「マジで助かった、ありがとうアダム」
帰宅の翌日、朝起きて一番にアダムへお礼を言う。昨日はマジで死を覚悟した。
「いいよ面倒くさい」
……そういうのは照れ隠しみたいに言うのが良いのであって本気で心底鬱陶しそうに言われるとお礼の気持ちも冷めて来るのだが。
まあ、それは置いておこう。取り合えず今は例の収集物を見せる事だ。
「……で、どうだ?」
「まあ悪い物はねえな」
アダムに助けられた後、俺は一つの事を頼んだ。
それは収集した物の鑑定だ。と、言うのも……
「は? 今何て?」
「どこと繋がるか分かったっつったんだよ。一回で聞けや」
何とアダム、政府と交渉の末ワールドゲートの開通先を聞き出したと言うのだ。足を向けて寝られない。……蹴り飛ばしたくはなるが。
「これはまあそこそこだろ。こっちは駄目だ、向こうでは普通にある」
何でもオルと呼ばれる世界に繋がるとの事だが、そこがどんな世界なのかは詳しくは分からない。なにせアダムの説明が適当な上、色々と雑、且つふわっとしている。
ドラゴンとか飛んでる感じのやつ、と言われてもよくわからんのだ。
「……真面目に売るならこの辺だな」
ガチャンと音を立てて複数の物が机に置かれた。その数十二個。
……少ないな。
「幾ら位になりそうだ?」
「一億は行くな。まあ限界まで高く売ってだが」
「……限界で一億か」
そうなると実際はその六割と見ておいた方が良い。対抗相手もいるだろうし、向こうもできるだけ安く買おうとするだろう。
「それでも結構な金額にはなるんだけどなあ……」
必要な金額の概算には雀の涙にさえ怪しい金額だ。本来なら三十年近くは暮らせる金額の筈だと言うのに。
悩む。
金の工面をしたことは何度もあるが、ここまで突き抜けた高額なんて取り扱った事は無い。
……そもそも買おうとすること自体が割と間違いな気もしてきた。
「あ、そうだ!」
抱えていた頭を上げ、メモへ飛びつく。……今現在入手が難しい、或いは不可能そうな物は……
【吸血鬼の牙 三本 薬品の生成に使用
呪いの籠った釘 一本 記憶を戻す楔に使用
千年を生きた蛇の尾 十センチ 媒介に使用
異常純水 一リットル 儀式に使用 】
この四種……
「あー!」
そこである事に気付く。
あのジパングで遭遇したバカでかい蛇! あいつ多分千年位生きてたんじゃ無いか!?
「アダム! あいつの尾って回収してないのか!?」
「忘れてただろお前」
「あんな状況で思い出せるか!」
クソ、ほんのちょっとでも頭によぎっていたら!?
「べっ! 何すんだ!」
「そらよ、蛇の尾だ」
「あ!?」
いきなり顔に叩きつけられた紐のような物に目を落とす。……鱗に、肉。間違いない、蛇の尾だ。
「うおおおおアダムうううううありがとおおおお!!!!」
「うるせえ!」
顔面をぶん殴られた。……あいつお礼言わないと怒るが言ってもキレるんだよな。
「兎に角、これで残り三つだ! なあ、アダム。繋がる先の世界で入手できそうな物はあるか!?」
「牙が可能性としてある。こっちじゃ吸血鬼は絶滅種だが、向こうはまだいる筈だ」
つまり、ワールドゲートの開通で手に入る可能性の高い物が一つ増えた、という訳だ。……現実的になって来たぞ。
「それで残りが……」
呪いの籠った釘はマンドラゴラの次に安い。単品で一億に届かない程度の金額だ。……感覚がマヒしているきがする。
そして問題がこの異常純水。
どうも現在文明で生成方法の無い品らしく、出回っているのも数ミリグラム単位。それを一リットルとなるとあの星の核に次ぐ超金額となってしまう。その額、三百億。
「……こいつが問題だな」
釘は今回のワールドゲートの開通で頑張れば稼げる可能性は十分ある。しかし、水は真っ当に金で挑むには余りに無謀な金額だ。
「アダム、これの心当たりは?」
「んなもんあるか。俺でも作り方が分からねえのに」
「マジかよ」
アダムで駄目か。これは一旦後回しだな。
「そうなると釘を買う金を用立てる事になる訳だけど……さて、どう高く売るか」
交渉事は余り経験が無いし、商売の交渉となると更に無い……というかほぼゼロだ。精々が換金所でゴネ経験位しか無い。
「取りあえずそう言うの調べておくか……」
さて、そう言ってから一日後、ワールドゲート開通の情報も一般に出回り色々な場所が慌ただしく動く中、俺達は意の一番に許可を貰いに役所へ出かけていた。
「人民番号R941AのXXXです」
「兄貴、おれ何番だっけ?」
「LDA974」
「LDA974のZZです!」
人民番号を伝えると専用の仮想空間が広がり、手続きが開始する。
ここに来た目的は当然、ワールドゲートの通行許可を貰いにだ。必要な物がかなり多い上、事前の予約が必要なのだが……先に知っている俺達は当然直ぐに手続きに入れる。
「兄貴ー。これって全部はいでいいの?」
「いいぞ。ただ内容は見とけよ」
次々と表示される規約へ目を通し、その全てに了承する。面倒な作業だ。
「ZZ、書類忘れんなよ」
「分かってるー」
この時代になって尚書類は必要である。相当昔から変わっていないようだ。最も、偽造防止の技術は跳ね上がったようだが。
間違いなく俺は俺だ、と言う証明書類を提出し、手続きは次に移る。
「検査は直ぐ終わるから良いんだけどなあ」
ほんの一瞬光っただけの検査を終え、更に次の手続きへ。
表示された一点を見つめ続けるだけの存在意義が感じられない検査を終え、そこで俺達は解放された。
「最後のアレ何なんだろうな」
「視力測ってるんじゃない?」
「んなもん全体検査で測ってくれよ……」
多少の文句も終わってから言うなら気晴らしで済む。後は許可証が降りてくるまで五分程待機するだけ──
爆発音が響いた。
「……今のは」
ここは役所、つまり政府施設だ。防備も民間の地区とは比べ物にならない場所である。当然、爆発音何て響く訳が無い。なら、今のは?
『動くな! この建物は我々が占拠した!』
待合室向こうから聞こえた声に何が起こったのかを知る。
テロだ。
「兄貴? これテロ? 初めて見た!」
「俺も初めてだ。こんな馬鹿まだいたのか」
このご時世にテロなんて企む奴は珍しいし、実行する奴はもっと珍しい。なにせ大半は実行する前に中央管轄コンピューターに引っかかり捕らえられるし、実行したとしても公安の強化人間部隊に即鎮圧されて終わりだ。
しかしまさかこの時を狙うとは。寄りにもよって滅茶苦茶な馬鹿がいた物だ。
人がどっと押し寄せてくるのだから当然警備もしっかりしているだろうに。
まあ少し待っていれば……
「……いや、待てよ?」
確かに世の中馬鹿が多いが、三角屋根に察知されずに行動を起こせる時点で中々の者。そんな連中がわざわざこの時期を狙った? 単なる無謀と切り捨てるのが当たり前だが……もし向こうに勝算があるとするのなら。
そこまで推測したところで、不思議とある人物の顔が思い浮かんだ。政府に追われ、極秘情報を持ち、それを使い大儲けを企んでいる変人が。
そしてその予測は、放送で聞こえた声によって確信と変わる。
『あー、無知蒙昧の人民共! 我々の名はアンサラー! 今の政府に支配された人間を解き放つ者達だ!』
……ラロめ。何を企んだ?
「ZZ、取りあえず脱出用意だ。あいつが関わってると色々面倒な事になる」
「分かった! 後その人知り合い?」
「……そういや言ってなかったな。多分人生で関わっちゃいけないタイプの奴だ。見かけても話すなよ?」
りょうかーい、と言うZZ。さて、これからどうしようか。