異世界灯台守の日々   作:くりゅ~ぐ

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第109話 バハラの商人

 

賑やかで姦しさの混じった声が響き渡っている

 

そこには多少の華やかさと大いなる笑い声

 

そして野太さやかん高さと楽しげな

 

目に見えないが人々の熱気があった。

 

「そう言えばそろそろこの村も祭りですね、今年は旅芸人は何の演目を?」

 

「去年帰り際に言ってたの何だったっけ?」

 

「やだミリー あんた忘れたの? 一応の予定では、今年はバハラの商人(・・・・・・)やるって言ってたじゃないの~」

 

「あー そうだった、去年やったロニーとシェリー(・・・・・・・)が良すぎて忘れてたわ」

 

「あんた去年は大泣きしてたもんねー 大号泣しててさー」

 

「だって良かったんだもん、悲恋過ぎるでしょう アレ、てかあんたも泣いてたくせ~」

 

うん、不思議だね、前世で聞いた様な物語に似てるねイタリアのある都市を舞台にした物語に凄く似てるね、何でなんだろうね。

 

「バハラの商人ですか、私の様なしがない行商人であっても身につまされる物語です、あれは良い、私も好きな物語ですよ」

 

行商人の言葉に集まった村民が思い思いに話始めている、バハラね、前世ではベニスを舞台にした物語があったね。

 

「あれ良いわよね 私も結構好きなの、初めて見たのは十一歳だからもう十八年前になるのね‥‥ 守長も帝都で見た?」

 

「あー そうだな何回か観たな」

 

「観たって事はちゃんとした劇場で?」

 

「まぁそうだな‥‥ 何回も観たな、アマンダも何回か観たのか?」

 

「私が見たのは二回ね、村に来る旅芸人の一座がしてるのしか見た事無いけど‥‥ 一回ちゃんとした劇場で観てみたいわね」

 

うん、この世界の演劇は皆が大好きな娯楽の一つであるかならな、TVも映画も無いしフルダイブVRも当然無い世界だ。

 

演劇を見たいのであれば劇場に行くか、この村の様に旅芸人の一座の野外公演を観るしか無い。

 

観る、見るどっちでも良い、まぁ演劇の場合は皆、真剣に見て居るし言葉的には観るが正しいんだろう。

 

うん、どうでも良いなそんな事、てか年一回の演劇鑑賞はこの村の住民の楽しみでもある。

 

当然アマンダも大変楽しみにして居る。

 

「確か二十年位前なのよね? シェ()クスピアが出てきたのって」

 

「そうだなその位だな」

 

「世間では突然現れた天才劇作家って言われてるのよね? 本も出してるんだっけ?

幾つか作品を出して 世に現れた時と同じ様に突然消えて、十年後に又幾つかの本とかお芝居の脚本と原作だっけ? 出したんだよね?

私ね守長、シェ()クスピアの作品好きなの

悲恋が少し多い気がするけど、時に皮肉が効いててそれでいてこう心に直接訴えて来る様な‥‥

面白いわよねシェークスピアのって」

 

シェ()クスピアね‥‥

 

シェイクスピアでは無く、シェークスピアか‥‥

 

似てるね、本当何でなんだろうね?

 

「アマンダも演劇好きなんだな」

 

「女で嫌いな人何て居ないわよ~ まぁ男の人も好きな人は多いじゃない、守長はもしかしてあんまり好きじゃ無いの?」

 

「嫌いじゃ無いが好きとも言えないな、家族は皆大好きだがな」

 

てか試演を嫌になる程見たし、

公演の時も観たから今更なぁ‥‥

 

「あー ‥‥ 守長はもしかして見過ぎて飽きちゃった人なんだね~ 良いなあ‥‥」

 

ねえ、本当、見過ぎて 観過ぎてってあるよね。

 

「アマンダはシェークスピアの作品は何が好きなんだ?」

 

「んー ‥‥ ロニーとシェリーかな‥‥

でも、うーん‥‥ マク()スも好きなのよねえ」

 

「あー マクベ‥‥ マク()スか、結構ドロドロしてるだろアレって?」

 

「でもそこが良いのよねー 台詞回しも良いし、

面白かったわ~」

 

本当、天才だよねあの人、世界が違っても人を引き付ける、いや、惹き付ける作品なんだからなぁ。

 

「私ね守長、三年前に作られたフィーアの結婚が観たいの、だから今年はフィーアの結婚が良かったんだけど‥‥

仕方無いわよね、シェークスピアもあれから又 作品を発表して無いみたいだし、

今のところ最後の作品になっちゃってるけど又暫く長い休暇に入っちゃったのかしら?」

 

「どうだろうな休暇か活動止めたか、なぁ本当に、気まぐれだからな」

 

ボーさんすいやせん、マジ感謝っす。

 

てかフィガロさん名前変わっちゃったね。

 

「うーん‥‥ 本当よね、私楽しみにしてるんだけどこればっかりはねえ‥‥

聞いた話じゃフィーアの結婚も皇帝陛下、

先帝陛下が直接シェークスピアに命じられて作ったのよね? 守長は会った事無いの?」

 

てかフィーアの結婚も貴族、貴族制度に対する批判と言うか皮肉な内容だから普通は上演出来無いよね、先帝陛下が許可を出さなかったら決して世には出る事が無かった作品だよね。

 

「シェークスピアは恥ずかしがり屋みたいでな、

仮面作家とも言われて居るが直接会った奴は少ない、先帝陛下とも非公式で人払いまでされて謁見したみたいだからなぁ」

 

「謎多き作家だもんね、男とも女とも言われているし、若いとか年寄りだとか、帝国人じゃ無いとか色々噂があるからねー」

 

ねえ本当、どんな人何だろうね?

 

作家とか劇作家とか戯曲作家とか言われてるけど

顔隠して活動する何てろくでもない奴なんだろうね

(やま)しい事があるから表に出て来ないと思うよ。

 

例えばパクりとか パクりとか パクりとかね。

 

 

「そう言えば街道に盗賊が出たらしいですよ」

 

行商人の言葉に皆が一斉に振り向いた、

勿論俺もアマンダもだ。

 

「そうなの? で、どうなったの?」

 

「そうですねぇ‥‥ 私のこのシナモンとそのイカの完干しですが交換にもう一枚おまけして貰えれば私の口も滑らかになりそうなのですが‥‥」

 

「もう、分かったから早く教えてよ! 一枚なら良いから、焦らさないでおくれ」

 

「これはこれは‥‥ 催促した様ですいません」

 

行商人は嬉しそうだ、この行商人は物々交換と現金の両方に対応してるからな。

 

それは売るだけじゃ無い、買取も物々交換に対応している。

 

曳いて来た馬車、まぁ来る時は乗って来たが、

帰りには買取した商品が荷台に載せられる事だろう

 

それ等の商品をバハラや内陸の町や村で売り捌く、

この村ではイカの完干しや干物を、隣村のフィグ村ではそれ等海産物に加えて干し無花果(いちじく)や時には生の採れたて無花果を仕入れる。

 

しかし盗賊か‥‥

 

最近そんな話なんか聞いた事無かったが珍しいな、

だからだろう、交渉してた女衆があっさりまけたのは気になったからだ。

 

じゃなければ交渉はまだまだ続いていた事だろう。

 

「ははは、いやぁすいませんね、この村のイカの完干しは美味しいのでねえ、中々評判が良いのですよ、例え一枚であっても、たかが一枚 されど一枚、この一枚が私にとっては大きな利益なのですよ」

 

「言ってな、さぁ早く教えとくれ」

 

「おっと失礼を、私はどうも口から先に生まれて来た様でつい喋り過ぎてしまうのですよ‥‥」

 

まぁ行商人に多いタイプの人間だな、

コイツらは黙って売買する様な奴は居ない。

 

この行商人の様にお喋りしながら値段交渉したり、

各地の話や時には噂話、まぁ四方山(よもやま)話をしながら売買する。

 

行商人と言うのは物の売買や流通の担い手であるだけで無く、情報伝達の役割もある意味担って居る。

 

商人と言うのはそうだが、特に行商人にとって話術と言うのは必須スキルであるのだ。

 

話術が拙い奴や、面白味の無い奴等は行商人には向かない、と言うよりその内消える。

 

まぁ人が来ない辺境の更に奥の奥であるなら又別かも知れないが話術と言うのは行商人にとってとても大事な能力だ。

 

まぁ辺境の更に奥であっても話術は大事なんだがな、商売するに当たり信用、信頼は大事だし必須だ。

 

話をしなければ相手の事が分からんのだから、

それに話の面白い奴は単純に人を引き寄せる。

 

実際コイツは結構人気がある。

 

このハルータ村に商売で訪れる様になってまだ僅か一年半であるにも関わらずだ。

 

ある意味異例と言っても良い、まぁこの村に商売に来る行商人はコイツだけでは無い。

 

他にも何人か居るし、隊商を組んで来る奴等も何組かはいる。

 

コイツは様々な商品を荷馬車に積んでいるが中には甘味だけ持って来る奴も居るし、

布地や服、まぁ新品や古着を持ってる奴や、

それこそ移動式の簡易炉を荷台に備え簡単な鍛治仕事や継ぎ仕事や金継ぎを行う者も居る。

 

金継ぎと言っても(きん)では無く、金属による継ぎだ。

 

所謂、鋳掛け屋と言われるもので、鍋に空いた穴を塞いだり、フライパンや鍋やヤカンも売ったりしている。

 

中には陶器の継ぎをして治したりする鋳掛け屋も居るが、基本的に陶器は焼き継ぎ屋と言う陶器等を専門に治す流しの職人がやる仕事だ。

 

 

因みにこの村にも一応鍛治師は居るがとてもでは無いが村の要望に応えきれてるとは言い難い。

 

腕の問題では無く単純に需要に追い付いて居ないのだ。

 

その為、流しの継ぎ屋が来て追い付いて居ない物を治している。

 

この村に限らずどの村も似た様な状況なので割と流しの継ぎ屋でも需要はある、

だが当然腕が悪ければ二度と頼まれる事は無いので自然と腕の良い職人のみが来る様になっていく。

 

そしてそれ等個人が集まって隊商を組んで村や町を回る事もあれば、個人の集まりでは無く、集団として長い事隊商を組んでいる集団も居る。

 

それこそ何百年も隊商を組んで、その集団が婚姻等で結ばれ、隊商自体が一族の集まりとなっている隊商もいるのだ。

 

まぁ今日来てるのは個人の行商人で、見習いの小僧が一人付いて居るだけの割と良く居る行商人だ。

 

 

「まぁまぁ皆さん落ち着いて下さい、こんな美しいご婦人方、いやいや、お嬢さん方に迫られたら私モテて居るのかと錯覚してしまいますよ、これは帰ったら妻に叱られてしまうな‥‥ これは困りましたぞ」

 

「何言ってんだい、そんなのいいからさっさと言いな、焦らし過ぎだよ」

 

「そうだよ、そんな見え透いた世辞はいいから早く聞かせとくれ」

 

「本当にアンタは口から先に生まれたってのも本当の事みたいだね、さぁ早く教えてよ」

 

とか言いつつ女衆は嬉しそうだ、まぁ見え透いているとは言え悪い気はしないのだろう。

 

しかしコイツ上手いな、いや、上手過ぎだ。

 

もう少し抑え無いとな‥‥

 

行商人としては優秀なのだろう、行商人としてはな

 

だが‥‥

 

 

「そうですね本当に抑え無いと私、妻に箒を持って追い掛けられてしまいます、それに女性を待たすのは男の風上に置けません、では盗賊の事をお話致しましょう」

 

 

 

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