「ZZ、そっち行ったぞ!」
「わかった!」
魔界から帰ってきて二日、俺達はコロニーに現れた小型の怪物の群れを相手に立ち回っていた。
こいつら、一体一体はZZでも倒せる程度の強さなのだが、やたら数が多い。後ろを振り返れば、軍の駆除部隊が頑張っている光景が目に入る筈だが、こっちの数が減る気配が無い。どれだけいるのやら。
「りゃー!」
ZZが思いっきり拳を振るい、小さな恐竜のような怪物の頭を殴りつぶす。うん、こっちは大丈夫そうだ。
「よっと!」
ブレードを振るい、自分の周りの怪物を倒し、更に前方の群れに機銃を撃ちこむ。出来ればミサイル等で一掃したいのだが、生憎相手のサイズが小さい上市街地という事もあって広範囲に破壊が及ぶような物は駄目だ。
「おら!」
近づいて来た奴を蹴り飛ばし、戻す足で踏みつぶす。それを踏み込みにブレードを振るい、三体を切り捨てた。
残り……八十匹程。
ええい、やってやらあ!
「ラスト!」
残った一匹の頭を叩きつぶし叫ぶ。三十分の戦いの末、怪物たちは周囲の掃除機具に流される汚れと成っていた。
「兄貴ー、そっち何体倒した!?」
「三十から面倒で数えてない」
負けた―! と叫ぶZZを鼻で笑い、政府への報告へと歩いて行く。
こういう怪物退治はしっかりと許可を取ってやらないと金が貰えないのだ。
さて、ここで金の割とある筈の俺達がわざわざ怪物退治を行っている理由を言おう。
ずばり、金が尽きたからだ。
その理由は魔界から帰って来た直後に遡る……
「馬鹿高え……」
端末の映像を眺めて呆然と呟く。それ程に今目の前に表示された金額はふざけた物だ。
件のメモに記された物の内、交友関係からの入手が難しそうな品を調べてみたのだが、悉く途轍もない金額だ。特に星の核がヤバい、今の俺の全財産の百倍以上の金額が必要だ。
「これどうやって手に入れんだよ……」
入手に金がかかりそうな物だけざっと概算してみたのだが……優に千億に届いてしまった。馬鹿じゃねえのか。
「駄目だ、五六回生まれ変わっても届く金額じゃねえ」
……どうするか。取りあえず、一番安い奴──マンドラゴラの根──をほんの少しでも買っておこうか? いやこれでも財産の九割九分九厘吹っ飛ぶしな。
金を稼ぐ当てもない今、そう言う事をするのもリスクが高いし……
頭を抱えて悩んでいた俺を、後ろからアダムが蹴っ飛ばした。
「痛ってえ! 何すんだ!」
「ぐちぐちやってるからだよ。見ててムカつく」
「ここ俺の部屋! お前他人! 出てけ!」
「器の小せえ奴だ。そらよ」
ボン、と音を立てて顔面に何かが叩きつけられる。……何だ、コレ?
「星の核。たまたま手に入ったんでな、やるよ」
「……え、いや、え!? いいのか!?」
「いいっての。別に金なんか使わねえんだから」
そう言ってどこかへ行こうとするアダムに、俺は思いっきり頭を下げた。
「ありがとう!」
アダムは只手を振ってそのまま立ち去っていった。カッコつけな奴だ、全く。
しかし助かった。まず無理だと思っていた奴が一番最初に手に入ったのだ、これで少しは楽に……楽に……うん。
「本当にほんの少しだけ楽になったな……」
フルマラソンの距離を一キロ縮めたと言われたような感じだ。確実に結構楽になっているのだが、そもそも走れるのかすら怪しい人間にはまず慰めにもなっていない。
「……決めた、まず買おう」
星の核を保存し、端末に向かう。
俺は全財産の九割超を使ってマンドラゴラの根を手に入れた──
このような感じで俺は財産をほぼ無くし、こうして労働の喜びを嚙みしめる事になった。
後悔は無い。兎に角最初の一歩を踏み出さなければいけないと思ったが故の行動だ。後悔は無い。無いのだ。
「それはそれとしてキツイな……」
怪物を倒してから息つく間もなく次の仕事だ。
内容は、コロニー外壁の清掃。
本来自動で行われる物なのだが、どうも面倒な手合いの生物が住み着いてしまったらしく、機械類が悉く追い払われている。
という訳で清掃件生物の駆除を行いに来たのだが……
「もうこれ軍の仕事だろ」
生物……と言われていたが正直昼の怪物と違いが分からん。
いや、一応区分的には由来不明の危険生物を怪物と適当に呼んでいるだけだというのは分かるのだが……それはそれとして、この目の前にいる五十メートル近い何かが普通のしっかり由来も分かっている生物だという事に凄く理不尽を感じる。
「で、これが十匹。何でこんなにいるんだよ」
道理で高額の割に誰も受けてねえ訳だ。こんなの戦闘用のサイボーグでもキツイ。民間のレベルじゃ対処不可能だろこれ。
「まあ、俺なら何とかなるけどな!」
鼓舞の意味も込めて目の前の魚に翼と手足が生えたような奇怪な生物に突っ込んでいく。声か姿かどちらかに反応したらしく、のっそりとこっちを向いてくるが……遅い!
「おら!」
斬撃一閃。
跳躍して振り下ろしたブレードが生物の首を……多分首だよな……叩き切った。
その瞬間、周囲にいた同類の生物が叫びを上げる。警戒音か何かだろう。逃げてくれると助かるのだが……そんな希望は無視して一斉にこっちへ向かってくる。ええい、皆殺しじゃあ!
「くたばれ!」
今回の相手は的が大きい、ミサイルは顔面を吹き飛ばして一匹を沈黙させた。
そこへ、別の一匹がこっちへ頭を叩きつけてくる。だが、右腕を盾にし、それを防ぐ。この位の大きさなら俺は片手で十分だ。
そのままその生物を掴み、振り回す。
思いっきり三周程横に回せば、周囲の奴を何匹か巻き込んだらしく肉片と血が飛んで来る。掃除するのは俺なのだから死ぬなら静かに死んでほしい。
残り五匹。
「よっと!」
ブレードを大型に展開し、横一閃。
二匹を纏めて叩き切り残り三匹。なおもこちらに突っ込んできた一匹に機銃を撃ちこみ肉塊に変えた所で、残っていた二匹は空へと飛んで逃げていった。
「もう来るなよー!」
殺す必要のない相手を殺すつもりは無い。今回に限っての話なら殺すほど手間が増えてしまうし。
「さて、と。掃除だあ」
血と肉片がこびりつきまくったドームの壁面に向けて、俺はモップを掲げたのだった。
「はい、こちら今回の報酬の二百万ですね」
「ありがとうございます」
換金所にお礼を言って、料金を受け取る。
残高が増えたのを確認して俺は建物を出た。
「……あれ? XXX?」
掛けられた声に振り向けば、少し懐かしい姿。
「ラロじゃん、久しぶり。何か用か?」
以前、生活に困窮していた時期のバイト及び危険業務で何度か一緒に働いた事のある顔がそこにいた。
このラロという特に特徴の無い男、これでも珍しい能力持ちの一人なのだがそれを生かす事無くこんな危険な仕事を続けているという、非常に変な奴だ。
「いや、最近見なかったから。てっきり死んだのかと」
「金が入ったからな。有るならこんなとこ来ないだろ」
「マジで? いいなあ、俺も一億位手に入れておさらばしてえ」
そんな金俺も欲しい。いや、前まで一応それに近い額は持っていたのだが、今は凄く欲しい。
「……あれ? でもお前ここに来たって事は……」
「お察しの通り、また極貧生活だ。ヤバい仕事に追われる日々に逆戻りだよ」
ワハハ、とラロが笑ってくる。笑え笑え、俺もなんか目標のヤバさに笑えて来たから。
「いやほんとヤバそうだな。何やったんだ?」
「何回か死にかけたよ、まあ、今のお前の生活よりはマシな状況だろうけど」
そりゃなー、とラロがまた笑う。
嘘は言っていない。実際、今の生活は多分ラロよりマシだろうからだ。
なにせこの男、政府から目を付けられる事五回、逮捕歴三回、矯正一回という最早真っ当な生活には到底戻れない経歴をしているのだから。
……というか、矯正まで食らってまだ馬鹿話をするというのは色んな意味でも凄いと思う。
「まあ程々のヤバさみたいだな。……どーしよっかな、あの話してやろうかな」
「何か有るのか? 他の奴には話さねえぞ」
「……じつはな、今度でかい仕事があるんだよ。その額、何と十億!」
「よし、俺も嚙ませろ。命令だ」