百鬼夜行は音の夢を唱えるか   作:絞りカス

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何やかんや閑話を合わせて9話目です。
7話なのに8なんてつけちゃった分かりずらいですね。
失踪した敦也の手がかりを探す話です。
今回は短めです。どうぞ。


7. 捜索 美学 八咫坊主(やたぼうず)

 瀬文敦也という人間は、高校二年生16歳の少年である。

 

 普段保健室登校を繰り返すが、成績に傷のない不思議な生徒である。

 瀬文敦也とはサングラスをかけていること以外、学校生活において特に目立つ行動をとることのない普通の生徒である。

 よく笑い、よく食べ、よく寝るいたって普通の成長中の少年でである。

 

 

 探究部という部活がある。

 

 曰く、探究部とは、高校の噂を纏め上げる怪物である。

 曰く、探究部とは、人の秘密を抜き取る悪魔である。

 曰く、探究部とは、噂の正誤を確かめることのできる万能である。

 曰く、探究部とは、秘密を悪用するものに制裁を下す番人である。

 曰く、曰く、曰く。

探究部の噂は、良くも悪くも種類がある。

 しかし、その部活を運営する正体については、不気味なほどに何の噂もたつことがない。

 運営する人間の努力の賜物で、自身に関する噂のみ流れることのないように管理しているのか、流れる噂通りに人外故に成せる技なのか。

 どちらにしろ、運営する人間について何もわからない。

故に、探究部は都市伝説として君臨している。

 

 これからも、ソレは【正体不明】として存在するはずであった。

 ある日、学校に摩訶不思議な噂が蔓延った。

都心を飛び交う天狗についての噂。

 その正体が、探究部の人間であるという噂だった。

 生徒たちは、そんなことあるはずがないだろうと一蹴した。

 どうせ、その日のうちに都市伝説がそんな噂を食べに来るだろうと思い、特に気に留めなかった。

 1日、2日、3日。

 どれ程経とうが、その噂が消えることはなく、換気されることなく残り続ける黒煙のように残り続けた。

 いつもなら、影も形もなく消える噂のはずなのに、なぜか消えない荒唐無稽な噂に生徒たちは当然疑問に思った。

 探究部の扉まで、勇敢にも足を運んだ者が何人かおり、その者たちの前に立つ扉には、このようなことが書かれた札がかけられていた。

『其の噂、事実。無論、来客以外立ち入り禁止。』

その扉の鍵は、開いていた。

 

 

 

 

『私、最近聞いた美学なるものを調べ始めたんです。』

 

「美学?」

 

『えぇ美学。』

いつかの日常。

夕方近く、俺は敦也の部室に行き、いつものようにトランプ勝負を仕掛け、負けた時に敦也はそう言った。

『あぁ、別に広めようって訳じゃないんです。

ただ、今まで手の出してこなかった範囲の分野ですので。』

「意外だな。お前ならなんでも知っているものだと思っていたぞ。」

『私にだって知らない事くらいありますよ。

一応、人間なんで。』

いつも通り、目元の分からない顔ではあるが、口元は緩み笑みを浮かべている。

 

 

『いやぁ、中々色々とあるものですね。

滅びの美学に悪の美学』

「偏っているな。」

『だって主役の美学とか英雄の美学とか

そう言ったポジティブ方向の本、図書室に見当たらなかったんで。』

「それは探せていないだけだと思うがな。」

 

随分と暗い方向の本ばかり目に付いたようだ。

 

『とりわけ目を引いたのは、これですね。

破壊の美学ってヤツです。』

 そう言って、敦也の持っていた薄い本を指さした。

 

『他と比べてあまりしっかりとした定義はありませんが...というか滅びの美学の派生みたいなものですがね。』

「何故暗いものばかり目につけるんだろうなお前。」

『性格悪いからじゃないですか?』

「自分で言ってて悲しくならんのか?」

『めっちゃ悲しい。』

 

意外と、気にしているようだ。

 

『まぁ話を戻します。

例として、例えば巨大ロボットの中でロボ同士の戦いが起きているとしますよ。』

「あぁ。」

『戦いという事ですのでそれはまぁどっちかが倒れるわけじゃないですか。』

『この時、ロボットはどうなっていると思います?』

 

「...?ロボットが倒れているんじゃないのか?」

 

敦也から投げかけられた疑問に、俺はすんなりと答えることが出来た。

 

『そうですね。殴りあって、ボロボロになったロボットが立っています。』

「...何?」

『このロボの話が放送されてから、店にあるプラモが展示されたんです。

そのプラモは子供たちだけでなく多くの人間の心を掴みました。』

 

『先程の殴りあってロボットがボロボロ塗装されたものです。』

 

『長々と語りましたが、元々カッコイイものが激戦の末にボロボロになってたらよりカッコイイねって話です。』

 

「...破壊の美学というよりはそれはロボの美学なのでは無いか?」

『多分そうですね。』

『人は新品の綺麗な状態であるよりも、ある程度古く汚れていた方が良いって言う方もいるってことらしいです。それも多様性ってヤツなのかもしれませんね。』

 

「そうか。」

 

 どうやら俺の友はまた一つ、知識を身につけたようだ。

『という事で、車1台壊しに行きません?』

「絶対に嫌だ。」

 

...時たま勢い任せの行動をしかけることはあるが。

 

 

 

「…酷い。」

 

 

 司、類、寧々、そして不法侵入のえむが、校内の噂の動向を奇妙に感じ、探究部を訪れた時には、その部室は見るも無残に荒らされていた。

 

 噂の声を録音していた棚の箱はひっくり返され、音声データのSDカードやUSBメモリーは水に浸されており、その記録が未来永劫復元不可能にされていた。

 窓には暴言の数々が羅列した紙がビッシリと張られ、床にはもはや中身も見れないほどに塗りつぶされたプリントや普段敦也が活用していたトランプがくしゃくしゃになって散乱していた。

 

 

敦也の記録は、文字通り抹消されていたも同然だった。

 記録、というよりも敦也の痕跡は敦也の身につけていたサングラスの予備が、机の中に入っているだけで、それ以外に見つかることはなかった。

 

 

それ以外に、瀬文敦也の存在を確定させるものは、残っていなかった。

 

 

通話アプリでいくら連絡を取ろうと敦也に通話を繋げようとしようが、メッセージを送ろうが、返答はない。

 

『自分の心に、折り合いをつけるだけです。』

 

そう言ったのを最後に、敦也は姿を消した。

学校からも、司たちの前からも消した。

「折り合いをつける…いったい何にだ?」

 

 

「敦也くんに、前に聞いたことがあるの。」

 

えむは敦也と対面し、敦也について聞こうとしたときのことを話す。

「アタシね、敦也くんが無理をしているんじゃないのかなって聞いてみたの。」

「敦也が?一体何にだ?」

「敦也くんが、探究部で居続けること。」

「なっ…」

司は、えむから語られた敦也の言葉に絶句した。

普段の敦也からは想像のつかない事に

 

「…敦也君は、その時なんて言ったんだい?」

「『貴女の答えに必ず答える。

だから、それまで待っていてほしい』って。」

 

敦也の頼みを待つことにした。

その直後にこの惨状である。

だが、誰も責めるものはいなかった。

 

「司君。敦也くんは自分の心に折り合いをつけるって言っていたね?」

「あぁ。」

「多分だけど、敦也君は自分の過去を振り返ることにしたんじゃないかな。」

 

 類は、敦也の行動についての推測を語った。

 

「自分の、過去に?」

「敦也君には、過去に約束した2人との約束があるっていうのは、知っているかい?」

 

「【櫛野宮密芽】と、【海野 龍介】…」

司は、その2人の名前を口にした。

 他の者達もその名前を知っている。

 敦也が皆に語ってくれた、敦也が大事にしている者達だ。

 

「彼にとって、その二人との約束と、僕らとの約束、どちらを取るべきなのかを、

彼は見極めるために、どこかに消えたんじゃないのかな?」

その結論は、残酷なものだった。

 

「…俺は、結局何も知らないままでいなくてはならないのか…?」

「司…。」

 悔しさを滲ませる司の表情に、寧々は名前を呼ぶことしかできなかった。

「とりあえず、片づけてみようか。敦也くんにつながる手がかりのようなものが出てくるかもしれない。」

 類がそう言い、床に散乱したプリントを片付け始めた。

「…そうだな。」

 司も散乱した紙を纏め始めた。

 どこかに敦也につながる何かが残っていることを信じて。

 

 

 

「あったね、敦也の痕跡。」

寧々はぽつりと言葉を溢す。

 プリントを粗方片づけ、部室の床が見えてきたところで司たちは、敦也の残した痕跡を発見することが出来た。

「うん…でもこれって、」

 その痕跡は、プリントの下で静かに眠っていた瀬文敦也にしか、残すことのできないオーダーメイド。

 その正体にえむは言葉を失っている。

「敦也の、なのか。」

 時間が経ち、少し黒みがかった赤い線。

 司はその正体を分かってしまった。

「…恐らく、だけどね。」

 類がその正体を言葉にする。

 

 

 

 それは、瀬文敦也の血液によって書かれたメッセージだった。

 

 

【鶴を折れ。正体はその手の中に】

 敦也の残した言葉は、それだけだった。

 

「暗号、なんだろうが…」

「つるをおる…折鶴を作るってわけじゃないよね。」

 

 床に散らばっていたプリントはよく見れば折り目がついており、ここに来た者が血文字を読み実行しようとしたが、それを行ったところで何も起こらないことに気づき、どうでもよくなったのだろう。

 

 残された言葉よりも、この血を敦也が流したことに、4人は笑顔を忘れ、胸を痛ませた。

 敦也はこの言葉を文字通り身を削って自身の血を用いてまでして記した。

 なのに、その言葉の意味を汲み取ることが出来ない。

 敦也の決死の思いにこたえることが出来ない。

 友一人の言葉のをくみ取ることが出来ない。

 それが天馬司にとって、スターである以前に、信頼を置いてくれた友として、司は、たまらなく悔しかった。

他の3人もである。

 結局、全員煙に巻かれていたのだ。

 自分たちは、敦也のことについて何も知らない。

 知っていたとしても、それは敦也の吐いた夢幻と よく似た心地の良い虚構。

 後悔にも似た無力感が、辺りを漂った。

 

 司は、敦也の残したサングラスを手にしながら、無意識化に強く手を握りしめていた。

 片手だけではなく、両手ともにだ。

 

 

「司君!手、」

「っ!、」

 

 気付いた時には、手遅れになっていた。

当然、サングラスはピシリと音を立てて、レンズにヒビが入った。

「しまった、敦也のが、」

 敦也の残したサングラスは、視界を暗くするだけでなく、ひび割れによって出来た大量の稲妻を視界に走らせる機能が追加された。

 だが、誰もそれを喜ぶことはしなかった。

 その事に司が後悔や謝罪することよりも先に、寧々はある事に気づいた。

 

「ねぇ、そのサングラス、変じゃない?」

「何?」

 司が握りつぶした敦也のサングラスは、レンズはひび割れているが、それ以外の部分に外傷はない。

 寧々の指摘の通り、何処か違和感だけはあった。

「司君。ちょっと見せてくれないかい?」

 そう言って類が司の持つ壊れたサングラスよく観察し少しだけ考え込むような素振りの後、

 

「そういうことなのかい?」

 

何かの結論に至った。

 

「何かわかったの?」

「今から僕のいう考えを、聞いてくれるかい?」

 

 寧々が類に聞けば、類が含みのある言葉を他の3人に向けるが、3人は当然その言葉を信じた。

 

 その言葉をもって、類は自身の考えを言い始めた。

「眼鏡には部品ごとに名前があるんだ。」

「レンズや曲げる部分のヒンジとか。」

その中で眼鏡を支える棒の部分のことを、テンプルと言う。

この部分は、言い方を変えれば、【つる】になるんだ。」

 

「…まさか、」

「司君。そのサングラスを壊してみてくれないか。」

 

 そこまで言われ、司は指示の通りサングラスの片側のヒンジから【つる】と呼ばれた棒部分を外し、軽く力を入れて、棒を曲げた。

 司がそのまま力を入れて曲げ続けると、つるは意外にも簡単にパキンと音を立てて折れる。

 中には、小さな紙が入っていた。

 

 

 

 そこからしばらくして、場所は変わる。

 そこは敦也の住む事務所の前。

 司たちは、全員でそこに集まっていた。

 敦也のサングラスから出てきた紙には、この事務所の住所と一言が小さく添えられていた。

 

【友に託す】

 敦也の言葉にどんな意図があるのか、もう考える時間はなかった。

 考えるまでもない。そこに何を考えて書いたのかを考えるよりも、直接、会って話せばいい。

 

 ワンダーランズ×ショウタイムは、瀬文敦也が必要だと伝えるために。

 敦也の事務所のドアを開けるのだった。

 

 事務所の中には部室に続いて、またしても淡白なものだった。

 真っ白な部屋に人として最低限の衣類の入ったタンスが隅に置かれ、その横に布団がたたまれているだけ。

 人が生活していた跡が微かにしか見られない。

 そして、何よりも異常だったのは、

 

 

「案外、遅いもんだな。」

 

 

4階の事務所。

 窓に、下駄をはいた仮面の何者かが立っていた。相当な高さから、ひとっ飛びして登ってきたと言うのだろう。

 その仮面は、赤い天狗の仮面をかぶっており、格好は大きめの黒コートを着ており、窓の外側から吹く風に揺れて、まるでコートの余った部分が背中から翼が生えているかのように揺らめいていた。

 

「まずは、自己紹介からだ。」

 

「百鬼夜行筆頭 海野龍介。」

 

 仮面を外し、青黒い髪をかき上げながら、その不審者は名乗った。

 

 海野 龍介。

 過去に瀬文敦也と、夢を誓い合ったうちの一人だ。




うだうだと書いていたらアホみたいな文字数行ったので途中で切りました。

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