ゼロエルとの絡みから三日。あの後戻って来た天道さんと極さんが二日飲みあかし、そして帰ってから一日。
俺は家で寝ていた。
「……疲れた」
何と言うか予想以上の疲労が全身を覆っている。旅行の疲れも抜けない内にゼロエルの相手をし続けたのと飲み会に付き合わされたせいだ。
ZZも今日は自分の部屋に籠って何かしているし、アダムはあの後直ぐに紅の村へ行ってしまった。
暇ではあるのだが……何かをする気力は湧かない。ここは大人しく寝ておこう。
そう決めたのなら行動は早い。
睡眠機能を起動し、脳の状態を眠りに移行させる。これでゆっくり眠れるだろう……
「……きろ、おい、起きろ。……起きろや!」
体に走った衝撃で目が覚める。
え? 何、何事?
「起きたか、タコ。……面倒事だ、来い」
「……面倒事」
……うわ行きたくねえ。なんだ面倒事って。何だ、何なんだ。
「お前が行きたくないっつっても、今回ばかりは無理だ。諦めろ」
「……今まで一回でも断れた事あったか?」
無いな、とアダムが鼻で笑った。今回も付いて行くしかないようだ。
「で、何なんだ?」
「
その言葉に俺の足が止まる。
……成程、確かに厄介ごとだ。
「……何をすればいい」
「研究所の探査だ。……残念ながら今回は俺が手伝えん」
政府の野郎、とアダムが苛立った様子で言い放つ。
アダム無し、となると色々キツイが……一体どうしてそんな事に。
「あのポンコツ連中め、お前が何もしてないって考えてんのさ。俺が全部やって、お前は命令に従ってねえんじゃねえかってな」
「……割とそうだけどな」
南極、ジパング、それ以前のちまちましたもの……俺も参加はしているが、主に動いているのはアダムだ。まあ、俺が出た所で何も出来ない規模の物が多かったからなのだが。
「今回はお前一人だけだとよ。……一応、警戒位はしてやる」
「助かる、任せるぞ」
不安ではある。だが、まあ、やるしかない。
「ZZは今回ナシだ。お前一人で良い。探索場所は研究所……政府の探索隊が、廃棄されたらしい場所を新しく見つけた。そこの調査だな」
「……廃棄された場所ねえ」
あの所長が何か残していくとも思えないし、残って居たならまず間違いなく罠だろう。……政府の連中もそれが分からない程馬鹿では無いだろうが、罠である事を考慮してもあの男の研究は欲しいらしい。
「第一次調査隊が内部で大量の迎撃兵器を確認、そのあんまりな規模から二次以降は被害を拡大させるだけと判断され送られていない。ついでに言うならアイギス連中も辺りで確認されてる。ただ、これは俺が見張っとくから心配はするな。
これで今回の要項は全部だ、質問あるか?」
「帰還の条件は?」
「特に無し。強いて言うなら迎撃兵器でも持ってきたら十分だ」
「……入って直ぐ逃げ帰るみたいなのでもか?」
「それが出来ないんだよ。俺もここの探査はしてみたが、空間がめんどくさくねじ曲がってる。入ったら出るのは面倒だろうな。出口も自分で探すしかねえみたいだ」
……つまり、今回の任務は、その施設に入って、出てくる事だけ、という事だ。……シンプルな分、かなりヤバい事になりそうだ。
「じゃあ出発するぞ、用意はいいな」
「いいよ」
返事をすると直ぐに全身が機械に覆われ、直後、下方向への慣性を感じた。…‥・こいつ、やろうと思えばこんな風に丁寧に出来るんだな。毎度毎度雑にやりやがって。
「よし、ここだ。ほら、行ってこい」
そう言われるやいなや空中に体が放り出された。前回の地面に叩きつけるための物とは違う、俺が十分に着地出来るような勢いだ。
「毎回、こうしてくれたらいいんだがな!」
体を捻り、空気抵抗を利用して減速。それでもかなりの速度だが、この程度なら問題なしだ。
ズン、と軽い地響きを響かせて俺は着地した。見渡せば、複数の軍人の姿に多数の兵器。よっぽどこの廃研究所は警戒されているようだ。
(アレが例の……)(まだ子供だ……)(役に立つのか?)(見かけ以上に……)
……どうやら色々と噂されているようだ。一応、音声では無く通信域で話している辺り、聞かれるとまずいと思っているのだろうが……残念ながら俺の通信域と被っているせいで駄々洩れだ。正直うるさい。
変更も面倒なので放置する。どうせ研究所に入ったら聞こえなくなるのだ。
『注意しとけ。多分入った瞬間に攻撃される』
『了解』
アダムから通信が来た。忠告通り警戒しておこう。
重厚な鉄の扉は俺の腕力ならほぼ自動ドアだ。バタン、と結構な音を立てて開いた先には、先が見えない程長く続く通路。……ここからはヤバそうだな。
一歩踏み込んだ瞬間、脳内に流れていた外の会話が全て途切れる。振り返れば、もう扉は無く廊下だけが続いていた。
「さて、こっからかっ!?」
呟き終わる前に飛来したレーザーをギリギリで避ける。危ない、前兆のあるタイプで助かった。
廊下の奥から姿を現したのは、道を遮る板に砲身が付いた奇怪な見た目の装置。
再びのレーザー。だが、前兆が感知できるタイプな上、感知してから発射までの時間は一定、分かってしまえば避けやすい!
「おら!」
拳の一撃で機械がひしゃげ飛ぶ。耐久はそこまでの様だ。
機械が壊れた事を確認して辺りを見渡す。どうやら増援は無いらしい。
「物量で来られると面倒だ」
まだ大した相手だと判断されていないのか、それとも何か作戦を立てられたのか。使われている自動防御システムがどんな判断を下したのかは知りようが無い。
ならば、確実な一手を打つだけだ。
「フッ!」
思いっきり走る。さっさと次の場所へ移る作戦だ。相手がどんな出方だろうと、そこそこ有効な手段だろう。
延々と廊下を走っていると、右に一つの扉が見えた。即座に開き、中へ飛び込む。
まるで教室のような部屋であった。
それもかなり古い。壁も床も天井も木製。使われている光源はかなり効率が悪そうな品、椅子も机も実体、おまけに視線の先にあったものは黒板だ。
「二千年位の作りか……?」
前に何かの本で見たあのあたりの時代の作りに似ている。一応文化の最盛期ではあったらしいが、今時ここまで非効率な作りはまず見ない。
「……研究所にこんなもん作る意味無いだろ」
あの所長に古い物をわざわざ作る趣味は無かったはずだ。最も、俺の知っている範囲でだが。もしかすると俺たちがあそこから逃げ出してから、趣向に変化があった、何てこともまあ、無いとは言い切れないが……それでもやはりあのくそったれを知っている身からするとこの光景には違和感を覚えてしまう。
「何か事情でもあったのか……」
それとも、そもそもあいつが作っていないか。大体このどちらかだろう。
「さて、どうするか……」
教室みたいな部屋には見て分かるような物は何も置いていない。つまり何かを探す俺は廊下へ戻る事になるのだが……
「絶対あの廊下なにかあるだろ……」
一つの願いも込めて扉を開くが……視界に入ったのは無常な迎撃兵器であった。
「っとお!」
顔を出した瞬間にミサイルが飛んでくる。着弾寸前で自動的に起爆したそれは、絶妙な調整で壁などに損傷を与えず侵入者のみを殺傷する。おまけに空間自体は埋め尽くすように爆風と破片が飛ぶため、逃げ場も無い。
だが、そもそも俺はやろうと思えばこのミサイル程度よりは速く動けるのだ。やすやすと回避し、拳を突き立てれば出来損ないの戦車のような兵器はあっさりと駆動を止めた。
「これから先、一体何が出てくるのやら」
愚痴をこぼして廊下を進む。それしか道は無いのだから。