「……疲れた」
どうやら任せていた間の俺は相当に消耗する挙動をしたようだ。全身に倦怠感がのしかかっている。
「何をどれだけ使ったんだよ……」
どうにか持って行こうと四苦八苦する対象の、六号の残骸は見事に内側から破砕されていた。
俺の体は武装も形も自由ではあるが、俺の思考だと十分に使いこなせていない。しかしそれにしても六号をここまで見事に完封した方法は謎であった。
「……まあいいや、生きてるし。コイツ持って先に行こう」
まあそう言っても全部持っていける訳では無い。かさばるし。
適当に何ヶ所か重要そうなところをもぎ取り、成形し、担ぐ。これでまあ、何とかなるだろ。
「さーて出口はどこだろな」
一応またコイツみたいなのが出てきた時用に警戒はしているが、緊張から解き放たれるとどうしても気は緩む。何ならちょっと歌を歌いたい。知ってる歌とか無いけど。
「ここは……研究室だな」
作る物の理論、必要な物、そもそも何を作るのか、何をするのか。そんなことを決める部屋だったはずだ。白い無機質な作りに並んだ机と椅子。研究所にいた時何度か見たことがある。
「……あの博士がいねえのが違和感ある位だな」
アレはどの場所にもいたし、どこでも最も働いていた。目的がイカレてなければ勤勉な人間であっただろう。
「まあ目的が駄目だからくそ野郎なんだが」
人間誘拐して改造するわ培養した人間を使うわ研究員のガキ勝手に改造するわ自分も改造するわ……アレがまともだった覚えが無い。
「頻繁に神だとかなんとか言ってたしな」
扉をこじ開けながら呟く。この先はただの物置のようだ。中身にはどうでもいい小物が入っていた。ここを捨てる時にゴミ捨て代わりにされたのだろうか。
「何か、出るための手掛かりとか無いのか?」
大体ががらんと片付けられており、何か残って居たとしても大抵捨てられたゴミだ。例の培養室にも戻ってみたが、残骸はこれが旧式のオンボロである事を示していた。
「……冗談じゃ無い。ここまでやって出られなくて死にました、なんて嫌だぞ」
部屋は大体見つくした。なら、次は壁をぶち抜く。
「オラ!」
渾身の力を込めて壁を殴れば、重厚な音と共に凹みができる。そこを重点的に殴り続ければ、更に凹みは大きくなり、ゆっくりと亀裂が走った。
「おんどりゃああああああ!!!!」
思いっきり踏み込み、全霊で殴る。ぶちぶちの引きちぎれる音と同時に、何かが割れる硬質な音が響き拳が突き抜ける感触がする。これで壁は貫い…た……
「……嘘だろ」
壁の向こうには壁が、いや、その手前に廊下が見える。おまけに、直ぐ近くでは今俺が空けた穴と似た穴が開いており、いやな予感がして手を入れれば、その穴からは俺の手が覗いた。
「……空間、閉じてんのか」
最悪だ。まともに脱出方法が無い。
何か転送装置などがあれば容易に脱出できるのだが、それ以外では脱出方法がまず無い最悪の可能性。
そして、転送装置はまあ破壊されているだろう。……詰みか?
「……いや、まだだ」
今背に負っている物が存在感を増す。こいつの鎌は空間を断つ、うまい事使えば、脱出も……
「……駄目だ」
無理だ。完全に壊れてる。直し方もさっぱり分からん。バンクとの通信も繋がりはしない、完全に駄目だ。
「……他に、何か」
無い。この施設は隅々まで見た。俺の知識でどうこうなる様な物は無かったし、そもそもこの六号以外脱出に使えそうな物も無い。
「……ええい、ヤケだ。とにかくそこら中の壁全部ぶち破ってやる」
さっきの壁がたまたまだった──そんな可能性はまず無いだろう。だが、たまたまどっかの壁が空間的に遮断されていない可能性もあるのだ。
「よっし、まずはこっから……」
拳なんてまどろっこしい。エネルギー無視で時間効率重視だ。ミサイルで片っ端から吹っ飛ばす!
「発──」
射。
そう続けようとした。だが、その言葉が口から出る事は無い。
何故なら──
「それは止めておいた方が良い。時間とエネルギーの無駄だ」
「何っ……で……」
「何を驚く。ここは私の施設だ。いた所で何もおかしくは無いだろう」
「ふざけんな!」
殴りつけるが、あっさりと躱され距離を取られる。くそ、この野郎、無駄に良い動きしやがって。
「そう激昂するな。今回は助けてやろうと言うのだから」
「テメエに助けられるくらいなら死んだ方がまだマシだ!!」
右腕からミサイルを撃ち、左手をマシンガンに変え乱れ撃つ。更に後方へ下がり、大型の砲を展開。
「ふむ、子供じみた反応だな。とはいえあの時からは成長している。何を使えばいいのかしっかりと理解できているのだから」
響く声には耳を貸さず、ただ淡々と狙いを定める。場所は頭部、威力は山に風穴を開ける程。
爆音を響かせ放たれたエネルギーの砲弾は射線上の全てをかき消し、余波だけで周囲を引き裂いた。固定すら惜しんだ砲身が後方へ押しやられ、体が地から浮き上がる。
ワイヤーを展開し地上へ戻り、広がる煙の先を睨む。
到底これで死んだとは思えない。攻撃の用意をして、油断なく構え……
「中々……と言いたいが、やはり人工知能を使用した方が効率が良いな」
全ての警戒を踏み越え、真直にいた博士に驚愕する。
熱、振動、音、視覚、その全てに反応は無かった。今話しかけられたこの時まで。
「このっ!」
とっさに繰り出した蹴りは、ゴムのような感触に弾かれる。
それは、怪物だった。
白い顔には目も鼻も口も無く、不自然に長い胴からは複数の腕が突き出、足元はぐにょぐにょと蠢く不定形。おまけに放たれる息が詰まりそうな程の威圧感。
明らかに、俺より強い。
「……ふむ、予想外に自分を保っているな。もう少し気圧される物かと思っていたが」
「最近化け物にはよく合っててね」
明らかに俺より強い。
だが、天道さんよりは弱いだろうし、南極での白華よりははるか格下、ゼロエルとの差は最早どれほどあるかも分からない。
今更、委縮なんてしていられるか。
そう考えていると、博士がくつくつと笑った。
「成程、面白い事になっているようだ。
「……何?」
仮説、だと。このイカレ博士、俺が何やら面倒な連中と会うのを予想してたってのか? どうやって?
「まあ、今はその件は置いておこう。今回は純粋にお前を助けに来ただけだとも」
「信用できるか。お前が俺らにした事忘れた訳じゃねえだろくそ野郎」
「別に忘れてはいないとも。戦乱の中捨てられていたお前に改造を施しただけだ。ああ、そう言えばまだ兄弟ごっこを続けているのか?」
「黙れ」
殴りつける。それ以外の事は思い浮かばなかった。
「一応事実を言ったまでだろう? あのZZは研究所で造られた人間だ。お前とは血縁が無い。それと兄弟と呼び合っているのをごっこと言う以外何がある?」
「黙れっつっただろ」
殴る。
「お前は相変わらずその事になると話を聞かんな。まあいい、無駄話もここまでにしておこう。
「……何?」
しまった、と言わんばかりの雰囲気を放つ博士を他所に俺は考える。
俺を助けないと実験に支障が出る。何の?
記憶に有る限り俺はただの
ZZ。
あいつのデータは……
この情報の閲覧には最高位権限が必要です。
あの日見た情報の中の一文が蘇る。俺の生存がZZの実験を進める? 真っ平ごめんだ。
……おかしい、何でまだ
「おいおい、気付いた瞬間にそれか。有効だが……命はもう少し大事にした方が良いぞ」
意識がある? 何故? ……こいつが何かした?
「ふむ、その記憶は消しておこう。ああ、心配するな。お前は助かるさ」
意識が薄れる。やめろ、ZZに何もするな。俺はあいつの……
「あれ?」
……どうなった? 博士が現れてから記憶が無い。……というか、ここは……
「何やってんだお前」
「あ、アダム」
見慣れた顔が直ぐ近くに。いつの間に俺は外に出たんだ?
「お前出たらなんか言えよ役に立たない奴だ」
「ふざけんなお前。あのな、俺は博士にあったんだぞ!?」
「……マジか?」
「残念ながらな!」
記憶が無いのは何かやられたのか? 全くあのくそ博士が!