まずい。
まずいぞ、これ。
眼前に有る噓発見器、これをどうやって誤魔化すか。
今、俺の脳はフル回転している。
通常の機器類なら何も問題は無い。だが、この機械が通常に見えるなら病院に行った方がいいだろう。
この、なんか脈打って呼吸音がちょっと聞こえるこれが、通常の機械に見えてたまるか。
「それじゃあここに手をのせて、それでこっちの質問に答えてくれたらいいから」
取り合えず言われたままに動いてはいるが、どうするか。
嘘発見器の手合いにも種類は有る。脳波測定だの脈拍だの。確実な部類は思考監査だが……目の前のこれが何なのか判断しないと、対策が出来ない。
取りあえず対策不能の思考監査は置いておく。アレは無理だ。
となると脳波や脈拍、声の揺らぎ等の身体変化からだが……
「それじゃあ……君は、どうやってここに来たのか分かるかな?」
「イイエ」
俺の答えに、お巡りさんが装置を覗き込んで軽くうなずいた。……多分大丈夫だとは思う。
種は簡単だ。
事前に指定した行動を実行するだけ。そこに俺の意思も反応も介在しない。……とはいえ、俺はこういうのの専門家ではない。どうしたって棒読みになってしまうし、簡単な物しかできない。
「うん、次は……君は、今の侵入者と関りがある?」
「イイエ」
再びお巡りさんが装置を覗いて、頷いた。……どうだ?
「うん、大丈夫。君はただの人だ」
ほっ、と口から安堵の声が漏れる。どうやらごまかせたようだ。
……しかし、一体何を使っていたのだろう。聞いてみるか。
「あの、これって一体どうやって判定してるんですか?」
「ああ、これか。……うーん、終わったし、言ってもいいかな。
これ、使用者の精神を読み取るんだよ。嘘は絶対に付けないようになってるから、君の言葉に信頼は十分持てる」
……あっぶね。多分これアレだ、俺が引っ込んでプログラムが表に出てたからギリギリ引っかからなかった奴だ。あっぶね。
しかし、これで何とかしのぐことが出来た。やっと本来の目的に……
「それじゃ、少しの間ここに居てくれ。その間に君の帰還の用意を整えるから……」
……ん? あれ、これ、まずくね?
「ぎうhすっはっがっがっががががすあしえれjふぃじlllkkjんkshふぃはい」
どうあがいても言語にならない何かを響かせ、666が膨れ上がる。アダムの攻撃も、一切意に介さずに。
「面倒な!」
アダムそのものを呑まんとする666を削り、吹き飛ばし、消滅させ、押し返す。
兵器群が666に触れる傍から崩れ去り石化し腐り落ち、その上から更なる猛攻を加え無理矢理にダメージを与える。
だが、それでも666に限界は訪れない。
最早知性も理性も感じられない異常な挙動を繰り返し、それでも尚アダムを着実に追い込んでいく。
単純極まる力押しではあるが、有効。策にはめようにも、ここまで単純な挙動であれば策自体が機能しない。
「ひjひおpっきおいういうおうおほいひぃおひょういおぎおうgばういふやわwゆゆwゆいいry」
広がり続ける肉塊がアダムの兵器群を押しつぶし、呑み、さらに広がる。どれ程の兵器を並べ立てようとも、一切止まりはしない。
食われながらも仕込んだエネルギー吸収爆弾。それは、仕留めうるものでこそ無いが、明確に666の体を大きく削り飛ばした。
「いい加減くたばれや」
ここぞとばかりに兵器群が集中砲火を始める。焼き、消し、潰し、削り、その上から機械が覆う。
広がり続ける666を、更なる出力で押しつぶすがごとく。
無尽の増殖、無尽の展開。互いに策は無く、単なる殴り合いにも似た出力だけの勝負。
制したのは──
ぎゅるり、と音を立て666の肉体が次元を貫いた。広がるは、更なる物理法則の世界。そこさえ埋め尽くさんと肉塊が湧き、そして埋める。
次元を外から押し潰すかの如き666に、アダムは同じく次元をぶち抜き、反撃をしようとするが広がり過ぎた666がそれを阻む。
「……まずいな」
都市上空四千キロにて、アダムが呟いた。
全身の震えを押し殺し、ZZはゆっくりと体を進める。
距離、残り四十メートル。
現在彼の体は完全に粒子となっており、水蒸気の如く目に見えない状態だ。
だが、部屋の主はその状態のZZの存在をあっさりと看破してのけた。
「ふふ、姿を隠したか。……見えはせんが……いるな」
そこか? との問いと共に放たれた黒い光が、ZZの体を貫いて背後へ突き刺さった。
だが、それでZZにダメージは入らない。
極小の状態で拡散しているZZにダメージを与えるには、広範を埋め尽くすような攻撃か、分かれた粒子一つ一つを狙う必要がある。単純な攻撃では、すり抜けて終わりだ。
しかし、問題はその状態のZZを見つけられた事。
位置が分かっているなら、攻撃を繰り出せばいい。一度で倒れないなら、二度、それで駄目なら三度。
そして、相手が毎回同じ攻撃をしてくる保証など無いのだ。
だが、しかし。
(よっしゃ今の内!)
効かないと判断したZZは速度を上げコンセントへと突進する。距離、残り三十メートル。
「それともそこか」
ゴウ! と音を立てて黒い炎が燃え上がる。それは、ZZの進路を見事に塞いでいた。
(危な! もー、人にはいりょしろよ)
どう考えてもその場ではしない思考と共にZZが動きを止める。炎はまずい。
原子近くまで分割された体は炎に弱い。流石のZZもそれくらいは把握しているのだ。
炎を避けて、また進む。
体をより広範へ広げ、気配を分からなくする……という意図は無い。単にZZの体の操作が下手な為、一か所に集められていないのだ。
だが、それが有効に働く。
「ふむ、広いな」
次々に放たれるレーザーが、広がったZZの体を打ち抜き背後を焼く。当然、ダメージは無い。
(ラッキー!)
ZZが速度を上げる。残り、二十メートル。
その瞬間、弾かれたような轟音が響いた。
「そこか」
ZZの視界を、業火が埋め尽くす。回避は不可能、なすすべなく飲み込まれ──
「アッツ!」
大半を失った肉体が、反射的に集結する。いまのサイズは二十センチほど、最早子供用の人形だ。
「おや、そんな所に。随分と可愛らしい……」
カツカツと靴音を立て、女がZZへと迫る。
この状態のまま逃げる事は不可能、当然戦闘も無理。ZZは再び自分の体を粒子へと変えた。