『アダム、こっち来れるか?』
『問題無いが、何の用だ』
『例の手紙が要るらしい』
シルバリティアさんに起こされ、必要な物、事の説明を受け、アダムに連絡を取る。
例の手紙、俺内容見て無いんだよな。
『あ、後天道さんと極さんも纏めて持ってきて』
『捕まえとくのも面倒な連中なんだが、そっちはどうするつもりなんだ?』
『俺何も説明して無いんだけど!?』
怖、何こいつ。
……色々思うところもあるが、まあ置いておく。今回の主題は手紙と、天道さん達の捕縛だからだ。
俺達はまだ見逃され、アダムはどうやら666に責任を押し付けて対処するらしいのだが、明確に攻め込んできた天道さんと極さんは放置できず、しっかりした措置が必要になるとの事。
という訳で、手紙ついでにアダムに持ってきてもらおうと思ったのだが、その事を伝える前に要件を把握された、怖い。
『一々ビビッてんじゃねえよ、質問に答えろ。あの馬鹿二人どうするかって聞いてんだよ』
『ちょっと待ってろ』
一旦通信を保留にし、シルバリティアさんに尋ねる。例の二人をどうやって捕まえるのかを。
「心配はいらないさ。十王全員に召集を掛けた、全員掛かりなら何とでもなるよ」
『だそうだ』
『なら大丈夫だな。到着は五分後って伝えとけ』
そう言って通信が切れる。五分後か、ちょっと間が空くかな。
「五分後に纏めて持ってくるそうです」
「うん、十王の集合もその位だろう。その間、私は──」
その言葉が終わる前に、耳を劈く謎の音を響かせ、部屋の天井が破られた。
「らららららー。魔王、勝負だ! 私が勝ったら死ぬがよい? うーん、決まらない!」
「──アレの相手でもしておこうか」
そう言って、666へ向けてシルバリティアさんが飛び掛かる。直後、衝撃と音だけが戦いの始まりを告げた。
「何も見えねえ!」
「おれも!」
速すぎる。音と衝撃は分かるのだが、二人がどこで戦っているかはさっぱりだ。どっちが勝っているのかも当然分からない。
……これ、こっちに攻撃が来たりしないよな?
「ZZ、俺の後ろに──」
「その必要は無い、無駄だろうしな」
俺の声を遮って言葉が響く。それに伴い、空中に壁の如く炎が出現した。
「十王が一魔、レヴ。先刻ぶりだな、侵入者兄弟」
「……!?」
慌ててZZの手を引き逃げ出そうとするが、ドームのように広がる炎が行く手を阻む。
しかし、焦る俺へ言葉が掛かる。
「逃げなくてもいい、もう追わんよ」
いつの間にか炎のドームの内に入り込んでいた女性からそう言われ、取りあえずひっつかんでいたZZの手を離す。
「……攻撃してきたりは」
「せん。侵入者、それも王宮の襲撃犯の一味と聞いていたので攻撃したまでだ。違うと分かれば何もせんよ」
どうやら大丈夫らしい。が、警戒を緩めるべきでは無いだろう。なにせ普通にZZはやらかして──
「レヴさんって偉いの?」
「ああ、偉いとも」
「おおおーい!?」
コイツ本当に物怖じがねえな! 恐怖も頭から抜けてんじゃ無いだろうな!?
「お前が兄か? 怯えすぎだ、弟の方は勇敢だというのに」
「兄貴、おれ勇敢だって!」
「……お前、本当に凄いな」
さっきまで俺達を焼き殺そうとしていた人と良く普通に話せるよ。というか、この人……レヴさんも殺しかけた相手に平然と話しかけてきてるな。何だ、俺か? 俺がおかしいのか?
「ほう、記憶を取り戻しに来たのか。それでここまで巻き込まれるとは、逆に運が良いかもしれんな」
「兄貴、変なのに絡まれる事多いからなー」
もう完全に馴染んでしまっている。あいつのアレはもうとんでも無い才能だ。
と、普通に歓談しているZZを横目にしていると、炎の壁の向こうから声が掛かる。
「レヴ、終わったから、もう防壁は解いていいよ」
「ふむ、早かったな」
ゴウ、と音が立つ勢いで炎が収まれば、その向こうに666さんを小脇に抱えたシルバリティアさんの姿。
無傷ではない。見えるだけでも額に右腕、脇腹の三か所から血が滲み、左足は膝下から千切れている。
だが、勝利したのはこの人の方だ。
「そこまで実力差があった様には思えんが」
「こいつも弱っていたよ。例の侵入者──いや、襲撃犯の知り合いにアダムと言う人がいてね、どうもその子と戦っていたらしい」
……アダム、何やってんだお前。
と、知り合いの行動に呆れる俺を他所に、部屋に次々と人が現れた。
巨大な山のような威圧感、全身に刃が突き立ったような感覚、今にも押しつぶされそうな雰囲気……全員が全員、圧倒的な存在だ。
そんな存在が、全員シルバリティアさんに頭を下げている。
荘厳な空気の中、抱えていた666をベッドへ放り、口を開く。
「十王、全員いるね?」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」」
十の声が一つに重なり、多大な圧力を生む。言葉だけで一瞬意識が飛びかけた。この人たちは何もしていないと言うのに!
「うん、それじゃあこれからについて伝えよう。
まずは襲撃犯の捕縛だ。それはこれから連れられてくるので左程問題は無い。
そして──」
こちらをチラリと見る。
同時に、二十の瞳が俺達を捉えた。
一瞬、呼吸が止まった。
ただ見られただけだが、これ程の存在の集団であれば途方も無い圧迫感となる。
「彼らは客人だ。丁重に扱う用に」
「はっ!」
再び十の声が響き、空気が押しのけられ、張り詰める。息が苦しくなるほどの圧迫感に、緊張感。
それは、シルバリティアさんが視線を上げるまで続いたのだった。
「さてと、来たようだ」
ドスン、と音が響きぶち抜かれた天井からアダムが床に着地する。
そして、当然のように天道さんと極さんが周囲へ降り立ち──
──瞬間、十王達が二人へと襲い掛かった。
「ああ、横の彼には攻撃をしない事だ、一応敵対の意思は無いらしいからね」
天道さんと極さんが圧倒的な暴力に呑まれる中、シルバリティアさんの声が響き、タコ殴りの嵐を掻い潜るようにアダムが這いずり出て来た。
「……随分と胸のすく光景だ」
「お前何かあったの?」
はあ、と大きく溜息を吐いて呟くアダムに尋ねれば、凄い勢いで愚痴が返ってくる。
曰く、言う事を聞かない、勝手に動く、暴れる、揉める、etc……
「何だ、普段の俺と変わんねえな」
その言葉にアダムから舌打ちが飛んで来る。どうだ、俺の苦労が分かったか。
「兄貴ー、この辺から見ると凄いぞ!」
「巻き込まれるから戻ってこい!」
すぐに出ていくZZを引っ掴み、集団暴行現場から距離を取る。
……しかし、天道さん、行動だけで言うなら殆ど子供だな。ZZより酷いんじゃないか?
「質悪ぃのがな、ずっと酔ってんだ。あのボケ、人の話なんか一向に聞いてやしねえ」
……そう言えばずっと飲んでいたな、あの人。会った時はそんなに飲んでいなかったと思ったのだが。
「ちまちま酒作ってたのが、近場の物ちょっと売ったら直ぐ山ほど買えるって分かったらしくてな。馬鹿みたいな量買ったらしい」
「……要するに、贅沢に溺れたと」
間抜けな奴だ、とアダムが笑う。……この様子だと極さんも似たような状態だろう、天道さんにずっと付き合ってたし。
「これで少しは懲りてくれれば良いんだが」
「ZZが懲りないからなー。無理だと思うぞ」
ハア、とアダムが一際大きい溜息を吐いた。ただ、俺はお前程トンデモじゃ無いのにあの二人を任された事が何度もあるぞ、もっとだ! もっと味わうがいい!
「ヤバい厄介事を持ち込んでやろうか?」
「すみませんでした」
間抜けな茶番を行っている内に決着は着いたらしい。土下座していた頭を上げれば、ぼろきれのようにされた二人の姿が目に映った。