A.免許の卒検落ちた。一番大事な講義の単位を落とした。
被らないであろうと思ってた妖怪モチーフのイベントが公式からお出しされて、勝手に筆が折れてた。
杏ちゃんのバナーを走って2700位辺りになったので私は元気です。
3周年おめでとうございます(大遅刻)
架空イベント6~8話です。
6.夜空の月、湖面の月
「...」
真っ白。
今の敦也を表現するに、これ以上合致する言葉が見当たらない。
敦也を含めて5人のいるこの空間が寒々しいまでの黒で包まれている為、余計に敦也の異常な『白』が引き立つ。
病的なまでに白くなった肌。
色の抜け落ちたような髪の白さ。
どこか燃え尽きているような、燃え滓のような。
どこか立ち上る煙のような、不純物の無い白煙の様な。
彼ら4人の知る男が、姿形の変わった友が、そんな様子で佇んでいる。
「お守り、役に立ったじゃろ。」
口調はいつものように丁寧口調の物ではなく、先程の記憶の小さな敦也のように、訛った口調で、4人の姿を敦也は捉えた。
「あれは、うちの村のまじないでの、物事の打開の為にまじないが込められたりするんじゃ。」
敦也は自分の顔を隠すように、過去に被っていた童子の仮面を被る。
童子の面の片面は、右側を覆うように手の跡がついている。
「なんや、人の心を見えるようするだの。
万能なお守り。荒御魂もびっくりじゃ。」
その跡の色は、荒れた空き教室に広がっていた海の色と同じ色。
何もかもが異なる友人の姿に、4人は言葉が出なかった。
「…人間不思議なもんじゃな。
おまんらなら見つけてくれるっちゅう信頼が当たったことへの嬉しさと、
おまんたちには見られとうないっちゅう言いようのない後ろめたさが、わしの中に渦まいちょる。」
4人ならば、気付いてくれる。
4人には、知ってほしくない。
気付いてくれるように策を講じておきながら、その策通りに動いて欲しくない。
敦也は、自身の中にある相反する矛盾の感情を口にする。
その場の足先に白煙が再び這いずり始め、もくもくと煙が出てくる。
ここから出て行ってくれ。
ここからいなくならないでくれ。
相反する二つの意志が、4人の来訪者の足元を這いずるその煙には寸分狂わず等しく乗せられている。
その意志が誰のものなのかも、無論四人にはよく分かっていた。
「随分、気分悪うなるもんをみせてしもうたのぅ。」
「嫌なもの?」
「ワシらの末路じゃ。」
司の言葉に、敦也は顔を下にして、俯きながら4人が扉の前で見たであろう自分たちの悲劇をそう揶揄した。
「見られたく、無いものか。」
「そら、そうじゃ。わしの苦々しい経験じゃき。
ぽっぷこーんむーびぃー映画のように作られとうわけとちゃう。」
「伏線も何もない、ただの胸糞悪ぅなる、三流映画じゃ。」
そう言い、敦也は左右で異なる瞳を細めて寂しく笑った。
「わしはの、阿呆なことをしちょるとおもうとる。」
足元に未だ燻り続ける煙の白と、漆で塗り潰された深い黒のコントラストの上で、彼らは再び再会した。
その思いは様々だ。何故
「腹切って、周りくどうヒント書き散らして、勝手に消えよって。」
「殴られても、おかしゅうないめんへらむーぶ? ってやつじゃの。改まって振りかえってみると。」
自虐的な笑みで、司たちに対しての自分のこれまでの行いをどこか自虐的に客観視して話す。
「敦也くん、なんだよね?」
「……おおむねそうじゃ。」
「おおむね?」
「わしは外の『私』が必死に押し殺した本心。まぁもう一人のぼくみたいなもんじゃ。」
「……一人称が多い。簡潔にして。」
「相も変わらずわしにはつんけんしてくるの。草薙の嬢ちゃんは。」
寧々に向けるその言葉は、場所も口調も何もかもが違っているが、瀬文敦也から紡がれる言葉に違っていない。
「……普段の話し方じゃないから違和感が凄いな。」
「わしは大人ぶって、胡散臭くて煙たい、おまんらの知る瀬文敦也っちゅう男の
一切の飾りのないまんまの姿。」
敦也は四人の姿をじっくりとらえたかと思えば、そのまま背中を向けて胡坐をかいて座り込む。その姿はどうしてか、何もかもに疲れ切った人の縮こまった寂しい背中にも見えた。
何に疲れたのか、4人は考える間もなく、先ほど見た敦也の記憶という、一つの解答が頭に浮かぶ。
「わしは、ここに来てあの地獄を、もう一度体験した。」
「は?」
司が思わず口から言葉が漏れる。
今、この男は何と言った?
もう一度、体験した?
見ていただけでも、心が張り裂けそうになる出来事を、もう一度体験した?
「扉の前に引っ付けたのは、そん時のわしの想い……まぁわし視点の映像じゃ。」
何を言っているのか、理解が出来ない。したくない。
「どうして? どうして敦也くんは自分からそうやって行っちゃったの?」
えむが悲痛な面持ちで、異常な敦也の言動の意味を聞こうとする。
「そないな顔をするもんじゃないきにえむ嬢。」
「……わしはの、おまんらに大層幸せにしてもらったんじゃ。」
「幸せに?」
「そうじゃ。」
えむのオウム返しに敦也は肯定する。
「おまんらと過ごして、こんなに笑えたのは村にいた時以来じゃ。あんがとの。みんな。」
「じゃけどな、わしは、償わなきゃならん。」
「わしはミツ姉が死ぬことを止められなかった。」
「わしは幸せになった分、自分が本来の受けるはずだったマイナスも受け入れなダメなんじゃ。」
「自分の心を痛めつける程度で、恩人の命に対する贖罪なんぞ、秤の分銅と砂粒みたいなもんじゃ。」
「それでも、砂粒の心を潰し続けて増やせば、つり合いは取れる。」
敦也は過去に自らの被っていた童子のお面を再び被る。
「こればっかりには背を向けられん。」
自分の顔を抑えるように、深く、深く面を被る。
「ここまで言えば、わかるじゃろ。」
「まだ6週目じゃ。まだ償い足りん。」
顔は見えないが、明るく気さくな声は聞こえる。
「そういうことじゃ。わしはおまんらとは行けん。」
「おまんらのの元には、」
「ふざけるな。」
敦也の追い返そうとする言葉を、遮った。
「ふざけるな……ふざけるな!」
その言葉には、今まで見たことのないほどの怒りが滲み出ている。
「お前は、約束しただろう!!」
「一緒にやるかどうか、必ず返答しに来るんじゃなかったのか!」
「その返答すらせずに、一方的に俺たちから去るつもりか?」
「お前の返答が何であれ、俺はお前の返答を聞くまでお前を手放すつもりなどない!!!」
妖の友である座長が、醜く擦れた目の前の男にそう宣言する。
「敦也くん。それは悪手だよ。」
錬金術師は将来のスターからの突然の宣言で揺れる少年にそう投げかける。
「君が罪だというそれを抱えて沈んでいくことを、僕たちが黙って見ていると思っていたのかい?」
「僕は、そんなことを許すつもりはないよ。」
類は、信念の込められた瞳と言葉で、罪と沈もうとする敦也を打ち抜いた。
「アンタがどう納得したいかなんて分からない。」
寧々は交流の末に見つけた、少し頑固だが、なんてことのない普通の少年たる妖怪を見据える。
「でも、アンタが傷ついていくのを、私は見ていたくなんてない。」
寧々の言葉がズタズタの妖怪の心を揺らす。
「敦也くんは、いっぱい辛いことにあってるんだよ。」
「もう、悲しい方に進もうとしなくてもいいんだよ?」
半泣きのえむの言葉が擦り切れた■■の事を包もうとする。
「...本当におまんらは、真っ直ぐじゃ。」
「わしゃ、そんなおまんらが好きじゃ。」
俯き、表情の見えない角度で、敦也は少しだけ笑いながら、彼らの言葉を飲み込む。
「じゃがの、司。こればっかりは言わせぇ。」
「こんなに汚れたわしを、おまんらの元に置くことを、わし自身が許すわけなかろうが!!!」
敦也は怒号を飛ばした。
それは4人も聞いたことも見た事もない敦也だった。
何年もの間換気もされることなく残り続けた、黒々しい、汚れの様な煙が溢れ出る。
「何全部ほっぽり出して幸せなろうとしとんじゃ!!!
ふざけるのも大概にせぇ!!!」
「わしゃ自分を許せん!!見殺しにした自分を!!!のうのうと生きる自分を!!!!」
「自分で失ったくせに!! 懲りずに新しいもんに手を伸ばそうとする自分を!!!」
「そう簡単に!! 許してたまるかじゃ!!!」
それは、ようやく聞き出すことのできた敦也の本音。
瀬文敦也という少年が、妖怪の名を名乗り続けた少年が、大切なものを取りこぼしてからずっと隠してきた本音を4人は引っ張り出した。
それは、どうしようもない後悔と憤怒の汚濁だ。
「あぁそうじゃ!!!
わしは! 私は! 隠そうとしたさ!!」
「きっとコイツらは違うって!!」
「みつ姉やタツ坊との関係とは違うって!!」
「でも違った!!!」
「おまんらはお前たちは一緒だった!!」
「私の中で大切な奴らだって認識してしまった!!!」
「そうしたらもう私は耐えられない!!」
「大切な人にこないなこと隠して顔なんぞつきあわせられん!!!」
「わしの心を照らしてくれた太陽を!! 似つかわしくないほどに汚れた私で貴方達を汚したくないんです!!
「もうわかったじゃろ!!
ここでやってることはただの私の独りよがりなワガママなんです!!!」
「だから、もう、帰ってくれ……
かえって……ください……」
「わたしに…あなたたちをきずつけさせないで…」
「かえって、くれよ…」
か細い声を絞り出し、瞳に大粒の涙を抱え、嗚咽と共に煙の床に零す。
これが、敦也の本心なのだろう。
どうしようもなく、わがままに矛盾して、
どうしようもなく、意地を張り続けて我慢してきた
不器用な泣き虫の、心の叫びだ。
「……あーあ。言っちゃたなぁ。」
涙をぬぐい、息を吐き、不燃物は笑う。
「全部取りこぼしたくせに、いっちょまえに悩むんじゃないよって話か。」
仮面の破片を全て床に散らした、敦也の何もかもをやめたような笑いと共に、床の煙は立ち込める体積を広げ、敦也を覆い隠すように濃さを増していく。
「やっぱり、私は謝り続けなきゃ」
『なーにぐちぐち悩んでんのよ。』
泣き続け、結論付けようとした敦也に、突如その少年にとって聞き覚えのある声が聞こえた。
少年にとっては、随分前に直で二度と聞くことのないと思っていた少女の声。
その声を知る少女達にとっては、先ほど自分たちの手を引いた少女の声。
『もういいんじゃない? 今まで抱え込んでたの、吐いちゃったんでしょ?』
その場にいる4人でもなければ、龍介の声でもない。
全てを吐き出した妖には、その恩人の声が認識できる。
もう、聞くことのないと思っていた、自分が救えなかった声。
『バカね。また辛気臭い顔してんじゃない。』
「……みつ姉。」
『アンタまだ泣き虫なの?』
櫛野宮 密芽その人が、煙の毛布にに包っていた泣き虫の煙を薙ぎ払い、その後ろに立っていた。
7.
「……やっぱり、いるじゃないか。」
『そりゃ、寝床で長い時間泣かれたら目も覚めるわよ。』
「ずっと、待ってたんです。」
『そうでしょうね。』
二人の会話は、どこかぎこちないものだ。
敦也は、もう会えないと思っていた、絶対に合えないはずの償いの相手が目の前に現れたことで、全ての言葉が喉の奥に詰まらせている。
方や、突如現われた彼の恩人且つ死人のはずの密芽は、彼がどうにかして吐き出す言葉に淡白に返していく。
どこかかみ合っているようで噛み合いの悪い光景は、自らの想いをぶつけ敦也の動きを待つ司たちを観客として、続いていた。
「……言いたいことは、たくさんあります。」
『そう。』
顔を俯かせる敦也を見下ろす密芽の顔は、微笑みも嫌悪もせず、ただただ何も浮かべることがない。
「すまんかった。」
『何に対してよ、その謝罪。』
「あの日、わしらが救えなかったことに決まっとるじゃろうが!!!!!!」
冷ややかに言葉を返した密芽に、少年は瞳に再び大粒を抱えながら、喉を搔き毟りとったようなボロボロの声で、そう叫んだ。
「わしらが悪かったんじゃ……わしらがみつ姉を助けられんかったんじゃ……」
密芽は、敦也の謝罪に反応すること無く、ただ黙って彼を見つめる。
「...恨んどるじゃろ。わしはあんたの宝物としての役目を全う出来んかった。」
「聞きたくもないでしょう。貴方を見殺しにしたやつの、言葉なんて。」
そういって、後ろに倒れこみ、体を大の字の形に動かす。
『いや、そういうわけじゃないわよ。』
『アタシ、本人じゃないからどう返したらいいか分からないのよ。』
「……はい?」
敦也は、密芽の意味の分からない発言に空気のような一文字が漏れ出す。
『アタシ、木が作り出した想像の存在ってところ。』
『でもだからといって、一から全部が違うわけじゃないわ。アタシ、木の下に全部埋まってるでしょ?』
『そこでアタシが残したものから木が夢やら幻覚やらを見て、その時に少し取り入れられたアタシを補強する形で今ここにいるってわけ。』
『ものすっごくバッサリ言えば、霊木が吐き出した幻ってことよ。
当然、ここを出ればアタシは消えるし、ほとんど覚えてない。』
「なんじゃ、そりゃ。」
目の前の人物が幻であり、本人では無いことを告げられ、敦也は愕然とする。
「なんだよ、それ。」
密芽の言葉に飛び起きた敦也は、再びそのまま力なく項垂れる。
「けっきょく、わたしは許されないんですね。」
『話聞いてなかったのアンタ?』
「だって、あなたは」
『3割本物の幻覚よ。それでもちょっとした奇跡でここにいるのよ。
だから、これからいうことよーく聞きなさい?』
ゆらゆらと揺らめきながら、密芽は人差し指を敦也の頭に向けて念押しした。
『確かにアタシはアンタが望む本人じゃないかもしれない。
アンタが償いたい大切な人まんまじゃないかもしれない。』
『それでも、アンタが償いたいと思っている人がどうしたかったのかは、ハッキリアタシは覚えている。』
少しだけ、息を吸って、準備をする。
『あの日、アタシは村の取り決めで贄として選ばれて、木の下に埋まることを選んだ。』
『アタシは、あの時、ホントは泣くほどうれしかったのよ。』
「……なん、で」
衝撃の言葉の数々を投げ付けられ続ける敦也は、かすれた声で聞き返す。
『そりゃあアタシのために動いてくれたからよ。』
密芽は、さも当然かのように、泣きじゃくった少年の疑問に答えを返す。
『アタシは、村のお嬢様。大切に扱われることはあっても、誰かに大切に思われることはなかったの。』
『だから、あの時、アタシのために全てをかけて動いてくれたのが、たまらなく嬉しかった。』
『だからね、アタシはその気持ちに答えたいって思ったの。』
『アンタ達だけは、あんなイカれた風習なんかに奪われてたまるかって。』
『アンタらが体張ってくれたんだもの。自分の宝物をアタシだって守って見せるって。』
『そうして、アタシの出来ること全部やって、アタシの命を使った。
それで、村も因習も全部まとめて神さまに大掃除してもらって、おしまい。
そのお釣りとして、アンタ達を守ってやることが出来たんだからそれで充分よ。』
敦也にはその言葉に未練の一つも感じられなかった。
『……アタシはね、アンタ達にありがとうって思えたのよ。』
「は、は。」
敦也は、爪が皮膚に食い込む程に握っていた拳が緩み、力が抜けるように膝をつく。
「なんだ、わたしは、とっくの間に、許されていたんですか。」
『バカね。言ってるじゃない。』
「……わたしは、怖いんです。」
『怖い? 泣き虫ではあるけど、ビビりじゃないでしょアンタ。』
「そうじゃないんです。」
密芽の言葉に首を小さくふるふると横に振り、止まらぬ嗚咽の中、息を整える。
「……また、なくなっちゃうんじゃ、ないかって。」
敦也の目から、雨のようにとめどなく再び静かに涙が毀れ落ちていく。
「また、みつ姉みたいに、わしのせいで不幸にしてしまうのが怖い。」
「わしがあいつらについていって、また同じようにバカみたいな話につぶされて、
アイツらを不幸にしてまた自分だけのうのうと生きのこりたくない。」
「楽しかったことを、私だけしか覚えてないなんてことにもうなりたくない。」
「また、わしだけのこりとうない。」
「わしは、おかしいんかの。」
「進むことに、怖くなってるのは、ダメなんかの。」
ぽつりぽつりと、本音が零れていく。
恐らく、昔から知るものでなければ、吐き出させることのできない奥の奥にしまわれていた言葉たち。
『そうね。あんたは優しいんだものね。』
『でも、アンタの後ろを見てみなさい?』
振り返れば、先ほどまでの贖罪の言葉も密芽に起こったこともすべて聞いていた4人がこちらを見ている。その目は皆が瀬文敦也という人間を信じている目だった。
『アンタの手を取りたいあの子たちが、そんな理不尽に踏みにじられるほど弱いと思う?』
『あの子たちのもつ強さを、アンタは信じられない?』
後ろの観客たちは、黙って見つめてはいるが、その目には、決して折れることのない決意の炎が揺らめいている。
密芽の言葉に、なってたまるか、といった決意の眼差しで無言で訴える。
「……そんなわけ、ない。」
「あいつらの、たくましさは、わしが良くわかっちゅう。」
『でしょ? だったらいっしょに行ってきなさい。』
『アタシの宝物にふさわしい生き様を、見せてきなさい。』
『百鬼夜行頭領としての、アタシも龍介も、誰も知らない生き様を、貫きなさい。』
それは、敦也に与えられる最後の指令。
櫛野宮密芽の残滓が、確かに与えた、最後の約束。
「……わかり、ましたよ。」
その言葉は、充満するだけの有害有毒な煙に確かに役目を与えた。
煙羅の存在を、再び確立できる程の、火種として、再び燃え始めた。
「もう一度、私の煙を。あなたどころか、世界中の誰も知らないような、大きな大きなお祭りを。
私は、やり続けて見せます。」
そう言って立ち上がった、かつて泣き虫だった少年の顔に、懺悔の涙も、贖罪の意志も既にない。
ここに再び、煙の妖怪は現われた。
贖罪の灯を火種とするのではなく、前へ向かうための狼煙の煙を立ち昇らせる者として。
『ようやくイイ顔になったじゃないの。』
決意の決まった顔つきになった敦也の顔を見て、密芽はようやく敦也に優しい微笑みを浮かべた。
『こんなとこまでごめんなさいね? こんな内輪の話ばっかしちゃって。』
敦也の後ろで成り行きを見守っていた司たちに、密芽は少々の申し訳なさを滲ませながら対面する。
「俺たちは、友の手を引っ張りに来ただけだ。」
『あら、そうなの?寧々ちゃんとえむちゃんもごめんなさいね?
ただの案内人だったのが実は死んでましたーなんておかしなオチ見せちゃって。』
「ほえ?」
『ずーっと重たい話してたけど、おしまいにしたから、違うお話しようとも思ってたけど…そんな時間もなさそうね。そういや、貴方達はどうやってここに?』
「龍介君が、勾玉のついた三味線を弾いて、それを聞いたらここに…」
えむが来た方法を密芽に告げると、密芽は少し驚いた顔をした。
『龍介……あの子ったら変わらないのね。』
『敦也のこと頼んだって約束、ずっと守っちゃって。』
少し誇らしいような笑みを、密芽は浮かべた。
『あと、一個だけお願いしてもいいかしら。』
『うちの宝物のこと、色々と迷惑かけちゃうでしょうけど、お願いね?』
『敦也は色々と違って困っちゃうこともあるけど、その分頼れることもたくさんあるから。』
『うちの大事な妖怪のこと、頼んだわよ。』
その言葉には、確かに重みが存在していた。
自分にはできないことを託すような、未練とも言い難い、さわやかな言葉。
「あぁ! 敦也の事を、俺たちは絶対に悲しませたりしない!」
「もう彼の事を、ただ煙らせるだけになんてさせません。」
「敦也の夢も、私の夢も、どっちも叶えて見せるから。」
「敦也くんも、龍介くんも、密芽ちゃんも! 笑顔にして見せるからね!」
4人は宙に浮いた密芽に向かって、決意やこれからを口にする。
『……そうね。』
密芽は流れそうになる涙をこらえながら、彼らの言葉を噛み占める。
『じゃ、敦也をつれて帰んなさい。長くいると、タツ坊がぶっ倒れそうになるわ』
あの子、変なところで律儀だから、と踵を返して敦也たちに背を向ける。
「みつ姉。」
密芽は再び深い眠りに戻るため、再び奥の方へと足を進めていると、目元をぬぐい、いつの間にかに立ち上がった敦也に呼び止められた。
『……なによ。』
「あの日、私を救い上げてくれて、ありがとうございました。」
「このご恩は、生涯忘れずに、貴方の越えられなかった夏の先を、私は止まらずに生きていきます。」
敦也は、最後に人生分の感謝を告げた。
その目に、もう過去に後悔し、苦痛の涙が流れることはない。
『……アンタも、生意気な口言えるようになったのね。』
『もうこっちに呼ばないように、アンタ達頼んだわよ。』
密芽は笑う。
「そりゃ、私も成長しましたから。」
煙が、全員の体を包むように優しく煙ってくる。
「じゃあね。みつ姉。」
『じゃあね。アタシの大事な宝物。』
上に上がるような感覚を覚えながら、視界が白く染まる。
小さな箱庭のような、淡い色をもった夏の世界が静かに離れていく。
もう誰も、この時間に溺れるような時がくることはない。
そうして、4人は、大事な
8.
木の下で、奏でられていた音楽が止まる。
彼の持つ三味は、既に弦も胴も元の色が分からない程にボロボロに。
弦を弾く木製のバチは、持ち手が赤く染まり、素材の木が流れ出る血を吸ったように歪な模様をつけ、奏者の文字通り血の滲む献身を物語る。
雨風に晒されたのか、彼の羽織る露草色の着物は、泥に濡れたように所々が黒く汚れている。
彼の目の前に吹き続けていた木枯しの渦たちは役目を終えたように、どこか遠くに過ぎ去っていく。
木枯しの渦の中に吸い込まれた者たちは、風に落ちた先で目覚めるだろう。
「賭けには、勝ったか」
ボロボロの男は、汚れることを気にせず、自らの後方に倒れこんだ。
辺りを見渡せば、既に陽は傾くどころか姿を消しており、虫の涼しげな鳴き声が辺りを満たす。
どうやら彼は、その手に握った三味線を一度も絶えずに、弾き続けていたようだ。
「あー……つっかれた」
「あいつら、危ねぇな。ギリギリまで粘ったし、戻ってきてるからいいがな」
ようやく、龍介は実感と温度の感じられる言葉を吐く。
周りにはだれもおらず、彼の温度を受け止める人間はいるはずはなかった。
しかしその温度をただ一人だけ、聞いていた。
「…よぉ。遅かったな」
「えぇ。随分待たせました」
永い眠りから目覚めた男が一人、その
倒れ込んだ疲弊困憊の龍介に敦也は労いの言葉をかける。
「…他の4人は? 置き去りにしてきたりしてないだろうな」
「寝起きの人間に散々なことを言いますね。
木の反対側の茂みでぐっすり寝てますよ。流石にここの意味の分からない話ばかり見せられて疲れていたのでしょう。
起きてきても、ここに灯りでもつけていれば来ると思いますよ。」
「マッチなんて持ってない」
「…」
「…」
敦也はシュボッ、と、かき集めた草木にライターで火を落とし、焚火を燃やし始めた。
パチパチと、燃え落ちる音が草木を揺らす風に溶けていく。
全ての計画は、敦也がビル街の天狗を取り込むところから始まった。
敦也は天狗としてビル街を飛び交う龍介に接触し、再会することであることを頼んだ。
『木に、夢を観させることは可能ですか』
『は?』
当然ながら、再会の喜びよりも先に困惑が勝つ龍介。
何を言っているのかを問おうとする前に敦也はこう続けた。
『私は、自分の罪に落とし前をつけたいんです』
その言葉は彼を導き手とするには十分な言葉だった。
敦也はその後、自らが村を出てから今日までをざっくりと述べ、敦也は自分のこれからの行動にある保険をかけておいた。
これから、自分の家に来た者がいた場合、その者を見極めて、我々の故郷に案内すること。
そのことを、念入りに龍介に頼んだ。
この保険により、敦也は自らが新たに紡いだ縁により、再び眠りから覚め、この場所に立っていることが出来ている。
敦也は、霊木と心を重ねることで、自分の行いを振り返り、自らの過去に折り合いをつけようとした。
そうすることで、司たち4人に初めて真摯な心で返事をしに行くという、敦也なりのケジメのつけ方だった。
しかし、過去を振り返れば、過去に引きずり込もうと足をつかんでくる。
だんだんと敦也は過去に毒されていき、目的が過去に贖罪し続ける事にすり替わってしまった。
敦也の心は木の深く、黒い記憶に流されていき、あと一歩で完全に心が木に取り込まれるところで、彼らが扉を蹴破って手を引っぱりに来た。
敦也がかけていた保険が機能し、最悪の事態を回避した。
そうして、引き戻される過程で本来の目的であるけじめをつけ、今に至るのだった。
「話は、出来たか」
「えぇ。おかげで踏ん切りも付きました」
二人の会話は、とても短いものだ。
「龍介」
「なんだ」
「ありがとうございます。
私の結末を見届けてくれて」
敦也は、約束を守ってくれた龍介に感謝を告げた。
「…交わした、約束だからな」
龍介は敦也の方から顔を背け、ぶっきらぼうにそう答えた。
「何か言っていたか?」
「律儀な奴だなって、アンタ達は自慢の宝物だからなって、宣言されちゃいましたよ。私たち」
「そうか、そうか…」
「宝物か…俺たちはまだ、あの人の宝物でいられているんだな…」
顔を覆うように手で隠し、噛み締めるように声を絞り出した。
「あの人の宝で居ることを、忘れずにいましょう」
「きっとそれが、私たちに出来るあの人への恩返しです」
「…そうだな」
共に地面と平行になりながら、空に浮かぶ月を見上げた。
今宵は満月。
月の顔もハッキリ見えるほど輝く珍しい日。
誰もこの景色を邪魔出来ない。
そんな雰囲気が漂っていた。
「そら、これやってみろ」
不意にそう言って龍介はある物を敦也に投げた。
「俺は天狗、お前は煙羅だ」
「それの起源位、味わってみろ」
そうして投げられたのは簡素な作りの煙管だった。
敦也は否定も躊躇いもせず、流されるままに吸ってみる事にした。
「…ふぅー…」
浅く、煙を肺に入れ、到底慣れることのない異物感を覚えながら、敦也は煙を吐き出した。
「えぇ。不味いです」
「そこは嘘でも美味いとか言うだろう」
「不健康なものはダメですよ、やっぱり。」
「馬鹿みたいな時間寝腐ってた奴が良く言う。」
からから、ゆらゆら、もくもくと、妖怪たちの笑い声は静かに木霊していく。
「今のお前」
「はい?」
「煙羅なんてもんじゃないな。今のお前は。」
双方ボロボロではあるが、着物に袖を通している。
「そうですか?」
「後喋り方。煙管もってそんな回りくどい言い方してるの見てると、あれみたいに見える。」
「アレ?」
「妖怪の総大将。」
「…」
総大将。
その称号は敦也たちにとって馴染み深く、そしてたった1人を指す称号。
「嫌ですよ。ぬらりひょんなんて呼ばれるの」
「…何故だ?」
「私、他人の家に勝手に転がり込んで茶を啜るなんてしませんし」
「何より、ぬらりひょんなんて柄じゃないでしょう?」
「…それもそうだな」
龍介は仰向けの身体を伸ばし、大きく伸びをする。
「お前はそうやって、目的なく上に立ち上る煙のままでいいさ」
「酷いこと言いますね。猪突猛進だと言うんです?」
「何か違うか?」
「…いいえ。反論の何もございません」
龍介の言葉に敦也は静かに瞳を閉じ、微笑む。
「さて、あとは」
「見送るか」
「えぇ。もうゆっくり別の場所で自由に旅してもらいましょう」
やることは、2人とも既に分かっているようだった。
片方は色褪せたボロボロの横笛を。
片方は弦も撥もボロボロな三味線を準備する。
双方共に肉体は限界。
それでも、与えられた役目は果たす。
踊り手の役目を終わらせる為に。
村を、静かに眠らせる為に。
夜風に木々が揺れる。
葉の擦れた音がざわざわと辺りに響く。
スポットライトは月からこぼれた微かな光。
その中に、静かに音が入門する。
初めは三味の音。
静かに旋律が歩き出す。
そうして舗装された旋律に、笛の音色が後から付いてくる。
舗装された道を彩る様に。
別れを惜しむ、三途の川のように。
音たちは、舞うように風に溶けていく。
かつて、役割を担っていた者たちの荷を下ろすように。
彼らは、静かに奏でていく。
時に、草木が揺れて、蛍の光が浮いてくる。
蛍火はゆらゆらと揺れて、空へと上がっていく。
それは、霊木に留まっていた魂が還っていくように、上へ上へと昇っていく。
蛍火は、そうして至る場所から現れては昇っていく。
それは、今まで村が溜め込んでいた無垢の魂の表れなのかはわからない。
それでも、彼らの演奏に呼応するように飛んでいくその光景は、
浄化、鎮魂の儀式のようだった。
そうして、彼らが続けていると、他の火に比べて一周り大きい蛍火が現われる。
彼らは、音色を絶やさずに、静かにその火を見つめる。
火は、少しの間静止したが、その後ゆっくりと上に昇っていく。
奏者の脳裏には、数えきれない程の、思い出がよみがえる。
だが、それを言葉にすることはない。
それは夏の、未熟で、愚かで、笑えるほどの彼らにしかない宝物。
彼らの間に、最早言葉は必要ない。
笛の妖怪は、最後に礼をするように。
三味線の妖怪は、最後に義理を果たすように。
旋律の音色と共に、その魂を見送った。
こうして、クソガキだった者たちの祭りの後始末は、様々な因果と縁が絡まり合い、
村だったものの人々と共に、静かに、そして確かに、句読点をその文の末につけるのだった。
「…終わったな」
どさり、と龍介は最後の踏ん張りを成り立たせた糸がプツリと切れるように倒れ込んだ。
「…時間を、かけすぎましたね」
敦也も、霊木と繋がり続けたことによる疲労で、倒れ込む。共に疲労の量は計り知れないほど大きいだろう。
「…お前、どうする気だ」
「…私は、私の狼煙を上げますよ」
「誰のためでも無く、あの日無愛想なガキンチョの事を、宝物と呼んでくれるあの人に、私はここにいるって胸を張って言えるように」
その瞳には、すでに過去に対する後悔も迷いも見かけられない。
煙の妖怪は、独り立ちを成し遂げた。
「…そうか。それがお前の結末か」
義理堅い天狗は、確かに覚の妖怪との約束を見届けたのだった。
「結末なんて大層なものじゃありません。
ちょっとした見栄ですよ」
「見栄…見栄か。そうだな」
「それで? そっちはどうするんです?」
「生憎約束を守ることに注力してきたものでな、どうするかなんてまっさらだ」
龍介は、大きく一伸びし、
「遠くに飛んで行ったみたいだが、来たぞ」
「今度は、逃げるなよ」
「えぇ。そのつもりですよ」
そう言って敦也が振り向けば、草木を服につけながら息を切らした4人がいた。
彼らも、眠りから覚め、再び敦也を探したのだろう。
眼前に立っている、その男に、4人は再び相対する。
「…答えを聞きに来たぞ」
座長は、静かに再び彼の言葉を聞きに来る。
本音はすでに書振れの本心に触れて、わかっている。
「えぇ。今度は応えますよ」
もう、返答をぷかぷかと浮かべて掴ませなかった妖怪はここにはいない。
「私は、今まで百鬼夜行としての泣き虫な自分でしかありませんでした。」
「自分の本心を取り返しがつかないまで背伸びして、不格好な生き物になって、過去のまんまで生きてきました。」
結局のところ、泣き虫な妖怪は、勘違いをしていた。
悲惨な過去が頭の片隅をよぎったとしても、過去と今は違う。
「ですが、あなた方は、そんなおかしい私の事を信じてくれて、こんなところまで追いかけてくれました。」
「そんな手を払いのけるなんて、私は出来ない。」
「百鬼夜行の妖怪としてだけでなく、瀬文敦也という一人の人間として、私は貴方達と夢に向かいたい。」
彼らは、この言葉のためにどれだけ待っていただろう。
「その言葉を、待っていた。」
「回り道をしたけれど、ようやく言ってくれたね。」
「それ聞けて、良かった。」
「これから、たーくさんいろんなことしようね!」
4人がその言葉を拒む理由もなく、各々が肯定する。
「そうですね…では改めて」
「百鬼夜行頭領、或城一座所属、瀬文敦也です。
人の目を欺き、人の嘘を見抜く芸は持ち合わせています故、上手に使ってください。
…なんてね、とっくに知ってますね皆さま。」
火種は、次の焚火へと確かに継承され、煙は再び、月の夢を目指して立ち昇り続けるのだった。
「それはそれとして、皆さん、お祭りをしません?」
「は?」「ほえ?」
いい感じに締めくくれそうな雰囲気をなかったことにするかのように、敦也は提案を口にした。
「一応聞くのだけど、何故お祭りを?」
「私たちは、何か大きなことを終えた時、必ず締めとしてお祭りをやるんです。」
いきなりの祭り開催宣言の理由に、4人とも戸惑いを隠せない。
「…バカだな。お前。」
先ほどまで黙っていた龍介も、流石に呆れた顔をする。
「でもやりたいでしょ? 祭り。」
その曇りのない笑顔は、龍介が過去に見た悪ガキとして暴れ回ったときの敦也と同じ笑顔。
「…やるか、久しぶりに。」
その顔を見て、龍介は断るような気力をなくし、敦也の祭りに乗っかることにしたのだった。
「だが、どうやるんだ? もう夜だし、二人ともつかれているのではないか?」
司の指摘も最もの事。
方や先ほどまで眠り続け、精神を削り続けた者。
方や、先ほどまでひたすらに三味を弾き続け、肉体を酷使し続けた者。
そんなものが今から準備を行い、ある程度形となったお祭りを行うのは無理なのではと誰もが思っている。
「まぁまぁ、そう思われるだろうと思ってましたよ。」
「だから、こうするんですよ。」
そういい、彼はいつか彼らの産んだ別の場所へ行く時のように、悪辣な顔で手にある端末を操作する。
すると、再び辺りは眩い光に包まれる。
そうして、次に目を開けば、そこは先ほどとさほど変わらぬ夜の景色だった。
「ここは…さっきの夢の場所?」
『残念だけど違うわ。』
寧々が不思議そうに聞くが、不意に聞こえた声に否定される。
「ミク? それにIAも?」
『さっきぶり。4人とも。』
声の方向を向けば、自分たちの知るミクとは様相の違うミクと、敦也を連れ戻すときに会ったIAが着物姿で立っていた。
「ココは私個人のセカイらしいです。名前は…そうですね、まだありません。」
再び声の方向を向けば、先程までボロボロだった敦也と龍介が元気な状態で立っている。
「…祭りの会場だ。準備もしっかりされている。
一体何処まで考えて準備していたのかは知らんがな。」
「嫌ですねぇ。初めっからですよ。」
「私は色んなことを知って、色んな準備をしたんですから。何から何まで全部が大当たりって訳ではありませんが。」
はぁ、とため息をついた後、龍介は再び準備を始める。
「なんでもいい。景気づけに一曲やりに行くぞ。」
「せっかちですねぇ。貴方祭りのことになるといっつもこうなんですから。」
「前はお前が1番はしゃいでいただろ。」
「はいそこ、言わないお約束。」
そう言って自分達の着物を天にするりと投げ捨て、いそいそと組まれている中央の櫓に足をかける。
「さぁさぁ皆様お立ち会い!」
「待たせに待たせて早8年。」
櫓をよじ登りながら、二人は辺りに声を響かせる。
「百鬼夜行の生まれし我が村名物大祭り!」
『歌い踊ってどんちゃん騒ぎ。』
「祭りはそれらが許される!」
『今宵はアナタも仲間入り』
「神輿を担げ!」
「囃子を立てろ!」
『『さぁさぁ皆様集まって!!』』
「「今日は、祭だ!!」」
2人が櫓の頂点でそう言い終えると、セカイの様子がガラリと変わる。
先程まで夕方のように橙色の空模様だったものが、パチリとスイッチが入ったように暗くなる。
それと同じくして、バタバタと人魂のようなものが現れては駆け抜ける。
ある者は櫓の前に。ある者は提灯の中に。一つ一つ、スイッチが入っていくように、提灯たちが光っていく。
そうして揺らめく人魂達が、思い思いの場所に着くと、辺りが人魂たちのゆらめきによって照らされる。
「世にも珍しい妖怪たちの大騒ぎ」
「これが俺たちの」
「「百鬼夜行だ!!」」
ババン!!
太鼓の音がなり始める。篠笛の音が聞こえ始める。
人々の手拍子が鳴り止まぬ。
気づけば櫓の上の2人の格好は、ボロボロの着物姿だったものから白黒模様の羽織姿に変わり、扇子を軍配のように掴んでいる。
敦也の背には煙管と煙の刺繍が。
龍介の背には翼と葉団扇の刺繍が。
ミクとIAの羽織には人魂を模した音符の刺繍が。
なんなら気づけば4人も甚兵衛姿に変わっていた。
そうして、招かれた4人は、2人の妖怪と、二人の見守り人によって開かれた祭りを堪能したのだった。
「さぁて景気のいい曲、行こやないけ!」
「久々のクソガキ口調。もうやらんのかと。」
「アホ抜かせぇ! 気分良うならこうなるきに!」
「全く変わらんな。お前は。」
「じゃ、タツ坊、発破は頼んだ!」
「あいよ、それ祭りだ祭りだ!!」
【マツリダマツリダ!】
龍介の音頭に、櫓の周りから誰のものでもない声が響く。
「祭りだ祭りだ!!」
【マツリダマツリダ!】
人魂たちが、掛け声に応じるように、応え続ける。
『貴方達も、一緒にやろう?』
「お、俺たちもか?」
IAが司たちに向かって、手をこまねく。
「遠慮はいりません。良いも悪いも祭りの喧騒の前では、関係ありません。」
「それに、こんな言葉があるらしいからな。」
『今夜は無礼講、なんてね。』
他のお祭り姿の3人も4人に手を伸ばす。
「誘われているようだし、素直に参加してみないかい?」
「なんだか、見たことない敦也も見れそう。」
「ねぇ! いってみようよ!」
「…ああ! 行こう!」
そうして、4人は敦也のいる櫓まで近づき、人魂たちの復唱に紛れていった。
「祭りだ祭りだ!」
【祭りだ祭りだ!】
人魂及び会場のボルテージがどんどんと上がっていく。
上がるとともに、太鼓の音は電子的なビートへと変わっていく。
『祭りだ祭りだヘイカモン ハッハー!!』
そうして祭りの参加者は、この喧騒を形にした歌で暴れ始めた。
《ねえ 馬鹿でもさ 馬鹿にも 種類はあるよな》
《ねえ わかるかな わかる人だけ寄っといで》
その曲は、文字通り祭りの曲。
《祭りだ 祭りだヘイカモン
人も猫も犬も ちゃんと持ち場につけ》
彼らの喧騒を余すことなく形にした、今この場のための曲。
《祭りだ 祭りだヘイカモン
寝ても覚めても ずっと問題抱えて》
今度の主役は妖にあらず。
《祭りだ 祭りだ 祭りだ 祭りだ 祭りだ 祭りだ 踊れや 踊れ》
《祭りだ 祭りだ ヘイカモン 生きづらい世界に ちょいと華添えて》
《ハレハレハレハレハレ ハレハレハレハレになったら》
《それもしんどい どっちらけ》
煙の妖怪として、種火を一新し舞い戻った彼がこれからどのような道を歩んでいくのか、それは誰にだって分からない。
だが確かに、煙の妖怪は、はちゃめちゃなショーユニットの元で、彼を照らした夢が突き進む中で確かに煙り続けるだろう。
《祭りだ 祭りだ 祭りだ 祭りだ 祭りだ 祭りだ ヘイカモン 》
その煙が、夜空に浮かぶ月に届くまで。
《ハッハー!!!!》
煙が絡めとった縁と共に。
かつて彼らが目を輝かせて見ていた絵巻には、様々な妖怪の絵と共にその妖怪が目指した目標のような言葉がつづられていた。
その絵巻にある、煙の妖怪の欄には、こう書かれている。
8.月まで届け、妖の狼煙。
瀬文敦也
色々あったけど、当初の目的通り、しっかり自分の過去にけじめをつけて4人の元に戻ってきた。
先はまだ見えないが、彼らの元で夢に向けてどこまでも狼煙を上げ続けていく。
担当妖怪は煙々羅。
ワンダーランズ×ショウタイム
説得ロールでクリティカル出したことで、底から引っ張り上げることに成功し、敦也のいるハッピーエンドを勝ち取った。
なお、ここで説得ロールに成功できなければ、罪の方に秤が傾いて敦也はお亡くなりになっていたのでしっかり決めた。
海野 龍介
4時間近く三味を根性で弾き続ける男。MVP。
自らの恩人から託された約束をしっかり遂行し、自由になったのでこの後彼なりの日常に戻っていった。
時たま、敦也のセカイにいたり、彼らのショーを見に行ったりしているらしい。
担当妖怪は天狗。
櫛野宮密芽
故人、だったが霊木の下で眠っていたのと、ワンダショのクリチケによって、彼女の残滓が奇跡の降臨。
久々に見た自分の宝物の姿に喝を入れ、新たな物語へ進むための背中を押した。
その後、宝物たちによって元気に後悔なく歴代の生贄の人々と共に成仏。
担当妖怪は覚。
IA
瀬文敦也の、百鬼夜行としての生きた記憶と、そこにある悲しみかの思いから顕現した。
伝えたいことを伝えられて満足。お祭りも楽しめた。
彼のこれからが幸せであることを。
はい。架空イベントこれにて終了です。
締めの曲は『祭りだヘイカモン』と、『このふざけた素晴らしき世界は、僕の為にある』
の二つで悩みましたが、こっちにしました。
東方ボーカル歌わせてぇとかから始めた小説だった気がするけれど、プロセカである以上、終着点はボカロじゃないとダメだと勝手に思ったからです。
ついでにこの小説も、ひとまずの区切りとなります。
こんな意味の分からない小説をここまで読んでいただきありがとうございました。
気が向いたら、彼らの話を書くかもしれませんし、全然関係のない新作を書いているかもしれません。
感想と評価、お気に入りの程よろしくお願いします。
次は誰と対話する?
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草薙寧々
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鳳えむ
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東雲彰人
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青柳冬弥