九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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アダムと魔界

 膨れ上がる。

 肉が次元を突き破り、恐るべき勢いで。

 

 増殖する。

 兵器の山が、機械の海が、肉を覆わんと広がり続ける。

 

 戦い始めて三十分以上、陣取り戦のような戦いは延々とその規模を広げ、尚決着の欠片も見せていなかった。

 

「……流石に、俺も厳しいぞ」

 

 言葉とは裏腹に、アダムの攻めは緩まない。

 指数関数的速度で膨れ上がる666の肉を削り、押さえつけ、覆う。

 その作業をより早く、より大規模に行い続ける。

 しかし、終わりが見えない。

 

 666の膨張は止まらず、アダムも増設を止められはしない。戦いは完全な消耗戦の様相を呈していた。

 

「いい加減、諦めろ、や!」

 

 迸る閃光が666の体を消し飛ばし、開いた穴に掘削機のような兵器が殺到。穴を広げ、肉を削り、ダメージを与えていく。

 だが、止まらない。

 魔界の天を覆い、それでも尚足りんとばかりに次元を貫き拡大する666はそんな事では止まりはしない。

 

「ああ鬱陶しい!」

 

 アダムの機械群を、次元を裂いて現れた666の肉が飲み込んでいく。即座にその上へ兵器を広げたアダムだが、消耗は隠せていない。

 

「……どっか一か所に固まれや」

 

 消し飛ばしてやる、とぼやくアダム。

 しかし、666は当然そんなことはしない。ただ延々と広がるのみである。

 

 千日手だ。

 アダムは広がり、666も広がる。限界が来た方の負ける終わりなき戦い。

 不毛な争いに光明は射さず、ただ続く。

 

「……そもそもコイツ、何がしたいんだ?」

 

 目に見える範囲全てを埋め尽くす肉塊を抑え、アダムが呟く。

 最初にあった時はまだ何か目的がありそうではあったが、今の肉塊と化してからは最早理性や知性が有るのかさえ疑わしい。

 アダムの解析能力をもってしても放たれている音は無意味な羅列な上、そもそも攻撃らしい攻撃は無くただ広がり押しつぶそうとしてくるだけだ。

 

「……もし、こいつが目についた相手に襲い掛かるだけだとするなら」

 

 アダムは思考する。

 そう言う行動をとるだけの生物を相手にどうするか。答えは、一瞬で出力された。

 

「付き合ってらんねえ」

 

 ガチャリ、と音を立てアダムの全身が凄まじい規模で膨れ上がる。

 それへ向かい、666は殺到し……肉塊の隙間から、小さな球体が飛び出した。

 広がる肉塊はそれに見向きもせず、球体も肉塊を避けるばかりで何も行わない。

 やがて地上へと球体は降り立ち、瞬時にアダムへと姿を変えた。

 

「一生そっちで食い合ってろ」

 

 ただ増設を繰り返すよう命令した兵器の群れを残し、アダムは地上へ降りる。消耗は大きい。だが、それも五分程休めば快癒する。

 ()()()()()()()()()

 

「あらあら、侵入者?」

 

 聞こえて来た声に振り向けば、妖艶な女の姿。

 伸びる黒髪は右のこめかみから斜めに切りそろえられ、背を通る螺旋を描いている。起伏に富んだ体は隠す気さえないような薄い布の元、その美を前面に押し出していた。

 

「……何者だ、お前」

「あら、調べていたのでは無かったの?」

 

 クスクスと女は笑い、そして、名乗った。

 

「先代魔王、クリテルマ。あなたはあの侵入者の仲間かしら?」

「知らねえな、勘違いしてろや」

 

 即座にアダムの全身が装甲に覆われ、機械の波が噴出する。山を吹き飛ばす兵器が億を超える数広げられる光景を見て、女──クリテルマは笑う。

 

「強いわねえ、あなた。666と戦っていた、って言うのに」

 

 私一人じゃ危なかったかもしれないわ。

 咄嗟にアダムが防御を固めれば、装甲に途轍もない衝撃が走る。

 新手だ。

 

「十王が一魔、レオカイゼン。侵入者よ、勝てるとは思わない事だ」

 

 チッ、とアダムが舌を打ち、武装を切り替える。

 遠距離戦用の物から近接戦へ、砲を剣に、熱線をのこぎりに、音響兵器を振動槌に。

 

「レオカ、油断しない方がいいわよ? あのこ、相手事に色々切り替えてるわぁ」

「はい、このレオカイゼン、全霊を持って侵入者を討ちます」

 

 ギリと音が響きそうなほど雰囲気が張り詰め、そして弓の如く放たれる。

 一瞬、光速に届く程の速度で駆けたレオカイゼンが勢いのまま飛び膝蹴りを繰り出した。

 それはアダムに直撃し、その体を砕く。

 だがアダムは一切動じず広げた機械群による攻撃を実行した。

 

「甘い!」

 

 グン、と両足をプロペラのように回し、襲い来る兵器をミキサーのように砕いて行く。巻き込まれなかった兵器が遠方から狙おうとするが……それを、飛来した光の矢が貫いた。

 

「そういうのはさせないわよ?」

 

 幾千億もの光の強弓が浮かび、銀河の如き輝きを持って放たれる。それはアダムの兵器を片端から壊し、体を削り取って行った。

 

「厄介な連中だ!」

 

 瞬きより小さな間に雲を突く巨砲を展開し、アダムは吼える。構築と同時に放たれた砲撃は、時空さえ引き裂きながらクリテルマへと飛んでいく。

 しかし、彼女の笑みは変わらない。

 

「これじゃあまだ私には届かないわね」

 

 バキン、と音が響き砲弾が止まる。瞬時に出現した光の壁が砲撃を阻んでいた。

 アダムの攻撃の隙を突き、レオカイゼンが迫る。

 右正拳、裏拳、頭突き、蹴り上げ、かかと落とし。

 次々繰り出される連撃はアダムの体をかなりの広範に亘って砕いていた。

 

「脆い! 脆いぞ!」

「一々固めるより直した方が早いんだよ、ゴミ」

 

 レオカイゼンの言葉に、苦々しい様子で答えるアダム。確かに言葉通り直した方が対応の速さは上がる。だが、エネルギーの量を考えると、修復を続けるのはかなり苦しい。

 そんなアダムの事情を把握した上で二人の悪魔は襲い掛かる。

 

「ほら、広げるだけ広げなさい、全部打ち抜いてあげるわ」

「壊すのは私だ、幾らでも直してみろ!」

 

 クリテルマの放つ光の矢が兵装を次々に砕き、再展開をする前にレオカイゼンが完全に壊す。

 悪魔たちの連携の前に、アダムはその体積をみるみる内に減らしていった。

 

「そろそろ危なそうね。投降するなら命は助けてあげるけど?」

「お断りだ、腐れババア」

 

 アダムの暴言にもクリテルマは笑みを崩さない。それがただの強がりだと理解しているからだ。

 現在、アダムの体積は最初の十分の一まで削られている。それでもまだ巨大な湖程のサイズはあるが、エネルギーが最早底を突きそうな事を、クリテルマは理解していた。

 666との戦闘、それからの離脱に大規模な兵装の展開、そして自分たちとの戦いでの消耗。

 最早アダムの命は風前の灯と言ってもいい。()()()()()クリテルマはより慎重に戦いを進める。

 もしかしたらアダムが破れかぶれの奇策を繰り出すかもしれない、何か隠し玉があるかもしれない。

 眼前の相手が相当である事を知っているからこそ、油断はしない。ただ徹底的に盤石な戦法で削り殺す。

 クリテルマはその考えを着実に実行していた。

 

 警戒は緩まず、アダムは着実に削られていく。

 徐々に、出す兵器の量が減り、修復が遅れ、じりじりと押し込まれていく。

 

「っ! ああ鬱陶しい!」

 

 電磁波が奔り、巨砲が作られる。

 全長一キロにも届くレールガン、それが今まさに動きだし……砲口に押し付けられた光の壁によって、大爆発を引き起こした。

 それはアダムの広げた兵器類を巻き込み、諸共に砕けさせた。

 爆炎が晴れた時、もう兵器類は無く、代わりにアダムが力なく倒れ伏すのみであった。

 

「苦し紛れの攻撃は終わりかしら? 見た感じ、もう限界みたいだけど……」

 

 そう理解していて尚、迂闊に近づかない。

 星空の如き光弓を携えたまま、油断なく狙いを定めていた。

 

「……最後に通告よ。大人しく捕まるなら、悪いようにはしないわ」

 

 その言葉に、アダムが中指を立てた。

 

「そう。レオカ、やりなさい。油断の無いように」

「はい」

 

 仰向けに倒れたアダムに、警戒を張り詰めながらレオカイゼンは近付いて行く。

 カツカツと響く足音は、アダムへの処刑宣告だ。

 

「最後に、何か言う事はあるか」

 

 足元のアダムへ向けて拳を振り上げたまま、問う。

 ゆっくりとアダムが口を開き、何か──

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 背後より、振るわれた金棒がレオカイゼンを吹き飛ばす。

 突然の事にクリテルマの反応は一瞬遅れ……その全身が凍り付いた。

 

「随分大変な事になっとるの」

 

 ハハハと笑い、金棒を掲げる小柄な影。

 天道が、そこにいた。

 

『原因は私たちにある気がするが?』

 

 凍り付く声と共に、青白い人型が地から現れる。

 極が呆れた表情で佇んでいた。

 

「しかし、あれじゃの。頭下げて謝っておればその場で済んだのでは無いか?」

「……死んでも人に謝罪はしねえ」

 

 そう言い放つアダムに、天道ですら呆れた表情をしたのだった。

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