九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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暴走

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 扉も兵器も全て後方、今の俺に追いつけはしない!

 ……うん、割とテンションが上がる光景ではあるが、一旦落ち着いていこう。

 現在疾走開始から五分が経過。音速以上で進んでいるにも拘らず全く通路の終わりが見えない。ループしているならまだしも、出てくる扉は悉く新しい物だ。

 

「エネルギーはまだ大丈夫だけど……」

 

 背後から伝わってくるプレッシャー的に足を止めたが最後だろう。速度を落とすわけにはいかない。

 ただ、この通路の仕掛けによっては、戻る事になるかもしれないのだ。

 

 脱出の方法はあるが、それが分からない。ならば大体試せる事は試してみるしかない。しかし、それも物理的な限界はある。

 

「壁も、壊れなかったしな」

 

 例のサイボーグとの戦闘で壁は破損こそしていたが、突き破れていない。恐らく何か空間断絶的な仕掛けが施されているのだろう。その場合、俺の力で破壊することは不可能だ。

 

「ぶっ壊せたら一番早かったんだけどな……」

 

 こういう面倒な場所というのは、大抵壊せば楽に進めるのだ。

 しかし出来ない事に拘泥するのは意味がない、思考を切り替え、代り映えしない通路に目を向ける。

 延々と続くように見える通路だが、実際の所どこかに脱出する場所は有るはずなのだ。

 ……一つの可能性が思いついた。

 

「やるだけやってみるか」

 

 そう呟き、更に速度を上げる。発生していたソニックブームが更なる規模と円錐を描き、周囲へ破壊をまき散らした。

 更に、加速。

 全身の形を変え、高速度に適応。ジェットを吹きならし、音を置き去りにする速度へ。

 既に背後の音も届かない。だが、まだだ。

 

「こっからが本番だあっ!」

 

 変えた形を装甲に、その内側に砲身を作る。足場を外した梯子を横倒しにしたような形状。奔る電撃。即ちレールガン。

 超加速した状態からこれで頭部を発射し、光速の十パーセントまで自身を加速させる。そして、生成され続ける空間の狭間に自分をとび込ませるのだ。

 

 懸念は当然ある。今俺はこの空間を連続的に生成される理論上無限の場所だと仮定しているが、そうでなかった場合……例えば、閉じられた隔離空間などであった場合、この試みは単にエネルギーを無駄にしただけになってしまう。

 だが、それでも可能性があるならばやるしかない。未来は先にあるのだから!

 

 電力充填、発射台用意、頭部装填!

 

「発射!」

 

 グン! と急な加速がかかる。保護はしているが、耐えられるかはちょっと怪しい。

 

「おああああああああああああああ!?」

 

 視界が歪む。速すぎる、いや、光速度での視界の歪みはまだ起きる速さじゃあ……

 

 ぎゅるん、としか表現できない感覚に襲われ、俺の体は冷たい床の上に放り出されていた。

 

「脱出……はまだだな」

 

 辺りを見渡せば、さっきまでいた通路のような光景が広がっていた。しかし、決定的な違いとして、視線の先には曲がり角があり、俺の隣には無機質な扉があった。

 どうやらあの空間からは抜け出せたようだ。これでようやく本格的なこの施設の探索を始められる。

 

「となるとまずはこの扉からだな」

 

 躊躇いは無い。警戒はしているのだから変に躊躇するのは無駄だ。

 そんな思考は吹き飛ばされた事によって頭から飛んで行った。誰だ警戒したとか考えた奴!

 

「ってぇ。何だよ……」

 

 痛みを訴える頭を押さえて前を見れば、鉄のカマキリのような見た目の怪物が。

 それが視界に入った瞬間、背筋に存在しないはずの寒気が発生する。まずい、アレは……

 

「近接型六号!? なんでこんな場所に!?」

 

 研究所で作られた試験的な品。その中でもそのまま成功作に組み込まれる程の怪物。近接戦で無双の戦闘力を発揮したド級の化け物。頭の痛みも、コイツに攻撃されたのであればむしろ余りに幸運な小さいダメージだ。

 

「ふざけんなこんなの相手できるか!?」

 

 理不尽への絶叫が終わらぬうちに六号が鎌を横薙ぎに振るった。回避はした。だが、下げた頭上に視界を向ければ線がどこまでも走っている。

 

 空間寸断。

 六号の攻撃を防ぐことは出来ない。空間事切り裂く斬撃から身を護る手段など無いのだ。

 

「やってられねえよ!」

 

 体を小さく変え、六号の足元へ滑り込み反対側へ突き抜ける。こんな奴と戦っていられない。

 幸い、アレは遠距離攻撃を持たなかったはずだ。逃げに徹すれば対処は難しい部類では……

 ない、と続けようとした思考を眼前に現れた鎌が断ち切った。

 

 時速数百キロで駆動する野球ボール程度の物体を瞬時に見切り、途轍もない駆動域で持って捉える。ええい怪物め!

 

「お前と戦ってられないんだよ!」

 

 突き立てられる鎌の嵐を躱し反対側へ。そしてそのまま振り返らずに走る。しかしセンサーで背後は把握している。今構えられた鎌もしっかり捉えているぞ!

 

「よいしょお!」

 

 前転で進みながら姿勢を下げ、首元へ迫った鎌を避ける。視界の隅では鎌の軌跡上にあった壁が横一線に断ち切られていた。

 前傾姿勢を保ったまま関節を駆動させ倒れ込むような姿勢で疾駆する。頭を上げればそのまま真っ二つだ。

 

「この部屋は……」

 

 走りながら周囲を見渡せば、何かの研究室のような光景が。左には荷物棚、右にはどこかを見通せるガラス窓、そして前方には扉があった。

 

「取りあえずそっち!」

 

 扉を蹴り破り突き抜ける。直後、壁を切り抜いて六号が姿を現した。

 

「しつこいなコイツ!」

 

 いっそ戦ってやろうかと思うも、コイツ相手に近接戦は不可能だ。せめて距離を取らないと選択肢にすら入らない。

 

 扉の先は再び廊下。だが、今度は短く直ぐに別の扉へ出た。当然突き破り先へ行けば、視界に入るのは無数の機器。

 

「培養室!?」

 

 記憶に有る研究所の施設と似通った光景に思わず声が出る。出来る事なら調べておきたかったが……今は無理だ!

 

 ガキガキと音を響かせ走り寄る六号が鎌を振るえば、視界がどんどんバラバラになっていく。この研究所の壁もかなりの頑強性をしているはずだが、空を斬っている時と全く調子が変わっていない。これじゃあ遮蔽物にもなりはしない!

 

「役に立たないな!」

 

 罵声を吐き捨て逃走を続ける。瞬時に刻みのりのようになった培養室を離れ、更に先へ。

 次の部屋は大量の兵器類が所狭しと積み重ねられていた。

 

「しめた!」

 

 とっさの閃きと状況が重なる。これならアレも少しは……!

 

 周囲一帯の機械にエネルギーを流し込み、起動させる。ここにあるのは多分失敗作の群れ。その場合、簡単な行動ルーチン──攻撃者への反撃しか組み込まれていない可能性は高い!

 

 辺りの機械に攻撃しないよう慎重かつ高速で駆け抜ければ、背後から何も気にせず猛進してくる影が。

 と、周囲の兵器類が音を立てた。

 ギチギチ、ガリガリ、メキメキ……聞いているだけで頭が痛くなってくる程の音量だ。こいつらこの音で失敗作にされたんじゃ無いか?

 聴覚を下げる俺を他所に、兵器が動く。目的は、六号への攻撃。

 

「っしゃあ!」

 

 狙い通り! これで少しは時間が稼げ──

 

 る、と続けようとした声は、飛び散る鉄片によって遮られた。

 

「嘘だろ!?」

 

 この兵器類も失敗作とはいえそこそこのスペックは有るはずだ。それがまるでゴミのように刻まれている。まずい、これ全く足止めになって無いぞ!?

 

「冗談じゃねえ! あのくそ博士こんなもん残していきやがって!!」

 

 実戦投入して十分余りある兵器だろコイツ! 何でこんなとこに残してるんだ!

 そんな俺の内心の叫びも無慈悲な機械には当然響かない。完全に無感情な動きが徐々に俺を捉えだした。

 まずい、このままじゃ本気で仕留められる。ええい、やるしかない。でも、ここじゃ無理だ。せめて何か開けた場所じゃ無いと……

 

「どっかに無かったか!?」

 

 今まで見た記憶を探る。今飛び出た兵器の部屋、その前の廊下、培養室、研究室……

 

「あそこ観測室だ!」

 

 ガラス窓から実験兵器を見るための部屋。即ち、窓の向こうは戦闘試験室!

 

「あれが有るなら相当なスペースの確保ができる!」

 

 方向を変える。研究施設の作りはまだ把握出来ていない。ここは戻るのが一番確かだ!

 

「後で相手してやるから大人しくしてろ!」

 

 再び体を小さくし、鎌の間をすり抜ける。おまけに今回はダミー付きだ! そう簡単には見破れないぞ!

 

「おし!」

 

 すり抜け、反対へ。

 すぐ後ろを鎌が両断し、走り抜ける一歩手前に斬撃が走る。

 観測を続け動きを読め。足の出し方を間違えただけで真っ二つだ。

 扉の残骸を飛び越え、斬撃を下に見送る。部屋の瓦礫をミサイルで吹き飛ばし、爆炎を煙幕に駆け抜ける。右腕が飛んだ、即座に掴んで付けなおす。今一から修復している余裕は無い!

 曲がる廊下を壁を走って速度を落とさぬまま突き抜ける。一瞬遅れて直角の角を斜めに切り捨て六号が突っ込んできた。

 あと少し、ほんの五秒あれば付く! 

 だが、そこで俺を壁が阻んだ。

 その部屋は実験室と隣接している。当然、安全は確保済み。俺の火力ではその部屋の壁に穴は開かない。

 

「まあ、俺は無理だが……お前(六号)ならどうにでもなるだろ」

 

 さっきからスパスパ切ってたし、と言った瞬間、豆腐のように壁は切り刻まれた。

 

 実験室、天井付近。

 攻撃を回避した俺の体は宙を舞っていた。着地まで後一秒、その間に六号は俺を仕留めるだろう。

 だが、それは俺が()ならばの話だ。

 

「任せたぞ!」

 

 ブツン、と、意識が落ちた。

 

 

『……現状認識完了、肉体最適化開始、攻撃飛来まで後0.02秒』

 

 回避、容易。

 

 瞬きより早く展開されたブースターがXXXの体を瞬時に接地させる。その後を追って、六号が飛び降りた。

 

『対象測定、空間切断における防御不能攻撃並びに360°の関節可動域を利用した複雑な攻撃。問題なし、

攻撃目標設定、軍事戦闘用サイボーグXXX、戦闘を開始します』

 

 響いた瞬間、武術の達人を思わせる動きでXXXが六号へと接近した。その体は、既に鎌の間合いの内だ。

 重厚な金属音が響き、六号が打ち上げられる。そこに、XXXが照準を合わせた。

 

 爆発音が連続して響く。

 恐るべき速さで構築される武装が矢継ぎ早の攻勢をかける。六号も攻撃を切り裂き防ぐが、手数が到底足りていなかった。

 空に打ち上げられた六号の六本足が足場を求めてわしゃわしゃと蠢くが、放たれ続ける爆発が六号の体を滞空させ続ける。

 そして、六号の体に亀裂が入り始めた。

 

 ピシ、と音が響き破片が飛ぶ。そこへ、無慈悲な縦深貫通榴弾が飛来した。

 

 

「……終わった、か?」

 

 目を開ければ、無残な有様で爆ぜた六号の姿。……これを持って帰ったら探索の成果としては十分だろう。

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