飛ぶ体が重力に引かれ落ちかけたところを出力で無理矢理に持ち直す。何が……!?
「嘘だろ!?」
背後に見えたのは陸……いや、あれは、星だ! 星が迫ってくる!?
ヤバすぎる! どうするんだあんなの!?
「カトラさん出口分かります!?」
「駄目です! こ、ここは空間的に閉じられています!」
辺りを見渡し、何かを取り出したカトラさんが叫ぶ。
いや、それ、出口が無いって事か!? こんな場所であんなのから逃げ続けるのは到底無理だぞ!?
「そおら、もう少し早くしないと捕まるよ」
声の聞こえた方を反射的に振り返れば、灼熱が襲う。何だ!?
「恒星! 恒星を作れるんですか!?」
恒星!? 馬鹿じゃないのか!? バーカ! 無理だろんなもん!!
「カトラさん遺言どうします?」
「諦めないで下さい! 今空間を調べて出口が作れないか試してますから!」
そんなことが出来るのか。なら、少しは希望が──
「終わるまで逃げ続けられればいいけどねえ」
頭上へ体が浮かび上がる。見上げれば、視界を埋め尽くす陸地。上からも星が降ってきている。
「XXXさん! あと三十分頑張ってください!」
「三十分! この状況で!? 三十秒とかではなく!?」
「この空間物凄く完成度が高いです! 解析も中々進みません!」
「頑張ってみます!」
「頑張れるんですか!?」
聞いてきたはずのカトラさんが叫ぶが正直自分でも無茶だと思っている。だが、俺たちへ向けて降っている星の速度、大きさは大体把握出来た。完璧に規格外ではあるが、まだ可能性はある。
後は、星の強度!
アンキの視界──正確には物質的な視界では無く、空間の内の情報を纏めて脳内へ送るという物──が、移動させた天体に衝突したXXX達の姿を捉えた。
この俯瞰視点から見るとゆっくりと動いている様にも見える星だが、実際は時速一万キロメートルという途方もない速度で突き進んでいる。最も、
「もう終わりかい、あっけない──」
アンキの視界が、次の情報を映し出す。一つは星に開いた穴。もう一つは、そこを掘り進むXXX達の姿であった。
「カトラさんもう少し急げません!?」
「限界です!」
互いに限界まで速度を上げて穴を掘る。
カトラさんは土や岩を錬金術で脆い物質に変え、俺は掘削機械を広げて兎に角真っすぐ掘り進める。
速度的にドンドンこっちへ地面が近づいているが……俺たちの速度を徐々にこの星の速さに合わせて行けば、最終的に降り立っても大丈夫になる筈だ。
そのために俺たちは今、星の地面を衝突より早く掘り進むという暴挙を行っていた。
「XXXさんこれを向こうに!!」
「はい!!」
カトラさんの取り出した薬品を無理矢理伸ばした手でまだ数十メートルの距離がある穴の底へぶつければ、ジュウと音が鳴り岩が溶けた。
いくら俺でも衝突より早く大地を掘る何て真似は出来なかっただろう。だが、カトラさんの協力もあって今の所は少しずつ成功している。未だにかなりの速度で穴の底へ向かって体は突き進んでいるが、心なしか最初の頃より速度が落ちたような……
「XXXさん! この調子だと後二時間位で天体の速度と同速になります!」
「全然駄目だ!」
カトラさんの解析より時間がかかってしまう! というか、解析の手が止まっているから単に時間を引き延ばしているだけだ!
「XXXさん、ちょっと負担は掛かりますが速度を合わせるペースを上げたらどうです!? 流石にこれが持つとは思えませんよ!?」
「僕は大丈夫ですけど、カトラさん潰れません!?」
正直、俺だけならこの天体衝突も割と何とかなるのだ。最悪星と同速で逆側に体を打ち出せばいい。
だが当然カトラさんにそんなことをすれば加速度で体が潰れて死んでしまう。
「何とかして見せます!」
そう言ってカトラさんが来ていたローブに文字を書き込んだ。また錬金術だろうか?
「良いんですね!? 三秒後に行きますよ!」
「はい! お願いします!」
「三! 二! 一! 今!」
ブースターを逆側に起動し、後方へ向けて無理矢理に加速する。急激にGがかかるが、俺は特に問題なし。カトラさんは……
「大丈夫です! 続けて下さい!」
原型をしっかりと保ったままのカトラさんが叫ぶ。本当に大丈夫なようだ。
「駄目そうなら言ってくださいね!」
後方へ加速し、天体との相対速度を合わせていく。猛烈な速度で落ちているように見えた体が、徐々に減速し、やがてゆっくりと停止した。その間、カトラさんが潰れたりはしなかったようだ。
「……よし!」
ふわり、と地面に足を下ろす。視界を横切る地平線に、今まで何を相手にしていたのかを思い知り今更身震いが来た。
「カトラさん、脱出できそうですか?」
「後……二十五分位です!」
残り二十五分。かなりキツイ。今みたいな攻撃を連発されたらどうしようも無いぞ?
「二十五分もあれば……千は殺せそうだな」
声が響く。同時に、全身が地へ叩きつけられた。
「進んでる!? もしかして!」
一つの予感に視線を上に向ければ、案の定。
天蓋を覆う大地の姿。この星を、別の星にぶつける気だ。
「カトラさん何とかなりません!?」
「流石に無理です!」
クソ、駄目か。ええい、また穴倉に逆戻りだ!
直後、聞いた事の無い轟音が響いた。
星が衝突し、削り、崩れ、一体となる。到底人の感覚器官では受け取り切れない膨大な規模。それを、俺は眼前数ミリで目の当たりにしていた。
「……間に合った?」
「……間に合ってますね」
全速力で穴を掘って押しつぶされないようにするという作戦だったが……そこそこうまくいったようだ。問題は、今目の前まで壁が来ている事だが。
「……こっちの星に移った方が良いですかね」
「どうでしょう……正直どっちも変わらないような……」
カトラさんが迷った様子で呟く。まあうん、どっちでもいいだろう。
「後どれくらいですか?」
「二十五分から変わっていません……攻撃の対処に手間を盗られて……」
……あの規模の攻撃の中で進めていたら色々凄いが、それはそれとして落胆は有る。なにせ、この攻撃を後二十五分も浴び続け無いといけないのだから。
そんな俺の楽観的な思考は発生した熱によって吹き飛ばされた。
「がっ……カトラさん!? 大丈夫ですか!?」
反射的に口から呻きが漏れ、即座にカトラさんに向き直った。俺でこれだ。生身のカトラさんに耐えられる物では無い!
「……」
「っ!」
返事が無い。というより、声を出せる状況では無い。
機械の肺に灼熱を感じる。出来るだけ耐熱兵装を広げ、カトラさんを覆っているが既にかなりのダメージを負っている。このまま放置しているだけでかなりまずい事になるだろう。
原因は明白。目の前、俺達目掛けてぶつかって来た星そのものが灼熱を発したのだ。それこそ、太陽のように。
途方も無い、余りに超越的な規模に心が動揺さえ止める。こんなの、どうしようもない。
自在に星を操る錬金術師の頂点、その一角。彼女と俺達では次元が違う。分かっていた事ではあるが……ここまでか!?
「っ、この……」
灼ける体で無理矢理穴を掘り、カトラさんを逃がそうとする。このままここに居るのは絶対に駄目だ!
「そうするのは構わんが……これを動かせんと言った覚えは無いな」
声が響いて、背後の星が輝きを強めた。いや、進んできているのだ。
地盤が溶ける。空気が焼ける。俺の体が赤熱し、嫌な音が響いた。まずい、コレ、死──
「何をやってんだ間抜け!」
聞きなれた声が響き、超越的な破壊音が轟いた。
背後に迫った灼星は、粉々の粉塵と成っている。
「……アダム?」
「背中のそいつ担いで離れてろ。呼吸が出来るようになったら自力で直すだろ」
そう言ってアダムは俺達を追い払う。
……本当に助かるのか? だが、信じるしかない。カトラさんが助かる事、そしてアダムの勝利を。
背後で、天導の錬金術師と、星砕く最終兵器の戦いが幕を開けた。