはしないだろう。諦めて俺もゼロエルが起きるまで本でも読むか。幸いさっきまで読ませてた奴が転がってるし。

 

 

 んん、と起床の声が聞こえたのは本を読み始めて二時間ほどの事だった。

 目覚めたゼロエルは、辺りを見渡して直ぐに俺を見つけたようだ。

 

「おう、割とよかったぞ」

「ありがとうございます……」

 

 そう言われてもあんまり嬉しくない。なんだろう、次の無茶ぶりが見えてくるだからだろうか。

 

「……で、そこの。誰だお前」

「アダム。()()()()()だな、無枚羽」

 

 へえ、とゼロエルが声を上げた。

 

「知ってんのか、こんな辺鄙な場所の奴が」

「そりゃな。有名だぞ、神域から離れて羽根を引きちぎった堕天使ってよ」

 

 その言葉をゼロエルが鼻で嗤う。

 

「ハハハ、お前みてえな鉄屑にまで知られてるとは。俺も中々有名になった見てえだ。……何の用だ? ゴミクズ」

「邪魔なんでな、出てけ」

 

 おいアダムお前それ交渉じゃねえ恐喝だ馬鹿お前相手お前より強いだろボケ俺に迷惑がやばいし世界滅ぶぞこの野郎。

 

「口の利き方は考えろよ、間抜け」

 

 その言葉が響くや否や、何か衝撃が走った。

 目には見えない。何が起きたかは結果だけを知るのみだ。

 

 アダムが頭を踏みつけられていた。

 

「まあ埃共よりはましだが、俺からすれば蠅未満だな。スクラップにしてやろうか……」

 

 ゼロエルが顎に手を当てて考え始める。まずい、本気でやる気だ。

 

「っ!」

 

 俺が動こうとした瞬間、アダムが体を変形させゼロエルの顔面に一撃を叩き込んだ。だが

 

「……予想以上に馬鹿なのか」

 

 水をきる様に手を払い、アダムを吹き飛ばし

 

「それとも何かがあるのか」

 

 その体を再び踏みつぶした。

 余りに一方的な光景。あのアダムがまるで子供扱いだ。

 

「……それともあれか? 友人を前にハッタリでも利かせたか。まあ、出来ねえ事は言わない方が良いぜ? 諦めないってのは好きだがな」

 

 ブン、と。

 拾った枝を振るうように。アダムの体が振るわれた。

 ボロボロだ。横から見ている俺でも見て分かる。桁が違い過ぎる、アダムでは逆立ちしても勝てない相手だ。

 

「チッ、こうなったか……」

 

 アダムが悔しそうに呟く。

 あいつのあんな反応を見るのは初めてだ。

 

「おい、無枚羽。交渉だ」

「……へえ、今の状況で何を言うってんだ?」

 

 握っていたアダムを床に叩きつけ、上からゼロエルが見下ろした。

 

「取りあえず言ってみろ。面白い内容だったら乗ってやる」

「……()()()()()()()()()()

 

 バッ、と。

 途轍もない速度でゼロエルが上を見上げた。

 その顔には何かに気付いたような表情が浮かび、全身をワナワナと震わせている。

 ハ、と笑い声が漏れた。

 

「ハハハハハハハハ! アッハハハハハハハ! そうか! そう言う事か! 成程! 違う! 違う訳だ! 在らざるか! ハハハハハ!!!」

 

 狂ったようにゼロエルが笑う。……アダムは何を言った? 

 神は、そこにはいない。

 ただその一言がゼロエルをそうした。なぜ? こんな言葉にゼロエル程の存在が笑う何かが有るのか?

 

「ああ……面白い。おい、アダム。要求は何だ。大抵の事は聞いてやるぞ」

「最初っから言ってるぞ、出て行け」

 

 分かった、と言ってゼロエルが翼を広げた。どうやら本当に出ていくつもりらしい。助かった。

 

「おい坊主!」

「はい!」

「やるよ」

 

 何かが放り投げられる。……何だこれ。ラッパ?

 

「困ったら鳴らしてみな、助けてやるぜ。働きと……笑いの礼だ」

 

 そう言ってゼロエルが顔を上に向けた。

 瞬間、衝撃が突き抜ける。

 光も、法則も、何もかもを越えてどこかへと飛び立って行ったのだ。

 

「……呼ぶような事あんのかな」

「お前ならあるかもな」

 

 絶対ヤバい部類の面倒事だろそれ。

 

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