轟音、巨震、轟音
尋常ならざる破壊が辺りに振りまかれる。
振りまくのは二体の怪物。
一方はアダム。もう一方は、鬼
小さな体躯に、天を穿たんとする程の一本角。
金棒を振るうその鬼が、アダムと互角以上に戦っていた。
「はははははははは!!!」
鬼の笑い声が響き、一瞬遅れて星を砕きうるほどの衝撃が襲う。
それをアダムは平然と耐え、反撃の巨砲を放つ。
空を埋め尽くさんとする規模で広げられた武装から無限にも思える程の攻撃が放たれる。
砲撃、熱線、音波、斬撃、空間消滅、電撃、熱、冷気。
考え付く限り全ての攻撃が行われ……その全てが吹き飛ばされる。
鬼は、金棒を振るう。
振るう、振るう、振るう。
唯それだけでアダムの武装を、攻撃を破壊し吹き飛ばす。鬼には傷一つ無い。
だが、鬼もアダムに対しての有効打を出せてはいなかった。
一撃が当たる。
先ほどまでの振るった衝撃ではなく、金棒本体の直撃だ。それはアダムの全身を粉微塵に砕き……何事も無かったかのようにアダムが再度姿を現した。
「面倒だのう!」
何度も砕いた、何度も叩き潰した。
その度に、広げられた武装からアダムが出現する。空中に散った鉄屑が寄り合わさり形を成す。どれだけ壊そうとも、無限の鋼の山からアダムは現れる。
鬼は、勘づいていた。
どれかが本体という事でも、何か仕掛けがあるという訳でもない。全てが本体。鬼の眼前に広げられた無限無数の機械仕掛けこそ、アダム。どれを砕こうとも、どれを叩き潰そうとも、残ったものが再度アダムを作り上げ、武装を広げる。
互いに有効な攻撃は無い。
アダムの攻撃は吹き飛ばされ、鬼の攻撃は効かない。
戦いは膠着状態に陥っていた。
「一体何やってんだあいつ……」
俺はZZと共に遠方に避難していた。
アダムの戦っている場所からは百キロ近く離れているにも関わらず振動と音がここまで伝わってくる。
「兄貴、どうする?」
「どうするって……待つしかないな……アダムいねえと帰れないし」
ここの場所はアダムしか知らないし、分かったとしても変える手段が無い。とにかくこの戦いが終わるまでは何も出来ないのだ。
「取りあえずこの辺はよくわからん怪物とかも少ないし、待ち続けてもしばらくは持つだろ」
「兄貴ー、戦いがどうなってるか見れない?」
「……人の話を聞け」
文句を言うがこういう時のZZは既に話への興味を無くしているだろう。
俺は諦めてデカい望遠鏡を作る。
「そら、多分これで見れるだろ」
「イエーイ!」
ZZが意気揚々と望遠鏡を覗き込む。俺もアダムの戦闘には興味があるのでもう一つ望遠鏡を用意した。
「さて、あいつは……」
視界に入ったのは数えることさえ出来ない数の巨砲とそれを砕き続ける何かの姿だ。
……いやヤバいな。
アダムの方は規模が大きすぎて何やってるかさっぱりわからないし相手の方も動きが早すぎて全く見えない。分かっていたが俺らじゃ何の干渉もできそうにない。動体視力を百倍に上げてもまるで追えないのはどういうことだ。
「うーんまったくわからん」
ZZも同じらしい。俺の目がおかしくなったわけでは無いようだ。
「これはもうどうしようも無いな……勝ってくれよー、アダム」
空が軋む。天が割れる。地が唸る。陸が砕ける。
凡そ巻き込まれた物全てを破壊しながら怪物は戦い続けていた、
「ハハハハハ、ハハハハハハハハハ!!!!!」
哄笑が轟く。同時に衝撃。金棒がその軌跡にある合切を砕いた。
アダムは何も言わない。ただ返答と言わんばかりに熱線が放たれる。それを平然と弾き、鬼は言う。
「随分と不機嫌そうじゃのう! それ程追い詰められておるか!」
アダムは、答えない。だが、今の鬼の言葉は事実だった。
アダムの攻撃は鬼に防がれる。鬼はアダムに効く攻撃を持たない。状況は膠着している。だが、両者の間には決定的な違いがあった。
損耗の差。
アダムとて無限ではない。武装を作り、身体を修復し続ければエネルギーも尽きるだろう。
対して鬼は金棒を振り回しているだけ。これといった消耗は無い。
このままではアダムは削り殺される。それが分かっているが故、機嫌が悪い。
解決策が無いわけでは無い。だが……
(あいつらが巻き込まれるのがな……)
XXXとZZの位置は把握している。その位置では、解決策に巻き込まれてしまう。危険を知らせようにも無駄なリソースを割く余裕は無い。
(要するに無駄じゃ無ければ良いんだ)
二人を解決策に巻き込まないようにするためのエネルギーが無駄にならない時間は必ず来る。アダムはその時間を待っていた。
(後一秒……)
破壊が吹き荒れる。鋼鉄が舞い熱線が躍る。
(後0.5……)
刃が、金棒が、爆発が。
(後0.000000……)
烈風が破壊が光線が時空が金棒が剛腕がミサイルがハンマーが毒ガスが高熱が刀が槍が剣が槌が鋸が杭が手が足が頭が弾丸が回転砲が重力球が電気が磁力が砲撃が
時は、来た。
突如、アダムが上空へと跳ぶ。広げるのは、巨砲。
鬼は笑う。視界全てを埋め尽くす巨砲に。
直径二十キロ以上もの巨大大砲。照準の先は、鬼。
「これは、厳しいな」
鬼は両の手を広げる。
「こい!!」
吼える。金棒を地に突き立て、服を脱ぎ捨て、真っ向から。
光が、全てを包んだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!」
何か視界にバカみたいなサイズの大砲が出来たと思ったら吹っ飛ばされた。
何だ!? 何が起こった!? アダムか!? アダムの仕業か! あの野郎!!
「大丈夫かZZぉぉぉぉぉ!!」
「あああああああああ!!!!!」
俺より先に吹っ飛ばされている。てかこれはやばいぞ。衝撃が強すぎる。全身にダメージがある。おまけにこの勢いで叩きつけられたらただじゃすまない。
「ZZ! 衝撃吸収用の装備は出せるか!?」
「無理!!」
っ!! ……厳しくなるがやるしかない。無理矢理にでもあいつの前に行って地面に激突する時の衝撃を抑え込む。出来なければ、死ぬ。
「うおおおおおあああ!!」
ブースターで加速し、ZZの前に出る。この速度で何かにぶつかれば致命傷だ。
全身に衝撃吸収装置を広げ、受け止める準備をする。ブースターを逆噴射し、速度を落とす。クッションを広げ、パラシュートで更に速度を落とす。
ズドン、と衝撃が走り俺とZZは地面へ叩き付けられた。
「……ZZ、生きてるか?」
「ギリギリ……全身痛い。どっか壊れたかも」
「五キロ以上吹っ飛ばされてそれなら上出来だったな……」
二人の間に安堵の雰囲気が流れる。
直後、光が百キロ以上の範囲を多い尽くした。
巨砲の着弾地点、考えうる全てが光の奔流に消し飛ばされた場所。
そこに、鬼は立っていた。
無傷ではない。
全身の皮が焼け、身体中から煙が立ち上っている。
だが、生きている。
両の目を見開き、大口を開け、笑う。
生きているぞ、と。
金棒を握りしめ、アダムを探し……
周囲に無機質な声が響いた。
「XXX及びZZ両名の離脱を確認、01兵装格納、02兵装展開、対大型恒星系級存在破砕用武装設営、生成エネルギー上限LV2へ以降、武装エネルギー充填開始、発射まで3、2、1……」
「……はは」
鬼が笑う。
先程までの快活な笑いではなく、諦めたように。
直後、半径百キロの範囲を光が呑み込み、全てを無に帰した。
「……何だ今の」
光がいきなり目の前まで来たかと思うと、急激に引いていった。後には何も残っていない。ただ広がる底の見えない大穴を前に呆然と佇む。
「……取りあえずアダムを待つ、か……」
今の俺に出来るのはその場に座り込んでアダムを待つことだけであった。
「兄貴―、この大穴横から見たら色々見えるぞ! モグラとか!」
……あいつ気楽だなあ!