地割れが広がり、噴煙が立ち上る。
怒号に悲鳴、その中心に居る影は……
「……天道さんだ……」
俺の目の前、宮殿のような建物の上で高笑いを響かせる小柄な姿。見慣れた天道さんの姿だ。
「あの糞間抜け共何やってんだ」
アダムが吐き捨てる。が、正直割とその感想は出ても仕方がない。明らか駄目だろ、コレ。
「……取りあえず、あれだ。変装するぞ。あの人らとは他人だ」
「分かった!」
適当に服を変え、サングラスをかけて誤魔化してみる。付け焼刃ではあるが、あの人らは多分これで大丈夫だろう。これで隠れていてもあの人らから俺らが関りがある、と言われる間抜けな展開は回避できる。
さて、次は今後の展望だが……
「……どうする?」
「どうするってもな。今目的地に行ける状況じゃねえだろ。適当に辺りの奴に色々聞いて情報収集でもしたらどうだ?」
……アダムの言う通りではある。しかし、ここが何か、どこかをさっぱり知らない状況且つ、一応知り合いが暴れている状況で周囲と下手に関わる、というのも中々のリスクだ。
「……さっきの内に聞いとけばよかったな」
一応それならまだ挙動不審にはならなかったかもしれない。秘密を隠すのはちょっと苦手だ。
「取りあえず、アダム。お前は情報収集に動くな。誰と話しても揉めそうだからな」
そう言ってZZと共に街へ繰り出す。自覚しているのかアダムから反論は飛んでこなかった。
「魔界ですか」
「魔界だよ。むしろどこにいたと思っているんだね」
聞き込みを始めて五分後。警察に捕まった。正確に言うなら不審人物として質問をされている最中だ。
「てっきり避暑にでもきてしまったのかと」
「場所も分からないところに、知らない内に避暑をしに行く程暑さに悩まされているならまず病院に行ったほうがいいと思うが……」
正論だ。俺だってそんな人を見かけたら暑さで頭をやられたと思うだろう。
「そもそもここは得に涼しく無い。君のような
これも正論だ。割と全体的に気温は高いしアダム曰く魔力が濃くて毒になっている。俺が生身なら危なかっただろう。
「という訳で、君は完全な不審人物になる。しかし……」
何でまた人間がこんなところに……と言う彼の頭には、角が生えていた。
人間では無いだろう。と言うか、ここが魔界だと言い、この姿だと一つの種族しか思い浮かばない。
悪魔だ。
滅多に見ない種族な上、断片的な容姿が伝わっているだけでバンクにも情報が余り乗っていない。少なくとも、こんな大都市を築いているとの情報は無かった。
「
お巡りさんが困ったように呟いた。どうやら人間がここに来るのはかなり対応に困る事の様だ。
しかし、残念ながら俺はただの人間では無い。
『ZZ、そっちは?』
『おれは大丈夫! 何か今通気口の中!』
警察に見咎められる寸前、ZZを手近なところに押し込んだ。ビルの排気口だったが、ZZの粒子状の体であれば自由に動け、情報収集も容易だろう。
『こっちはお巡りさんともう少し話すことになりそうだ。頑張ってくれよ』
わかったー! と無邪気に答えるZZとの通信を切り、悩むお巡りさんに意識を戻す。さて、ここからどうなるか……
「今はただでさえ王宮に侵入者が……君、もしかしてその侵入者と関りがあったりしないよね?」
「無いです」
じーっとお巡りさんが俺の目を見てくる。だが、関りは無い。無いったら無い。
いやまあ、実際には有るのだが、今の俺からその関りを見つけるのは至難の業だ。
何故なら、体の反応をオフにしているから。
意識を体の状態に反映させていない、感覚的にはロボットに乗り込んでいるような状態。今の俺から何かを読み取るのはプロの心理学者でも不可能だ。
「……うーん。うん。取りあえず君、一旦署まで来てくれるかな。君がどこから来たのか色々と調べないと」
天道さん周りでは大丈夫だったようだが、そもそも普通に不審者であった。……どうする? 大人しく連れられるか、逃げるか……
悩むところではあるが、そもそも情報収集だけなら誰からでもできる。寧ろ、人と話すことになるであろう署の方が良いのでは無かろうか。
「分かりました。付いて行きます」
そう言って俺は、お巡りさんに付いて行くこととなった。
……こっそりとアダムに通信を送ってから。
「……何やってんだ、あのアホ」
ビルの上、都市全体を睥睨する高みにてアダムが呟いた。原因は、届いた通信。
XXXから送られてきたそれは、不審者として警察に捕まった、と言う物であった。
「間抜け二人と結果が一緒じゃねえか」
視線の先には破砕音と共に崩れる王宮が。未だに天道と姦は暴れている。
ハア、とため息を吐いたアダムが背より広げたアンテナを見る。情報はこちらで集めている。だが、どうしてもいくつかの事が分からない。
十王とそのさらに上。それこそが今アダムの把握できていない情報の中心だ。
この魔界、この中央都市以外にも複数の街があり、その一つ一つを王が収めている。その数が十であり、十王と呼ばれている。
そしてその更に上、魔王と呼ばれる存在。これが一。
この全員が探査に引っかからない。
この都市にいないのか、とすら疑ったが、明確にこの都市からは強大な力が放たれている。
しかし、その力がどこにいるか、は杳として分からず、更に……
「数が合わん」
自分より一歩譲る者が十。これは良い。恐らく十王だ。
だが、同格が四。このうち一つを魔王と仮定するが、それでも三余る。
そして、上の一。完全に不明だ。いる事は分かるが、力が最も分かり辛く、位置を探ることがまるで出来ない。
アダムは全域を視覚的、エネルギー的に探査しながら、強引にそれらの存在を見つけ出そうとしていた。
極めて手間のかかる手段ではあるが、有効。都市の住人一人一人を調べれば必ず見つかるという単純な理論。
その作業の只中にあるアダムに、声が掛かった。
「へーい、なにしてんのー?」
瞬時に振り向き、聞こえて来た背後を薙ぐ。大陸だろうと揺るがす一撃は、しかし空をきり、振り向いたアダムの背から拍手と、軽口が響いて来た。
「いやー強い強い。ひっさびさの帰省中にまさかこんなのと出会うとは! あれだね、うん……あれだ!」
上手い言い回しを思いつかなかったのか、声の主は強引に言葉を締めた。
アダムは再び振り向き、そちらを見る。
「……何だ、お前」
それは人の形はしていた。
女性、年齢は二十歳程、背は百六十センチ、体重は不明。
しかし、醸し出す雰囲気と、表情のいびつさが到底人では無いと伝えてくる。
「何だとは失礼なー。666だよ、よろしく」
くるくると空中でその場で側転するように回りながら声の主──666は言い放った。
同格
アダムの電子頭脳にその二文字が浮かぶ。
「……敵か? こっちに攻撃してこないなら見逃すが」
「そっちから攻撃しといてそれは酷いんじゃないかなー。まあいいけど」
面白そうな奴がいたから見に来ただけだよー、と言って666はその場を立ち去り……直後、アダムに攻撃が飛んだ。
「……見に来ただけじゃねえのか?」
飛来した闇色の光線を盾で防ぎ、アダムが問う。それに、あっけんからんとした様子で666が答えた。
「
そうかよ、とアダムは言い放ち兵装を作る。直後、厄災が衝突した。