九十世紀の兄弟が   作:Y-K4183

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雲突き

「……本当に何なんだろうな、アレ」

「兄貴ー、俺にも貸して!」

 

 ねだるZZに双眼鏡を渡し、俺は自前の視力であの化け物を見る。

 

 奴の肩から逃げて凡そ十分程。あいつは一切動く様子を見せていなかった。

 だからこそアレが二歩も歩けば詰められる程度の距離で観察出来ている訳だが……

 

「そもそも生物なのか? アレ」

 

 一応形は概ね人型ではあるのだが、全身が木と石に土で覆われている。素肌のような物は見えない。その所為で生物というよりはそんな地形に見えてしまうのだ。

 

「でも動いてたしな……」

 

 浮かんだ疑問を自分で否定する。

 アレは最初起き上がって来た。それに、謎の咆哮もある。生物の可能性は高いだろう。

 

「まあ、ロボット的なアレの線もあるけど」

 

 見た目的に可能性は低いが、ゼロでは無い。俺の知らない技術何て世の中いくらでもある。

 例えば魔術。詳しくは知らないが木石を人型にして動かす方法があるとの事だ。

 ただ、それでもあの大きさの物を作ったりできるとは余り思えないが。

 

「……一番問題なのはアレがどうするか分からない事なんだよな」

 

 ワールドゲート開通まで残り二日。……流石に何の告知も無しに開くとは考えにくいので、情報のアドバンテージだけで言うならもっと短いだろう。

 そんな短い時間しか無いのに、俺達は動けない。アレがどう動くのか分からないからだ。

 俺達がここから動いて採集に入っても動かない、というのが最良なのだが……万が一でもこっちに動きでもしたらその瞬間詰みだ。俺の最高火力でもあいつの足の指をふっとばせるかどうかだろう。

 

「……ただ流石にほんのちょっと動いただけで反応するって事は無いだろ」

 

 そう口にしてみるものの、不安は拭えない。

 念には念を入れ、離脱の用意を十分にしながら一歩だけ足を踏み出した。

 ……反応は無い。

 

「ZZ、取りあえず下手に近付かなかったら大丈夫だ」

 

 言いながら後ろへさがり、アレから距離を取る。思った通り反応は無しだ。

 

「分かった」

「ただ近づくなよ? 何かの切欠で動いて来るかもしれないし」

 

 別に俺達が何もしていなくてもアレは動く──というか、多分そっちの可能性の方が遥かに高い。

 なにせサイズが違う。

 アレの目より遥かに小さいのだ。まともに俺達を認識できるとは到底思えない。

 そうなると俺達の事に一々反応するとは思えず、そして実際そうであった。なら、出来るだけ距離を取って当初の予定通り動こう。

 

「出来るだけあれから目を離さない事と、今以上に近付かない事。これを守ってまた採集だ」

「分かったー!」

 

 ZZがはっきりとした返事をするや否や後ろへ向けて走って行った。……あいつの位置もずっと確認しとこ。

 

 何はともあれ予定は変わらず、俺達は採集を続けていた。

 そしてその間もあの巨体はピクリとさえ動かずただずっと佇むのみだ。本当に何の為に出て来たんだろう。

 あ、なんか凄い良い木だ。高く売れそう。

 

「……そういや天道さんなら何か知ってんのかな」

 

 このジパングは天道さんが住んでいた場所だ(今はコロニーに居るらしいが)。あの人なら何か知っているかも知れないが……まあそれは後にしておこう。今はする事がある。

 

「…………こういう事は勘弁してほしい」

 

 目の前にいきなり怪物が現れた。

 ……花か? これ。

 俺の身長の十倍ほどの大きさで、花弁からは蜜がこぼれ出ている。これだけなら良いのだがその蜜に触れた虫が溶け落ちた。消化液だこれ。

 そして茎から出ている蔦は、鞭のように振り回されている。触手になってるのか。

 

「おわっと」

 

 飛んで来た蔦の先端を余裕を持って避ける。そこまで早く無いな。

 

「これならまあ何とでもなるか」

 

 落ち着いてブレードを展開する。思いっきりこっちに狙いを定めているせいで逃げる選択肢は無くなった。何か足元の根っこめっちゃうねってるし。歩けるだろコイツ。

 

「俺を狙ったのが運の尽きだな!」

 

 飛び掛かって思いっきりブレードを振るい……死角に居たもう一匹に目線があった。

 

「っどお!?」

 

 パァン! と破裂音を響かせて振るわれた鞭をギリギリで避ける。音速越えか!?

 驚愕する俺の視界で、最初の花が明らかに悔しそうに体……というか茎を捻った。コイツ、自分を弱く見せてたのか?

 

「……油断大敵だな」

 

 改めて気を引き締めて花の怪物二匹に向き直る。厄介なのはあの蔦の触手。先端速度は音超え、威力は……背後の大木が真っ二つになっている。俺でも食らったら相当痛いだろう。

 だが、こいつ等は相当賢い。まだ見せていない手段もあるかもしれない。

 例えば、あの消化液を飛ばしてきたりとかな!

 

「予想当たった!」

 

 そう言った物の、俺の予想していた物は消化液の塊を飛ばしてくる物だ。ホース……というかウォーターカッターのように飛ばしてくるのは想定外。その所為で一瞬回避が遅れて左手が溶けた。

 

「ってえ! やりやがったな!」

 

 じわじわとせりあがってくる溶解した部分を切り離し、すぐに左腕を修復する。完全に予想外のダメージだ。

 

「……遠距離戦の方がよさそうだな!」

 

 即座に飛びのきながら照準を合わせ、ミサイルを発射。同時に機銃を撃ちこみ回避行動を阻害する。

 さて、どう出る? ミサイルを避けて銃弾に当たるかそれとも──

 

 予測を組み立てる俺の前で、化け花が花弁を閉じ、ごぽり、と膨らませた。

 直後、溶解液が砲弾のように射出される。それは飛来したミサイルを爆発する前にただの液体へと変貌させた。

 

「まあ予想通りだ!」

 

 流石にあの溶解力は想定外ではあるが。それでも取った行動は想定の一つ、何らかの手段での迎撃でしかない。

 なら、こうだ!

 

「せいっ!」

 

 ミサイルと銃撃を囮に、近接攻撃。

 踏み込みから振るわれたブレードは茎を袈裟懸けに断ち、化け花を倒して……はいない。

 

「やっぱそうきたか!」

 

 案の定だ。

 残された下半分の茎と根が動き、そこから再生をしようとする。予想していなければ不意打ちを食らったかもしれないが……遭遇当初から予想はしている。

 

「そもそも植物の本体は根だろ」

 

 最初っからこいつを倒すときは根を狙う予定だ。それに従い俺はもがいている根を、火炎放射器で焼き払った。

 

「……そっちは」

 

 燃えている仲間……仲間意識とかが有るのかは知らないが……を見て動揺したのか、もう一匹の化け花はこっちに襲い掛かって来ない。

 じりじりとした睨み合いが一分近く続いた所で、唐突に化け花は身を翻し森の奥へと帰って行った。

 そこでようやく俺は息を吐いた。

 

「……殺し合いは疲れるなあ」

 

 どうしてもこういう戦いは疲労が残る。特に今のような油断の出来ない戦いは。普段の単なる駆除なら良いのだが。

 

 思考を断ち切る轟音が響く。

 聴覚の遮断こそ働かなかったが、生身なら障害が残る程の音量だ。

 またあの化け物が叫んだらしい。

 

「ったいなんなんだよ……」

 

 耳を抑えて呻く。目的不明の奴程危ない相手も中々無い。

 

『ZZ、無事か?』

『大丈夫! あと、何か見える!』

 

 ……なんか?

 

『何が見えるんだ?』

『右の方! 空!』

『お前から見て右じゃ分からん!』

 

 言いながらもZZの位置情報を確認し、向きを見る。……右は、北の方か?

 

 取りあえずそちらを確認し……流星が目に入る。

 それは赤々と輝き、雲を突き抜け飛ぶ星の如き……

 

「天道さん!?」

 

 視力を上げ、それを詳細に見た俺は見知った人の姿に叫ぶ。

 間違い無い、あの身長、金棒、何より角。間違いなく天道さんだ。

 けど、一体何の用だろう。……いや、割と見当はついているのだが。

 

『ZZ、あのでかい奴から全力で離れろ、急げ!』

『分かった!』

 

 返事を聞いて直ぐに俺も有言を実行する。あの人が出るとするなら、多分──

 

 直後、予想通りに背後で爆音が響いた。

 

 

「久しぶりじゃな、雲突き」

 

 天にも届かんと聳える巨躯。小指の一本が小山の如く。

 僅か百五十センチに満たない体躯でありながら、それに比肩、いや、勝りかねない威圧感を放ち、天道は笑う。

 それは旧知の友との再会の笑いであり──

 

「こちらも久しい。さぁて、五度目の喧嘩と行こうじゃぁないかぁ、金剛角」

 

 ゴンゴンと響く重低音。至近で聞けば鼓膜が吹き飛ぶ大声量。

 雲突きと呼ばれた巨人──ダイダラが、拳を振り上げた。

 

「行くぞぉ」

「応!」

 

 千年に一度。ただそれだけ。

 それ以上に細かい日時は無く、思い出した方がもう一方を呼ぶ。それだけの約定。

 それ故に……戦いは、これ以上ない程大雑把に行われた。

 

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