九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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夢王エンヴィー

 光に包まれた、不可思議な光景が目に入る。

 木も、地面も、湖も、何もかもが光を放つ、あり得ない景色。

 桃色の空には光を放つ雲が浮かび、太陽らしきものは見えないがこの空間なら必要は無いだろう。

 そして、目に入ったという事は目が覚めたという事だ!

 

「アーダーム―!!!」

 

 見渡せば直ぐにその顔が目に入る、いつも通りの仏頂面だ!

 

「これでも食らえや!」

 

 右腕を変形させ、銃撃を叩き込む。

 金属どうしがぶつかり合う甲高い音が響くが、アダム本人には傷一つ付いていない。どころか、跳ね返った弾が俺の真横を突き抜けた。

 

「馬鹿やってると落とすぞ」

 

 その言葉に改めて周囲を見れば、アダムによって俺は宙に吊られていた。割と高い。

 とはいえ、さっきまでの光の橋以外何もない場所では無い。落とされてもダメージは──

 

 そう考えた俺の視界の隅に、二本の角を持った獣が映る。それを見た瞬間、全身へ怖気が走った。

 

「アレがこの辺にずっと睨み聞かせててな、降ろすに降ろせねえ」

「……助けて貰ってる事には礼を言いたいが、その前が酷すぎて何も言いたくねえ」

 

 こいつ、散々慌てる俺達で遊びやがって。恨み言はまだまだあるし、ボコボコにしてやりたいが、一応助けて貰っているし、そもそも俺がアダムに何をやっても蚊が体当たりする程度の物だろう。

 

「……色々あるが、さっきのは酷いぞ、マジで」

「うっせえ。理由なしで助けてやってるだけ感謝しやがれ」

「あの言動で感謝は無理だ」

 

 多分アレで感謝が先に出てくる人間はもう聖人とか言われて崇められてると思うぞ。

 

「そういや、ZZはまだ起きて無いのか?」

「まだ気絶してるよ、今は上だ」

 

 見上げれば、アダムによって作られた縦の寝袋のような物に詰め込まれたZZの姿。なんと無残な。

 

「一応言っとくが、どんなに気が乗らなくてもZZだけは助けろよ」

「そこまで心配するなら自分でやれよ、面倒くさい」

「俺じゃあ無理がある。今下にいる奴とか、追ってきた化物とか、俺じゃ無理だろ」

 

 かばっても盾にさえなれそうにない。あそこまで規格外だと俺は塵のような物だ。

 

「ブラコンが。まあ、アレはお前以外も大分キツイぞ? 人間への絶対上位者だ。お前がサイボーグじゃなかったら逃げる事もできなかっただろうな」

「お前そんな奴相手に俺を追わせて遊んでたのか?」

 

 何考えてんだコイツ。ってかなんだよ、人間の絶対上位者って。

 

「人って種への命令が出来る存在だよ。アレが望むんなら人は自分で心臓止める羽目になるだろうな」

「何だその頭悪い奴が考えたみたいな化け物」

 

 マジで何なんだ。というか、生身だったら俺らあそこで死んでたのか。怖。

 

「まあ俺なら大した相手じゃねえんだが……何であんなのがここにいるんだろうな」

「住んでるだけじゃ無いのか? 別にここマトモな空間じゃ無さそうだし」

「……まともな空間じゃ無いってのは有ってるがな。ここ、異世界みたいな物だぜ。魔界とも地球とも違う法則(ルール)だ」

 

 だからこそあんなのがいるのがおかしいんだがな、とアダムが言う。

 

「……何がおかしいんだ? 別に異世界なら何がいてもおかしく無いだろ?」

「異世界みたいな物っつっただろ。ここ、個人が作ってる世界なんだよ」

「はあ!? 世界を!?」

 

 驚きと共に周囲を見渡す。地平線が見える。空はどこまでもある様に見えるし、雲は俺の視界の限界百キロ以上にまで広がっていた。

 

「……どんな化け物だよ」

 

 空間を作る技術自体は割とありふれている。しかし、それは精々が四方二百メートル程度、もっぱら物置であったり、入り口と出口を遠距離に配置したゲートの手合い。

 例の研究所ですら、限界は五キロ四方だったはずだ。

 王宮の空間も大概ではあったが、ここの物はそれさえ圧倒的に──

 

「空間じゃねえ、世界だ」

「……世界?」

 

 アダムが俺の思考に訂正してくるが、正直違いが分からない。一緒じゃ無いのか?

 

「違えよ。別の法則、別の力。宇宙を自前で作ってるみたいな物だ。おまけにこの規模で、それを維持しているときた。結構な化物だぜ」

「……もう俺の理解を越えた話ってのはよく分かった」

 

 駄目だ、ここまで規模が大きくなると凄いという事しか伝わらない。

 

「……ここのエンヴィーって人、お前の言ってた格上か?」

 

 魔界に来てからアダムの感知した、規格外の力の持ち主達。

 アダムより少し下が十、同じが四。そして上が一。

 この規模、アダムやシルバリティアさんの口ぶり、恐らくアダムよりも格上の存在なのだろう。

 そしてその予測は、アダムによって肯定された。

 

「……アダム、出しゃばるなよ? お前は基本交渉に全く向いてないからな?」

「知ってるよ。そもそもお前の件だ、俺が出てる時点で大サービスだ」

 

 どこまでも上から目線でアダムが言ってくる。まあ、一応、事実その通りではあるのだ。

 

「……ありがとうよこんちくしょー」

「礼位素直に言えや」

「テメエに言われたくねーよ!!!」

 

 

 

「兄貴ー、今どこ?」

「よく分からんとこをエンヴィーさん探してさまよってる」

 

 目覚めたZZに状況を説明する。……我ながら雑極まる物だと思うが、これが事実なのだから仕方がない。

 例の橋は陸地に着いた時点で消えたらしいし、どれだけ進んでも特に目印がある訳でも無い。

 

「アダム、何か今目的地みたいなのあるのか?」

「手紙に雑に場所が書かれてるんだがな。マジで雑だ」

 

 見ろ、と広げられたそこには極めて雑に書かれた丸と、なんだかよく分からん線が幾つか引かれていた。

 

「どうもこの円のどっかにあるらしいんだが地図自体が滅茶苦茶だ。大体の場所を掴むのも面倒臭い」

 

 ……そもそもこれは地図なのか? どれだけひいき目に見てもへたくそな落書きにしか見えないが。

 

「一応外周の形が大体一致してる。今いるのは浮かんでるでかい大地の上だ」

「……要するに、この、線が陸地の形って事か? 今いるのは?」

「ここだ」

 

 アダムが円のほんの少しだけ内を指す。……あれ、この陸地、滅茶苦茶大きく無いか?

 

「ユーラシア大陸並みだ。円の広さだけでもガイアコロニーの十倍はあるぞ」

「……見つかるのか、コレ?」

 

 色々と絶望的な情報だけが出てくる。もう少し希望のある情報は無い物か。

 

「そうね、私が直接出向いて来た、とかは随分希望の有る情報ではなくて?」

 

「!」

「!?」

 

 即座に反応してアダムが飛びのき、そしてアダムに吊られている俺も当然連動して動く。

 急激にブレた視界にやっと意識が追い付き、そこで俺の目に声の主の姿が入った。

 

「わざわざこんな所まで来るなんて、一体どのような要件なのかしら」

 

 クスクスと笑う姿には、一瞬目を奪われるほどの美しさがあった。

 青銀の髪は夜の帳が如く広がり、青の右目、黄色の左目からは世界を睥睨する視線が。そして、背の一対の翼はこの世の果てを思わせる漆黒を、伸びる黒白に分かれた尻尾は、スペード状の先端をゆらりと揺らめかせていた。

 

「おい、あんま見過ぎるな。呑まれるぞ」

 

 アダムの言葉で、ようやく自分が狂ったように彼女を眺めていた事に気付く。

 ……この人だ。

 まだ名乗られてはいないが、俺にはその核心があった。

 

「……貴女が、エンヴィーさんですか?」

「ええ、そうよ。夢王エンヴィー、夢幻を生きる者よ」

 

 ふわり、と彼女の髪が広がる。大した動きでもない筈なのに、それを視線が追ってしまう。

 

「それで、今度はそちらが言う番よ?」

「あ、と、XXXです」

 

 目も、意識も、その美しさに奪われる。尋常では無い。

 

(……ZZ、お前も言え)

 

 忘我の状態に陥っていたZZを小突き、無理矢理挨拶をさせる。

 

「ZZです!」

「アダムだ」

 

 二人が名乗った所で、エンヴィーさんが空中を滑る様に動いた。

 と、その直後に視界一杯に扉が出現する。上に視線を向ければレンガ造りの壁が。これは──

 

「私の城よ。立ち話もなんでしょう? 続きは、中でお願いするわ」

 

 そう言ってエンヴィーさんが門を開け、先に城内へと入っていく。俺達も、その後を着いて行ったのだった。

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