百鬼夜行は音の夢を唱えるか   作:絞りカス

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中身はペラペラです。
ホントなら7話にくっつけるはずだったものです。
しかもそんなに長くないです。



8.天狗からの挑戦状 又は侘び証文

「あんたたちを、待っていた。」

 その男は、窓の外側から吹く風に揺れて、コートを羽のように揺らめかせながら、そう言った。

海野 龍介。

 かつて敦也と村を駆け回り、数々のイタズラを敦也と共に行った、瀬文敦也という男の過去をこの中の誰よりも知る人物。

 その男が、司たちを待っていた。

 

 

「スターの卵にからくり技師、トラウマ持ちの歌姫にご令嬢か。中々の奇天烈集団だな。はちゃめちゃさという点だけは、俺らと同等の。」

 

 奇天烈なやつとは言われたくない。

 全員が目の前の男にだけは言われたくないと、喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 

 海野龍介のおかしなところは格好だけではない。

  どこまでも底冷えした、熱を持った言葉を発しているはずなのに、その言葉全てに温度がない。

 本性の掴めなさは敦也にだって共通していたが、此方はそれとはまた違う。

 こちらの海野龍介は此方に只々、興味がない。ハナから眼中にない。

 道端の石ころと同等に認識されているような、冷たさ。

 血の通っていないような冷たさ。

 どちらにせよ、この海野龍介という男も敦也と同じく、異常な部分があることには変わりなかった。

 

「そう身構えるな。あんた等と大して歳は違わない。」

「今のお前の恰好を警戒しない人間はいないと思うぞ。」

「そうか。なら体勢くらいは変えておこう。」

 

司の指摘に龍介を名乗った男は、そういうと窓の縁から降りて、床にあぐらをかいて座り込む。

その行動は一瞬。突風のように素早く、それでいて、一切無駄のない動き。

 まさしく、天狗の速さだった。

 

 

「これで、話位は出来るだろう。」

 第一印象から動作まで、全てがわからない。

何も見ていないように振る舞うし何も分からないように扱われる。

 それが、司たちから見た海野龍介という男だった。

 

「あなたは、敦也くんについて何か知っているんですか。」

「知っている。」

 

 えむの疑問に龍介は一切の顔色声色を変えずに答える。 

 

「お前たち、俺たちの頭領に用があるんだろう。」

 龍介はこの場所に来た司たちのことを見透かすように、否、すでに知っているかのように言った。

 

「残念ながらここにはいない。」

「なにせここまでのことは【決まって】いる。」

「部外者による部室の破壊。失踪後にお前たちがどうするか。

そうして繋いだ痕跡を頼りにここに来ること。

全部、うちの頭領の掌の上だ。」

 

 かき上げた髪と同じ青い目に一切の光を灯さず、目の前の来訪者に次の言葉を紡がせる前に、龍介の知る事実のみを突き付ける。

 

「なん」

「アンタは今何でそんな事が分かるんだ?

そう言おうとしたな。ヤツは全部俺に話してさっさとこの近辺から出ていった。」

 な、簡単だろ?と驚く間もなく、次々と龍介は息を吐くように事実という名の爆弾を軽く放り投げていく。

 

 

「予測でどこまで見通しているのか。

 理性による計算された予測なのか、本心による信頼で構築された予測なのか、そこの解釈は各々勝手にやれ。

俺は、打算の方だと思っている。」

 

大人である事にあそこまで突き抜けようとしているなら、それが妥当な結論だからな。」

 

 人間的な顔を一切見せずにただ淡々と己の考えを述べ終わると、

龍介はため息をはき、呆れたように持論をぼやいた。

 

 

「...あなたは、敦也くんとはどのような関係で?」

「盃交わした兄弟分。村を駆け抜けた同胞。過去を共有できる人間。これで充分か?」

 

 

類が畳み掛けるような龍介の言葉の合間を縫ってそう質問するが、すかさずに重い事実が返ってきた。

彼の言葉の羅列に、隙はない。

 

「さて、意味の無い問答はここまでにする。」

敦也は、ふわふわとして読めない人間であった。

掴めずとも、そこにはある程度の意図が見えていた。

それ故に、司たちは瀬文敦也という人間をその周りに留めておくことが出来ていた。

 

しかし、この海野 龍介という男は違う。

敦也とは違い、全ての言動に無駄がない。まるで歯車仕掛けの機械のように動いている。

 その有様は、意思なき人形のようにも見えた。

 

 

「俺は死人に等しい。

夢を持たない 心空っぽ伽藍堂で生きてるもんでな。」

 温度は相変わらず無いが、人間らしい台詞を吐きながら自虐を入れる。その瞳は何かを諦めた様な色が現れていた。

 

「それでも役目くらいはある。

ここでの俺の役目は1つ。

お前らを案内することだったが...事情が変わった。」

 

 「全部アツ坊の掌なのも癪なんでな。意地悪いことをさせてもらう。」

 

 今まで光の灯っていなかった龍介の瞳にギラリと光が灯った。死人の瞳に、空っぽの夜の心に、篝火が焚べられた。

 

「お前らに問う。お前達は何故瀬文敦也を求める?」

 

 

その質問は意外にも簡単なものだった。

 

「何故って...俺たちの友」

「違うな。」

司の言葉は、龍介によって遮られる。

「俺はあいつと違って、無意識だろうと、嘘をつかれるのは嫌いでな。」

 

はぁ、と一息ため息か、肺から漏れ出た空気の音のどちらかが室内に静かに響いた。

どちらにせよ、その音に込められた意味は、「落胆」だった。

 

「ここまで来て気付いていないとは言わせねぇぞ。」

 龍介の言葉に圧が加わった。

 

「お前らは、瀬文敦也という人間を何も知らない。客観的に見れば、お前達は他人に等しい。

だがお前達は親しき友だという。」

 

「お前たちのショーのメンバーでもない【他人】を、お前たちは何故追える?」

 

龍介の疑問は再び問われる。

その言葉には様々なモノが詰まっていた。

怒り、蔑み、恐れ、マイナスなものばかりではなく、期待も混ざっている。

 

俺から仲間を奪うのならば、それ相応の言葉を用意しろ。

 

そんな意が、込められていると4人は読み取れた。

 

 

「俺の言葉に答えるまで、お前たちに語ることは、一つもない。」

 その様子は、宝を守る番人。否、秘宝を守る天狗だった。

「僕は、」

「からくり技師か。」

類が、少し顔を曇らせながらも龍介の問いに対して、前に出た。

「僕も敦也君の真意をまだ読み取ることは出来ていません。」

 

 神代 類は、瀬文敦也の心の全てを正確には測り損ねた。

 しかし、瀬文敦也の心に表面だけであれど確かに触れている。

 

「だからと言って、僕は彼を【他人】として見て見ぬふりで終わらせるつもりは毛頭ない。」

 

類の考えが、龍介の視線を惹く。

その考えは敦也の奥底を触れかけた者だからこそ辿り着けた結論。

「私も、」

「歌姫。」

トラウマを抱えた歌姫が、言葉を紡ぐ。

 

「わたしだって、アレの事が一回でも100%分かったことはない。」

 

「でも、アイツが見せてくれた子どもの顔と景色まで嘘だなんて、私は思いたくない。」

草薙 寧々は敦也の事を隅から隅まで知っているつもりはない。

それでも、中身には多少なりとも少年の心を持つことぐらいは、見つけることが出来た。

 

 歌姫の声が 妖怪の耳を傾けさせる。

その言葉は、時折見せた敦也の無邪気さを知っている者だからこそ紡ぐことのできる言葉。

 

「ご令嬢。」

 「アタシね、敦也くんと約束したことがあるの。」

鳳 えむは、瀬文敦也の歪さに気付きながらも留まった。

だが、そうして悟れたからこそ、敦也と彼自身が自らのことをいつか話す事を約束した。

「敦也くんは約束を破らないって、私は信じてる。」

 

 令嬢の約束が、妖怪の興味を惹き付ける。

その約束は、敦也の事を見抜きながらも信じることのできる者だからこそ守れる誓い。

 

 「確かに、お前の言う通り俺たちは、敦也のことを何も知らないのかもしれない。」

 

 

 最後に口を開いた司の言葉を、冷えた目線で、しっかりと見据えながらも龍介は司の言葉を聞いた。

 「卵。」

 

「アイツが何かを隠して、俺たち全員に何もつかませないように嘘をついていたのかもしれない。」

 

「そうだっつってんだろ。」

「それでもだ。」

今度は司が、龍介の言葉を遮った。

 

「俺は、アイツと過ごした日々の全てが、ファン第2号の行いが嘘だとは、俺は思わない。」

 

天馬 司にとって瀬文敦也との初めての出会いは、良いものとは言えないものかもしれない。

 それでも、そこから積み重ねた日常の中で、行方不明の友人は司の事を知り、スターである司のファン2号として見守ることを決めた。

 そして、彼の口から、隣に立ちたいと言わせるまで、惚れこませた。

「俺は、敦也の嘘偽りない姿を知るために、信頼する友のために、俺のファンのために

瀬文 敦也という正体不明の妖怪を、仲間にする。」

気味の悪かった妖怪の目を奪ったスターの言葉が、龍介の心を動かした。

 

 

 裏に何があろうとも、誰に何を思われていようと、瀬文敦也という人間を信頼する。

だから我々には瀬文敦也が必要だと、手を伸ばしに行く。

 それが、ワンダーランズ×ショウタイム(奇天烈集団)の導き出した、答えであった。

 

 

彼らの答えに龍介は黙り込む。

 その表情は相変わらず類をもってしても読み取ることが出来ないが、司たちの答えに面食らっていることは確かだと言うのは何故かわかった。

 

「…カッ。」

 

一笑い。

 

カカカ…

 

大笑い。

 

カーカッカッカッカ!!!

 

高笑い。

 

 

 

司たちの理想じみた答えに、天狗(龍介)は嗤った。

「そうか!そうか!!

お前たちはそこまで信頼するか!!!!」

「嘘で塗り固まった男を!!そこまで信頼するか!!!」

 それでも、その答えは確かに、

全くもって、面白い。

 

番人の心を納得させるものだった。

 

先程までの高笑いが突如なりを潜めて無音になる。

「随分と輝かしいこと言うのだな。

奴の新たな友は。」

どこか羨むように、司たちを見た。

 

「ならば結構。俺はお前たちを認めよう。」

 

 

「これをやる約束でな。」

そう言って龍介は4枚のチケットと古びた紙を机に置いた。

「奴が大切というならば、さっさと向かう事をおすすめする。何せ時間は有限なものでな。

刻限は大体後3日程度。」

 

「どこまでも星であり続ける者達よ。

瀬文敦也を知ることがお前たちの知る瀬文敦也を取り戻す方法だ。」

「清濁併せ呑んで認めてこそ真なる仲間といえるんだな。」

「どこへ行くんだ?」

司が動き出した龍介に問いかける。

 

「役目を全うすることは村にいた時からとっくにもう飽きていてな。

こっからは自由に飛ばせてもらう。」

 

そう言って龍介は、再び窓を開け、縁に立つ。

 

「縁があれば再び会おう。

さらば、狼煙の火元を探す者たちよ。

我らが頭領は、朧の月夜で待っている。」

 

龍介は、飛び降りた。

4階の窓から、地に向かって。

 「な?!」

 司たちは当然驚き、窓の下を見るが龍介の姿は何処にもない。

 何処に行ったのか 何処に落ちてしまったのか、飛び降りた龍介を数秒探し、窓から顔を突き出して天を少し仰いだところで、

 

 

 

 

上空で風音混じりの声が聞こえた。

 

 

 

 

「阿呆が。天狗とは、空を翔ける妖だ。」

 

「地球さんを見たところで俺はいないんだよ。」

 

 

 

 

そこには翼を広げ、ビルを翔ける天狗の姿があった。

 

残された部屋には、チケット以外に一つあるものが増えていた。

 

子どもの書いたような崩れた字、しかし読めないわけではない。

そんな発展途上の字で、書かれた紙。

 

【しょーたい状 そう大しょう櫛野宮 密芽 代理一同】

 

敦也を辿る得体の知れない片道切符だった。

 

 

 

 

「お前の言う通り、道筋は与えたぞ。」

空飛ぶ妖怪は、携帯に向かって言葉を投げる。

通話の先の音は飛んで起こった風音で部外者に聞き取ることは出来ない。

 

「随分 信頼されているんだな。」

それほどないって。』

 

「お前があれらに惹かれるのも納得した。」

でしょう?』

 

「ここまでお膳立てしておいてやったが、お前に聞きたいことが増えた。」

何さ。

「とぼけるなよ。お前、迎えに来てもらうことが目的じゃねぇだろ。」

『…』

 

「お前、村で何するつもりだ?」

「俺はな、今のところお前が語った通りに事が進んでいて、正直恐ろしく感じている。」

「だから、ここでハッキリさせたい。お前、」

 

そんなに気になるならこればいいじゃん。

 

その言葉だけは、誰にでも聞こえるような声であっけらかんとした声で、はっきりと聞こえた。

次の言葉を言い返す前に、プツン、と通話は切れた。

 

空を翔ける足を止めた龍介は、怒りも呆れもできなかった。

 

「アツ坊。何がお前をそこまで変えた?」

 

路地裏で再会してから、今の電話まで、かつての兄弟分に感じた最大の疑問を口にした。

その言葉は、街にも、ましてや切れた通話越しにも、誰の耳にも届かず、静かに肌を冷やす風音に溶けていく。

風にたなびく翼の下から見える背中には、

 

大きなやけど跡と、小さく不格好な歪な人魂の印が入っていた。

 

 

 

舞台は変わって、別の場所。

「ねぇ。IA。」

「うん。ミク。」

 

祭囃子の鳴り止まぬ騒々しい夜の中、2人の少女が名前を呼び合う。

 

「そろそろだね。」

「もうすぐだよ。」

 

2人の少女は待ちわびていた。

 

「敦也の想いが、ようやく伝わるね」

「敦也の心が、ようやく見られる。」

 

騒々しさの中に消えては紡がれる言葉。

 

「大人で隠した自由な心。」

「理性で覆った敦也の心。」

 

「あの子が前を向ける夢。」

「あの子が苦しむことのない物語。」

 

バタン、何かの倒れる音。

カチリと何かの押される音。

その直後、先ほどまで響いていた騒々しい音がピタリと止んだ。

 

「頑張って。IA。」

「わかってるってば。ミク。」

 

セカイの様子はガラリと変わった。

自然も提灯の明かりもない暗いセカイ。

暗い暗い夜の訪れたセカイ。

そのセカイは決して現れることの無いセカイ。

 

そのセカイに新たに表れたのは、ただ一つの扉。

錠前のかかった扉一つ。

 

 

扉の鍵は、既にあるべきものの元に。

 




Q.お前なにしてたん?
A.メンタルブレイクと免許取りに行ってた。

それと次回から架空イベントってやつをやります。
底辺小説のくせに何言うてんの?
と、思うかもしれませんでしょうが、お許しください。

感想、評価、お気に入りのほどよろしくお願いします。
ホントに気軽に色々押したり書いたりしてみてください。

次は誰と対話する?

  • 草薙寧々
  • 鳳えむ
  • 東雲彰人
  • 青柳冬弥
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