九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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逃走劇

「さあ、どこまで逃げられるか……」

 

 女が指を動かすたび、指された先が爆発する。

 その合間をZZは粒子化した体で縫って走っていた。

 

「ヤバいヤバい! 兄貴ー! へループ!」

 

 叫び声を上げるが、当然XXXには届かない。それをかき消すように無慈悲な爆破が起こっただけだ。

 

「ほう、そちらに逃げるのか?」

 

 グン、と女が手を広げ、前に突き出した。瞬間、前方へ途轍もない衝撃が発生する。

 それは粒子となっていたZZを吹き飛ばし、その体積を更に少なくさせた。

 

「ヤバい! このままじゃ無くなる!」

 

 既に元の二十分の一以下にまで縮んだZZ。出力も弱まっており、明らかにさっきまでと比べると速度が落ちている。

 しかし、爆発は止まない。

 女の指先に従い、淡々とZZの体を吹き飛ばそうとするだけだ。

 

「しゃーねー! 向こうだ!」

 

 一か八か、ZZが百八十度方向を転換する。

 行先はコンセント、少しでもエネルギーを補給して体積を増やす作戦だ。

 だが、その為には爆発の大元であり、底知れない力を放つ女へと向かわなければならない。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

 一瞬も迷わずZZが女へと突っ走る。体を限界まで広げ、爆発によるダメージを軽減しながら。

 次々と爆発が巻き起こり、ZZの体を削る。だが、それでZZの速度は落ちない。

 ダメージ覚悟のごり押しではあるが、それが女の意表を突いたのか攻撃の精度が落ちる。その隙に、ZZは先頭の自分を分裂させた。

 

「やああああ!!」

 

 五個に分裂した煙状のZZが、それぞれコンセントへと進行する。だが。

 

「……別に、一度に一つと言った覚えは無いぞ?」

 

 女が右手を広げ、五か所同時に爆発が起きる。

 それは今まさにコンセントへとたどり着こうとしていたZZを的確に吹き飛ばしていた。

 

「滅んだか? ……随分と可愛らしい侵入者だったな」

 

 女がZZから視線を外し、中央の席へと戻っていく。

 それをZZは極小の状態で眺めていた。

 

(あっぶな! あとほんとちょっとだけだ!)

 

 全てかき集めても手のひらを構築できない程度の分量。だが、ZZが活動するだけならばそれだけで十分だ。

 とはいえ、生きているだけであって何か出来る訳では無い。今コンセントに貼り付けているのも、爆発で吹き飛んだものを偶然集められただけだ。

 

(今の内に充電充電)

 

 コンセントに取り付き、エネルギーを吸入する。そこまでの量では無いが、時間を掛ければ十分に回復可能だ。

 

(……こっち向いたらどうしよ)

 

 現在、ZZは女の座っている椅子の右斜め後ろに据え付けられたコンセントに取り付いている状態だ。もし背後へ振り向かれれば一瞬でバレてしまう。

 

(ちょっと広げとこ)

 

 エネルギーを引き出すのに可能な限界まで体を引き延ばし、空気に溶け込ませる。本当にギリギリの為、その作業中に何ヶ所か制御を失い流れていった。

 

 バレないよう、こっそりとエネルギーを引き出し続けるZZだったが、一つ問題が起こった。

 

(暇だー!)

 

 ZZの気質は長時間じっとしていることに耐えられない。万が一バレたら確実に死へと直行するこの状況でも、彼は彼であった。

 しかし、我慢。死が確定することはZZでも理解できている。だからこそ出来る限り我慢するのだが……

 

(ぬああああああああ)

 

 内心で絶叫が続く。

 我慢しようと何だろうと暇は暇、命の危機でも性格は変わりはしない。

 動きこそしないが……ほんの少しでも切っ掛けがあれば、行動に起こしてしまうだろう。

 そんな状況のZZの耳に、女の声が響いた。

 ただ、それはZZに言って来たような物では無く、遠い誰かと話す……電話をしているような話し方だ。

 

「侵入者の撃退位そちらで行え。一々私を呼び出すな」

 

 それに、私以外にももう少し勤勉な奴はいるだろう。

 そう言って会話を終えようとする女だったが、次の瞬間に聞き返す事になる。

 

「新しい侵入者だと? それが666と揉めた? ……一体どうなっている」

 

 声色を変え、会話相手を問い詰める。女の反応からみて、何か異常事態が起きた事は明白だ。

 それをZZが我慢することは難しい。

 

(聞きたい! 何!)

 

 理性と暴走の狭間で揺れるZZ。現在回復率は八割程だが、万全でも到底敵わない相手にこの状態で

飛び出るのはどう考えても無謀。だが、話に首を突っ込みたい。

 葛藤するZZが出した結論。それは──

 

(こっそり聞きに行く!)

 

 するすると霧状の体を伸ばし、女に近付いて行く。聴力を出来るだけ上げ、聞き取れるだけ聞き取る。そうしてやっと女の会話が聞こえて来たのだった。

 

『現在侵入者二人は王宮を半壊させ、居座っています! 加えてあの666が出現、新たな侵入者らしき何者かと戦闘中です! 現在、魔界都市ニウムは危機的状況です! 至急対処をお願いします!』

「他の十王はどうした? アルバラ辺りは動くだろう」

『王宮への侵入者と現在交戦中です! ですが戦況は芳しくありません!』

「……何者だ?」

 

 ハア、とため息を吐き、女はこめかみを抑えた。眉間には皺が寄り、コツコツと椅子の手すりを叩く指は如実に機嫌の悪さを伝えていた。

 

『現在の戦力ではいずれの対処も不可能です! 既にハルバロ様に救援の知らせを送っております、レヴ様、出陣をお願いします!』

「……分かった分かった、全く……どこの誰だ、人の休暇を」

 

 露骨に機嫌を悪くしながら女──レヴは立ち上がり、肩を回した。

 

「……アレも侵入者の一派だったのか? まあ、滅ぼしたから──」

 

 よかったが。

 そう呟く寸前に、辺りを見渡したレヴが目にした物は、霧状に広がったZZの姿であった。

 

「まだ生きていたか」

「ヤッバ!」

 

 即座に逃げ出そうとするZZ、その背後でレヴが両手を広げ、その間に煌々と輝く火球が出現した。

 

「構っている暇はなさそうなのでな、さっさと死んでくれ」

 

 気だるげにレヴが言い放ち、保持していた火球を解き放つ。

 太陽表面のそれにさえ匹敵する業火が広がり、逃げ出そうとしていたZZの体を焼く……寸前、天井を突き破り現れた肉塊が、火炎を阻んだ。

 

「666!? こんな所にまで!」

「いまのうち!」

 

 直ぐ真後ろで蠢く肉塊の脈動を感じながら、一目散に666は逃げ出した。

 レヴもそれを追おうとするのだが、666の肉塊が乱雑に広がり、行く手を阻む。

 

「ええい! どけ!」

 

 業火が舞い、雷撃が奔る。だが666には碌な傷さえ突きはしない。

 そうこうしている内にZZはレヴの索敵範囲から逃げ出したのだった。

 

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