九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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三千屋敷

「おら、着いたぞ」

「ぐえっ」

「ぎゃっ」

 

 うめき声を上げてアダムから放り出される二つの影。

 俺とZZだ。

 

「……来たのは良いが、お前本当に聞いたんだろうな。勘違いでしたじゃ済まねえぞ」

「……何故!? 一瞬納得しかけたけど俺を運んだだけでそこまでなるか!?」

「うるせえ俺を動かすってのはそう言う事だ」

 

 コイツ最近どんどん横暴になって来てるな。今度飯に激辛スパイスでも入れてやろ。

 

「兄貴、そういやどこ行くんだ?」

「お前分からないのに来たのか?」

「何か面白そうだったし」

 

 ……ZZはこういう奴だ。

 何も分かっていないZZに何か謎の声が場所を指定してきたという事を伝え、軽く辺りを見渡す。

 ……何も無い。

 いや、わんさか木だの植物だのわ生えてるしコロニー外なのに毒素も無く生き生きと生物が駆けまわっているのだが……俺の探している物──三千屋敷の手掛かりのような物は全く無い。

 

「アダムお前場所間違えて無いよな」

「お前じゃあるまいし間違えねえよ」

 

 さらっとこっちを馬鹿にしてきたアダムの足を軽く蹴り再び辺りを見渡す。

 ……考えられるパターンは二つ。

 分からないようになっているか、騙されたか。

 となると今できる行動は一つ。

 

「よーし、探すぞ!」

「おー!!」

 

 何も分かっていない筈のZZも叫びを上げる。取りあえず何を探すかは伝えておこう。

 

 

 

 

「ZZー、何か有ったか?」

「虫めっちゃいる!」

 

 ZZが自分の顔程の大きさの蜘蛛を見せつけてくる。……うん。あの大きさだと何か冗談みたいに見えてくるな。

 

「アダムは?」

「……なんか変な感覚だ。何か有りそうではあるんだがな」

 

 アダムでも駄目か。ただ、何かある可能性は高い。

 こうなればとことんまで探して……

 

 グルル、と響いた呻き声に顔を上げれば、小山程の大きさの何かが。

 でかすぎてこの距離だと全体像が分からない。

 

「……うわあ」

 

 思わず声が漏れる。そう言えばここ(ジパング)はそう言う場所だった。

 と、巨大な何かが腕を叩きつけてくる。

 寸前で回避するが、飛び散った地面が俺の体を叩き後方へ吹き飛ばす。

 

「ZZ気を付けろ! ヤバいの居る!」

「分かった!」

 

 体制を整え着地すれば、巨大な化物がこちらへ突進する姿が目に入る。くそ、無駄に早い!

 

「これでも食らってろ!」

 

 巨影へ向けてミサイルを放つ。同時にその場から駆け出し、ブレードを構える。

 同時攻撃だ。ミサイルは囮に、アレの体を叩き切る!

 

「うおらあああああ!!!」

 

 響く爆発音と広がる爆炎、それを目くらましに奴の背へ飛び乗った。

 ブレードを振るう。

 真下へ突き立て、そのまま体の上をはしりそこらじゅうをズタズタに切り刻んて行く。

 そうなると当然こいつも暴れるが、振り落とされないようワイヤーアンカーを体へ打ち込み、攻撃を続け、遂に顔面へ到達した。

 

「まずは目!」

 

 眼球にブレードを突き刺せば、絶叫が響く。

 

「次に口だ!」

 

 そこで開いた口に狙いを定めてミサイルを撃ちこんだ。

 一拍遅れて爆発音が轟き、巨体がぐらりと倒れ込む。

 

「……死んだか?」

 

 何度かその体を叩き、反応が無い事を確認して溜息を吐く。

 相変わらずここの生き物は途轍もない。コロニーに出てくる怪物連中でもこいつらに比べたら大分貧弱だろう。

 

「おー、勝ったか」

「兄貴強い!」

 

 ぱちぱちと拍手の音が鳴る。

 ……こいつら戦ってる俺に加勢もしないで見てたのか。

 ZZは兎も角アダムお前もう少しなんかしてくれてもいい気がするが……

 

「甘えんな。自然は厳しい」

「自然の対極みたいな奴が何言ってんだ」

 

 ……時々コイツ雑にボケるな。雑な上に面白くも無いムカつくだけの部類なのが。

 

「それでお前がアレ相手に遊んでる間に俺は何かを見つけた訳だが」

「遊んでねえよ! ……で、何見つけたんだ」

 

 俺の言葉に、徐にアダムが足を進め、五メートルほど進んだ所でいきなり巨大な剣を作り、振るった。

 その瞬間、パキン、と何かが割れるような音が響き、周囲の風景が塗り替わる。

 うっそうとしら木々に草、それだけであった光景のど真ん中に何かが出現した。

 二等辺三角形のような屋根に灰がかった色の壁、周囲は黒ずんだ二メートルほどの塀に覆われ、正面には鉄格子の門が付いている。

 そしてその先、そこには取っ手の付いた扉があった。

 

「……家か?」

 

 見た事の無い……いや、過去に一度、古い時代の記録を見ていてこれに似た作りの物を見たような……

 

「三千年……いや、もっと前か?」

「二千年代前半だ。この作りは」

 

 言いながらアダムが門を開き敷地の内へ踏み込んで行った。

 しかし二千年代だと? 今から七千年近く前の時代だ。

 文化の最盛期だったらしいけど……いくら何でも当時に七千年も持つ建物を作る技術があったとは思えない。それに、こんな場所で建物を隠す技術も。

 一体何なんだ、この家は。

 

「っと、急がねえと」

 

 アダムとZZが先に家に入ってしまっている。あいつらが何をやらかすか分からない。

 俺は慌てて家へ飛び込んだ。

 

 ガチャリと音を立てて開いた扉の先には、木で作られたらしい廊下に壁。しかし入って直ぐの床から一段上がっており、上がる前までは石造りだ。

 そして目の前の光景の大きな謎が──

 

「……どうするんだ、これ?」

 

 何故か石の床に置かれた靴である。ZZやアダムの物では無い。というか、二人とも靴を必要としない。

 一応昔は靴に足の保護という意味があったらしいのだが、今の時代、そもそも完璧に整備された地面を歩く関係上靴にファッション以上の意味は無いのだ。

 それでも必要とするなら危険な工事現場や戦場辺り──

 

「あ、違うか」

 

 そこまで考えて失念していた事に気付く。この家は昔の造り、つまり靴の意味も昔のままの可能性が高い──

 

「いや、あれ?」

 

 足の保護である筈の靴をなぜかここで脱いでいる。何で?

 自分の足を見ればおしゃれ半分で履いている靴が。俺もここで脱いだ方が良いのか?

 

「おーい、何やってんだ!」

 

 家の奥からアダムの声が響く。クソ、もういいや脱いでけ!

 

「今行く!」

 

 脱いだ靴を細かく収めて家の奥へと走っていく。一歩踏み出す事にギシギシとなる床に不安が煽られるが多分大丈夫だろう。多分。

 

「ごめん、遅れた」

「お前の用で来てんのに遅れてどうすんだ」

「ごめん」

 

 こればっかりはアダムが正論だ。

 

「……そういや向こうの廊下? の横も扉があったけど、見たのか?」

「見たよ。特に何も無かった。台所だ」

 

 既にアダムはここの探索を進めていた様だ。

 つまり……残りはこの、廊下正面の扉だけという事になる。

 

「兄貴、何かわくわくしね?」

「まあ結構」

 

 元々結構好奇心は強い方だ。こんな未知の場所でわくわくしない訳がない。

 俺は逸る気を抑えながら扉を開けた。

 

「……また廊下?」

 

 扉の先は再び廊下が。しかし今度の廊下は左右に扉は無く、五メートル程行ったところで右へ折れている。

 曲がり角まで行けば、再び五メートル先まである廊下と右への曲がり角。

 それを三回繰り返した所で前方に扉が見える。

 

「空間でも歪んでるのかな」

 

 右向きの曲がり角を三回曲がり、通った廊下の長さは同じ。つまり俺達は四角い廊下を回った事になるのだが、別に元の場所へ出たような気配は無い。

 こんな異様な場所だ、そんなことが有ってもおかしくは──

 

「んな複雑な物使われてねえよ。単に廊下がちょっとづつ傾いてるだけだ」

 

 今ちょうど地下一階ぐらいだな、とアダムが言う。

 そんな仕掛けになっているのか。結構面白い。

 

「さて、それじゃあこの先は……」

 

 好奇心に任せて扉を開けば、一面の本が視界に入る。

 床、壁、天井に至るまで本棚が敷き詰められ、その全てにぎっしりと本が詰まっている。

 異様な光景だ。

 

「兄貴、この本全部一緒だ」

「え、あ、本当だ」

 

 巻数の違いこそあれ、ここに並べられている本は全て同じシリーズの用だ。

 二十一巻まであるシリーズが、整然と並べられ本棚に何度も繰り返し並んでいる。……この本の持ち主はよほどこの本が好きなのだろうか。

 

「……これ、扉か?」

 

 辺りを見ていると本棚の隙間に紙でできた壁のような物を見つける。

 触れると少しブニブニした感触と……それが左右へ動く手ごたえが。

 どうも紙製のスライド扉らしい。

 

「開けるぞ……」

 

 好奇心が強まると同様に、先ほどから何かピリピリした感覚が体を覆っている。誰かが俺をずっと見ているような、途方も無い危険に近づいているような、そんな感覚だ。

 だが、ここまで来た以上何もせず帰るはあり得ない。幸いアダムもいる、ZZだけでも無事には帰れるだろう。

 俺は、意を決して扉を開いた──

 

「よく来てくれました、XXXさん、ZZさん、アダムさん」

 

 無機質な肉声が響く。

 だが、今、その声には気を取られない。

 なぜなら、それを口にした女が余りにも、恐ろしい程に無表情だったからだ。

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