不死の彼岸花   作:兼六園

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意外と根性あるじゃないか

 その男は、しがない製薬会社の関係者だった。けれども、ある時裏のツテで回ってきた話に乗ったのが、運の尽きだったと言える。

 

『……なんだ、これは』

『数十年前からあるお前んとこの会社が、なぜ急に売上を伸ばせたんだと思うよ』

『──人体実験をしていたから、なのか』

『ああ、そうだ』

 

 男は資料を読み、内容に戦慄する。それは、()()()()に毎日のように試作の薬を投与して反応を見るというものだった。

 

『バカな、こんな量の薬物を投与されて生きていられる筈が──』

『風の噂だが、そいつはいわゆる……不老不死って奴らしい。この手の商売にはまさにうってつけだが、どうやら今は日本に居るそうだ』

『おい、まさか』

『ああ。ヤツをこの国におびき寄せる』

『…………』

 

 

 

 

 男が嫌な予感に冷や汗を垂らし、事実その通りとして、現在──監視カメラの向こうで、不死身の少女は獰猛に笑いながら暴れていた。

 

「くそっ、クソックソッ! 話が違うぞ……!」

 

 一度は捕まえて実験に使えたのだから、という慢心。麻酔銃を当てられれば勝てるという雑な判断によるミス。そして、少女が数百年ものあいだ戦闘経験を積んできたことを想定できなかった。

 

 麻酔を食らい即座に腕を切り落とす判断力、小柄を利用した立ち回り、死ぬこと(リセット)にためらいの無い自殺。自身が不死身であることをどうすれば活かせるかをよく理解している動きに、セーフルームで怯える男はただただ恐怖した。

 

 ──()()()()()()()()()()、と。

 

『実験に使われる』ということは、『五体満足であること』が前提で、なおかつ感覚も正常でなければならない。つまり、花はきちんと痛覚が備わっている筈なのである。

 

『痛み』とは、『それは危険だ』という信号であり、『これ以上は不味い』というセーフティライン。それを感じ取るだけで、人の動きとは()()()()()()()()()ものだった。

 

「──妖怪(ヤオグアイ)め……!」

 

 アレはもはや人に非ず。ここで止めなければ、もっと死人が出る──そこまで思考していた男は、いつの間にかターゲットが自身の隠れている部屋まで到達していたことに驚愕する。

 

『……ふうん、セーフルームか。ここかな?』

「っ──!?」

 

 ピンポイントでゴンゴンと普通の壁に偽装したセーフルームの扉を叩く少女は、考え込むように動きを止めると、おもむろにマチェットを鞘から抜きながら言った。

 

『折角だ、不死身の裏技を見せてあげよう』

「なにを……する気だ……?」

 

 そう言いながらマチェットを振り上げた少女は、さも当然であるかのように、左腕をストンと切り落とす。床にぼとりと落ちたそれを蹴り飛ばして部屋の外に放り出すと、少女はマチェットを床に刺してホルスターから拳銃を取り出した。

 

『日本語はわかるかな? まあわからなくてもいいか。知っているかい、私の体は死んだときにリセットが始まり、()()()()()()()五体満足フラットな状態に再生しようとするのだが──』

 

 ぐちゃっ、と左腕の断面をセーフルームの壁に押し当て、こめかみに銃口を押し当てながら、少女はにやりと笑って言った。

 

『──例えばこの状態で死んだら、左腕の再生の邪魔になる壁はどうなると思う?』

 

 直後、ドバン! という銃声。弾丸に脳を破壊されぐわんと頭を揺らした少女は、それでもしっかりと踏み留まって腕の断面を壁に押し当て続けた────その刹那。

 

「…………は?」

 

 じゅわっ、という何かを()()()()音。それがセーフルームの扉から発生し、思わず監視カメラからそちらに視線を移す。

 

 その視線の先にあったのは、ぽっかりと穴の空いた出入口。最新鋭の銀行の金庫をモデルにした、破壊するには戦車の砲弾が必要とまで言われている()()に、少女はあっさりと穴を空けていた。

 

 そして穴ににゅっと拳銃を握る右手を挿し込み、少女は勘で男の居る方に銃口を向ける。

 

『うーん、ここかな?』

「まっ──」

 

 ドバン! という銃声が、狭い空間にこだまする。穴から手を引き抜いた少女──花は、手応えを感じながらも気だるげに言った。

 

「さて、あと二人」

 

 ホルスターに拳銃を納め、足元のマチェットを鞘に入れ直し、PPSh-41を握って部屋を出ると、チリチリとした殺意に口角を緩める。

 

「……いいね、楽しくなってきた」

 

 呟きながら曲がり角で足を止め、マチェットの刀身を鏡代わりにして奥を覗き込む。

 改めて鞘に入れ、両手でPPSh-41を強く握ると、花は深呼吸を挟んで飛び出し──ドンッ!! という轟音と共に頭が弾けた。

 

「────、づ、ぉっ!?」

 

 鼻から上が勢いよく弾け、死をトリガーに傷が治る。出鼻を挫かれた花は、半ば直感で屈む形で第2射を避け、着弾地点から狙撃主の位置を割る。視線の奥の向こうに続く曲がり角で構えているのを見つけ、下がらせるつもりで発射した。

 

「難易度が上がってきたねえ!」

 

 姿勢を低く、脱兎のごとく。狙撃主に意識を割きつつ、花は駆ける。

 続々と現れサブマシンガンや拳銃を連射する男たちを前に、驚異的な直感と優れた動体視力で射線から逃れる花が、PPSh-41を撃ちながら徐々に距離を詰めて行く。

 

「……ん?」

 

 ──ガチン、と弾切れを知らせるレバーの後退を見てマガジンを交換しようとした花は、横切ろうとした近くの扉の中からガチャンと何かをスライドさせる音を耳にした。

 

 すると、反射的に頭を下げた花のほんの一瞬前まで頭があった場所を、ドガンと無数の粒が炸裂し通りすぎて行く。続けて蹴破るように開け放たれた扉の奥から、ショットガンのポンプをスライドさせる男が現れ銃口を彼女に向ける。

 

「おっと──はっは、残念」

 

 咄嗟にPPSh-41を立てて顔を守ると、一拍遅れて放たれた散弾が、銃身を破壊したそのついでに花の頭の一部をえぐり耳を千切る。

 ──まだ死んでいない。そう判断した男はショットガンで花の首を絞めながら羽交い締めにして拘束し、花には聞き取れない言語で叫ぶ。

 

『俺ごと撃て!!』

「なんて? ……いや、なるほど」

 

 場の雰囲気と言葉のニュアンスで何を言いたいかをなんとなく察した花は、即座に男の足の甲を踏み抜いて痛みで力を緩めさせる。

 ショットガンを奪い取り、それからくるりと銃身を反転させ、銃口を自身の胸元に押し当てて引き金を引く。ドボッ……! とくぐもった銃声が響き、自分ごと背後の男を射殺。

 

 遅れて飛び交う銃弾を、羽交い締めにしてきた男の死体を盾にしながら避けつつ、花はずりずりと前進しながら感心するように言う。

 

「さしずめ『自分ごと撃て』か? なんだなんだ、意外と根性あるじゃないか」

 

 ジャコッ、とショットガンのポンプを引き、片手間でPPSh-41のマガジンを入れていた腰のポーチを外し、死体の肉を端から削る銃弾の雨霰を凌ぎ──花は心底楽しそうに笑った。

 

「さあ、お次はどう来る?」

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