瀬文 敦也は特別探究部の部室にしか存在しない訳ではない。
彼だって人並みに生活し、好物のクリームパンをルイボスティーと共に味わい、人並みの娯楽を嗜み、待ち人を待ち続け、夢を見守る日々を過ごす。
そんな彼は今、
「彼はやはり興味深い。」
地面に顔だけを残し、突き刺さっていた。
「…大丈夫?」
「最近後輩からは頭が大丈夫ではないと言われましたね」
「うん。…そっちじゃなくて」
話は数刻前に遡る。
前回の類の来訪時に、装置の実験の被験者をクリームパン1個を条件に頼まれていたが、敦也は行くのに渋っていた。
そこに上乗せされるようにクリームパン3つを類が提案した所、悩んでいたのが嘘のように快く快諾し、現在に至っている。
「そういう趣味?」
「埋まって晒し首の状態を嬉々として受け入れるほど私って変に見えてます?」
「...割と。」
「...そっ、かぁ...」
敦也はどこか達観したように返した。ただ、寧々の反応にショックを受けているだけなのかもしれないが。
「本日はお開きになりましたが...私の家...事務所が空くのにまだ時間あるんですよ。」
「住んでるの家じゃないんだ。」
「えぇ。閑古鳥が鳴き続ける事務所に間借り...というか住み込みさせてもらってます。」
「住み込み...」
「だって私もう9年程家出してますし。」
「…」
「信用してませんねぇその目は。」
「敦也を信用できると思える出来事ある?」
「ありませんねぇ。」
即答である。
探究部は、他の生徒からすれば触ることすら躊躇する蜂の巣もといパンドラの箱の様なもの。触れれば最後余計なものまで自身にプレゼントされる有り難迷惑の部活だ。
そんな場所にただ一人所属する男が信用に足る人物かと言われれば、街頭インタビューで100人の内全員が否定するだろう。敦也本人もそんな事は自覚している。
どうでもいい事か。と敦也は物理的に下に嵌って見えぬ身体を動かす。
「それはそれとして、草薙様は格ゲーが得意との事ですね?」
「待って誰から」
「類が教えてくれましたよ。」
「類...」
1度、類に痛い目を合わせなければならないかもしれない、と寧々が心で誓うまで、そう時間はかからなかった。
「いつもなら親睦を深めるためにトランプを扱うのですが...残念ながら今は持っていませんし、時間もあります。手合わせ願えますか?」
「なんでトランプを持ち歩く前提で話してるの?」
「必需品では?」
何を言っているんだコイツは?
寧々の頭に?が浮かぶ。
「別に良いけど、どうやって抜けるのそれ。」
了承の返事を寧々がすると、敦也はなんでもない様に地面から両腕を捻り出しその手を使い、顔だけの状態からするりと抜け出た。
「...出れるならさっさと出ればよかったのに」
「はいそこ正論パンチしない。
それでは近場のゲームセンターに行きましょう。」
先程まで甘んじて地中に埋まっていた人間と思えない切り替えの早さで土埃を払いながら寧々を連れてゲームセンターへと向かった。
そうして敦也達はゲームセンターに訪れる事となった。
2人は空いていた格闘ゲームの台に座って、銭を入れる。
「では、お手柔らかに。」
「そういうのいいから。」
何回やります?と台越しに聞く敦也に寧々は敦也が飽きるまで、と答え彼らの電子上での殴り合いが始まった。
それから1分後。
K.O!
寧々の画面に勝利の演出が映る。
「...」
「いやはやお強い。」
再び、銭を入れる。
K.O!
寧々の画面に勝利の演出が映る。
再び、銭を入れる
「...」
「うーむ...」
K.O!
寧々の画面に勝利の演出が映る。
...嘘だろう?
「いやはやまた負けですか。」
既に4回繰り返し、寧々は幾度も対戦して気付いてしまった。
この男、格ゲーが恐ろしい程に弱い。
舐めているとかそういうレベルの話では無く、絶望的に、コンボが繋がっていないのである。
「やはりお強いですねぇ...少しくらい抵抗できるとは考えてましたが、手も足も出ないとは思いませんでしたよ。」
「あんまり褒めないで。」
良くもまぁ嘘をつく。
「やはり、畑違いのゲームはてんでダメかぁ。」
そう独り言をボヤいた敦也の言葉に引っ掛かりを覚えた。流石に勝ちが続くと寧々でさえ飽きは多少なりともし始めた。
「恐らく私が弱過ぎて、草薙様も退屈してらっしゃいますでしょう。」
「自分で言ってて悲しくならないのそれ。」
台を挟んでいるにも関わらず、寧々の多少心で思った事すら向かいの男は見抜いてくる。
「ですから、ジャンルを変えましょう。
こちらで勝負しませんか?」
そう言って敦也が指さしたのは、古い機体だった。画面表記には戦闘機が敵の殺意の塊とも呼べる弾幕に立ち向かっている映像が流れている。
「シューティング...?」
シューティングゲーム。それはアーケードで設置されている場所は少なかなってきているが、人気のあるゲームの種類だった。
「勝敗は簡単です。
ワンプレイのステージのスコアの高い方が勝ち。
褒美は...まぁ無くても良いでしょう。
私の部室で紅茶を飲める権利位しか差し上げられません。」
「いや要らない。」
「そうキッパリ言われると私でも傷つきますよ?嘘ですけど。」
やはり掴めないと寧々がため息を吐きかけた時、
「まぁ初めての私でも出来るでしょう。」
と聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「...初めて?」
「えぇ。だって私のやってたゲーム。1種類ですもの」
それで勝負するのか?
また自分が一方的な差をつけて勝つのでは無いかと内心寧々は思っていたが、まあまぁ見てて下さいよと敦也は100円を握り、台の前に座った。
「難易度は...これでいっか」
1番上の難易度であるHARDCOREを何度も連打したかと思えば画面の難易度が暗転し、
「...うわ。」
軽快な音楽が始まったかと思えば、すぐさまにおびただしい程の弾が画面を埋めつくした。
台に座っている男は、手元のスティックを慣れた手つきで動かし、弾幕の穴を縫いながら避けていき、敵を撃退している。
「少しばかり目に悪いですが、3分ほどお付き合い下さい。」
そう言いながら、彼の操る画面の自機はするりするりと弾幕を避けている。
ブーンブーンと警告音の鳴った画面中央にはボスらしきキャラクターの周りから、それはそれは美しい程の初見殺しが巻かれている。
「はいはい慣れてますよこんなの。」
しかし、それもこの男には通用していない。
「ボムは使わんでも行けるか...」
残機の下のボムの数字表記も減ることなく増加し、画面上部に記された時間は、ボスが現れてからの初めの60秒から既に1桁秒まで経っている。
「俺を乙らせるには」
時間耐久を耐え切った敦也は、即座にボスキャラの真ん前に張り付いて、自機の弾をゼロ距離射撃し続ける。
「2万年早い」
盛大な爆発エフェクトを散らして、ボスキャラを倒した。そのステージリザルトのスコアには綺麗に理論値と呼ばれるそのステージで獲得出来る最大のスコア数字が並んでいた。
「さて、次は草薙様の番です。」
そう清々しい顔で微笑んだ敦也に向かって寧々は放った。
「性格悪。」
「ご最も!」
寧々の
わたしは、瀬文 敦也をあまり良く知らない。
印象は司と類に続いて…いやそれ以上に変なやつで、胡散臭いのが先にくる、とにかく学校じゃ関わりたくない人間の一位に来るヤツだった。
それでもいざ会って話してみると、サングラスをかけている以外は司と類に比べれば、よっぽど常識的な人間だった。
「噂なんて、当てにならない...。」
「人を悲しませる様な噂なんて、蔓延るだけ毒ですよ。」
視線の分からない敦也はそうぼやく。
「それを取りまとめるんでしょ?」
「はい。」
「わけがわからない。」
「貴女そっくりのメカが存在している事の方がより意味不明だとは思いますよ。」
ああ言えばこう返す。のらりくらりとものを返すからわたしが辛辣な言葉をぶつけても効いてるのか聴いてるのかも分からない奴だった。
「しかし、最初は司の周辺に貴方がいるのは少し意外な光景でしたよ」
「多少なりともわたしだって思ってる。」
最初こそ、奇妙なものだとは思った。
司達とショーをやることになった事も。その末に目の前の人間に出会ったことも。
「縁とは不思議なものですね。
無関係の私でさえ、巧みな話術で時たまあなた方のショーに組み込まれているんですから。」
それもちゃんと一々断っていますけどと、敦也はボヤく。
「なんで断ってるの?」
「ショーに出るようなツラじゃ有りませんし。」
司は、夢を見届けるためにと断られたと言っていた。
矛盾した言葉に引っ掛かりを覚えたが踏み込む事はしない。
「...そういえばさ、サングラスつけてる理由ってなんなの?」
「これですか?」
これと言い、自身の目を覆うレンズを指差す。
「...見たくもないものをずらしておくには最適でしょう?」
いつもののらりくらりと掴みどころのない声とは違い、その敦也の声は何かを諦めたような低い声だった。
「...え?」
「嘘ですよ。単純に目が定まらないから付けてるんですよ。」
「目が定まらないって?」
見ます?と言ってサングラスを外し、内側のレンズを指さすと、レンズの中心に白い点が打ってある事に気付いた。
「これがないと目が節操なくぎょろぎょろと無意識に動いてしまうんですよ。」
敦也は自身の目を私に見せないように、目を瞑りながら語った。
「...そんなに?」
「はい。見た方がしばらく焼き魚の目すら怖くなったと言って賠償請求したきたレベルです。」
「...絶対に見ない。」
「賢明な判断ですよ。」
そう言って静かにまた目元をサングラスで覆う。
うっすらと見えるサングラスの下では、少し目元に皺を寄せ、記憶の中で何かを思い出しているような顔をしていた。
「...聞いてごめん。」
「別に構いませんよ。私だってずけずけと他人の事を聞いてるらしいですので。」
「自分がやってる事が他人からやられるのは嫌なんて、ダメでしょ?」
これ以上何かを聞き出すのは、まずいのかもしれないのだと私でも分かった。気まずい雰囲気の中でも頭だけは回せていた。
「そうですね。ウミガメのスープでもやります?」
「それ1人にぶつけるゲームじゃないでしょ?」
胡散臭くて、言葉巧みに掌からすり抜ける男。
わたしは、未だにこの魔術師の人間性を理解出来ていない。
瀬文 敦也
得意ゲームはトランプと弾幕ゲーム
「私は誠心誠意嘘偽りなく過ごしているんですけどねぇ」
草薙 寧々
得意ゲームは格ゲー
「やっぱり胡散臭い」
作者はゲームジャンルのほとんどがてんでダメです
某有名弾幕STRは基本ハード5面ボスで詰まります。
弟はルナシューターです。うーん才能。
私情で馬鹿ほど忙しくてめっさ遅くなりました
プロセカ要素がキャラ以外0ですね。私のミスですね馬鹿なんですかね?
足らない能力で描写していきますので良ければ感想と評価も是非お願いします。
次は誰と対話する?
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草薙寧々
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鳳えむ
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東雲彰人
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青柳冬弥