九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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喪失と前進

 ともかく記憶こそ無いが、帰っては来れている。それに、背中に担いだ六号の残骸もそのままだ。面倒くさい事は手続きを終えてから考えよう……

 

「……それでは、こちら、引き取らせて頂きます」

 

 丁寧な物腰の役員に担いだものの引き渡し処理を行い、帰路に着く。……かなりとんでもない金額が懐に入って来た。五年は遊んで暮らせるぞ。

 

「早く乗れ。送迎が面倒だ」

「あ、すまん」

 

 慌ててアダムの変形した飛行機に乗り込む。内部には席が一つ。貸し切り……では無いな、何か違う。

 腰を掛けると同時に張っていた気が緩むのを感じた。どうも無意識で緊張していたらしい。

 座席に体重を預けリラックスしたところで、記憶の事をアダムに尋ねた。

 

「なあアダム、俺の記憶復旧できない?」

「無理。いくら何でも生身のおつむにそこまで干渉はできねえ」

「お前でも駄目か」

 

 本格的に記憶を取り戻す手段はなさそうだ。ただ、推測は出来る。

 消す、という事は知られたくない何かがあったという事、つまり俺は、あの博士に会ってから奴の知られたく無い何かを知ったという事だ。

 

「何か試してみるか、色々と」

「多分無駄だろうけどな」

「何でだよ、もしかしたらがあるかもしれねえだろ」

 

 俺の言葉に、アダムがこれ見よがしに溜息を吐いた。

 

「あのルキシアの所長だ。確実に対策は取ってる。俺でもアレに踏み込むのは躊躇するぞ、生半可な方法じゃ取り戻せん」

「……一応、やるだけやって見るよ」

 

 博士の厄介さは思い知っている。とはいえ、何もしないよりは良いはずだ。そう考えながら座席を倒し、少し寝ようと……

 

「やるにしても方法はしっかり聞いとけよ。場合によっちゃ廃人になるぞ」

 

 なにそれ恐いんだけど。眠気飛んだぞ。おい。

 

 

 

 

 少々、いやかなり不安な事を言われたが、まあそれに付いてはその時考えよう。取りあえず、今は返ってこれたのだ。

 

「疲れた……」

 

 ぐったりとベッドの上に寝転がる。全身が鉛のように重い、予想以上に疲れている。

 

「……寝よう」

 

 意識をOFFにしようと思ったが、それよりも早く底なしの暗黒へ──

 

 

 階段を上る音が響く。体が重い。背中に人を背負っているからだ。何故? それは……

 

「……なあ、ZZ」

「何?」

「何で俺らこんな事してるんだ?」

 

 分からない。何で俺はZZを背負っているんだ? ただ実験の時に知り合っただけの相手だぞ? それに、この階段は……

 

「忘れたのかよー、XXX」

 

 今脱走中だろ? 

 ZZのその言葉に、忘れていた事が蘇る。

 俺が外からさらわれ、ZZは研究所で造られた事、全身が改造されたサイボーグな事、そして……研究が完成すれば、俺達の脳は人工知能に使われ、ただ結果を出力する装置となる事。

 

「そういやそうだったな。……何で忘れてたんだろ」

「XXXは考えなしな所あるからなー」

「ZZに言われたくない」

 

 一体こいつが何度考えなしに動いて俺に迷惑を掛けたのか。既にその数は二桁じゃ……

 

「二桁……も無いな。アレ?」

 

 知り合ってまだ一年経っていない。いくらZZでもこの短期間に、普段は実験に出ているにも関わらずそんなに迷惑を掛けるのは無理だ。

 

「何だXXX、もう少しで脱出だろ? しっかりしろよー」

「疲れてんのかもな。ZZのミスのせいで」

 

 えー、と言うZZだが、俺は覚えている。

 

「最後の最後でミスしたからな……」

「だったら置いてきゃいいじゃん。ちょっと知り合っただけの他人だし」

「アホ、出来るか。俺はお前の──」

 

 兄貴だぞ。

 

 するりとその言葉が口から出た。ああ、忘れていたのはこれだったのか。

 

「何だ、思い出したじゃん」

「……夢ってここまではっきり見れる物なんだな」

 

 思い出せば色々な事が浮かんでくる。疲れて眠った事、その前に博士に会って記憶を消された事……この後、追撃を受けた事。

 

「ま、そろそろ起きるよ。じゃあな、ZZ」

「じゃーなー」

 

 目の前が光に包まれていく。どうやら目を開けているようだ。そちらへ向けて自然と手が伸び──

 

 

「……ひっさびさの夢だな」

 

 あの時の事ならしっかりと覚えている。だが、夢にまで見るのはかなり久々だ。それこそ、ここ二年は見ていないだろう。

 

「……あの後アダムが助けに来なかったらやばかったな」

 

 脱出間際……いや、脱出後。そこには、博士率いる大部隊がいた。最初っからあの逃走劇は読まれていたのだ。

 そこを唐突に突っ込んできたアダムが蹂躙し、無理矢理詰んでいた盤面をひっくり返した。あの時はアダムに感謝しまくったし、カッコいいとも思ったし憧れた上に、どんな頼みも聞きます、とまで言った。

 ……今はあいつの事を力だけはある暴君傲慢野郎だと思っているが、その時は本当に救世主に見えたのだ。

 

「……よし、ちょっと頑張るか」

 

 あの時の事を見た所為か、モチベーションが上がる。ZZを守るためなら、廃人になる可能性がある位……ある位……まあ、ちょっと、ほんのちょっと許容しよう。

 そんな覚悟を決めて、俺は博士に消された記憶を取り戻す手段を探す事を、目標としたのだった。

 

 

 

「で、それが当面の目標になる訳だが」

 

 何となくと推測だけしか情報は無いが、無くなった記憶は極めて重要な気がしている。それを取り戻すと言うのは悪い事では無いだろう。

 そう思って、俺はZZとアダムにその事を伝えたのだが……

 

「メンドイ」

「勝手に頑張れよ」 

「……お前らもう少し、こう……」

 

 特にZZ、お前にも割と関わる事だと思うぞ?

 

「だってめんどくさいし」

「どうせ無駄だ」

「ぶん殴ってやろうか」

 

 駄目だこいつ等。何の役にも立たない。

 

「そもそもお前、何か当てがあんのか? 俺でも無理な事にお前の人脈で行き当たるとは思えねえが」

「……当てならある!」

 

 そう言って、懐からラッパを取り出した。それを見た瞬間、露骨にアダムが嫌な顔をする。

 

「ゼロエルさんだ!」

「あ、その人知らない! 早く呼んで!」

「もう少しお前は警戒心を持て」

 

 ZZはともかく、アダムが嫌な顔をするのはよく分かる。自分をぼろ雑巾にまでした相手だし、何ならあっさり世界を滅ぼせる程の人だ。どうあがいてもリスクはある。

 

「しかし俺は記憶を戻すためなら世界がちょっとヤバくても良いと考えている」

「算数やり直せ。1と十億どっちがでかい?」

 

 子供に言い聞かせるような口調で馬鹿にしてくるアダムは無視。とはいえ、俺も流石に初手でこのラッパを吹く程馬鹿じゃあない。まずは試せる事全て試してからだ。

 

「という訳で、何かアイデアは無いか?」

「そら」

 

 猛烈な勢いでアダムに頭をぶん殴られた。痛ってえええええ! ふざけんなコイツ!?

 

「テメエ何しやがる!?」

「喚くな。記憶を戻すのに頭部に衝撃を加えるって方法があるんだよ。……で、どうだった?」

「戻る訳ねえだろ!」

 

 当然失敗。次だ次。

 

「はい!」

「ZZ、言ってみろ」

「なんか、アレ。そうまとう? とか言うの!」

「よしやって見るか」

「おいまてそれって確か命の危機に陥った時に何とか」

 

 助けてくれー! 殺されるー!

 

 

 

 

「で、どうだ?」

「……綺麗にそこだけ抜け落ちてた」

 

 マジで走馬灯が見えたのは良いのだが、肝心なところが黒塗りでもされたように見えなかったのだ。予想通りではあるが、博士がやったことは相当頑強なようだ。

 

「じゃあ次は天道辺りでも呼んでみるか」

「いえーい!」

「お前らもう目的変わって無いか!? しかもさっきまであんなにやる気無かったくせに!」

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