九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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不吉な予感

 何やら途轍もない音が響き建物が揺れる。パラパラと天井から埃が降って来た。……何となく、さっきのは衝撃の方向が違う気がする。

 

「またか……衛兵は何をやっとるんだ」

 

 上を見上げ、不安の混じった表情でお巡りさんが呟いた。正直、あの二人を止めるのに衛兵は力不足過ぎると思う。アダムの言っていた、同格或いは格上でないとどうにもならないだろう。

 

「おっと、すまんね。それじゃあ、今後の君をどうするかだが……」

 

 警察の側でも俺をどうするかは決めあぐねているようだ。

 一応俺はただの人間(という事にされた)、その上でどうしてここに来たのかも不明。となると普通ならそのまま返して終わりらしいのだが、ここで問題が起きた。

 侵入者──天道さんと極さんの存在だ。

 万が一にでも俺が関りがあった場合、そのまま解放、という訳にはいかなくなる。そのため、取り調べをして関わっているのかいないのか確認を取っている、という訳だ。

 

「うーん、本当に関係ないんだね?」

「はい。ちょっとその侵入者に心当たりは無いですね……」

 

 大嘘である。だが、正直に答える訳にはいかない。

 幸い向こうは俺の嘘を見抜く手段は無いようだ。となると、警戒すべきは侵入者二人に引き合わされる事なのだが、あの二人を捕らえるのはまず無理だろう。

 つまり、俺はここで関係ないと言い張り続ければいいのだ。

 うーん、簡単な事だ。

 

「それじゃあ、ちょっと……」

 

 ゴン、と音を立てて何かが机の上に置かれた。これは……

 

「この嘘発見器に向かって言ってくれるかな」

 

 ……やってやろうじゃねえか!

 

 

 

「いやっほう!!」

 

 歓声を上げて666がアダムの攻撃を避ける。直後、背後の空間がねじ切れた。

 

「避けてんじゃねえよ」

 

 反撃の目玉を叩きつぶし、アダムが舌打ちをした。それを聞いて666がけらけらと笑う。

 

「この私に言う事を聞かせるなんて無謀だぜ! いえい!」

 

 直後、背後に魔法陣が浮かび無数の触手がアダムへ突き出される。

 迫るそれをレーザーが切り払い、破片を突き抜けミサイルが進む。それを、闇色の盾が防いだ。

 

「ふはははは! 魔王とも互角の私にその程度が効くかな!」

 

 無数としか表現しようのない闇の雷が降り注ぎ、アダムはそれを喰らいながらも体積を増やし、兵器を増設し続ける。

 大砲、銃、ミサイル、レールガン、熱線、空圧、反重力。

 広げられる膨大な兵装がおびただしい規模の攻撃を放ち、それが闇雷と衝突し大爆発を引き起こした。

 広がる爆炎に紛れ、アダムは自身のエネルギーの上限を外す。

 

「LV2移行、撃滅開始」

 

 ガシャン、と音を立てアダムが増える。

 膨大極まるエネルギーが自身の複製すら可能とした。

 だが。

 

「こっちも負けねー!」

 

 ぶわり、という勢いでもって666が増殖する。その数、百以上。その一体一体が元と同じ力を有している。

 数の衝突、破壊の連鎖。

 増殖する兵器の群れが増え続ける666を砕き、広がる666が兵器を飲み込む。

 陣取り戦のような戦いは、時間と共にその規模と速度を増幅させていく。

 都市の一角、その上空で行われた戦いは、いつしか都市の空を覆い、果ては地平の果てを埋め尽くしていた。

 

「うじゃうじゃと……虫かテメエ」

「わはははははは! 虫ならあれだ、私は蜘蛛が好きだね」

 

 砲火の雨を自分の傘でしのぎ、666が突貫する。標的は兵器群の中央、そこにいるアダム。

 狙い過たず着弾するが、それがアダムの全てでは無い。

 

「おう、これ全部?」

 

 地球の十倍の表面積を持つ魔界、その空の半分近くを埋めたアダムの兵器。その全てが、アダムの一部にして、アダムを形作る全てだ。

 

「うわメンド、えーこれどうしよ」

 

 雑な言葉とは裏腹に、666の対応は極めて正確だ。

 

 自身を、更に増やす。

 

 入道雲のように666が立ち上る。本来の雲と違い、形作る水滴の一つ一つが人間大の666で造られた異様な積乱雲が、兵器へと殺到した。

 

 闇の雷が奔れば、それを砲撃が打ち砕き、その砲台を暗黒の槍が貫く。

 両者の戦いに制限は無い。

 如何なる状況にも対応しうる兵装を作り上げ続けるアダムと、膨大で持って状況を塗り替え続ける666。規格外たる二人の戦いに、ゆっくりと変化が訪れる。

 

「ん? あれ、これ、私負けてね?」

 

 じりじりと。だが、確実に。

 666が押し込まれる。

 理屈は単純、物量で負けているからだ。

 

「へいへーい、そっち多くね? 私でも今これ割ときついんだけど?」

 

 666の言葉を意に介さず、アダムは兵器を更に展開する。

 砲身が二キロは有るレールガン、一撃で天体を吹き飛ばす反物質爆弾、大陸をかき消すエネルギー砲、時空間を断裂させ相手を引き裂く剣。

 恐るべき兵器たちが膨大な規模を持って広がり、666の洪水を押し流していく。

 徐々に、徐々に。

 戦況は傾き、666達は押し込められる。

 拮抗はとうに崩れ、既に666の領域は初めの都市程度まで縮められた。逆転は、無い。

 

 6()6()6()()()()()()()()()

 

「……?」

 

 アダムの目の前で、666が崩れる。 

 不定形に、冒涜的に、非現実的に、どこまでも。

 

「ほひhきおうおういうぃうぃおいあおほはおはおhふぉhふぉはおphwphふぃhふぃうh、Enter」

 

 言語は意味を超越し、放つ当人にも理解は出来ず。ただ、力が膨れ上がる。

 

「……化物だな」

 

 身体にうかぶ無数の目、牙の付いた紐のように広がる体。完全なる異形へ変貌した666が、アダムへと迫った。

 

 

 

 

「やばいぜ、ヤバい」

 

 一方のZZはどこかの建物のダクト内を移動していた。定期的にあるファンや、フィルターも粒子化できる彼には関係ない物ではあったが、体の操作に疎いZZはその度に少しずつ自分の体積を減らしていた。

 

「何かエネルギーがあったら戻るんだけどなー」

 

 既に体は四分の三ほどまで縮んでいる。このままのペースだと、後二十回ほど体を粒子に変えればZZは動けなくなるだろう。

 だが、ZZにそれを計算できる頭脳は無い。ただ漠然とまずい、という焦りがあるのみだ。

 

「何かここ通信繋がらないし……」

 

 XXXに助けを求められない状況下ではあるが、ZZは進むのを止めない。彼本人の気質は迷ったら取りあえず進むと言う物だ。

 

「どっかにコンセントとか無いかなー」

 

 ダクト内に無い物を探してZZは進む。一応しっかりと見える場所は確認しながら。

 と、ダクトの下部が網状になり、そこから部屋が覗けるようになっている。ZZはすぐさまそこから部屋を見た。

 

 ZZに知識があれば、そこが事務室だと気付けただろうが、そんな知識は無い。ただ、人が数人詰めている部屋だと認識しただけだ。

 

「うーん、コンセントも無かったし、変わった部屋でも無いし……なんか悪の親玉みたいな部屋ねーかな」

 

 ごそごそとダクト内を移動しながらぼやいたZZの目線に、一つの部屋が入る。

 全体的に薄暗く、そして妙に広い。

 部屋の底は奈落のように広がり、一本の足場を除いて中央への道は無い。

 そして、中央。円形に広がる浮遊した足場には、一つの椅子があり、その上では一人の女性が頬杖を突き、座り込んでいた。

 

「悪の親玉だ……」

 

 ZZの脳内イメージと完璧に一致する存在が目の前に現れた事により、彼のテンションが上昇する。しかし、それで冷静さが失われる事は無い。何故なら──

 

「……ふむ」

 

 ぶわ、とZZの全身から汗が噴き出した。

 そんな機能のある肉体では無い。だが、余りにも圧倒的な威圧感が脳にそれを選ばせた。

 

「何か、ネズミが入り込んだか……」

 

 ネズミじゃなーい、と脳内で叫びながらZZはこっそりと体を動かす。

 下へ。

 全身を粒子に変え、網状の蓋を通り抜け、部屋の内へ。即ち、威圧感の主に直接相対する場所へ。

 何故か。それは、部屋を探っていたZZが見つけた物にあった。

 

(コンセントあった!)

 

 中央の足場、そこの隅。余りに場違いではあるが、コンセントが据え付けられていた。

 ZZはそこへ向けて進む。全身を煙の領域で細かく、目視出来ない程にしながら。

 見つかればよくない事になる。ZZでも十分に分かる気配を、部屋の主は醸し出していた。

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