「それじゃあその二人は牢獄へ入れておいてくれたまえ」
ボコボコにされた天道さんと極さんを、十王の人たちが引きずって連れていく。しっかりと罰を受けて、反省してほしい。
「さて、と。アダム君、例の手紙を渡してくれるかな?」
「そらよ」
アダムが手紙を投げ渡しそれをシルバリティアさんが綺麗にキャッチする。
「ふむふむ。……あれだね、随分と乱暴な文体ではあるけれど、一応紹介の手紙だ。それに、案内も兼ねている」
そういって手紙を掲げると、空中に光の線が走った。
それは斜め上に走り、天井を──いや、その先を指している。
「あの方の場所は私も知らなくてね。ただ、この手紙はその場所を精確に示していると思うよ」
真っすぐに走る光の先を見据え、シルバリティアさんが呟いた。
「……その人って、どんな人なんです?」
何度か言葉として出してはいるのだが、誰なのか分からない。間違いなく凄い人ではあるのだが、一体どんな立ち位置なのかがさっぱり言われないのだ。
「そういえば言っていなかったね。あの方は、この魔界でもとても強大な力を持つ人さ。
名を、エンヴィー。夢王の名で伝わる、伝説そのものだよ」
「伝説……」
「そう、伝説だ。魔界でも有名な方だよ? 最も、おとぎ話で聞いた、という人が殆どだろうけど」
……うーん、分からない。何と言うか、とにかく凄いという事だけは分かるのだが、具体的な事が無いのだ。
そんな俺の考えが読まれたのか、少し申し訳なさそうな表情が浮かぶ。
「私自身、あの方と会ったことは多く無いんだ。だから余り言えることは無い」
ごめんね、と軽く謝ってくるが、シルバリティアさんに非は全くない。
勝手な要求を突き付けているこっちが悪いのだ。
「あー、何考えてても良いんだが、そいつのとこへ行くのは出来るのか? 正直、色々面倒だからさっさと行って帰りてえんだが」
「お前な、もう少し腰を低くしろ」
あんまりなアダムの発言に、足を蹴って抗議する。……ただ俺の足がダメージを受けただけだ。
「うん、余り時間をかけるのも良くない。速めに開いてしまおうか」
シルバリティアさんが手紙を掲げ、何かを唱える。
すると、俺でも分かるほどに強い力が渦巻き、集まっていく。
回転を続ける力に手が差し込まれ、急激に広げ、その上で中心を捉えている。そうとしか表現できない光景だ。
その勢いのまま、シルバリティアさんは渦へ更なる力を注ぎ……一瞬の閃光の後、そこには巨大な扉が現れていた。
「ここを通ればあの方……エンヴィー様のいる場所のはずだよ」
そう説明しながら、扉を開いて行く。
重厚に見える扉だが、シルバリティアさんの力が強いのか、それとも軽いのか、そこまで抵抗なく開き、扉の先を俺達の視界へ入れた。
「眩しいな……」
目も眩まんばかりの光が差し込み、周囲との光量の差に光の柱を幻視する。
ぱちぱちと瞬きを繰り返し、目が成れた後に見えた物は、光に包まれた空間にかかる一本の虹でできた橋であった。
「それじゃあ、行ってくると良い。帰りは元の世界に直通で戻してくれるはずだよ」
「はい、行ってきます! ありがとうございました!」
「いってきまーす」
見送るシルバリティアさんに手を振って別れを告げ、虹の橋を歩いて行く。色々とお世話になった、何か返せる物が出来たら渡しにいこう。
……そういえばここ最近、いろんな人に助けられているな。
WORLDではゼロさんに、少し前には苺さんと紅の人たちに助けられた。……その人たちに返せるような物を、俺は何も持っていない。
「……帰ったらもう少し色々やってみるか?」
「そう言うのは帰ってから考えろ、土に返すぞ」
「正論ではあるが物騒だなおい」
暴言は兎も角、まだ用事も終わっていないのにその後の事を考えるのは早計だった。しっかりと今に集中しておかないと。
「今に集中するっつってもこういうのは違うと思うぞお!?」
虹の橋の上を全力で走る。何故なら背後から巨大な怪物が襲ってきているからだ。
「ほらほら、走れ、急げ急げ」
「あの野郎余裕だからって!」
「兄貴、攻撃していい!」
「一回なら良いぞ!」
おらー、とバック走で前を走るアダムに殴り掛かるZZだが、当然回避される。
そして、体勢を崩して速度が落ちた所を怪物が……襲い掛かる前に俺が手を掴んで引き戻す。
「もう一発!」
「大人しくさっきので諦めとけ!」
前方で余裕そうにしているアダムを見ると心の底から殺意が湧きあがってくる事には同意するが、今は逃げる事が先決だ。
背後の怪物は、まさに怪物、と言った見た目だ。
十本の角と七つの頭、角にはそれぞれ王冠が掛かっていて、やたらギラギラと輝いている。
おまけに全体で見ると図鑑で見た豹みたいな感じなのだが、足は熊に似ているし、口周りはライオンっぽく見える。
何だこのザ、化け物と言うような見た目は。
「ええい、何なんだコイツは!」
ヤケクソで一発背後へミサイルを撃ってみる。
しっかりとした爆発音と衝撃が伝わってくるが、背後の気配は全く変わらない。どころか、ますます威容を強めているようにさえ感じてしまう。
「兄貴! 後ろヤバい!」
「え!? おわ!!」
迫っていた首の一つを間一髪で回避する。あっぶねえ! 助かった!
「ZZありがと! 助かった! 急げ!」
「礼にはおよばねーぜ! あああああああ!!!」
叩きつけられた前足をZZを引っ張って掻い潜らせる。こいつ、こんな図体で滅茶苦茶早いな!
「ZZ! 油断すんな!」
「兄貴、足疲れた!」
「気のせいだ!」
俺達に疲労なんて機能は無い。そんな事言っている暇があったら走れ!
「兄貴、足の感覚が怪しい!」
「ああもう! ほら、手出せ!」
差し出された手を掴み、ZZを引いて進む。重い、速度が落ちかねない。
「ZZお前何で疲れたんだ!?」
「エネルギー不足!」
「しっかり補給しとけやああああああああ!!!!!」
走り出してまだ十分たってねえぞ!? こいつそんな状態で来てたのか!?
「何かあのレヴって人のとこで削られたもん!」
「なら言え! そんで補給しろ!」
駄目だこりゃ!
「アダム! 助けてくれ!」
「土下座したら助けてやるよ」
「この状況でどうしろと!?」
一瞬でも足を止めたら即叩き潰されそうなこの状況で土下座!? 馬鹿も休み休み言え! このボケナスが!
「人に物を頼む態度があるだろ?」
「んな事言ってられる状況じゃねーだろーがよ!?」
コイツ、有利な状況だからっていやがらせを……!
「良いからさっさと助けてくれ! 割とマジでヤバい!」
「めんどくせえな……分かったよ、代わりにあっちはお前がやれ」
あっち?
何か嫌な予感が……
猛烈な風が体を抑え、あまつさえ吹き飛ばそうとする。
余りの風圧に一瞬閉じた目を開けば、赤が一面を埋め尽くした。
炎と見紛う程赤い体、七の首には王冠があり、こいつも十本の角を持っている。
竜が、そこにいた。
「それじゃあそっちはやっとけよ」
「ふざけんな!」
何がどうなったらそうなるんだ! 出来る訳ねえだろ!
「兄貴ー! あの竜火吹いてる!」
「おああああああ!?」
寸前で火炎を避けるが、肌がじりじりと焼かれる感じがする。一応相当頑丈な体何だが。
「おいコラアダム! 無茶言ってんじゃねえぞ!」
「一々文句の多い奴だな、自分で頑張れよ」
「無理だっての!」
ああもう面倒な奴だ!
いや、ちょっと待てよ……
「……というか、俺らをお前が掴んで逃がせよ。一番早いじゃねえか」
「……チッ、気付いたか」
「てめえ俺らで遊んでやがったな!?」
「なにー! おれはあそばれていたのか?」
このやろふざけやがってぜってえ許さねえからな!?
「あーぐちゃぐちゃ煩い、しっかり掴まってろ」
「おいコラ答えろボケナス!」
「黙れ、舌でも噛んでろ」
「うっ!?」
あんまりな急加速に意識が遠ざかる。コイツ、起きたら……覚えとけ……