A.課題やり終えた後に仕事入った。
仕事やめようかな
その日、敦也の目に広がっていたのは、自信の知るものとは違う、澄み渡る青天井の空。
そして、アトラクションの数々が立ち並ぶ。ピンク色の雲、空飛ぶメリーゴーランド、陽気に歌う花達。
その光景は全て、サングラスで視点をずらしていてもわかる程に、どれもが楽しげに、笑っている世界だった。
空中を勢いよく滑空する自分の光景でなければの話である。
「...参りましたね。」
何故こうなったのか。空に浮いた体で空気抵抗を感じながら、思い出す。
いつものように司達の行うショーを観覧しに1ファンとして敦也は彼らの元へ訪れた時の事だった。司に呼び止められ、何かと思えば招待すると言っていたことは覚えている。
彼から楽曲の共有をされ、何か引き寄せられるように音楽を再生し、気付けば自分の見知った景色ではなく何もかもがどこかファンシーな雰囲気を持つ景色に変わっていた。そこがセカイであることに気付いたことも覚えている。
敦也は、それらが司の想いから形成されていることを直感的に感じることが出来ていた。
詳しい事を思い出すために目を瞑り頭に浮かべる。
次に思い出した事は、衝突の記憶。
不思議なセカイに入国し、光景を一瞥しながら司を待っていると、
「わーい!新しい人だー!」
どこかで聞いたことがある声が聞こえ、くるりと振り返ってみれば、目を星に輝かせた水色が猛スピードで突進をかけてきている姿を捉えた。
「oh my god...」
天を仰いだコンマ数秒後、避けることも出来ず腹に届いた衝撃とともに、サングラスは翼を広げて空を飛んだ。
これが1度目の少飛行。
「...貴方は、ミクなんですね。」
サングラスを再びかけ直し、水色の衝突物を再び見ると、やはりそれは見た目こそ違うが敦也のよく知る人物だった。
「うん!私はミク!初音ミク!」
「えぇ。よく知ってます。
ここは?」
「ここは、ワンダーランドのセカイ!
ショーをいーっぱいできるセカイだよ!」
「ワンダーランド...成程。司らしい。」
「あなたはだーれ?」
「瀬文 敦也(せぶみ あつや)って言います。」
「...?うん!アツヤだね!みんなにも紹介しなくっちゃ!」
「みんなとは?」
「れっつごー!」
敦也の問答などお構い無しに、ミクは敦也の腕を引っ張りながら駆け抜けていくが、少しばかり敦也を引きずった後、ミクは足を止めた。
「そうそうこれこれ!アツヤ!これに入って?」
そう言ってミクが見せてきたものは黒黒とした人1人分は入りそうな程に大きな砲身をした大砲だった。
「ねぇコレ大砲ですよね?」
「これでひとっ飛びだよ!」
「お話を」
「そーれ!」
「はははこりゃダメだ」
砲身に突っ込まれた敦也はすかさずミクが引っ張った紐により大砲の玉としての役割を担う事になり、ボカンという音と共に空へと舞うことになった。
これが、地に足ついていた時の最後の記憶である。
「十字でも切ってお祈りしておきましょう。」
空を飛びながら敦也はそう呟いた。
残念ながら敦也は仏教信仰である。
「司君。話があるって聞いて来たけど」
「うむ...おかしい。ここに来ているはずなんだが...。」
所変わって、別の場所。
類、えむ 寧々は司に呼ばれ、詳しい事はセカイで話すと言われた。
しかし、司は何かを待っているのか、なにか手違いが発生したのか話を切り出さない。
「司くん。もしかして、彼のことかい?」
「あぁ。ここに来ていない訳では無いだろう?」
「うん。君の言う彼は、どうやら少し遠くの方に居るみたいだね。」
司、KAITOの2人にしか通じない事を話し、時間が経つと遠くの方でボカンと爆発の音が聞こえた。
「何?今の音。」
「...大砲?」
音の方向を向くと、その方角からはこちらに向かって何かが飛んできていた。
遠くから飛んでくるそれは、司達の見知った姿の投擲物。
投擲物は首を地面に埋め、角度30度に直線上にズドン!と突き刺さった。
地面にカシャンと特徴的なサングラスが傷一つなく数秒待たずに突き刺さった穴の目の前に落ちる。
「高い木から落ちておいてよかったとこれほどまでに思うことはこれ以上起きないで欲しいですね。」
「敦也君?」
なんてぐぐもった声が土煙の下から聞こえた所でそれが、本当に類達の見知った人物であった事がわかった。
「どうしてここに?」
「司に聞いてください。」
「やはりお前なら来れると信じていた!」
「貴方私に全面の信頼を置き過ぎでは?」
「友だろう?」
「そうですけど。」
類の疑問を置き去りに、漫才のようにスピード感溢れるやり取りを敦也と司は行う。
「で、司。私を招待して頂いたのは嬉しいのですが、理由は何か?」
「お前に見て欲しくてな!」
「簡潔的ですね将来のスター。」
「当然だ!スターの振る舞いは常に誰にでもわかるものでなくてはな!」
「スターがそうであるかはしばらく調査期間を貰わないと断言できませんが、とにかく善意の招待だという事ですね。ありがとうございます。」
敦也は司に礼を言った。
「所で、誰か手伝っていただけます?」
ここまで、敦也は地面から角度30°に突き刺さったままでの会話である。
「こんにちは。ボクはKAITO。君は?」
「申し遅れました。私は瀬文 敦也。
探究部員と言っても伝わらないでしょうし...都市伝説は意味不明ですし...マジシャンでもないしなぁ...まぁ、しがない学生です。」
色々ありすぎるんでこれで、と地面から救出された敦也は手を差し出しKAITOと握手をする。
「君のことは、司くんから聞いてるよ。
司くんにとって大事な友達だってね。」
「オレを応援するファンであると同時に替えのきかない大切な友だからな。」
「うーんむず痒いですね。」
頬を赤らめ、恥ずかしそうに敦也は照れた。
「でも、どうして敦也がここに来れたの?」
「司に、話したい事があると切り出され、何かと思い行ってみると、そこで楽曲の共有を受けました。」
「それが、このセカイへの招待だった...というわけかい?」
「ええ。来て早々にミクに突撃を受け、そのまま連れられたかと思えば大砲詰めでここまでひとっ飛びが、私の経緯ですね。」
寧々や類の疑問に答えつつ、中々に貴重な体験でしたと敦也は語った。
「物理的に飛んできたわけですので、景色もそこまで見れた訳でもありません。
図々しいかもしれませんが、このセカイの案内とかお願い出来ないでしょうか...?」
「成程!ならばオレが案内しよう!」
「あたしもしたい!」
「わたしもー!」
司、えむの声に続き、遠くからこちらへ近づく声が聞こえ、敦也には嫌な予感が走る。
こちらに向かってミクが突進やむなしの勢いで迫ってきていた。
「...安全祈願のお守りでも買いましょうかね。」
セカイにてサングラスは3度目の飛翔を成し遂げる事となった。
ある程度の場所の紹介を終え、ひと段落がついた頃。
「ありがとうございます。私の為にここまでしてもらいまして。」
敦也はセカイについて、案内されたことにお礼を言った。
「...思うけど、敦也って肯定感低いよね。」
「そうですか?」
「なんか、言う度自分なんかの為にみたいな...結構見る。」
「あれまぁそんなに。自分の事ですが中々気づけないものですね。
今後は気を付けてみますね。」
「それで直せるものなの...?」
敦也は寧々の指摘を受け止めるが、寧々はなんとも言えない気分となった。
あははと笑った敦也は、自身の中である事を決める。
「少しばかりのお返しとして、あるものを見せたくなりました。」
敦也は何か意を決した様な顔で、自身を招待した事に報いようと告げた。
「どういうことだい?」
類は突如として言い出した敦也の言葉に疑問を投げる。
「私はあなた方の営みを、一観客として見させていただけました。」
「星々のように輝き、時に人々の心を魅了し、楽しませるその内容に、私は心を動かされています。」
類の疑問などお構い無しに、狂言回しの様に自身の言葉を敦也は並べ立てた。
「そんな貴方から受けた施しを無下にするほど、私は愚かでも無い。」
「施しを受けたなら施し返す。
そんな心情で、お返しをするだけの事です。」
そう語った敦也はコツリコツリと靴音を鳴らし、広い部分へと移動する。
「うーん...どういうこと?」
「簡単に言えば、お礼をしたいって事ですよ。申し訳ありませんぶつくさと言って。」
へにゃりと顔を緩ませて、えむに笑みを向ける。
「ちんけな演目の1つになりますが、少しだけ下準備をさせて下さい。」
そう言うと、懐にしまっていた笛を取り出す。
「呼びますのであまりびっくりしないであげて下さいね。」
そう言って、ゆっくりと敦也は笛を吹き始めた。
その笛は、聞くものを鎮める様に心にのしかかる。どれだけ荒んだ獣であろうと、その音色一つで沈黙し、聞き入るだろうと遠い誰かに称されたその音色は、するりと風鈴に吹く風のように穏やかなものだった。
やがて吹いていた敦也の体からゆらゆらと緑色の丸いナニカが飛び出た。
丸いナニカは、人魂のように明るく燃えており、笛の音色につられて、敦也の周りをふよふよと浮いている。
「出番ですよ。カワタロウ。」
カワタロウと呼ばれたそれは声に呼応するように揺れ、施す演者の方に向かって眩しく光った。
「此より魅せるは一つの情景。
我が故郷の大自然。」
「まだまだ暑いでしょうから涼しくなりましょう。私もやるだけ表現しますので。」
そんな敦也の言葉を聞きながら、司達は眩しさに目を細めた。
司達が目を開ければ、そこは緑だった。
青々とした木々の葉の間から漏れる木漏れ日。
程良く影になった先に見える澄んだ水の流れる川。
自然の緑を体現するような景色が、そこにはあった。
しかし、不思議なことにそこには「音」がない。
川のせせらぎの音。風により木々が揺れ動き、葉っぱ同士が擦れる音。自らの命を削った蝉達の大合唱。
聞こえるはずのそれらが何も聞こえない。
「中々風情のある場所でしょう?」
そう言いながら再び現れた敦也の姿は、先程までの服装とは違い、白く渦の巻いた柄の入った灰色の着物を着ている。全て両目にかかっているサングラスで彼自身の風情は大きく損なわれているが、今更のことだ。
「和の装いか!」
「うん!すごく似合ってる!」
「ありがとうございます。
格好は気にしないで下さい。」
司とえむが格好にいち早く感想を零し、敦也は照れくさそうに話を切りあげる。
「これが敦也くんの見せる演目なのかい?」
「まさか。ここまでが下準備です。」
類の疑問に敦也は否と答えた。
敦也はこれほどの光景を映しながら、下準備と言った。
「この景色はただの絵です。
カワタロウが頑張って巻いた霧に私の心にある景色を映しているだけ。」
映しのタネ明かしは御法度ということで、と敦也は舌を出して誤魔化す。
「音がないのは、私がまだ表現していないから。
この景色は、私が手を加えて初めて光景として完成します。」
パチンと敦也が指を鳴らせば、
カワタロウは、ぽんと水素が軽く爆発する音と共に姿を変え、ラジカセの形になった。
「明るく涼しく奏でましょう。」
ラジカセはカチリと独りでに操作され、敦也の表現は始まった。
ピアノ音から始まり、先程聞いた笛の音色が後に入る。その後ろで、少しノイズがかった楽曲の合いの手が小さく入る。
その音色は所々に散りばめられたビット音。
それらに混じりながらも聞こえてくる祭囃子のような笛の音色。
『魔法が解けたようにあからさま』
『何度目の夏だったけ...』
敦也は子供の記憶にある景色と想いを曲に込めて、喉を動かす。
『あちゃちゃ煌びやかな時を駆ける』
『そぉっとゆるやかに 空を見上げて川流れ』
『急がず回ろうか』
その曲は、紡がれる言葉と化学反応を起こし、聞くもの全てに存在するはずのないノスタルジーを思い出させる。
気付けば、辺りに音が増えていた。
公聴者の足をちろちろと流れる水音。ざあさぁと木々の揺れによる葉同士の摺れる音。木々に張り付く虫達の大合唱。
敦也が歌う事で、夏の音達は自らのいるべき景色に還ってきていた。
『にとりとみっく弍 此にて。』
そうして、彼の恩返しは締め括られた。
「...凄い。」
寧々は心に思った事を吟味することなくそのまま呟いた。
「本当に、凄いね。」
KAITOもまた、言葉を零す。
自然に彩られた異色の舞台で『恩返し』を行う敦也の姿は、主役そのままであった。
紡がれた言葉は、敦也自身が過ごした自然の思い出であり、それらは言いようの無いほどに輝きを放っていた。
「さて、片付けますか。カワタロウ行けます?」
【OK.Brother!Are you ready?】
「えっ何その特技私知りませんけど?」
ラジカセはカチリと音を立て、どこかからの電波を受信し、安っぽい洋楽の音声を使い回して了承を発した。
「じゃ、大仕事。頼みますよ。」
そう頼んだ敦也の言葉と共にラジカセは再びポンと音を立て、人魂の形に戻る。
そうしてまた光を放ち、全員が目を瞑り再び見えた景色は、彼らにとっての普通の景色に戻っていた。
「敦也君。さっきのあの光景は、」
「私の故郷の景色です。私が育ち、私を形成した村です。」
「わたし、敦也くんの村に行ってみたい!」
「うーん辞めといた方が良いですよ。」
「えーなんでー?」
「だって、あの景色はもう見れませんので。」
「え?」
「いえ、場所がないわけじゃありませんよ?
ただ、今はもう色々と変わっちゃって、100%同じものは見れないってだけです。」
村ごと消えたとかそういうのじゃないんで、と敦也はえむの要望に対してやんわりと語った。
「敦也、何度目を数えることも忘れたが、一緒にやらないか?」
司は勧誘の言葉を再び敦也に投げかけ、敦也はよっこらせと仰向けの形になり、数秒黙り込んだ後に、息を吐いた。
「...もう決めどきなのかもしれませんね。」
「以前、私他に2人の大切な友がいる事をお話しましたよね。」
「龍介って人と」
「密芽っていうお姉さんの事だよね。」
「いい記憶力ですよ草薙嬢にえむ。はなまるあげちゃいます。」
「...なんで嬢呼び?」
起き上がり、胡座をかいて遠い何かを思い出すように敦也は話す。
「私はその2人と、村から遠く離れたこの場所で再び会うことを夢に見ています。」
「最近、私は思い始めてもいるんです。
この夢が、私の足を引き止めているのでないのかと。」
「ほかの夢を手にできるのに、何時まで後生大事に埃塗れの夢を抱えているのだと。」
「...こんな話して申し訳ありません。
どうします?もっかい景色見ます?」
「敦也...」
「...自分で誤魔化すつもりもありません。返答ですね。」
人の気分を降下させてしまったと言い、敦也は話を切り替えようとするが、無理があった。
「貴方からの勧誘にYESを首を縦に振りたいが、もう少しだけ、待ってくれませんか。」
「自分の心に、折り合いをつけるだけです。
そんなに時間は取らせません。」
また来ますと、敦也はセカイから出ようとする。
「俺は、待っているからな。」
司のその言葉に、敦也は笑みで返す。
そうしてその日は、双方共に暖かい気持ちに包まれながら、帰宅した。
それから、瀬文敦也は何処にも姿を見せることは無かった。
胃と片耳が抱えたストレスでぶっ壊れたので投稿頻度が更に落ちます
バカタレか?
気か向いたら感想評価の方をお願いします
カツンカツンと、人気のない道を歩く音が響く。
カァカァと、鴉が鳴く声が耳を震わせる。
ここは街の誰からも忘れられた名も無い路地。
夢も無く、思いすら抱くことも無いゴミの溜まり場。そんな路地を、敦也は歩いていた。
司からのセカイへの招待。
そして、敦也はそんな司の『夢』に携わる為の招待を受けた。敦也にとって、それは特急券にも等しいものであった。
しかし、敦也の中の██がそれを拒んでいる。
それは、理性による警告なのか、自身の未練による否定なのか、敦也には分からない。
だから、敦也はそれを『夢』とした。
『夢』だからと結論づける事を先送りにしていた。
だが、敦也は自身を信じてくれている司に報いる為に向き合うことに決めた。
そんな自らの『夢』にケリをつける為に、敦也はセカイから帰宅したその足で、誰も寄り付かない暗い細道を進んでいた。
きっかけはなんて事の無い日常の隅に置かれていた。事務所の近くの住人達が、こぞってとある言葉を口にした。
『近くの路地を木々のように飛び移る黒いナニカがいる。』
あるホームレスは
『この都会に天狗が現れた。』
なんて噂を口にしていたことを敦也は聞いた。
普通の人間ならば、天狗だなんだと言われた所で鼻で笑って噂を一蹴するだろう。
しかし、敦也は違った。
現実味のない笑い話にもならない様なその噂に、心当たりがあった。
手入れなんて微塵もされていない路地を進み、ぽつんと空いた1坪の何も無い場所で、敦也は立ち止まった。
「...いるんでしょう?
龍介。」
「なんだ、ちゃんと分かってたか。」
ガタンと上空から何かが落ちる音と共に、黒のフードがついたコートに身を包んだ人間が落ちてきた。
「見ない間に随分小賢しくなったな。アツ坊。」
「...龍介。」
自らの記憶にある姿よりも、何周りも大きくなった自身の友が9年越しに、そこにはいた。
「積もる話もあるだろうが、俺に何の用だ。」
「決まっているでしょう。我々についての話ですよ。」
サングラスを外し、フィルター越しではない2つの瞳で、友を捉える。
誰も彼もが目の止めることもない暗がりの路地。
誰にも知られなかった者たちの押し問答は、そんな舞台で幕を開けた。
だが、その問答は誰も幸福にならないものである。
結末は、誰も知らない。
次は誰と対話する?
-
草薙寧々
-
鳳えむ
-
東雲彰人
-
青柳冬弥