百鬼夜行は音の夢を唱えるか   作:絞りカス

7 / 13
キャラ崩壊のパーティーです許してください
敦也失踪前のちょっとした日常です
ワンダショ目線で事進むんで。


閑話 胡散臭いサングラス

case 寧々

「敦也、いる?」

私が探究部を訪れた時のこと。

 あんまり行きたくないけど、借りたゲームを返しに行きに、直で会いに行った時の事。

 扉の前で返事を待つが帰ってこなかったので入ってみれば、敦也は突っ伏していた。

 初めは何かあったのかと思って少しだけ焦ったけれど、すぅすぅと寝息が聞こえてきたから、寝ていると分かって少し疲れた。

「寝てるだけ...」

 敦也の後ろのホワイトボードは真っ黒に染まっている。

 よく見れば、その黒は全部細かく書かれたマッキーの文字。

テセウスの船、水槽の脳にトロッコ問題。どこかで聞いたことのある思考実験の過程を余白を残すことなくびっしりと敦也自身の考えを書き連ねられていた。

 私は、やっぱりこの男の事がよく分からない。

 

頭の回転が早いだろうこと。

時々少年心が顔を出すこと。

全く異なる印象の2つを敦也は魅せる。

私には、それが別人のようにも見える。

 

探究部として、都市伝説であり続ける敦也。

私たちのファンとして、見守り続ける敦也。

...私には、どうしても同じ人には見れなかった。

どちらにも嘘が無い。

どちらにも躊躇がない。

瀬文敦也という人間と接すれば接する程に、疑問が増えていく。

まるで、空洞に手を突っ込んでいるような。

本当に、そんな感覚。

 

ねぇ、あんたの顔は何処にあるの?

 

眠る敦也を傍らに私は、そんな事をずっと考えていた。

「...手帳?」

 

敦也の寝ている机の手元には、直前までその手に掴んでいたであろう黒い手帳が開かれた状態で置かれていた。

私は中身をそっと見てみた。

 

中身は敦也の予定や走り書き程度のメモが当然ながら綴られていた。

「そっか。言ってたっけ。」

敦也は、或城一座というマジックショー集団の元で、働いている。

或城一座は、マジックに重きを置いたショーを行う集団だ。

時に遊園地、時に船の上でショーを行い、

頑丈な檻からの脱出から人体切断、挙句の果てには海に浮かぶ豪華客船を消すなど、その手法は様々。

しかし、そのメンバーは全員不明。

全国で出没するその一座に共通する事は、全員が必ずシルクハットを被ること。

そんな緩い共通項で、記憶に残る大魔術を繰り出す事から、名前だけは誰もが聞いたことがあるという所まで認知されている。

手帳の中身には、そんな半分都市伝説じみた一座の一員としての予定がまばらに散っている。

パラパラと捲り、同じような内容が続いていく中、ある場所で私の手は止まる。

手帳のある所に栞代わりに材質の違う紙が挟まっていた。

「...和紙?」

ザラザラとしたその特徴的な手触りは、昔授業で使った半紙のようなもの。

小さく折りたたまったその紙をそっと開く。

 

【百鬼夜行団員はっと】

 

なんて題名が墨で大きく崩れた字で書かれたものから始まった。

 

【大きなイタズラは3人でそうだんすること。】

【ひみつきちは誰にもバレないこと。】

【できたしゃていは大切にすること。】

【かならず集まること。】

【死ぬまであばれること。】

 

 

【以上をまもるべし】

 

【百鬼夜行 そう大しょう 櫛野宮 密芽】

【百鬼夜行 筆頭 海野 龍介 】

【百鬼夜行 頭領 瀬文 敦也】

 

そうやって締められた名前の横にはそれぞれの褪せた血印と、人魂のような独特の模様の判子が押されていた。

 

「...なんで全部偉い?」

並んだ名前の称号は等しく1番上の人間に付く称号。

 

『あ、それ見ちゃったんですね。』

「...びっくりした。」

いつの間にかに、敦也は起きていた。

というかサングラスしたまま突っ伏してたの?

『意外とこれ柔い素材で出来てるんです。』

「心を読まないで。」

普通に怖いから。

 

 

『これはまだ村にいた時のやつです。』

「そうだとは思ったけど...」

『子どもの私たちの定めたちょっとした決まりごとですよ。』

 

『長々と項目書いてますけど、要は

【俺たちズッ友だぜ!】みたいな事です』

「多分違う。」

 

 あれま、とコケる振りをする今の敦也は、印象で言うなら後者の少年心の見えた方だ。

 

「これ、全部序列が同じだけど...」

『あぁそれですか?私たちは全員が百鬼夜行なんです。』

 

...さらりと決めた風に言っているが、何も分からない。

『...要は、上なんて居ないんです。

私たちが決めて、私たちが暴れて、

私たちが目を引きつける。

そこに上下なんて作らなかったんです。』

...ちょっとだけ、わかった。

 

百鬼夜行という組織は、敦也の中で大切なものなのだ。

 褪せた紙にかかれる項目を眺める敦也の顔は、思い出の写真を純粋に懐かしむ顔をしていた。

「敦也でもそんな顔するんだ。」

『?私変な顔してます?』

「ううん、違う。普通の顔。」

 

敦也のそれは、目という重要な情報が欠けていたとしても分かるほどに、無邪気な少年の顔だった。

 

 その日、私は少しだけこの胡散臭い男を理解出来た。

 どれだけ不気味でも、どれだけ胡散臭くても、この人は、年頃の青少年に変わりは無いのだと。

 見えたその素顔は、司や類と大差ない。

 なんてことのない、普通の少年なんだ。

『良いものを思い出しました。

お礼と言っては何ですが、これを。』

 

 そう言って敦也が渡してきたのは、緑色の勾玉だった。

『勾玉は私の村でのちょっとしたお守りの様なものです。持っといて下さい。』

 

『あ、そうだ。ところで本日はどのような要件で?』

「ゲーム。クリアしたから返しに来た。」

『クリアしたんですか?え?ノーコンで?』

「当然。次、貸して。」

 

『じゃあこれですね。ノーコンクリアしたなら行けますよきっと。』

「また弾幕ゲーム?」

『なぁに、月が攻めてくるだけです。

弾幕も最狂難易度を誇りますよ?』

 

 

...1週間かけて1番簡単な難易度をクリアした。

 

 

 

case 類

 

『【見えない人】という話はご存知でしょうか。』

 

「唐突だね。」

 

トランプ勝負をした後幾度か訪れた探究部の部室で、敦也君から聞かれた課題だ。

 

「透明人間の話かい?」

 

『いえいえ。貴方ならもしかしたら実現できるかもしれませんが違いますね。』

「僕のことをなんだと思っているんだい?」

『ドリル片手に来訪するグレーゾーンの人間。』

「よよよ...」

 

冗談ですよと敦也君は仕切り直し、

『平たく言えば、ちょっとした教訓めいた実例ですよ。』

 

敦也君から話される『見えない人』の概要はこうだった。

 イギリスの作家であるチェスタトンが綴った小説、『ブラウン神父』シリーズのある一作の『見えない人』は、簡単に言えば起こった密室殺人事件を神父が解決する推理小説である。

 

 中身を解説するならば、4人とも全員にアリバイがあり、誰も家を出入りしていることは無いと証言する。誰が犯人なのか分からず、透明人間が犯人なのかと想像されたが、神父が犯人をこう言うのだ。

 

『犯人は、郵便配達人だ』

 そうして、誰もの認識外の立場にあった人間は犯行に及んだ事を看破され、推理小説の幕は閉じた。

 

「その小説がどうしたんだい?」

『まぁまぁ、ここまでは前提条件ですよ。』

 

 小説は大人気。日本を代表する推理作家からもお墨付きの内容となり、こぞって人々は読んだ。

 

しかし、ここで良くないことも起こった。

ある所で、空き巣が発生した。

盗まれたものは、小説のみ。

金品には一切手をつけられていなかった。

近所の住人は、誰も怪しい言動をしていない。

 

『この事件。誰が捕まったと思います?』

 

 敦也君はそこまでの状況をボードに書き上げ、感情の読み取れない笑顔で、僕に問いを投げて来た。

 

 彼の口振りからして、近所の住人が捕まった訳では無い。そうだとしたら、こんな話を僕にしないだろう。

 盗まれたものは恐らく例として出した小説なのだろう。

 

「住人では無いのだろう?」

『そりゃあそうですね』

 

「うーん...犯人が捕まった、なんてのは駄目かい?」

『残念。最初に捕まったのは犯人じゃないんですよ。』

 

 

『警察は、空き巣捜査のために、まず事情聴取をしますよね?』

 

『その時に、住人が口を揃えてこう言ったんですよ。』

 

『手口が一緒だから、郵便配達人が怪しい。』

『小説で悪人だったのだから、きっとやったに違いない。』

 

『偏見っていうのは怖いものですねぇ。』

 

『たった1冊の本を読んだだけで勝手に悪人にされて、仕舞いには冤罪で捕まえるんですから。』

 

「...その郵便配達員さんは、」

 

 敦也君はホワイトボードを書く手を止めて、こちらに向き直した。

『事情聴取の末しっかり釈放されましたよ。』

『まぁそこの住人からの謝罪なんてありませんでしたけど。』

 

 

『結局、一連の教訓としては人の認識なんて当てにならないって事ですよ。』

『小説の仮設透明人間なんて、実現できそうなの貴方位ですし。』

「敦也君たまに僕の事ドラ〇もんのように考える時あるよね?」

『いえいえまさか。』

 

「...本当に、君は読めないな。」

『お互い様でしょう。結局、ポーカーしようがババ抜きしようがブラックジャックしようが、貴方の癖なんてほんのわずかしか読み取れませんでしたし。』

 

 僕は、ちょくちょく彼の部室に足を運んでは彼とトランプを用いて勝負をするが、司君と対面している時のようにしっかりと思考が読める訳では無いらしい。

 

 

 

「敦也君。君は、人の癖から思考を見抜くじゃないか。」

『はい。貴方相手には効きにくいですが。』

 

「君のその技術は、何時から出来るようになったんだい?」

『何時から...?何時からだろう...』

 

『気付いたら...ですね。

意識的に出来るようになったのは高校生になってからですかね。』

サングラスになったのもそれからですよ。なんて結論づけた後のホワイトボードを消しながら敦也君は言った。

『...あぁ。どうやら、欲しかった答えではなかった様で。』

 

「そんなに顔に出ていたかい?」

『いえいえ、これも【何となく】感じただけですよ。』

 

『ご期待の答えの代わりと言っては何ですが、こちらをどうぞ。。』

 

そう言うと、敦也君はある物を手渡した。

 

「勾玉...?」

『ちょっとしたお守りってヤツです。私との他愛のない探究の会話に付き合って頂いた報酬のようなものです。』

 

 手渡された勾玉は、紫色の石でできており、一般的なキーホルダーより少し大きい程のサイズのもの。陽の当たる方にかざして見ると、微かに勾玉の中を日差しは鈍く照らした。

 

『近々の災いから守ってくれると思いますよ?』

「災いね。」

『災いって言ったところで、大したものじゃなかったりしますよ?例えば、』

「例えば?」

『嫌いな食べ物が食卓に並ばないとか。』

 

 この後僕の家の夜ご飯には野菜が並んだ。

『流石に範囲が大雑把過ぎません?』

 お守りの効果を報告した所敦也君にはそう言われてしまった。

このお守り意味無いんじゃないかな敦也君?

『おっ、あと1時間小言延長します?』

何でもないよ。

 

case えむ

『おや、鳳嬢「えむ!」...本日はどのようなご要件で?』

 

「遊びに来た!」

『元気な返事でよろしい。』

敦也くんは、そう言ってアタシに紅茶と菓子を用意してくれた。

『紅茶とブリュレです。手作りですよ?』

「敦也くんってお菓子づくりできるんだ!」

『出来ますよ。出来ないものは恋だけですので。』

「恋?」

『そもそもの出会いなんてありませんし、会ってもこれですよ?見た目サングラスの人間に話しかけようと思います?まぁ私なんですけど。』

 

なんだか難しい事を言っているが、

 

「敦也くんでしょ?アタシは行くよ?」

『お優しい事何よりです。

はい。ブリュレと紅茶です。』

お熱いうちに一緒に召し上がれ、と言っていつの間にかアタシの前のテーブルにはブリュレと氷の入ったアイスティーが置かれていた。

 

「...美味しい!」

『それは良かった。用意しておいたかいがありました。』

 

「敦也くんって、いつからこうなの?」

『何時からこうなの?と言いますと?』

「探究部で、こうやって考え事たくさんして、あたしや司くん、類くんとここに居るって

何時からしてるの?」

『何時から...何時から?』

 敦也くんは、まるで聞いた事のない言葉を吟味し、何か考えられるものは無いのかと言うようにあたしの言葉をオウム返しで返した。

 

『参りましたね。糖が不足してきているようです...私も何か食しても宜しいでしょうか?』

「うん!一緒に食べよう!」

 

 あたしがそう答えると、少々お待ちをと言い、入口とは違う隣の教室に隣接するドアを蹴破り、中からあるものを取ってきた。

 

「クリームパン?」

『ええ。著名な店の限定品を買って置いたんですよ。誰も使ってない理科準備室でしたのでありがたく冷蔵庫の中に入れさせて頂きました。』

「多分それって」

『あ、内緒ですよ?』

 

 ちょっぴり舌を出して敦也くんは誤魔化した。多分やっちゃダメなやつだと思う。

 

 

『それで、いつからという質問でしたね。』

「うん。」

 

『この学校に入ってからずっと、ですよ。』

 

 回転椅子に腰掛け、アイスティーを飲みながら敦也くんはそう言った。

 

『多くの人間を知れる場所はどこかと探しましたが、そんな場所が見つからなかったので作ったんですよ。』

『忘れられた空き教室を見つけ、噂という噂を聞き集め、浸透するかも分からない都市伝説をほざき続けて。』

 

『そうして後に人々の思考の範囲外になることをじっと待って。』

 

『気付けば、【Nobody】(存在しない)な部活の完成ですってハナシです。』

 

「じゃあもういっこ聞いていい?」

『はい。なんでもどうぞ。』

 敦也くんはアイスティーのお代わりを一口つける。

 

「敦也くん、ウソついてるよね。」

 私は、敦也くんに感じているモヤモヤしたものを解きに行くことした。

 

 

ある時のこと。

アタシが敦也くんの雰囲気を初めて見た時の事。

 

『ウソ...ですか?』

「...気付いてる?敦也くん。」

 

 あたしは、敦也くんをみんなが言っている『大人びている』とか、『胡散臭い』の言葉で印象がつかなかった。

ううん、それらが最初に印象づかなかった訳じゃない。

 そんな印象の裏に、ずっと隠れている事があるのをあたしは気付いた。

「敦也くんのね、ちょっとした時に見えたの。」

「何もかもが興味のない様な、そんな顔が。」

 

 身近にそうやって、自分の顔を出さない人がいるのを見ているから余計にわかってしまった。

 敦也くんのその『違和感』は少しだけ綻びが見えた事から分かってしまったことだから、あの人のよりも深刻なものかもしれない。

 笑っている。喜んでいる。

 その筈なのに、ふとした時にそれら全てが作りものの様に抜け落ちる。

 誰よりも少年の心を持っている敦也くんの、そんな瞬間を、アタシは見てしまった。

 

「敦也くん。無理してる?」

 

 敦也くんは、ずっと背伸びをしている。

 地に足つかない振る舞いを、いとも容易く受け入れて、ずっとどこかで無理をしている。

 あたしには、そう見えた。

 

 

 カランと、アイスティーに入った氷の落ちる音がする。

 

『...無理を、しているですか。』

「敦也くん、ホントはもっと幼いんじゃないのかな。」

2つ、カランと氷が溶けて落ちる。

 

「敦也くんのホントの顔は、あたしたちに向けるそれとは多分違う。」

 

重なっていたカップの氷が、全て水に付く。

 風鈴の鈴が揺れる音だけが響き、少しの間敦也くんは何も言わなかった。

 アイスティーを1口含んだ所で、ようやく話し出した。

 

『いやはや恐ろしい。』

『直感というものも中々馬鹿にできません。』

 

『なんせ、私に違和感を覚え、それを根拠とした結論まで辿り着けるのですから。』

 

「やっぱり敦也くんは」

 

 そこまであたしが言葉にした所で、一瞬時が止まった気がした。

 どうしてかは分からないけど、何故か敦也くんの前に鎖が伸びるような錯覚を覚える。

 ジャラジャラと伸びてきたに見えるその鎖は、鉄格子に絡まるように重なり、ガシャンと5つ、色さまざまな錠前を付けて敦也くんの前を封鎖した様に感じた。

 

 

『しかし、その解答に満点はつけられません。』

 そう敦也くんが言うと、いつの間にか先程まで伸びていた鎖と錠前は見えなくなり、敦也くんは静かに微笑んだ。

 

『別に貴女の導いた解が不正解とも言ってません。』

 

『いやはや私も情けない。

対話をして頂ける方に回答を用意出来ていないのですから。』

テレビ企画なら炎上ものですなんて、冗談を交えながらアタシの言葉に対して返答をする。

「...そっか。」

 

『申し訳ありませんね。

お詫びと言ってはなんですが、こちらを。』

 

 そう言って敦也くんは机の中からある物を取り出し、アタシにくれた。

 

 

「なにこれ...?」

『勾玉って奴です。私の村での万能なお守りみたいな物ですよ。』

 敦也くんが私にくれた小さな勾玉はピンク色の石で出来ている。ちょっとだけ冷たい。

 

「万能?」

『自分にとってなんでも起きて欲しくない事から守ってくれるちょっと勇気づけです。』

 勾玉の事を話し終えた敦也くんはアイスティーを置いて、また回転椅子に座り直した。

 

『貴女の導いたその解答に、いつかの私が答えられるまで、貴女のお守りになってくれるはずです。』

『貴女の答えに必ず合否を渡します。』

 

 敦也くんは、サングラス越しにアタシの目をしっかり見て、そう言いきった。

 

「...そっか。今はダメなんだよね?」

『長々言いましたが、身も蓋もなければそういう事です。』

 

「いつか、話してくれるんだよね。」

『ええ。私はよく物事を有耶無耶にしますが、

人との約束だけは絶対に違えません。』

 

「じゃあ、待つよ。」

『ありがとうございます。』

 

『...』

「...」

 

『お茶、おかわりいります?』

「うん!」

 

暑い日差しを緩和する為か、2杯目は麦茶を持ってきてくれた。

お茶は、冷えていてとっても美味しかった。

 

 

 

 

case 司

 

 敦也と初めて会ったのは、3年前の事だ。

『なんだか面白いですね。あなた。』

 

 そう言って、片目を眼帯で隠した敦也はオレに話しかけて来たのがキッカケだった。

 

「...何がだ?」

『薄いのに、埋もれているのに、目指せている。』

『不思議ですねぇ。全くもって興味深い。』

そんな事を言いながら、オレの後ろで話しかけて来た。

『いや、申し訳ない。私は瀬文敦也。ペテン師でも不審者でも何度でもお呼びください。』

 

無論、胡散臭かった。

 

「胡散臭いなお前。」

『うーん初対面でこれ言います?私は言います。』

 その時の敦也は、今のようにサングラスはしていなかったが、今のように取っ掛りはあった。

 

『貴方、余程疲れていますね?』

 

 ニコニコと、得体の知れないその目で、体の不調を言い当ててきた事は今でも覚えている。

 

「何処がだ?オレはピンピンしているぞ!」

『ハッハッハ。中々面白い事を言いますね。』

 

 得体の知れなかった片目は、真っ白の瞳の中で、黒く濁っていた気がした。

『貴方、ココ最近まともに休めてないでしょう?』

『無意識にでしょうが自分の体に出ている不調の震えを止めようと体に力が入っている。』

『それ以上動けば病院のベッドですやすやと眠らなければ行けなくなる。』

 スイッチで人が入れ替わったかのように、オレの体の不調を淡々と言い当てた。

正直、ゾッとした。

 自分の思考が、不気味な男に全て見透かされていた。

 

『震えを抑えようと力が入ってる分、クセも見やすいんですよ貴方。』

 

『腰を下ろして、話でもしましょうや。』

 自分の思考を見抜いた敦也は、俺を人の居ない落ち着いた場所へと連れていった。

 

『なぁるほど?見舞いを続けて...』

「...オレは妹の笑顔が見たいんだ。」

 俺は、たった今そこで鉢合わせた同年代の不審な男に、自分のことを喋っていた。

不審な男...敦也は黙って俺の話を聞いてくれた。

 

『勝手に暴いた手前なんですが...兄としては100点かもしれませんね。』

「そうか...」

『貴方の選択にぽっと出の私がとやかく言うつもりもありません。お好きにして下さい。』

 

『ただ、貴方が倒れた時、その理由を知った時、誰が1番傷付くのかをその脳みそで考えてから行動した方が宜しいですよ。』

 

そう咎めて、敦也はその場を去った。

 

 

それが、オレと敦也の最初の出会いだった。

それからだ。

『や、司。』

「...何故ここにいる?」

『人のあれこれ聞いといて、そのまま他人ってのも後味が悪いんで...はいこれ。』

「...クリームパンか?」

『えぇ。先生には内緒ですよ。』

 

 

 

『司、テストは大丈夫でしたか?』

「無論だ。」

『その割にはギリギリなものばっかですね。

...ご丁寧に私の教えたところだけは合ってますね貴方。』

「友から教えられたものを間違えるほどオレはバカては無い!」

『友ですか。...そうですか。』

 

 

 

 オレたちはそうして互いを知り、遠慮のない言葉を言い合える程の関係を築く事が出来ていた。

 

「敦也。俺はスターになる!」

『スター...ですか。

いいんじゃないですか?貴方らしい。』

 

「...否定しないんだな。」

『夢を持たずに生きているのは死んでいるのと同義である。...恩人の言葉です。』

「...死んでいるのと同じ、か。」

『故に、夢の否定は人を殺める事と何ら等しいと、私は教えられたのでね。』

『どれだけ荒唐無稽な夢だとして、どれほど遠い夢だとしても』

『私は見届け、肯定し続けるんですよ。』

 

 アイツはガリガリと口に加えた棒付きキャンディを口の中で砕きながら、俺の夢を肯定した。

 

「...なら、お前はファン第2号だな!」

『あらま、1号じゃないんですね。』

「...不思議だがオレもふと1号と出なくてな。

ならば2号で良いだろう!」

『そいじゃ、貴方の夢を見届けさせてもらいますよ。』

「ああ!オレのスター街道をとくと見ていけ!」

『じゃ、スターの証としてちょっとしたものを差し上げますよ。』

 

 そう言って、敦也は俺にほらと言ってある物を投げて渡してきた。

 

「これは...何だ?」

『勾玉ってやつですよ。ちょっとしたお守りです。』

『基本何からも守ってくれるお祈りが付いてる便利なお守りですよ。』

「ありがたいが...なぜ俺に?」

 

『推しのスターが不幸な目になんてあって欲しくないですし。』

 

 敦也は照れくさそうに、顔を覆った事でこの贈り物はヤツの心からのプレゼントなのだと分かった。

 

 ともあれオレはこの日、ファン第2号を獲得した。

 

 そこから色々とあり、敦也はいつの間にか目元全てをサングラスで覆うようになり、より胡散臭さに溢れて遂には学校の都市伝説になっていた。

 

 それでも敦也は、オレの夢を応援...というか観客でいてくれている。

だから、どこか勝手に思っていた。

コイツはずっとオレの道を見続けてくれると。

だけど、同時に俺はこの友と一緒にやりたいという気持ちもあった。

だから、しつこいと思われているのかもしれないが、俺は敦也を勧誘し続けた。

アイツもやれやれといった顔で、俺の手を掴んでくれた。

 

 

 

その次の日、敦也が消えた。

たった1つ、荒れた部室に贈り物を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.1月近く放置して何してたん?
A.生徒会みたいなの辞めて病院行ってた
後WBC見てた
感想と評価お待ちしております。











case██
三者三様に、向けられた敦也の築いた関係を高目に見る。
縁とは複雑怪奇な物らしい。

 どうやら、俺の知っている後ろを着いていくのに精一杯の泣き虫は、見ないうちに幾分成長したようだ。



 だが、アレを俺は瀬文敦也だとは認めない。
『理性』で全てをひた隠しにし、今にも息の詰まりそうな奴を俺は瀬文敦也だとは認めない。
『理性』で自らを殺し続ける奴を瀬文敦也だとは認めない。
賢しい村の大人と同じ様に成った瀬文敦也を俺は認めない。
『理性』から弾き出される答えに期待などしていない。

 自ら目を覆って隠した夕暮れに否応無しに気付かされる時。自ら蓋をした苦い記憶と再び対峙した時。
 理性の鎧を捨てた時、再び愉快な演芸集団を選ぶのか。
 それとも、もう一度実現不可能の妄言を選ぶのか。
 行き着く結論がどうであれ、どちらかには必ず句点が付けられる。
 伸ばす手が、空に浮かぶ月なのか水面に映る月なのか。
 空がどちらで水面がどちらかかを当てはめるつもりも無い。
 どちらを選ぼうととうでもいい。
俺は、自身の成すべきことを成すだけである。

別れて9年。
夢に出るほど悔いてからもう9年。
『決まっているでしょう?我々の話ですよ。』

 その言葉が『理性』によって弾き出された言葉であろうが無かろうが、結論として、俺たちにとって手のかかる泣き虫坊主は意志を固め始めた。
 後追いで足跡を消すだけの妖が、目まで眩ませる程に成長する。
 大変喜ばしい事だと、俺たちの総大将が見れば褒めるのだろう。
 脳裏には、もう何度目かも分からなくなった村での日常がコマ送りのフィルムのように再生される。
 振り払おうと高く飛んでも、忘れようとビル街を駆けようと、
どうしたって忘れることのできない日々。

 無理やり記憶の投影を止める為に、コンクリートに頭を打つ。フィルムは鈍い痛みに掻き消され、映写機を破壊してくれた。
 顔に流れる血にももう慣れた。
 打ち付けたコンクリートにヒビが入ろうが知ったことでは無い。
 とっくの間に俺たちの物語には句点が付けられている。
 だがその後を締めるのか、読点続きに書き続けるのかの筆は俺に与えられていない。

やるならやるでさっさとしろ。


天狗(オレ)の気はそんなに長くない。

そうして、俺はまた立ち並んだコンクリートの木々を踏みつけた。




 ビルを駈ける天狗の噂の流れる範囲が、少しだけ広がり中身が変わったという。
 天狗の飛び立ったビルの後には、大きく赤い三叉の足跡が付いたという。
 ある学校にはこんな噂も流れた。

『噂の確かめ屋は、妖怪である。』

それが同一のものかは分からない。

 だが、誰かの肯定したものというのは、必ず何者かが言っていたという免罪符を持つことになる。
 免罪符を持った愚者がある部員が語った通り。

 次の日、探究部の部室は見るも無惨に荒らされていた。

次は誰と対話する?

  • 草薙寧々
  • 鳳えむ
  • 東雲彰人
  • 青柳冬弥
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。