何やら途轍もない音が響き建物が揺れる。パラパラと天井から埃が降って来た。……何となく、さっきのは衝撃の方向が違う気がする。
「またか……衛兵は何をやっとるんだ」
上を見上げ、不安の混じった表情でお巡りさんが呟いた。正直、あの二人を止めるのに衛兵は力不足過ぎると思う。アダムの言っていた、同格或いは格上でないとどうにもならないだろう。
「おっと、すまんね。それじゃあ、今後の君をどうするかだが……」
警察の側でも俺をどうするかは決めあぐねているようだ。
一応俺はただの人間(という事にされた)、その上でどうしてここに来たのかも不明。となると普通ならそのまま返して終わりらしいのだが、ここで問題が起きた。
侵入者──天道さんと極さんの存在だ。
万が一にでも俺が関りがあった場合、そのまま解放、という訳にはいかなくなる。そのため、取り調べをして関わっているのかいないのか確認を取っている、という訳だ。
「うーん、本当に関係ないんだね?」
「はい。ちょっとその侵入者に心当たりは無いですね……」
大嘘である。だが、正直に答える訳にはいかない。
幸い向こうは俺の嘘を見抜く手段は無いようだ。となると、警戒すべきは侵入者二人に引き合わされる事なのだが、あの二人を捕らえるのはまず無理だろう。
つまり、俺はここで関係ないと言い張り続ければいいのだ。
うーん、簡単な事だ。
「それじゃあ、ちょっと……」
ゴン、と音を立てて何かが机の上に置かれた。これは……
「この嘘発見器に向かって言ってくれるかな」
……やってやろうじゃねえか!
「いやっほう!!」
歓声を上げて666がアダムの攻撃を避ける。直後、背後の空間がねじ切れた。
「避けてんじゃねえよ」
反撃の目玉を叩きつぶし、アダムが舌打ちをした。それを聞いて666がけらけらと笑う。
「この私に言う事を聞かせるなんて無謀だぜ! いえい!」
直後、背後に魔法陣が浮かび無数の触手がアダムへ突き出される。
迫るそれをレーザーが切り払い、破片を突き抜けミサイルが進む。それを、闇色の盾が防いだ。
「ふはははは! 魔王とも互角の私にその程度が効くかな!」
無数としか表現しようのない闇の雷が降り注ぎ、アダムはそれを喰らいながらも体積を増やし、兵器を増設し続ける。
大砲、銃、ミサイル、レールガン、熱線、空圧、反重力。
広げられる膨大な兵装がおびただしい規模の攻撃を放ち、それが闇雷と衝突し大爆発を引き起こした。
広がる爆炎に紛れ、アダムは自身のエネルギーの上限を外す。
「LV2移行、撃滅開始」
ガシャン、と音を立てアダムが増える。
膨大極まるエネルギーが自身の複製すら可能とした。
だが。
「こっちも負けねー!」
ぶわり、という勢いでもって666が増殖する。その数、百以上。その一体一体が元と同じ力を有している。
数の衝突、破壊の連鎖。
増殖する兵器の群れが増え続ける666を砕き、広がる666が兵器を飲み込む。
陣取り戦のような戦いは、時間と共にその規模と速度を増幅させていく。
都市の一角、その上空で行われた戦いは、いつしか都市の空を覆い、果ては地平の果てを埋め尽くしていた。
「うじゃうじゃと……虫かテメエ」
「わはははははは! 虫ならあれだ、私は蜘蛛が好きだね」
砲火の雨を自分の傘でしのぎ、666が突貫する。標的は兵器群の中央、そこにいるアダム。
狙い過たず着弾するが、それがアダムの全てでは無い。
「おう、これ全部?」
地球の十倍の表面積を持つ魔界、その空の半分近くを埋めたアダムの兵器。その全てが、アダムの一部にして、アダムを形作る全てだ。
「うわメンド、えーこれどうしよ」
雑な言葉とは裏腹に、666の対応は極めて正確だ。
自身を、更に増やす。
入道雲のように666が立ち上る。本来の雲と違い、形作る水滴の一つ一つが人間大の666で造られた異様な積乱雲が、兵器へと殺到した。
闇の雷が奔れば、それを砲撃が打ち砕き、その砲台を暗黒の槍が貫く。
両者の戦いに制限は無い。
如何なる状況にも対応しうる兵装を作り上げ続けるアダムと、膨大で持って状況を塗り替え続ける666。規格外たる二人の戦いに、ゆっくりと変化が訪れる。
「ん? あれ、これ、私負けてね?」
じりじりと。だが、確実に。
666が押し込まれる。
理屈は単純、物量で負けているからだ。
「へいへーい、そっち多くね? 私でも今これ割ときついんだけど?」
666の言葉を意に介さず、アダムは兵器を更に展開する。
砲身が二キロは有るレールガン、一撃で天体を吹き飛ばす反物質爆弾、大陸をかき消すエネルギー砲、時空間を断裂させ相手を引き裂く剣。
恐るべき兵器たちが膨大な規模を持って広がり、666の洪水を押し流していく。
徐々に、徐々に。
戦況は傾き、666達は押し込められる。
拮抗はとうに崩れ、既に666の領域は初めの都市程度まで縮められた。逆転は、無い。
「……?」
アダムの目の前で、666が崩れる。
不定形に、冒涜的に、非現実的に、どこまでも。
「ほひhきおうおういうぃうぃおいあおほはおはおhふぉhふぉはおphwphふぃhふぃうh、Enter」
言語は意味を超越し、放つ当人にも理解は出来ず。ただ、力が膨れ上がる。
「……化物だな」
身体にうかぶ無数の目、牙の付いた紐のように広がる体。完全なる異形へ変貌した666が、アダムへと迫った。
「やばいぜ、ヤバい」
一方のZZはどこかの建物のダクト内を移動していた。定期的にあるファンや、フィルターも粒子化できる彼には関係ない物ではあったが、体の操作に疎いZZはその度に少しずつ自分の体積を減らしていた。
「何かエネルギーがあったら戻るんだけどなー」
既に体は四分の三ほどまで縮んでいる。このままのペースだと、後二十回ほど体を粒子に変えればZZは動けなくなるだろう。
だが、ZZにそれを計算できる頭脳は無い。ただ漠然とまずい、という焦りがあるのみだ。
「何かここ通信繋がらないし……」
XXXに助けを求められない状況下ではあるが、ZZは進むのを止めない。彼本人の気質は迷ったら取りあえず進むと言う物だ。
「どっかにコンセントとか無いかなー」
ダクト内に無い物を探してZZは進む。一応しっかりと見える場所は確認しながら。
と、ダクトの下部が網状になり、そこから部屋が覗けるようになっている。ZZはすぐさまそこから部屋を見た。
ZZに知識があれば、そこが事務室だと気付けただろうが、そんな知識は無い。ただ、人が数人詰めている部屋だと認識しただけだ。
「うーん、コンセントも無かったし、変わった部屋でも無いし……なんか悪の親玉みたいな部屋ねーかな」
ごそごそとダクト内を移動しながらぼやいたZZの目線に、一つの部屋が入る。
全体的に薄暗く、そして妙に広い。
部屋の底は奈落のように広がり、一本の足場を除いて中央への道は無い。
そして、中央。円形に広がる浮遊した足場には、一つの椅子があり、その上では一人の女性が頬杖を突き、座り込んでいた。
「悪の親玉だ……」
ZZの脳内イメージと完璧に一致する存在が目の前に現れた事により、彼のテンションが上昇する。しかし、それで冷静さが失われる事は無い。何故なら──
「……ふむ」
ぶわ、とZZの全身から汗が噴き出した。
そんな機能のある肉体では無い。だが、余りにも圧倒的な威圧感が脳にそれを選ばせた。
「何か、ネズミが入り込んだか……」
ネズミじゃなーい、と脳内で叫びながらZZはこっそりと体を動かす。
下へ。
全身を粒子に変え、網状の蓋を通り抜け、部屋の内へ。即ち、威圧感の主に直接相対する場所へ。
何故か。それは、部屋を探っていたZZが見つけた物にあった。
(コンセントあった!)
中央の足場、そこの隅。余りに場違いではあるが、コンセントが据え付けられていた。
ZZはそこへ向けて進む。全身を煙の領域で細かく、目視出来ない程にしながら。
見つかればよくない事になる。ZZでも十分に分かる気配を、部屋の主は醸し出していた。