不死の彼岸花   作:兼六園

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プレイボール

 二日後、パスポートと最低限の荷物を入れたバッグを身に付けた花は、日が高く上がった時間に空港のベンチに座っていた。

 

「次の便までは……もう少し掛かるか」

 

 受付スタッフに『子供の一人旅』だと思われたのか生暖かい目を向けられたことにげんなりとしながらも、無くさないようにとチケットを肩掛けの四角いバッグに仕舞う。

 

 多く入るからと適当に買ったメンズのバッグを膝に乗せて大人しくしていた花は、不意にドカッと乱暴に座った男性に話し掛けられた。

 

「うん?」

「──よぉ、()()()()()()

 

 その一言で、花の意識はすっと切り替わる。見上げた先にあったのは、不敵な笑みを浮かべ、緑の髪を空調の風で揺らす男だった。

 

「真島の坊主か、懲りんやつだなお前さんも」

「おいおい、今日は別に何もしやしねえよ」

「暇さえあれば人を集めてテロ(おままごと)をおっ始めようとするガキんちょが何を言うか」

 

 ため息混じりにそう言う花に、男──真島はカラカラと笑って言葉を返す。

 

「ババアが居ないのにこんなところで暴れたってつまらないだろ?」

「構ってちゃんかお前は」

「俺が人員を集めて、あんたが突然現れて殲滅する、もう5回はやってるからなぁ。相思相愛だよなぁ? まあ歳上に興味はねえけど」

「暴れるのをやめるという選択肢は無いのか。……まったく」

 

 呆れ気味に呟く花は、真島の懐に視線を向け──僅かな膨らみを引き抜こうと入れた右手を抜けないようにと左肘で右腕を押さえる。

 

(はや)るなよ」

「──んぐご」

 

 左手で取り出し直したモノを破くと、即座に花の口にねじ込む。花は口に広がった甘味に意識が逸れ、何を入れられたのかを確かめる。

 

「くっははは、マヌケ面」

「キャンディーかい……」

 

 真島が取り出そうとしていたのは、単なる棒キャンディーだった。もう一本を自身の口に含んだ真島はカラコロと転がしながら言う。

 

「ババアが帰ってくるまで……二週間くらいか? その間はメンバー集めでもするか。そんじゃあ、帰ってきたら第6ラウンドだな」

「はいはい、帰ったらな」

「前は首切り落とすところまではイケたんだが、まさか普通に生えてくるとは思わなかったからなんか萎えちまったんだよな」

「だからって人の頭でPK対決しようとするのはどうかと思うがね……さてと」

 

 そんな会話を交わしていると、電光ボードの時間割が視界に入る。──そろそろか。と口を開き、花はゆっくりと立ち上がった。

 

「坊主」

「あ?」

()()調()()()?」

「……よぉく見えてるぜ」

「そうかい」

 

 その返答に口角を緩めながら踵を返し、後ろの真島に手をひらひらと振る花はキャンディーの棒をゴミ箱に捨てる。

 予定の飛行機に乗り込んで荷物棚にバッグを入れ自分の席に腰掛けた花は、離陸してから十数分後、ふと鼻孔をくすぐる異臭に、眠ろうとして閉じたまぶたをおもむろに開けた。

 

「ふむ」

 

 ちらりと横目で客を見れば、何人かがこっそりとどこかへ向かおうとしていた。

 鉄錆のような異臭、これから向かう国、隠れて何かを行おうとしている者たち。それらを組み合わせて、花は心底面倒くさそうに呟く。

 

「……勘弁してくれんか」

 

 ──この日、本来であればハイジャックされ大都市に落下するはずだった旅客機が無事に着陸できたのだが、その理由は神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 ──大量のパトカーと消防車、警察がごった返す光景を横目に、花はバッグを肩に提げてその場を後にする。『これからハイジャックをしようとしているテロリスト風』の死体が貨物室に五つほど転がっている事件現場となっている旅客機から離れて暫く移動し、日が落ち始めているのを確認して手短に行動していた。

 

 武器の調達を頼んでいた件で入った裏路地の店で中身入りの頑丈なガンバッグを受け取り、近場の安いカプセルホテルで電話をする。

 

「──確かになんでもいいとは言ったが、こんな骨董品を用意するのは違うんじゃないか? なに? 『撃ち切って敵から奪え』? それはまあ、そうだが……おい待て電話を切るな、おい、こらっ、楠木! …………あの小娘め」

 

 はあ、と何度目かのため息をつき、花は電話を切られた携帯を閉じた。荷物の武装を確認し、バッグから出した仕事の資料を読み返し、それから切実な声を漏らす。

 

「真正面から入るにしても、なんらかの足が要るなあ。しかし街の一角を丸々仕切っているから一般人を巻き込む心配が無いのは助かるのう。──旅客機で突っ込む……のは私だけしか居ないならやったが……確か20年前に紛争地帯に突撃したのは自家用ジェットを奪った時の話だったか……」

 

 ──仕方ない。と締めくくり、花は荷物を担いで出てホテルから出る。その顔は、雲一つない、遥か空高くを見上げていた。

 

「足……足か。離着陸場とかあったかな」

 

 

 

 

 

 ──完全に日が落ちきった夜、街の一角を丸々支配しているとあるチャイニーズマフィアの拠点で、出入口を警備している男たちは黒服を身に纏い、その手にはMP5が握られていた。

 

 誰も近づこうとしない場所の警備を連日行っているがゆえに、その顔には退屈そうな色が浮かび、なにか刺激的なことでも起きないものかと不謹慎にも内心で願う程度には暇をもて余す。

 

「はぁ」

 

 退屈さから誰に聞かれるでもないため息を漏らした男は──ふと、なんとなしに空を見上げる。なぜなら、バラララララと()()()()()()()ローター音が鬱陶しかったからだった。

 

 なぜああも()()()()()()()()()()と疑問がよぎり、音に苛立って眉をひそめて、それから男は、見上げた先で飛んでいるヘリコプターに違和感を覚えた。

 

 ぐるぐると旋回し、何かを探しているような動き。それがピタリと止み──今度はこちらに向かってきた。何か異常があっての墜落ではなく、まるで、最初から突っ込んでくるのが目的であるかのように、迷いなく落下してくる。

 

「なっ──」

 

「 は は は は は はッ!!」

 

 反射的にMP5を向け、なんの意味もない迎撃をするべく発砲しようとし、抵抗する間も無く落下してきた鉄の塊にドンッ!! と轢き潰され、背後の出入口と壁ごと室内に押し込まれる。

 

 轟音を奏でて中に転がり、ひしゃげたプロペラがカラカラと空回りする光景が広がる。

 何事かと銃を手に集まってきた手下たちは、使い物にならなくなったヘリコプターの扉が押し退けられ、中から誰かが出てくる様を見届けた。

 

「あぁ、ああ……スリル満点」

 

 ガンバッグを引っ張りながら現れたのは、ボサッとした黒髪を揺らす一人の少女。

 本拠地のマフィアとその手下は、扉の隙間から、階段から、エントランスを見下ろせる階上から少女に銃を向けている。

 だが、誰一人としてなにも出来ない。『子供がヘリを操縦して突撃してきた』という異常な行動とそれにより発生した異様な空気を前に、下手な行動を取れないでいた。

 

「……さて、私とてその場で武器をやりくりするのは好きだが……今回は数が数だ」

 

 少女──花はバッグから短機関銃とリボルバーを取り出し、畳まれていたタクティカルベストを服の上に身に付けて、更には腰にドラムマガジンを数個入れたズシリと重いポーチを装着。

 

 最後に鋭く研がれたマチェットを納めた鞘をポーチの上に乗せるように装着し、スリングで繋げた短機関銃を肩に提げてリボルバーを握り直して擊鉄に親指を置いた。

 

「古い銃だが、それもまた良し」

 

 短機関銃──PPSh-41(ペーペーシャ)と、SAA──ピースメーカーで武装した花。

 興奮からドクドクと高鳴る心臓を押さえつけるように一度深く深呼吸をして、それからキチリとピースメーカーの擊鉄を起こすと、獰猛な笑みで男たちを見上げて宣言する。

 

 

 

「──プレイボール」

 

 ドバン、と。掛け声と共に一人の頭に穴が空き、一拍遅れて銃弾の雨霰が殺到した。




真島サン
・不死身ババア殺すマン。まだリコリスとドンパチしてない頃。本人は覚えてないが、盲目時代に会ったことがある。


・最低でも400歳は超えてる。
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