「で、お前が送ってきた記録がこれだが」
帰った所でアダムから俺が保存を頼んでいたらしい記録が送られてきた。
その内容だが……まあ、うん。
間違いなく知っていたら消されるし、俺が速攻で政府に対応を任せた理由も、その上でアダムに記憶の保管を頼んだ理由もわかる。
その上で、だ。
「アダムこれどのくらいまで信用できる?」
「微妙。そいつの言葉自体に嘘は無いが騙されてる可能性の方が大きいな」
……やっぱりか。ただ、政府側が消しに来ているという時点で中々信憑性がある気がするのだが。
「その理由も違うかもしれねえだろ。機密保持じゃなくて、変な信憑性のある質の悪いデマが広まってるなら強硬策をとってもおかしくはねえ」
「成程」
そういう考え方もあるのか。
……しかしそうなるとこの情報の真偽が完全に分からなくなるぞ。
なにせ確かめる手段が無い。状況から推測するしか無い以上、反案を出されるとどちらも平等に考えなければならないからだ。
「……アダム、三千屋敷の話、本当だと思うか?」
「さあな。そいつの言ってた事も、三千屋敷の情報も少なすぎる。推測にもならねえ」
……駄目か。せめて少しでも情報が欲しいのだが。
「そもそもあいつが言った事が全部かさえ分からないのがな。ラロの目的は俺にも機密漏洩をなすりつける事なんだから……」
目的が本当の必要は全くない。ワールドゲートが開く事と、繋がる場所を知っていると伝えさえすればいいのだから。
その上で協力するならラロから先の情報を聞かなければならず、強制的に同盟を組まされるような状況だ。
「あの野郎、相変わらず妙な悪知恵だな」
そんなだから政府に追われる事になるのだ。
「お前の感想は兎も角、どうするんだ? 乗るか、戻るか」
「……一旦保留だな。選ぶには情報が無さすぎる」
そうか、と言ってアダムがその場にどっかりと腰を下ろす。俺の部屋だが相変わらず何の遠慮も無い奴だ。
「なら取りあえず俺も適当に探ってみる。何か手に入ったら言うよ」
「助かる」
「金払えよ」
「さっきの言葉取り消すわ」
コイツは本当に素直にお礼を言わせねえ奴だな!
さて、ラロへの対応を保留にし、真偽を確かめるために情報を集める事にしたのだが…‥‥
「いや多いな!?」
適当に三千屋敷で検索を掛けただけでとんでもない数の結果が返ってくる。しかもその殆どがまともな内容の無いオカルトサイトだ。
「……こっから漁るのはキツイぞ」
適当に上から見ていくが、総検索結果が十万近い。一つの中身を確認するのに一秒、全部確認するのに二十七時間程。あんまり現実的じゃない。
「……こういう時繋いどけば便利なんだけどな」
電脳接続をしていれば一つ一つ確認せずとも要求情報に近い物をピンポイントで出してくれるはずだ。
まあアレは思考制御システムとくっついているので繋ぐつもりはないのだが……
「……というか、アダムが分からねえって言ってる以上こんな所じゃまず出てこないな」
あいつならこの量を確認するのも一瞬だろう。そのアイツが分からないと言っている以上、こんな検索エンジンに答えは乗っていない筈だ。
「となると深い所か? ……あの辺ヤバいウイルスとか転がってそうなんだよな」
割と定期的に政府の管理していない深いネットワークに電脳で入り込んで頭の中身を書き換えられたという馬鹿の話は聞く。俺がそうならない保証は無いのだ。
一応端末経由なら俺の頭に何かされる可能性は下がるが……
「……アダムはこの辺も確認してるんだろうか」
あいつは政府にかなり近い立場の筈だ。だが、持っている情報の広さが尋常では無い。管理されていない深層の情報を持っていても何一つ不思議では無いのだ。
「……止めとこ、リスクの方が大きそうだ」
明らかにリターンと見合わないと考え、端末を消す。
さて、こうして考えて一つ分かった事がある。
俺の出来ることは大抵アダムもできる事だ。それも上位互換的に。
そんなアダムが三千屋敷の情報を持っていないと言った以上、このルートで俺が分かる訳がない。
「つまり、アイツに出来ない手段で集めればいい訳だ」
そう呟き、俺は電話をかけた。
旧式も旧式、単なる電波を利用した方式だがコロニー外……それも登録地域でない場所へかけるにはこの方式しかない。
プルル、と滅多に聞かないコール音が数度響いた後、ガチャリと音が鳴り音声が繋がった。
「もしもし、苺さんのお宅ですか?」
『はい! XXXさんですね』
単純策、聞き込みである。
アダムにこれは出来ない。あの気短偏屈プライド激高野郎に頭を下げて情報を乞う真似は出来ないのだ。
「すみません苺さん、ちょっと聞きたい事があるんですけど……」
『はい! 何でも聞いてください!』
意気込む苺さんにこれまでの事情を説明する。その上で、聞いた。
三千屋敷を少しでも聞いた事はあるか、と。
『それなら、頭首様から何度か話しに出た事はあります。けれど……詳しい事は聞いた事が無いです」
力になれずごめんなさい、と謝ってくる苺さん。
そんな苺さんを励まし、もう一つ聞く。
「頭首の方……リオさんは居ますか?」
『……ごめんなさい、頭首様は以前からずっとどこかに出かけているんです』
ううむ、予測はしていたがこっちも駄目か。まあ、仕方がない。次は天道さん辺りにでも聞いてみよう。
「苺さん、忙しい所ありがとうございました」
『いえ! お礼を言うのはこちらです、私を頼ってくれてありがとうございました』
互いに別れの挨拶を交わし、電話を──
『北緯36度5分46秒 東経140度2分48秒。探すのであれば来てください』
唐突にそんな声が電話から響いた。
慌てて聞きなおすが、既に電話は切れている。
「……何だ、一体」
先程の声。電話に割り込まれたのか。
だがそんなことよりもあの声!
あの、AIよりも無機質な、感情を一切含まない虚無の声!
明らかにまともな相手じゃない。一体誰が?
「……この場所、どこだ?」
一旦落ち着いて端末で言われた座標を調べ……そこがあのジパングである事を知る。
誰が、何のために俺をこんな場所へ呼んだ?
……分からない。今の情報では推測すら出来はしない。
出来ることはただ一つ、この座標へ行く事だ。
「……取りあえずアダムが帰って来たら頼んでみるか」
ジパングとなれば俺の独力では到底行ける場所では無い。あいつに土下座していくことになるだろう。