九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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隠密作戦

『そっちどうだ』

『誰もいない』

 

 通信越しに会話をしながらT字の通路を右に折れる。侵入五分後ではあるのだが、この建物の複雑さには割と辟易している。

 ここに来るまで右折を五回、左折を二回、十字路を三回直進し二回右に、T字路は三回あったのだ。うんざりしてくる。

 

『兄貴、また十字路』

『またかよ……』

 

 目の前に現れた十字路に溜息が出る。

 これが同じ場所に何度も出ている、何て分かりやすい物であれば笑えたが、実際はそうではない。

 造りは微妙に違い、壁にかかる絵画に見覚えは無い。新しい場所だ。

 

『兄貴、こここんな広かったっけ?』

『分からん。そこまでじっくり見てないからな……』

 

 外からこの宮殿を眺めた事自体かなり少ない。大体せかされているような状況ばかりだ。

 ただ、それにしても広すぎる気はしているが。

 

『もしかしたら空間的に隔離されてる場合もあるかもな』

『ええ、それどーすんの』

『どうしようもない。進むだけだ』

 

 隔離空間のような物に迷い込んだ場合、対処法は少ない。無理矢理光速に近い速度を出しての突破、空間の生成限界まで動き続ける、或いは空間の起点を潰すなども手段ではあるのだが……今回取れる手段は更に限られている。

 ZZは光速まで加速することは出来ず、空間の起点もこの迷路では見つけようが無い。

 出来ることは生成限界が来るまで探索し続ける位だ。

 見た所ループはしていないのでかなりの広さがある空間を隔離に使用している可能性は高い。なら、限界地点まで行ってしまえば脱出の目処は立つが……

 

『また分かれ道か』

 

 現れた分かれ道の先は、直角に折れており見通せない。右も左も、同じ状況だ。

 

『右行くぞ』

『分かった!』

 

 

 

 

 

『…………ZZ、今どこまで行った?』

『無理、分かんない。地図限界』

 

 あれから二時間、状況に一切の進展は無い。

 ZZに書かせていた地図も、もう書き込める限界に達したようだ。

 

『……どう考えても百キロは進んだぞ』

 

 元の場所に戻っている気配は無く、前進は確かに出来ている。

 即ち、この空間は百キロ以上の距離に広がっているという事なのだが……

 

『いくら何でも広過ぎるだろ! 普通こんなの出来て五キロだぞ!』

 

 規格外だ。ループもせずに純粋に百キロ以上もの隔離空間を作り上げる何てまず聞いたことが無い。

 それこそ、アダム並みの規格外でも無ければ不可能だろう。

 

『……上行ってみるか?』

 

 出来るだけ選択肢に入れないようにはしていたが、こうなってしまっては仕方がない。

 

『ZZ、身構えとけ』

『分かった!』

 

 息を整え気を落ち着かせ、天井を破り、屋根へ──頭上を黒い閃光が通り過ぎた。

 

「あっハハハハハ! この私にはそんな物は通じんぜ! 出てこーい魔王!」

 

 視線の先では666さんが衛兵と何やら強そうな人たちを相手に大暴れをしている所であった。

 戦いの余波は周囲を削り、破壊がこちらにまで及びかけている。これだから上に出たくは無かったのだ。

 

『兄貴、どうする?』

『出来るだけ中央まで行く! 身を屈めろ!』

 

 目を付けられないよう、屋根の裏に身を隠し、宮殿中央を目指していく。距離は五十メートルほど、やっぱりこの宮殿はそこまで広く無い。

 少し見渡せば俺達が入って来た穴がすぐそこにある。あの隔離空間は滅茶苦茶な拡大率をしているようだ。

 

『うおっ!?』

 

 頭の一センチ上を光の奔流が通り過ぎていった。今は考えている余裕は無さそうだ。

 

 そろり、そろりと屋根を伝う。

 見つからないように、その上で666さんの戦いはしっかりと観察しながら。

 一瞬でも目を離せば何がどうどこに飛んで来るかを見逃して大惨事になる。

 幸いなことに場は相当混乱しており、少し強気に体を乗り出しても見つかる気配は無い。

 しかし、そうだとしても警戒を緩められはしない。下手をすると混乱をもたらしている戦力と同等かそれ以上の存在がこっちに来るかもしれないのだから。

 

『後二十メートル! ZZ、頑張れよ』

『おう、兄貴も!』

 

 すぐそばを即死の攻撃が乱れ飛ぶ中、五十メートルを移動するというのは想像以上に疲弊するものだ。ZZも元気に通信を返してはいるが、顔には汗が浮かんでいる。

 

『……今!』

 

 攻撃が一瞬止まったタイミングでこそこそと動く。加速はつけられない。その理由には見つかるよりも、止まれずに攻撃に当たる可能性が大きい、と言うのが大部分を占めている。

 しかし遅くなるわけにもいかない。攻撃は前だけに飛んで来る物でも無く、後ろだろうが現在地だろうが、こちらを狙っていない余波は出鱈目に飛んで来るからだ。

 

『ZZ、急げ!』

 

 戦いの方角から強い光が放たれる。確実にこの後何かが来る。

 

『よいしょお!』

『せーの!』

 

 思いっきりZZの手を引き、無理矢理前に進ませればその背後を凄まじい光が完全に消滅させた。間一髪だ。

 

『大丈夫か?』

『だいじょーぶ。無傷!』

『よし、行くぞ!』

 

 どうもさっきの攻撃は大技の様だ、一瞬だろうが攻撃が飛んでこない。そうなると残り十メートルの距離は瞬き並みの時間で通り過ぎる物でしかない。

 

『……うん、大丈夫だな』

 

 宮殿の中心から再び内部に入り、安全を確認してZZに手を振る。直ぐに上からZZの姿が降って来た。

 

『兄貴、これでさっきの迷路抜けた?』

『分からん。取りあえずやるだけやってみねえと』

 

 どうも今いる場所は十字路の中心のようだ。さて、ここは馬鹿みたいに広く……

 

 カチャン、と音が響いた。

 

 瞬時にZZの口を塞ぎ天井へ飛び張り付く。誰かいるのか?

 十秒、二十秒……コツコツと足音が響いてくる。誰かがここへ来ようとしているようだ。

 

『ZZ、音出すなよ』

『分かった』

 

 通路を見下ろす視界に甲冑が映る。

 さっきの音はあの甲冑が揺れる音だったようだ。

 甲冑姿の人物は俺達には気付かなかったようで、真下を通り抜け通路の向こうへ消えていった。

 

『……降りるぞ』

『うん』

 

 音を立てないようにサスペンションを展開し、ふわりと床に着地する。

 そうして、先ほど甲冑姿の人物が来た方向へと足を進めたのだった。

 

『ZZ、こっちは大丈夫』

『分かった』

 

 通路は普通に続き、何ヶ所かでは外の見える窓がある。どうやら隔離空間ではないようだ。

 しかしその代わりに衛兵が何人も巡回しており、少しでも音を立てればすぐにこちらに気付くであろう非常に緊張感のある状況だ。

 

『こっち大丈夫、そっちは?』

『何か音してる。たぶんだめ』

 

 ZZの答えに従い、音の聞こえない方へそろそろと動く。速度は出せないが、それでも普通の人間の走り位の速さは有る。

 壁に張り付きL字通路の先を確認すれば、話し声が耳に入る。

 

「侵入者、まだ対処できないのか? 十王の方々も出てるんだろ?」

「それが一人では無い上に、あの666まで関わっているって話だ。……俺達も呼ばれるかもしれないぞ」

 

 用意はしてるさ、と言う甲冑姿を見下ろし、こそこそと天井を進む。

 床と違い起伏が多く、音を立てやすいので速度は全く出せないが見つかる事はまず無いだろう。

 

『……結構大変な事になってるな』

 

 用事が済んだらアダムとあの二人を回収してさっさと帰らないと色々まずい事になりそうだ。この状態で関わっていないと言っても信じてもらえそうには無い。

 

『……ん、アレ? これもう駄目じゃね?』

 

 冷静になって考えてみれば俺は侵入者な上、今の騒動と関りの有る超危険人物だ。そんな人間が偉い人の前にのこのこ出ていった場合、まず確実に碌な目的は想定されないだろう。

 つまり、要件を果たせない可能性は非常に高い。

 

『……そしてそんな時に見つかるのか』

 

 どうしようも無い現実に思い至った俺の前に、それは姿を現した。

 

 魔王の間。そう上に書かれた扉は、撤退を視野に入れた俺を捉えるように禍々しい雰囲気でそびえたっていた。

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