「何で勝手に行くかな、お前は」
「何か珍しい虫がいた!」
ほざくZZにデコピンを食らわせ道を行く。
既に村を出ているため人通りは無く、物静かな所に俺達の話し声が響き渡っている状態だ。
「次からは気を付けろよ。一応安全の確認はされてるらしいけど、どんなとこでも危ない時はあるからな」
先に政府がこの世界──ランドラスという名前らしい──との交渉及び調査は済ませているらしいのだが、それでも完全に安全とはいかないだろう。何なら何も無くてもZZの性格上勝手に危険に突っ込むこともあり得る。
「そんな事言ってる内にあいつ森に突っ込んだぞ」
「馬鹿野郎!」
アダムの指さした先で森へ進むZZに向けて俺は飛び蹴りを放ったのだった。
「良いか! 何が有るか分からないから勝手に動くな!」
「分かった!」
……信用できない。取りあえず位置情報はずっと表示しておこう。
「間抜け共さっさとしろ。割と距離あるんだから」
かなり遠くからアダムが声を掛けてくる。アイツもうあんな所まで。
「今行く!」
ZZを引っ掴み走る。不満そうな雰囲気が伝わってくるが自業自得だ。
さて、舗装もされていない道を進んで一時間。その間珍しい物を見つけて駆け出すZZを抑えペース無視でどんどん先に行くアダムを宥め増々険しくなる道をどうにかこうにか突き進む。
そして今、明らかに道が消えた。
「……アダム、地図どうなってる?」
「ここ直進だな」
目の前にはどう見てもそり経つ岸壁があった。絶対普通の人間が進めるような物じゃ無い。
「俺らは問題無いけど……その地図大丈夫か?」
普通の人間を想定していない地図何て信用できる訳が無い。そうでないにしてもこんな壁を記していない地図の時点で色々駄目だ。
「見たとこ問題無いな。それにコレ、作られたの半年前だ」
「……半年でこの崖は無いよな」
どう見ても何千年もの時間が作り上げた物だ。短期間で出来上がるような物じゃ無い。
「なんか地震とか起きたんじゃね?」
「にしてもこれは無いぞ……」
ZZの言葉を否定する。
一体どんな地震であれば幅が見えず、キロ単位の高さの崖が出来上がるのだ。
「無駄な思考してるとこ悪いが、進めるなら進んだ方が良いぞ。まだ一割も行ってねえ」
「……まあそうだな」
疑問に不安も残るが、別に進めない訳では無いのだ。
ブースターを広げ、飛ぶ。それだけであっさりと崖を越え先へたどり着いた。
「道は続いてるな……」
草原に踏み固められた道が続いている。森はさっきの崖で途切れていた。
「明らか昨日今日の道じゃないな。ずっと使われてるぜ」
足を踏み出し、アダムが言う。
……この崖を越えて進んでいる人が、道を踏み固める程多くいるのだろうか?
「そんな難しく考えなくても良いだろ、もっと単純なのがある」
「単純?」
「誰かが半年の間に崖を作った、だ。俺程じゃなくても十分の一もあれば地殻をひっくり返せる」
平然とアダムが言い放ち先へと歩いて行く。その言葉の意味を理解し、俺は叫んだ。
「ここに化け物がいるって事じゃねえか!」
しかしその叫びにはZZでさえ怯んだ様子が無い。……まあ気持ちは分かる。天道さんとか極さんとかリオさんとかゼロエルとか見ていたらまあうん。
だが、それは俺達の基準が狂っただけであって別に強くなった訳では無い。相変わらず俺達はアダムが全力で瞬きをすれば死ぬ程度の実力だ。
「兄貴ー、置いてくぞー!!」
「少しは警戒しろよ……」
そんな不安もZZは全く抱いていないようで、てってけ先へ駆けていく。置いて行かれる訳にもいかないので俺は先に進むのだった。
「……無いな」
夜、通らない視界で無理に進む事も無いと野宿──ZZの意見でかなり自然より──の用意をしている最中、一人だけ全然違う事をしていたアダムが呟いた。
「何が無いんだ?」
「探し物があるっつっただろ。それだ」
そう言ってアダムはまた謎の作業に戻る。
辺りの草を切って眺めたり、木を切って燃やして見たり、水を容器に入れて見たり……本気で何してるんだコイツ。
「兄貴ー、枝拾ってきた!」
「並べてくれ、火付ける」
ZZが持ってきた枝……三分の一位枝どころか幹がある……物を見栄えよく並べ、焚火っぽくする。後はこれに火を付ければ完成だ。
「ファイヤー」
「おおー」
火炎放射器で枝束に火を灯せば、一気に炎が逆巻き辺りを照らす。本来はこれに加えて暖かさを得られるのだが、生憎サイボーグの身だ。そう言った恩恵は無い。
「コレ見てると俺の家が燃えた時が思い浮かぶな……」
人一人くらいなら飲み込める程の大きさで燃え盛る焚火を見て、あの時の情景が浮かんでくる。……アレは流石に色々許容外だった。
「そんな事あったっけ?」
「もう一度燃やしてやろうか?」
とぼけた事を抜かすZZを脅し、俺も集めた物を広げていく。
魚、肉、何かの木の実……別に食事が必要な体では無いのだが、食べることが出来ない訳では無い。味もしっかり分かる。
とはいえ、今回は雰囲気を味わう事になるだろうが。
「兄貴、コレどの位焼くの?」
「どうだろうな……なんかいい感じになるまで焼いたらどうだ?」
料理を作った経験が無いため、具体的にどうすれば良い物が出来るのか分からない。まあ焼いたら何とかなるだろ。
……ならなかった。
「苦い」
「不味い」
じゃりじゃりする。砂か?
「兄貴、そもそもコレ何?」
「何かの木の実」
データベースにも載っていない物だ。別に毒でも効きはしないので持ってきてみたが……不味い。焼く事で更に不味くなっている。
「馬鹿だろお前ら」
心底こっちを馬鹿にした様子でアダムが近づいて来た。
「探し物は終わったのか……苦っ」
「無かった。で、何でお前らは炭を食ってるんだ? 火力発電だったのか?」
馬鹿にしやがってこの野郎。ええい、調理法を調べたら焼くって出て来たんだよ。
「アダム、この魚やるよ」
「要らねえ。どう見ても毒だろ」
ピンクと緑の魚をアダムは受け取り拒否して焚火へ投げ込んだ。とたん、異臭と変な色の煙が漂い始める。
「毒だな」
効かないので別に問題無いが。まあ、食べたい物でも無い。
「ふざけた事やってないでさっさと寝ろ。それか、今から進むか?」
アダムの言葉が終わると同時、森の奥からおどろおどろしい咆哮が轟いて来た。……よし、寝よう!
「兄貴、さっきの声確かめようぜっ!?」
アホな事を抜かすZZの頭を枕に沈め、焚火の隣で寝転がる。
屋根も壁も無し、というのは不安になるが……アダムもいるし、警報装置も用意してある。そこまで危険は無いはずだ。
「アダム、何か来たら起こしてくれよ?」
「今お前の背後に髪の長い女が……」
「そう言うのヤメろ!」
焚火を囲んで寝息が響く。
XXXとZZは意識を落とし、アダムは最低限のセンサーを残して情報の整理状態。
一見すると無防備に見える状態ではあるが、XXXの展開した警報装置は大型の生物に反応してけたたましく鳴り響き、アダムのセンサーは微生物の動きさえ感知する。
「……異界の客人、まさかこれ程とはね」
ぽつりと呟かれた声は、誰の耳にも届かず虚空へと消えていった。
「んー……」
視界に日光が入り込む。目覚めだ。
数度の瞬きを終え、くっきりとした意識が消えた焚火を映す。その向こうでは、アダムがガチャガチャと何かを用意していた。
「何だそれ」
「点検。夜、何か来てたが何も反応して無かった」
「……マジかよ」
俺の警報装置に反応は無い。そもそもアダムに分からなかったと言うのだから当然……
「反応して無いのに何で分かったんだ?」
進めた思考に疑問が浮かぶ。アダムは何故分かったのだ?
「コレ」
不機嫌そうな様子でアダムがソレを指さした。
紙だ。
「……これは……レシピ?」
魚に木の実、肉の調理法。それを事細かに、温度分量調理時間に至るまで精確に書き記した物だ。
「料理出来ないって思われたらしいな。舐めやがって」
苛立ち交じりにアダムが吐き捨てる。
……でも料理は出来ないと思う。