「さてXXX、始める前に何か言う事は?」
「人権団体を呼んでくれ、サイボーグ当たりの」
手術台みたいなのに鎖で縛りつけられた状態はそう言うとこに声を上げたら一発で裁判沙汰になると思うから。
「天道さーん、兄貴の事なので容赦はしなくていいぜ!」
「よし、そう言う事なら全力でやろう」
「やめてください! 死ぬ!」
天道さんの持ってるそれなに!? 何そのでかい瓢箪!? それをどうするつもりだ!?
「取りあえずまずこの中に入っている酒をぶっかける。すると魂が出てそこに質問をすれば本人の知らんことも割と答えられるという訳じゃ」
「あの!? 魂とか聞こえたんですけど!?」
不安しか無いし絶対ヤバいから止めてほしい! マジで!
「成程。確かに魂の領分まではあの博士でも干渉できていない可能性はある。おいXXX、良かったな、可能性はあるぞ」
「その可能性は死と隣り合わせの可能性だ!」
マジで止めて!?
恐怖に駆られて鎖を引くがまるで離れない。一体何で出来ているんだ!?
「俺の作った鎖だ、諦めろ。
では、天道、やってくれ」
「よし、それじゃあの」
「ああああああああああ!!!!」
失神したXXXからひもが伸び、そこに半透明の人型が繋がっている。その姿は、大元であるXXXとそっくり同じであった。
「それじゃあ質問だ。お前の一番聞かれたく無い事はなんだ?」
初手でXXXの秘密を握ろうとするアダム。そんな質問にも、今のXXXは答えてしまう。
「研究所にいたころ……生身の時代に寝小便をした事……」
「成程」
答えを自身の記憶領域に刻みつけ、アダムは質問順をZZに回す。
「それじゃあ、兄貴の大事にしてること」
「ZZと……遊んだ事」
兄貴って結構そういうの大事にするんだな、と言ってZZは天道に回す。
「私が聞くことは特に無いんじゃが……まあ、これで良いか。
人生で最も強いと思った相手は誰じゃ?」
「ゼロエル」
ううむ、と答えに唸る天道。
そこでしたい質問が大体終わったので、ようやくアダムが確信へ触れる質問をした。
「昨日の研究所探査、博士から何を聞いた?」
「……データ削除済み、回答不能」
無機質な声が響く。
その声にZZはビクっと体を震わせ、アダムは眉を顰め、天道は首を捻った。
「おかしいの。知っとる事なら本人が忘れても答えるはずじゃが……魂の域で記憶を消された? ありえるのかのう」
純粋に疑問に思う天道の隣で、アダムは何かに焦る様子を見せていた。
「あの博士、もうそこまで……さっさと見つけねえと……」
一方のZZは少し怯えた様子でXXXを見ていた。
「……なあ、そろそろ戻さねえ?」
「あー、そうだな。もう聞きたい事も無いし」
それでは戻すか、と天道が別の酒をXXXに浴びせかける。
するすると魂はXXXの内へ戻って行った。
「……どうだった?」
「駄目だな、魂からも消されてた」
ううむ、駄目か。というか、魂から記憶が消えるって何だ? 何したらそうなるんだ? そもそも魂とは?
「そんなもん考えても答えでねえぞ。さっさと切り替えて次だ」
「まあそう……次?」
え、何、次あんの? 何で?
「という訳で、極。出番だ」
『ああ、任された』
肌寒い冷気を纏い、青白い人型が出現する。極さんだ。
『まずお前の体を冷やす。そしてその温度が絶対零度を下回った時エントロピーが逆転し、過去を一時的に覗けるようになる。分かったか?』
「すみません危険という事しかわかりません」
絶対ヤバい。というか絶対零度以下って何? そんな物質あるの? 何?
『まあ説明よりもした方が早いか。おい、アダム。もう始めても良いのか』
「良いぞ」
「おいこらてめえ!」
俺の、俺の許可を! 俺にまず許可を取れ!
そんな思考も全身が冷えるに従いどこかへ……
『さて、これで見えるようになったはずだが……アダム、記憶は覗けるか?』
「問題ない」
アダムがそう言った瞬間、空中に映像が投影される。しかし、それはノイズのような音声とただ真っ黒な映像が映っているだけであった。
「……おい、できてんのか?」
『おかしいな。時間はこの辺りであっているはずだが……』
極が何度かXXXに触れ、温度を調整するが一向に映像は映らない。
アダムが試しに他の時間にしてみろ、と言い極が変えると途端に映像が映った。
「これあいつの研究所時代だな」
映像内では無数の兵器群を相手に戦うXXXの姿が。
遠方からミサイルを放ち、それを盾に突っ込み近接戦を仕掛ける。兵器の攻撃は装甲を作り弾き、XXXの攻撃は角度、タイミングによってリアルタイムの変化を繰り返し最適な威力で持って相手を破壊した。
「こっちは問題なく映る、と。……消去したにしても桁違いだな。時空間にまで干渉するか」
呆れの籠った声色でアダムが言い放つ。いくら何でもここまで偏執的とは思っていなかったのだ。
「ただまあ、あいつの読みは当たりだな。ここまでして隠すんなら、重要な情報もあるだろ」
そう言って、アダムは極にXXXを起こすよう指示を出した。
程なくして、温度はさがりXXXは目覚める事になる。
「で、どうだった」
「駄目だな」
また駄目か。あの博士一体何を隠したんだ? よっぽどヤバい事だとは思うが……
「……遂にこれに頼る事になるのか」
取り出したそのラッパに、アダムが体を強張らせ、天道さんが眉間に皺を寄せ、極さんが一歩距離を取った。
俺の知り合いの中でも最大の規格外。ゼロエルを呼ぶためのラッパだ。
「……じゃあアダム、吹くぞ」
「……ああ」
大きく深呼吸をして、息と覚悟を整える。そうして、俺はラッパに息を吹き込んだ──
直後、光が落ちる。
視界を埋め尽くす純白の奔流、体を叩く清らかなオーラ、それに加えて感じる衝撃、思わず閉じた目を開けば、眼前には天道さんより低い背に、凄絶な笑みを浮かべた厄災の姿。
「あー、何か用か?」
天使ゼロエルがそこにいた。
「……実はですね」
出来るだけ腰を低くして状況を解説する。背後ではアダム達が臨戦態勢を整え、暴れだしたゼロエルに備えようとしているが……まあ、この人が暴れたら色々と無駄だとは思う。
「へえ、んで記憶を。へえ……」
薄ら笑いを浮かべたゼロエルがこちらをジロジロと覗く。……めっちゃ怖い。見た目がほぼ幼女なのに纏ってる雰囲気がやばい。何か死を覚悟する。
「……これは俺にも無理だな」
「えっ」
思わず声が出る。
ゼロエルで無理? マジで? 一体何をされたんだ?
「俺はこういうのそこまで得意じゃあねえからな。無理に引っ張り出せって言うならやるが、多分お前は壊れるぞ」
「しなくて大丈夫です」
……うん、割とヤバい事になってるのは分かった。
と言うか本気で何したんだあのくそ博士。人の記憶を弄りやがって。
「一応知り合いにそう言うのに中々強い奴がいる。そっちに当たって見ろ」
そう言って、ゼロエルが紙を取り出し何かを書き記す。頼みの文言でも書いているのだろうか。
「これ見せたらやってくれるだろ。場所はこの手紙に従うといい。それじゃあ、また会おう」
言うだけ言ってゼロエルは上空に飛び立って行った。
……さて、俺は一体どこの誰に会う事になるのだろう。正直怖い。
ゼロエルの知り合いとやらが、あの天使以上に無茶苦茶だったりしたらその時点で色々アウトだし、そうでなくても何かミスをしたら消されそうだ。まず間違いなくゼロエルに近い存在ではあるだろうし。
「どうすんだ、お前。一応その手紙から信号みたいなのが出てる。たどれば先まで行けるぜ」
「…………行く」
危険ではあるだろうが、行かない、と言う選択肢は無い。もしかするとこの記憶にZZの身の安全を脅かすような物があるかもしれないのだ。というかあの博士の事だからそっちの可能性の方が高い。
選択肢は、行く一択だ。
「それじゃあ出発だな」
「ああ」
「いえーい」
「私らも付いて行っていいかの」
『私もだ。興味がある』
……とんでもない事になりそうだ。